茜色ノ子鬼
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「銀時、銀時!」
あぁ、そんな風に泣くなよ。
可愛い顔が台無しじゃねぇか。
茜色ノ小鬼#03
それは不運としか言いようがなかった。
俺は丸腰、隣には名無し。
後ろから追いかけてくるのは獲物を持った天人。
薪を拾いに行ったらこの有様だ。
「ガキを探せ!脅して、近くの村の在処を吐かせろ!」
天人の怒号が遠くから聞こえる。
昼過ぎ辺りから暗雲が空に立ち込め、曇天の雲が重々しく覆っている。
遠くから聞こえてくる雷鳴から察するに、もうすぐ夕立が来るのだろう。
雨に乗じて松陽のところへ帰ってしまえばこっちのものだ。
子供二人分の足音も小さな足跡も、雷雨や覆い茂る草で分からないだろう。
「…もう少し、我慢しとけよ」
名無しに小さく声を掛ければ、口元を抑えてコクコクと頷く。
前髪の隙間から覗く赤い双眸は泣きそうで、今にも大粒の涙が零れてしまいそうだった。
震えそうになる手で名無しの手を握りしめた。
バクバクと鳴り響く鼓動が酷くうるさい。
息を潜めているはずなのに、思わず呼吸が浅くなった。
「みぃつけた」
猪に似た容姿の天人が、横穴を覗き込んだ。
***
あぁ、俺、斬られたのか。
背中が酷く熱い。
袈裟斬りにされた傷口が熱を持って、じわじわと侵食するような痛みが広がる。
「銀時、銀時!」
あぁ、そんな風に泣くなよ。
可愛い顔が台無しじゃねぇか。
髪を掴まれた名無しがボロボロと泣きながら声を張り上げる。
アイツのこんな大きな声、初めて聞いた。
「なんだコイツ。眼が赤いじゃねぇか」
「噂になっていたガキだろ。もっと東の方にいるって聞いていたが、まさかこっちに流れてきているとはな」
ゴツゴツとした手が名無しの顎を掴む。
恐怖に揺れる双眸は、これでもかという程に見開かれていた。
「そい、つに、触るな、」
「なんだ、このガキ。まだ生きてるのか。
…めんどくせぇ、」
殺しとくか。
振り上げられた刀。
必死に俺へ手を伸ばす名無し。
…あァ、死ぬのか。
呆気ない人生だったな。
血が足りないからなのか。
俺の意識は、そこでプツリと途切れた。
***
――ひっく、
(だれかが、ないてる)
すぐ側で聞こえる嗚咽。
当時に土砂降りのような雨音も遠くから聞こえた。
(だれが、泣いて、)
目をゆるゆると開けると、そこは血の海だった。
視界を埋め尽くす死体の山。
ざっと数えて二十くらいか。
先程まで見ていた天人の生首も転がっていた。
「ぎ、ぎん、とき、」
ボロボロと涙なのか雨なのか、雫を滴らせる名無しは頭の先から着物まで真っ赤だった。
雨で流しきれない程の返り血。
着ていた着物はボロ布に変わり果てて、赤黒く染まっている。
それは悍ましいはずなのに、怯えきった様子が酷く痛々しかった。
ゆっくり身体を起こせば、背中の痛みがなかった。
恐る恐る背中を触れば、深く抉っていたはずの傷口がきれいさっぱりなくなっているではないか。
夢だったのか。
そう思いたいのに、彼女のすぐ隣に転がる血糊にまみれた折れた刀が『現実』を突きつけているようだった。
「…お前がやったのか?」
泣きじゃくる名無しの頬に触れれば、ビクリと震える身体。
長い沈黙の末、コクリと小さく首を縦に振る彼女。
「怪我は、」
「な、ない、けど」
嘘だろ。
だって、着物が刀で斬られた跡だらけで、
着物の裾を無遠慮に捲れば、文字通り『擦り傷ひとつなかった』。
俺は少し前の夕暮れを思い出す。
彼女が転けて、手に出来た擦り傷が目の前で消えたことを。
あれは、見間違いじゃなかったのか。
「………で、」
「?、なんだ…?」
消え入りそうな声に耳を傾ければ、嗚咽に混じって絞り出すような名無しの声が耳に届いた。
「きらいに、ならないで…っ」
