茜色ドロップ//再会篇
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「田舎に、ですか?」
「うむ。故郷にな。江戸は随分と賑やかになってしもうたしな」
記憶が元に戻ってから、ひと月が経とうとしていた。
花岡から突然切り出された話に、名無しは小さく首を傾げた。
「田舎では医者の手も足りんと言うし、のんびり余生を過ごすにはいい機会かと思ってな」
「分かりました。じゃあ荷物まとめなきゃいけませんね」
「ん?おぬしは江戸に残るんじゃぞ」
ついて行くのは当たり前だと思っていたから、名無しは少々面食らった。
そんな彼女を見ながら、髭を撫でつつ目の前の好々爺は笑う。
「え。何でですか」
「逆に若いのに片田舎に行ってどうするんじゃ。青春時代を全部戦なんかにつぎ込みよって、若いんじゃからもっと遊ばんか。」
ケラケラと笑う花岡をじっと見ながら名無しは小さく眉を顰める。
恐らく、
「…もしかして回診の顧客とか、引き継ぎさせようとしてます?」
「そうとも言うな。後は名無しがするからよろしくな、って方々に言うてしもうたし」
「えぇ…」
根回しはもう完了、ということだろう。
元々連れて行く気はなかったようだ。信頼されていると考えてもいいのだろうが、少し複雑だ。
「なんじゃ、大口顧客がおるから大丈夫じゃろ。あの警察連中とか」
「まぁ、そうですけど」
元々それは花岡へ依頼があった話だ。
安易に自分が引き継いでいいものなのか。特に公的機関が絡んでいるのだから。
意外とそこら辺は雑にブン投げてくる上司に少し頭が痛くなってきた。
そんな時。
「名無し、飯食いに行くぞ」
「毎日来るストーカーがいるからなぁ、って思って」
そう。
仕事の定時と同時に、ここ最近毎日銀時がやって来る。
彼のことは嫌いではないし、むしろ好きなのだが、こう毎日来られると終わらせたい仕事も中々片付かない。
記憶が戻る前に比べれば贅沢な悩みかもしれないが、仕事に支障を出さないようにするは一苦労なわけで。
「ストーカーってなんだ、ストーカーって!いいじゃねェか!銀さんだってなァ、寂しかったんだぞコノヤロー」
「だからって毎日は困るよ!急いで仕事終わらせなきゃいけないし、」
おかげで最近昼食をゆっくり食べられてない。
まぁ自分が仕事の効率をもっと上げればいい話なのかもしれないが、やはり限度がある。
かと言って『銀時のせい』とは口が裂けても言いたくなかった。
「そうじゃ。お前ら同棲すればええじゃないか」
名案、と言わんばかりに花岡がケタケタと笑う。
それには流石に耳を疑った。
ついでに『それ最高だな』と顔に書いてある銀時を二度見してしまった。目も疑った。
「は!?ドクター、突然何言ってるんですか!」
「そしたら坂田の家賃の負担も減るし、毎日ここへ足繁く通う必要もなかろう。仕事にも精が出るじゃろうし、名無しの飯も食えるぞ。
名無しは……あれじゃ。次の家を探す手間が減るじゃろ?」
「私のメリット少なくないですか?」
いや、確かにかぶき町では一人暮らしは多少不安が残る。
しかしもう少しメリットを提案してほしいところだ。
「そりゃお前がいいなら、なぁ?」
「銀時、ドクター。交渉成立みたいに固く手を握り合うのもやめよう?」
銀時が真面目な顔をしているのにも関わらず、花岡と固く握手を交わしている。
表情と行動が伴ってないぞ。
「なんだ、嫌なのかよ。同じ布団で寝た仲じゃねぇか」
「それは戦中、布団足りなかったからでしょ。…その、嫌じゃない、けど」
失くすくらいなら、何も持たない方がいい。
けれどやはりひとりは寂しい。
矛盾した考えに、つい言葉が淀んでしまう。
そんな名無しを見て、ぽんぽんと軽く叩くように頭を撫でる銀時。
大きな手は、相変わらず温かい。
「今度はちゃんと帰ってくる。」
困ったように苦笑いする彼を見て、断れる人間がいるなら見てみたい。
今は、その言葉を信じよう。
「…分かった。じゃあ、不束者ですが、よろしくお願いします」
深々と頭を下げて、お辞儀をする名無し。
こうして銀時と同棲が始まるのであった。
茜色ドロップ#08
「…なんか孫を嫁に出す気分だなァ」
