茜色ノ子鬼
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先生が幕吏に連れていかれたあの日。
俺達の進む道は、自然と決まっていった。
茜色ノ小鬼#07
「銀時、」
不安そうな顔で見上げる名無し。
言いたいことは分かっている。
今日は、俺達の初陣だ。
「見送る側がンな顔すんな。笑って見送れよ」
くしゃりと頭を撫でれば、不安そうに小さく頷いた。
それもそうだろう、戦場に名無しは出ない。
拠点にしたこの廃寺で怪我人の手当を任せたのだから。
(ここなら恐らく、安全だろ)
そう配慮した結果だった。
「銀時。行くぞ」
そう声をかけるのは桂。
すぐ側の柱にもたれ掛かる高杉もいた。
いつもの面子。
しかしまとう空気は『いつも』のものでは無かった。
「銀時、小太郎、晋助。みんなも、いってらっしゃい」
無理矢理作った笑顔。
そう。ここなら安全なんだと、その時俺は思っていた。
***
戦況は拮抗。
銀時は深手を負った仲間を背負い、廃寺に一旦戻った。
そこは出陣する前の静かな空間とはうって変わり、ある意味戦場より凄まじいものになっていた。
味方の怪我人だらけ。それも殆ど重傷の。
中には事切れてしまっている者もいた。
「しっかり!今傷口を縫うから、じっとして、」
うめき声の中、袖を上げ一心不乱に傷口を縫合する名無し。
味方の血だろうか、着物や腕は乾いた血で赤黒く染まっていた。
「止血するから、痛いけど我慢して…っ」
細くちぎった布で傷口の近くを縛れば、息も絶え絶えの怪我人ですら断末魔のような声を上げる。
敵の断末魔ならともかく、これは間違いなく味方の声。
耳を塞ぎたくなるような、
そう、間違いなくここは『地獄』だった。
どこよりも味方の死が近い、
「名無し、」
「銀時」
思わず声をかけてしまった。
泣き虫なコイツは泣いているような気がして。
けど、上げた顔は真っ青で今にも泣きだしそうな眼をしていた。
いっそ泣いてしまった方が、よかったかもしれない。
ぐっと堪えている表情が余計に痛々しかった。
ぐっと泣き言を呑み込んで、名無しが絞り出すように言葉を紡いだ。
「重傷の人から診ていくから、並べて横にして。すぐ診るからね、待ってて」
俺の背中にいる仲間は力なく頷く。
彼は、助かるのだろうか。
「銀時、」
絶対、戻ってきてね。
そう小さく呟いた声は震えていた。
けど、俺は返事が出来なかった。
それを約束する自信がなかったのか、言葉にしたらいわゆる死亡フラグになってしまいそうだったからか。
黙って片手を上げ、再び戦場へ走っていった。
***
「なんとか勝つには勝ったが…」
寺に戻ってきた桂は辺りを見回す。
そこは怪我で横たわる、人、ヒト、ひと。
まだ乾かぬ血の匂いと鼻につく薬の匂いと、痛みに耐える呻き声。
犠牲は、数えるのもうんざりするくらいだ。
華々しい初陣とはかけ離れた、血を血で洗うような状況だった。
「名無しはどうした?」
「今は高杉のとこだろ。アイツも深手じゃねーけど斬られてたしな」
刀を抱えたまま銀時がぼんやりと答えた。
そんな彼をちらりと見ながら桂は重々しく口を開いた。
「先生は、まだ生きているだろうか」
「生きてもらってなきゃ、こんな戦、意味がなくなる」
少なくとも、俺達にとっては。
ぽつりと呟きながら銀時が空を仰ぐ。
もうすぐ地平線に沈んでしまう夕日がやけに眩しい。
夜が、来る。
焼け野原になった戦場の水平線へ、血のような赤い夕日が沈んでいった。
***
「よかった、あまり傷が深くなくて」
縫合したあと薬を塗り、包帯を巻いていく名無し。
肩を少し斬られただけだと言うのに大袈裟だと、呆れたように息を吐いた。
「…お前のことだから、もっとピーピー泣いてるのかと思ったがな」
寺子屋の時から、コイツは気が強い方じゃなかったと思う。
強情なところは時々あるが、基本的に大人しいしどちらかと言うと消極的な方だと思っていた。
まぁ、言ってしまえば大馬鹿者の俺や銀時とは真逆の優等生タイプではあった。
「私も、そう思ってた。けど、なんか…今は、後悔しかない」
手のひらをじっと見ながら、名無しはそう言った。
今日だけで何人の命が手のひらから滑り落ちたのだろう。
涙を見せれば他の人に不安が伝染する。分かっていた。
だからぐっと歯を食いしばり、心の中で何度も懺悔を繰り返してそっと手を離した。
後悔は、したくない。
「晋助。あなたなら先生に禁止されてることで仲間が助かるなら、どうする?」
質問の意図が、よく分からなかった。
けどコイツが意味もなくこんなことを聞いてくる人間じゃないのは、今までの付き合いからよく知っている。
少し考えた後、俺は慎重に答えた。
「今はやむを得ねェからな。あとで拳骨でも受けるさ。約束を破らねぇなら越したことはないが、今は緊急事態だからな」
「そっか、…そうだね、ありがとう」
