茜色ノ子鬼
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あの後、松陽が迎えにやって来た。
どうしてここが分かったのか・とか、天人の屍の山を見てもどうして何も聞かない・とか。
色々気になることはあった。
「銀時、名無し。大丈夫ですか」
平然と何事もなかったかのように聞いてくる松陽の姿を見て、俺は何も言えなかった。
茜色ノ小鬼#04
あばら家の奥にあった井戸で返り血を名無しが流している時に、唐突に松陽が口を開いた。
「見ちゃいました?」
「…見たというか、起きたらあぁなってた」
何を、とはお互いに触れない。
言わなくても分かっていた。
「なんで名無しは天人に追いかけられてるんだ?」
「銀時も見たように、傷がすぐ治る体質だからですよ。彼女の血を口にすれば、多少の怪我はすぐ治ります。
…戦争にはもってこいなんですよ」
「…名無しは天人、なのか?」
「さぁ?私にもそれは分かりませんねぇ」
曖昧に松陽が笑うが、どう考えても人間の体質ではありえない。
恐らくそうなのだろう。
「怖かったですか?彼女が」
「…いや。あんな泣き虫なヤツ、怖くはねぇけどよ」
痛々しいくらいに顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていた彼女。
殺してしまった後悔なのか、俺が死んだかと思った故の恐怖からの涙なのか。
俺には、分からなかった。
「なら、守ってあげてください」
にこりと、いつもの笑顔で松陽が笑う。
俺は一瞬彼が何を言っているのか理解が出来なかった。
「…守る必要あるのか?アレ」
「身体を守るのであれば檻にでも入れておけば外敵からは守れますよ。でも、そうじゃない。
――君には、彼女の心を守ってあげて欲しいんですよ、銀時。」
ぽん、と俺の頭を撫でる松陽の手。
それは温かくて、大きくて。俺の、目標だ。
「『化物の剣』では何も守れません。君が目指す『人の剣』で、名無しを守ってあげてほしいんです」
彼女が内なる鬼に、喰われないように。
俺は、どうしてそう見えてしまったのだろう。
その時の松陽の目が、酷く寂しそうに細められたのは
きっと、気のせいじゃなかったんだ。
***
「つ、ついて、来ないで…」
「うるせー。俺が行こうとしている先に、名無しがたまたまいるだけだろ」
作物がまだ残っていないか確認するため、村外れにある畑に名無しは向かっていた。
その後ろを半歩ほど後から歩く俺に、遠慮がちに抗議してくる。
ふてぶてしく反論すれば、ぐっと言葉を呑み込んで走り出そうとする。
「…おい、」
慌てて手首を掴めば、驚く程に細かった。
僅かに震えている手。
振り返った彼女の表情は今にも泣きそうな顔だった。
「…ったく。何だよ、嫌わないでって言ってるくせに避けてるのはそっちじゃねぇか」
「だっ、て、」
「だってもヘチマもねーの。どうせ天人のヤツらが出てきたら、俺を逃がしてどうにかしようとしてるんだろうが。そうは行かねぇぞ」
図星、だったらしい。
最初は表情の変化が乏しいと思っていたが、今はすっかり長い前髪の向こうに見える僅かな変化すら分かるようになってきた。
「だって、」
「んだよ。」
「ぎ…銀時が、また、怪我するのは…見たくない」
尻すぼみになる言葉。
絞り出すような声は、まるで蚊のようだった。
「あのな。俺は男なんだから怪我のひとつふたつしてもいいんだよ。
見ろ、お前なんかすぐピーピー泣くし、弱気だし、相変わらず細ェし。全然男のガキにゃ見えねぇよ」
突然の悪口に、名無しが思わずたじろいだのが分かった。
…いや、言い過ぎかもしれないが、事実だし。
でも、言いたいことはそうじゃなかった。
「…だから、なんだ、その。
お前みたいな泣き虫は、俺が守ってやるんだよ。」
なんだか照れくさくて、思わずそっぽを向いてしまった。