「ちゃーんと幸せにしてやるから、ジジイは安心して隠居してくれ」
「誰がジジイじゃ、失礼なヤツめ」
「うむ。故郷にな。江戸は随分と賑やかになってしもうたしな」
記憶が元に戻ってから、ひと月が経とうとしていた。
花岡から突然切り出された話に、名無しは小さく首を傾げた。
「田舎では医者の手も足りんと言うし、のんびり余生を過ごすにはいい機会かと思ってな」
「分かりました。じゃあ荷物まとめなきゃいけませんね」
「ん?おぬしは江戸に残るんじゃぞ」
ついて行くのは当たり前だと思っていたから、名無しは少々面食らった。
そんな彼女を見ながら、髭を撫でつつ目の前の好々爺は笑う。
「え。何でですか」
「逆に若いのに片田舎に行ってどうするんじゃ。青春時代を全部戦なんかにつぎ込みよって、若いんじゃからもっと遊ばんか。」
ケラケラと笑う花岡をじっと見ながら名無しは小さく眉を顰める。
恐らく、
「…もしかして回診の顧客とか、引き継ぎさせようとしてます?」
「そうとも言うな。後は名無しがするからよろしくな、って方々に言うてしもうたし」
「えぇ…」
根回しはもう完了、ということだろう。
元々連れて行く気はなかったようだ。信頼されていると考えてもいいのだろうが、少し複雑だ。
「なんじゃ、大口顧客がおるから大丈夫じゃろ。あの警察連中とか」
「まぁ、そうですけど」
元々それは花岡へ依頼があった話だ。
安易に自分が引き継いでいいものなのか。特に公的機関が絡んでいるのだから。
意外とそこら辺は雑にブン投げてくる上司に少し頭が痛くなってきた。
そんな時。
「名無し、飯食いに行くぞ」
「毎日来るストーカーがいるからなぁ、って思って」
そう。
仕事の定時と同時に、ここ最近毎日銀時がやって来る。
彼のことは嫌いではないし、むしろ好きなのだが、こう毎日来られると終わらせたい仕事も中々片付かない。
記憶が戻る前に比べれば贅沢な悩みかもしれないが、仕事に支障を出さないようにするは一苦労なわけで。
「ストーカーってなんだ、ストーカーって!いいじゃねェか!銀さんだってなァ、寂しかったんだぞコノヤロー」
「だからって毎日は困るよ!急いで仕事終わらせなきゃいけないし、」
おかげで最近昼食をゆっくり食べられてない。
まぁ自分が仕事の効率をもっと上げればいい話なのかもしれないが、やはり限度がある。
かと言って『銀時のせい』とは口が裂けても言いたくなかった。
「そうじゃ。お前ら同棲すればええじゃないか」
名案、と言わんばかりに花岡がケタケタと笑う。
それには流石に耳を疑った。
ついでに『それ最高だな』と顔に書いてある銀時を二度見してしまった。目も疑った。
「は!?ドクター、突然何言ってるんですか!」
「そしたら坂田の家賃の負担も減るし、毎日ここへ足繁く通う必要もなかろう。仕事にも精が出るじゃろうし、名無しの飯も食えるぞ。
名無しは……あれじゃ。次の家を探す手間が減るじゃろ?」
「私のメリット少なくないですか?」
いや、確かにかぶき町では一人暮らしは多少不安が残る。
しかしもう少しメリットを提案してほしいところだ。
「そりゃお前がいいなら、なぁ?」
「銀時、ドクター。交渉成立みたいに固く手を握り合うのもやめよう?」
銀時が真面目な顔をしているのにも関わらず、花岡と固く握手を交わしている。
表情と行動が伴ってないぞ。
「なんだ、嫌なのかよ。同じ布団で寝た仲じゃねぇか」
「それは戦中、布団足りなかったからでしょ。…その、嫌じゃない、けど」
失くすくらいなら、何も持たない方がいい。
けれどやはりひとりは寂しい。
矛盾した考えに、つい言葉が淀んでしまう。
そんな名無しを見て、ぽんぽんと軽く叩くように頭を撫でる銀時。
大きな手は、相変わらず温かい。
「今度はちゃんと帰ってくる。」
困ったように苦笑いする彼を見て、断れる人間がいるなら見てみたい。
今は、その言葉を信じよう。
「…分かった。じゃあ、不束者ですが、よろしくお願いします」
深々と頭を下げて、お辞儀をする名無し。
こうして銀時と同棲が始まるのであった。
茜色ドロップ#08
「…なんか孫を嫁に出す気分だなァ」
「ちゃーんと幸せにしてやるから、ジジイは安心して隠居してくれ」
「誰がジジイじゃ、失礼なヤツめ」
8/8ページ