そう言って、アイツは笑った。
その回答を後悔することになるのは、もう少し先の話だ。
俺達の進む道は、自然と決まっていった。
茜色ノ小鬼#07
「銀時、」
不安そうな顔で見上げる名無し。
言いたいことは分かっている。
今日は、俺達の初陣だ。
「見送る側がンな顔すんな。笑って見送れよ」
くしゃりと頭を撫でれば、不安そうに小さく頷いた。
それもそうだろう、戦場に名無しは出ない。
拠点にしたこの廃寺で怪我人の手当を任せたのだから。
(ここなら恐らく、安全だろ)
そう配慮した結果だった。
「銀時。行くぞ」
そう声をかけるのは桂。
すぐ側の柱にもたれ掛かる高杉もいた。
いつもの面子。
しかしまとう空気は『いつも』のものでは無かった。
「銀時、小太郎、晋助。みんなも、いってらっしゃい」
無理矢理作った笑顔。
そう。ここなら安全なんだと、その時俺は思っていた。
***
戦況は拮抗。
銀時は深手を負った仲間を背負い、廃寺に一旦戻った。
そこは出陣する前の静かな空間とはうって変わり、ある意味戦場より凄まじいものになっていた。
味方の怪我人だらけ。それも殆ど重傷の。
中には事切れてしまっている者もいた。
「しっかり!今傷口を縫うから、じっとして、」
うめき声の中、袖を上げ一心不乱に傷口を縫合する名無し。
味方の血だろうか、着物や腕は乾いた血で赤黒く染まっていた。
「止血するから、痛いけど我慢して…っ」
細くちぎった布で傷口の近くを縛れば、息も絶え絶えの怪我人ですら断末魔のような声を上げる。
敵の断末魔ならともかく、これは間違いなく味方の声。
耳を塞ぎたくなるような、
そう、間違いなくここは『地獄』だった。
どこよりも味方の死が近い、
「名無し、」
「銀時」
思わず声をかけてしまった。
泣き虫なコイツは泣いているような気がして。
けど、上げた顔は真っ青で今にも泣きだしそうな眼をしていた。
いっそ泣いてしまった方が、よかったかもしれない。
ぐっと堪えている表情が余計に痛々しかった。
ぐっと泣き言を呑み込んで、名無しが絞り出すように言葉を紡いだ。
「重傷の人から診ていくから、並べて横にして。すぐ診るからね、待ってて」
俺の背中にいる仲間は力なく頷く。
彼は、助かるのだろうか。
「銀時、」
絶対、戻ってきてね。
そう小さく呟いた声は震えていた。
けど、俺は返事が出来なかった。
それを約束する自信がなかったのか、言葉にしたらいわゆる死亡フラグになってしまいそうだったからか。
黙って片手を上げ、再び戦場へ走っていった。
***
「なんとか勝つには勝ったが…」
寺に戻ってきた桂は辺りを見回す。
そこは怪我で横たわる、人、ヒト、ひと。
まだ乾かぬ血の匂いと鼻につく薬の匂いと、痛みに耐える呻き声。
犠牲は、数えるのもうんざりするくらいだ。
華々しい初陣とはかけ離れた、血を血で洗うような状況だった。
「名無しはどうした?」
「今は高杉のとこだろ。アイツも深手じゃねーけど斬られてたしな」
刀を抱えたまま銀時がぼんやりと答えた。
そんな彼をちらりと見ながら桂は重々しく口を開いた。
「先生は、まだ生きているだろうか」
「生きてもらってなきゃ、こんな戦、意味がなくなる」
少なくとも、俺達にとっては。
ぽつりと呟きながら銀時が空を仰ぐ。
もうすぐ地平線に沈んでしまう夕日がやけに眩しい。
夜が、来る。
焼け野原になった戦場の水平線へ、血のような赤い夕日が沈んでいった。
***
「よかった、あまり傷が深くなくて」
縫合したあと薬を塗り、包帯を巻いていく名無し。
肩を少し斬られただけだと言うのに大袈裟だと、呆れたように息を吐いた。
「…お前のことだから、もっとピーピー泣いてるのかと思ったがな」
寺子屋の時から、コイツは気が強い方じゃなかったと思う。
強情なところは時々あるが、基本的に大人しいしどちらかと言うと消極的な方だと思っていた。
まぁ、言ってしまえば大馬鹿者の俺や銀時とは真逆の優等生タイプではあった。
「私も、そう思ってた。けど、なんか…今は、後悔しかない」
手のひらをじっと見ながら、名無しはそう言った。
今日だけで何人の命が手のひらから滑り落ちたのだろう。
涙を見せれば他の人に不安が伝染する。分かっていた。
だからぐっと歯を食いしばり、心の中で何度も懺悔を繰り返してそっと手を離した。
後悔は、したくない。
「晋助。あなたなら先生に禁止されてることで仲間が助かるなら、どうする?」
質問の意図が、よく分からなかった。
けどコイツが意味もなくこんなことを聞いてくる人間じゃないのは、今までの付き合いからよく知っている。
少し考えた後、俺は慎重に答えた。
「今はやむを得ねェからな。あとで拳骨でも受けるさ。約束を破らねぇなら越したことはないが、今は緊急事態だからな」
「そっか、…そうだね、ありがとう」
そう言って、アイツは笑った。
その回答を後悔することになるのは、もう少し先の話だ。