ぼろぼろと生暖かい涙で返り血が溶けて、茜色の涙がひと粒落ちた。
あぁ、そんな風に泣くなよ。
可愛い顔が台無しじゃねぇか。
茜色ノ小鬼#03
それは不運としか言いようがなかった。
俺は丸腰、隣には名無し。
後ろから追いかけてくるのは獲物を持った天人。
薪を拾いに行ったらこの有様だ。
「ガキを探せ!脅して、近くの村の在処を吐かせろ!」
天人の怒号が遠くから聞こえる。
昼過ぎ辺りから暗雲が空に立ち込め、曇天の雲が重々しく覆っている。
遠くから聞こえてくる雷鳴から察するに、もうすぐ夕立が来るのだろう。
雨に乗じて松陽のところへ帰ってしまえばこっちのものだ。
子供二人分の足音も小さな足跡も、雷雨や覆い茂る草で分からないだろう。
「…もう少し、我慢しとけよ」
名無しに小さく声を掛ければ、口元を抑えてコクコクと頷く。
前髪の隙間から覗く赤い双眸は泣きそうで、今にも大粒の涙が零れてしまいそうだった。
震えそうになる手で名無しの手を握りしめた。
バクバクと鳴り響く鼓動が酷くうるさい。
息を潜めているはずなのに、思わず呼吸が浅くなった。
「みぃつけた」
猪に似た容姿の天人が、横穴を覗き込んだ。
***
あぁ、俺、斬られたのか。
背中が酷く熱い。
袈裟斬りにされた傷口が熱を持って、じわじわと侵食するような痛みが広がる。
「銀時、銀時!」
あぁ、そんな風に泣くなよ。
可愛い顔が台無しじゃねぇか。
髪を掴まれた名無しがボロボロと泣きながら声を張り上げる。
アイツのこんな大きな声、初めて聞いた。
「なんだコイツ。眼が赤いじゃねぇか」
「噂になっていたガキだろ。もっと東の方にいるって聞いていたが、まさかこっちに流れてきているとはな」
ゴツゴツとした手が名無しの顎を掴む。
恐怖に揺れる双眸は、これでもかという程に見開かれていた。
「そい、つに、触るな、」
「なんだ、このガキ。まだ生きてるのか。
…めんどくせぇ、」
殺しとくか。
振り上げられた刀。
必死に俺へ手を伸ばす名無し。
…あァ、死ぬのか。
呆気ない人生だったな。
血が足りないからなのか。
俺の意識は、そこでプツリと途切れた。
***
――ひっく、
(だれかが、ないてる)
すぐ側で聞こえる嗚咽。
当時に土砂降りのような雨音も遠くから聞こえた。
(だれが、泣いて、)
目をゆるゆると開けると、そこは血の海だった。
視界を埋め尽くす死体の山。
ざっと数えて二十くらいか。
先程まで見ていた天人の生首も転がっていた。
「ぎ、ぎん、とき、」
ボロボロと涙なのか雨なのか、雫を滴らせる名無しは頭の先から着物まで真っ赤だった。
雨で流しきれない程の返り血。
着ていた着物はボロ布に変わり果てて、赤黒く染まっている。
それは悍ましいはずなのに、怯えきった様子が酷く痛々しかった。
ゆっくり身体を起こせば、背中の痛みがなかった。
恐る恐る背中を触れば、深く抉っていたはずの傷口がきれいさっぱりなくなっているではないか。
夢だったのか。
そう思いたいのに、彼女のすぐ隣に転がる血糊にまみれた折れた刀が『現実』を突きつけているようだった。
「…お前がやったのか?」
泣きじゃくる名無しの頬に触れれば、ビクリと震える身体。
長い沈黙の末、コクリと小さく首を縦に振る彼女。
「怪我は、」
「な、ない、けど」
嘘だろ。
だって、着物が刀で斬られた跡だらけで、
着物の裾を無遠慮に捲れば、文字通り『擦り傷ひとつなかった』。
俺は少し前の夕暮れを思い出す。
彼女が転けて、手に出来た擦り傷が目の前で消えたことを。
あれは、見間違いじゃなかったのか。
「………で、」
「?、なんだ…?」
消え入りそうな声に耳を傾ければ、嗚咽に混じって絞り出すような名無しの声が耳に届いた。
「きらいに、ならないで…っ」
ぼろぼろと生暖かい涙で返り血が溶けて、茜色の涙がひと粒落ちた。