茜色ノ小鬼//short story
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見間違うわけがなかった。
たまたまだった。もしかしたら会えるかもしれないと思っていた。
男は笠をかぶって松下村塾と書かれた立て札の前を通り過ぎる。
深く深く顔を覆い、日陰に隠れるようにして。
「先生、」
聞き間違えるわけがなかった。
随分昔に聞いた幼かった声は、まだ多少あどけなさを残しながらも鈴のような音をしていた。
白く小さな手、黒い髪、燃えるような夕陽を閉じ込めた瞳。
『にいちゃん』
無邪気に笑い、不器用な微笑み方を俺に教えてくれた最愛の義妹。
「お夕飯、どうしましょうか。鹿でも捕まえますか?」
「名無し、剣は使うなとはいいましたけど、どうしてそう考えがワイルドなんですか」
楽しそうに歓談している二人、
いや、五人、だった。
「それより米を買いに行くんだろうが。持つやつじゃんけんで決めねェ?」
「テメ、銀時。前回昼寝しててついてきてねぇんだからお前が持てよ」
「おーおー、チビには俵抱えるのは荷が重かったか?」
「あぁ?白髪ジジイは俵も持てない軟弱者だったとはな」
「やめなさい、二人とも。」
「やめんか銀時、高杉!」
「もう。出かける時くらい仲良くしてよ」
三者三様で批判の声が上がる。
あの時。
もし、俺が二人と一緒に逃げられていたのなら、
俺も、あの輪にいたのだろうか。
「…馬鹿馬鹿しい」
今の俺は、烏だ。
屍を喰らう、黒き八咫烏。
でも、どうしてだ。
こんな痛みは忘れてしまっているはずだったのに。
胸が、痛い。
一度目の死の直前にすら流れなかった涙が、静かに頬を伝った。
茜色ノ小鬼#哭烏の泡沫
あの二人が幸せなら、それでいいと思っていたのに。
『寂しい』
『届かない』
『俺を見て欲しい』
生まれては弾ける虚しい感情は、まるで泡沫のようだった。
もう手に入らない幸せを欲してしまった。
あの人達の隣で、俺も笑いたかった。
***
「…?」
「名無し、どうかしたのか?」
隣を歩いていた桂が首を傾げながら声をかける。
振り返った彼女の視線の先には、先程すれ違った修験者。
背を向けて反対方向へ歩く背中を見つめていた。
「……ううん、何でもない」
あの人から、どこか懐かしい感じがした。
たまたまだった。もしかしたら会えるかもしれないと思っていた。
男は笠をかぶって松下村塾と書かれた立て札の前を通り過ぎる。
深く深く顔を覆い、日陰に隠れるようにして。
「先生、」
聞き間違えるわけがなかった。
随分昔に聞いた幼かった声は、まだ多少あどけなさを残しながらも鈴のような音をしていた。
白く小さな手、黒い髪、燃えるような夕陽を閉じ込めた瞳。
『にいちゃん』
無邪気に笑い、不器用な微笑み方を俺に教えてくれた最愛の義妹。
「お夕飯、どうしましょうか。鹿でも捕まえますか?」
「名無し、剣は使うなとはいいましたけど、どうしてそう考えがワイルドなんですか」
楽しそうに歓談している二人、
いや、五人、だった。
「それより米を買いに行くんだろうが。持つやつじゃんけんで決めねェ?」
「テメ、銀時。前回昼寝しててついてきてねぇんだからお前が持てよ」
「おーおー、チビには俵抱えるのは荷が重かったか?」
「あぁ?白髪ジジイは俵も持てない軟弱者だったとはな」
「やめなさい、二人とも。」
「やめんか銀時、高杉!」
「もう。出かける時くらい仲良くしてよ」
三者三様で批判の声が上がる。
あの時。
もし、俺が二人と一緒に逃げられていたのなら、
俺も、あの輪にいたのだろうか。
「…馬鹿馬鹿しい」
今の俺は、烏だ。
屍を喰らう、黒き八咫烏。
でも、どうしてだ。
こんな痛みは忘れてしまっているはずだったのに。
胸が、痛い。
一度目の死の直前にすら流れなかった涙が、静かに頬を伝った。
茜色ノ小鬼#哭烏の泡沫
あの二人が幸せなら、それでいいと思っていたのに。
『寂しい』
『届かない』
『俺を見て欲しい』
生まれては弾ける虚しい感情は、まるで泡沫のようだった。
もう手に入らない幸せを欲してしまった。
あの人達の隣で、俺も笑いたかった。
***
「…?」
「名無し、どうかしたのか?」
隣を歩いていた桂が首を傾げながら声をかける。
振り返った彼女の視線の先には、先程すれ違った修験者。
背を向けて反対方向へ歩く背中を見つめていた。
「……ううん、何でもない」
あの人から、どこか懐かしい感じがした。