別に松陽に言われたからではない。もちろん、それも理由にあるのだが。
彼女が泣くのは、何故だか見たくなかった。
どうしてここが分かったのか・とか、天人の屍の山を見てもどうして何も聞かない・とか。
色々気になることはあった。
「銀時、名無し。大丈夫ですか」
平然と何事もなかったかのように聞いてくる松陽の姿を見て、俺は何も言えなかった。
茜色ノ小鬼#04
あばら家の奥にあった井戸で返り血を名無しが流している時に、唐突に松陽が口を開いた。
「見ちゃいました?」
「…見たというか、起きたらあぁなってた」
何を、とはお互いに触れない。
言わなくても分かっていた。
「なんで名無しは天人に追いかけられてるんだ?」
「銀時も見たように、傷がすぐ治る体質だからですよ。彼女の血を口にすれば、多少の怪我はすぐ治ります。
…戦争にはもってこいなんですよ」
「…名無しは天人、なのか?」
「さぁ?私にもそれは分かりませんねぇ」
曖昧に松陽が笑うが、どう考えても人間の体質ではありえない。
恐らくそうなのだろう。
「怖かったですか?彼女が」
「…いや。あんな泣き虫なヤツ、怖くはねぇけどよ」
痛々しいくらいに顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていた彼女。
殺してしまった後悔なのか、俺が死んだかと思った故の恐怖からの涙なのか。
俺には、分からなかった。
「なら、守ってあげてください」
にこりと、いつもの笑顔で松陽が笑う。
俺は一瞬彼が何を言っているのか理解が出来なかった。
「…守る必要あるのか?アレ」
「身体を守るのであれば檻にでも入れておけば外敵からは守れますよ。でも、そうじゃない。
――君には、彼女の心を守ってあげて欲しいんですよ、銀時。」
ぽん、と俺の頭を撫でる松陽の手。
それは温かくて、大きくて。俺の、目標だ。
「『化物の剣』では何も守れません。君が目指す『人の剣』で、名無しを守ってあげてほしいんです」
彼女が内なる鬼に、喰われないように。
俺は、どうしてそう見えてしまったのだろう。
その時の松陽の目が、酷く寂しそうに細められたのは
きっと、気のせいじゃなかったんだ。
***
「つ、ついて、来ないで…」
「うるせー。俺が行こうとしている先に、名無しがたまたまいるだけだろ」
作物がまだ残っていないか確認するため、村外れにある畑に名無しは向かっていた。
その後ろを半歩ほど後から歩く俺に、遠慮がちに抗議してくる。
ふてぶてしく反論すれば、ぐっと言葉を呑み込んで走り出そうとする。
「…おい、」
慌てて手首を掴めば、驚く程に細かった。
僅かに震えている手。
振り返った彼女の表情は今にも泣きそうな顔だった。
「…ったく。何だよ、嫌わないでって言ってるくせに避けてるのはそっちじゃねぇか」
「だっ、て、」
「だってもヘチマもねーの。どうせ天人のヤツらが出てきたら、俺を逃がしてどうにかしようとしてるんだろうが。そうは行かねぇぞ」
図星、だったらしい。
最初は表情の変化が乏しいと思っていたが、今はすっかり長い前髪の向こうに見える僅かな変化すら分かるようになってきた。
「だって、」
「んだよ。」
「ぎ…銀時が、また、怪我するのは…見たくない」
尻すぼみになる言葉。
絞り出すような声は、まるで蚊のようだった。
「あのな。俺は男なんだから怪我のひとつふたつしてもいいんだよ。
見ろ、お前なんかすぐピーピー泣くし、弱気だし、相変わらず細ェし。全然男のガキにゃ見えねぇよ」
突然の悪口に、名無しが思わずたじろいだのが分かった。
…いや、言い過ぎかもしれないが、事実だし。
でも、言いたいことはそうじゃなかった。
「…だから、なんだ、その。
お前みたいな泣き虫は、俺が守ってやるんだよ。」
なんだか照れくさくて、思わずそっぽを向いてしまった。
別に松陽に言われたからではない。もちろん、それも理由にあるのだが。
彼女が泣くのは、何故だか見たくなかった。