茜色ドロップ//short story
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「名無しちゃんいつもすまないねぇ」
「いえいえ。健康が一番ですからね」
処方した漢方をひとつずつ手渡ししながら名無しは笑う。
今日は高齢の患者さんの家を、回診で周る日だ。
正直あまり利益は取ってないからお金になるか?と言われればそうでもない仕事だが、名無しは仕事が好きだった。
「この間ねぇ、お華で余っちゃった生花があるんだよ。名無しちゃん貰ってくれないかい?」
「いいんですか?じゃあ、ぜひ頂きます」
二つ返事で頷いた後、少しだけ名無しは後悔してしまった。
両手にいっぱいの芍薬の花。
華やかな花姿と、爽やかな甘い香り。
余っちゃった、というレベルではない。これは誤発注したのでは、と勘ぐってしまう程に多かった。
まだ回診先があれば分けて回ることも出来るのだが、先程のご婦人が今日の最後の回診先だった。さて、どうしようか。
男にあげても仕方がない。沢山の女性に、受け取って貰えそうなところ。
「あ。」
***
昔の吉原とは打って変わって開放的な雰囲気になった街並みを歩きながら、名無しは幾分か減った花を抱えたまま辺りを見回す。
日輪に事情を話せば「みんな喜ぶわ。部屋に生けなくちゃね」と嬉しそうに笑っていた。
危うく持て余して無駄に枯らすところだった。名無しは安心したように胸を撫で下ろした。
あと、渡したい人がもう一人。
「あ、いた。月詠さん!」
黒い着物を艶やかに纏った、お目当ての彼女を見つけて名無しは大きく手を振る。
片手でいっぱいの花を抱えて、見回りをしていた彼女の元へ小走りで駆けた。
「どうした、名無し。ぬしが吉原に来るなんて珍しいの」
「お花をいっぱい貰っちゃいまして。日輪さんにはお渡ししたんですけど、月詠さんには手渡しで渡したくて。」
「わっちに?」
ピンク色の芍薬を手に取って、ふにゃりと笑う名無し。
「はい。よろしかったらどうぞ」
花と名無しをじっと見て肩を竦める月詠。
咥えていたキセルを持って、小さく苦笑いをした。
「わっちに花なぞ似合わん」
「そんなことはないですよ。ほら、」
屈託ない笑顔で渡せば、遠慮がちに受け取る月詠。
彼女は小さく溜息をついてキセルを懐へ仕舞った。
「…ぬしが男だったらよかったのにのぅ」
「あはは、それは私も時々思います」
「まぁ、そうだとしたら銀時のヤツは発狂するじゃろうがな」
いや、もしかしたらそっちに走るのか?
訝しげな顔でブツブツと呟く月詠を首を傾げながら名無しは見上げた。
今日も吉原桃源郷は平和だ。
茜色ドロップ#君に花を
男だったらよかったのに。
そう言った真意は、きっとぬしには届いていない。
「いえいえ。健康が一番ですからね」
処方した漢方をひとつずつ手渡ししながら名無しは笑う。
今日は高齢の患者さんの家を、回診で周る日だ。
正直あまり利益は取ってないからお金になるか?と言われればそうでもない仕事だが、名無しは仕事が好きだった。
「この間ねぇ、お華で余っちゃった生花があるんだよ。名無しちゃん貰ってくれないかい?」
「いいんですか?じゃあ、ぜひ頂きます」
二つ返事で頷いた後、少しだけ名無しは後悔してしまった。
両手にいっぱいの芍薬の花。
華やかな花姿と、爽やかな甘い香り。
余っちゃった、というレベルではない。これは誤発注したのでは、と勘ぐってしまう程に多かった。
まだ回診先があれば分けて回ることも出来るのだが、先程のご婦人が今日の最後の回診先だった。さて、どうしようか。
男にあげても仕方がない。沢山の女性に、受け取って貰えそうなところ。
「あ。」
***
昔の吉原とは打って変わって開放的な雰囲気になった街並みを歩きながら、名無しは幾分か減った花を抱えたまま辺りを見回す。
日輪に事情を話せば「みんな喜ぶわ。部屋に生けなくちゃね」と嬉しそうに笑っていた。
危うく持て余して無駄に枯らすところだった。名無しは安心したように胸を撫で下ろした。
あと、渡したい人がもう一人。
「あ、いた。月詠さん!」
黒い着物を艶やかに纏った、お目当ての彼女を見つけて名無しは大きく手を振る。
片手でいっぱいの花を抱えて、見回りをしていた彼女の元へ小走りで駆けた。
「どうした、名無し。ぬしが吉原に来るなんて珍しいの」
「お花をいっぱい貰っちゃいまして。日輪さんにはお渡ししたんですけど、月詠さんには手渡しで渡したくて。」
「わっちに?」
ピンク色の芍薬を手に取って、ふにゃりと笑う名無し。
「はい。よろしかったらどうぞ」
花と名無しをじっと見て肩を竦める月詠。
咥えていたキセルを持って、小さく苦笑いをした。
「わっちに花なぞ似合わん」
「そんなことはないですよ。ほら、」
屈託ない笑顔で渡せば、遠慮がちに受け取る月詠。
彼女は小さく溜息をついてキセルを懐へ仕舞った。
「…ぬしが男だったらよかったのにのぅ」
「あはは、それは私も時々思います」
「まぁ、そうだとしたら銀時のヤツは発狂するじゃろうがな」
いや、もしかしたらそっちに走るのか?
訝しげな顔でブツブツと呟く月詠を首を傾げながら名無しは見上げた。
今日も吉原桃源郷は平和だ。
茜色ドロップ#君に花を
男だったらよかったのに。
そう言った真意は、きっとぬしには届いていない。