茜色ノ子鬼
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「名無し!」
目の前で刃を振るう小さな手。
血濡れた姿でゆっくりと振り返る姿は、まるで
茜色ノ小鬼#13
京を発って、数日後。
いつも通りの戦場、いつも通りの死体の山。
見慣れた光景のはずなのにどこか違和感があった。
「銀時。なんか、妙だ」
襲ってくる天人。
血腥い戦場。
いつもと同じ。けれど、どこかで違和感を感じていた。
「正面が手薄すぎる」
「やっぱ、ヅラもそう思う?」
「ヅラじゃない、桂だ」
お互いの背を守るように立ち回り、辺りを見回す。
左翼にいる坂本の隊も、右翼に展開する高杉率いる鬼兵隊も寸分の遅れを取っていない。
上手く行き過ぎている戦況を心から喜べない。
嫌な予感がした。
「…こっちの怪我人が殆ど出てないのが救い何だけどよ、どーもな。いつもなら結構な人数リタイアしてるだろ?」
「皮肉なことにな。…銀時、お前は引き返せ」
「あ?」
「背後から挟み撃ちの可能性もある。
偵察だ、行ってきてくれるか」
「偵察って、お前。どこまで」
「俺達の拠点までだ」
拠点。
すなわち、名無しが救護しているあばら家になっている屋敷まで。
「……骨折り損だったら、あれだオメー、パフェ奢ってもらうからな」
「貸した金をまだ返さんヤツが何を言うか!早く行け!」
桂の声に急かされるように、銀時は来た戦場を駆け戻る。
嫌な予感ほど、当たるものなのだ。
昔、誰かが言っていた気がする。
***
「大丈夫ですか?傷は浅いですから、まずは消毒して止血します。暫くの辛抱ですからね」
「すまねぇ」
いつも通り手際よく手当をする名無し。
今日は担ぎ込まれる怪我人がいつもより少ない。
負傷して戻ってきた兵によると、今日は戦をしている相手の天人が少ないらしい。
大怪我をしてくる仲間も少ない。
今日は、血を使わなくて済みそうだ、と。
最終手段を使わないことに、少しだけホッした。
すると、地響きのような低い音が近づいてくる。
引き戸の隙間からそっと外を眺めると、名無しはその光景見て目を疑った。
まるで戦の最前線のような、天人の数。
「かかれェ!」
天人の大将の掛け声と共に、こちらへ雪崩のように押し入ってくる敵。
一方、こちらは怪我人だらけだ。
中には自由に体を動かせない者も数名いる。
「っ、皆さん!裏口から逃げて!」
蹴り破るように引き戸を開け、傷の浅い人間が重傷者を背負って外へ飛び出る。
部屋の隅に立て掛けられていた刀を手に取り、スラリと抜く名無し。
怪我人が全員逃げられるまでの時間稼ぎと言わんばかりに正面の扉に切っ先を向けた。
金棒のような鈍器で、木製の扉は一瞬にして吹っ飛んだ。
まだ怪我人は全員逃げられていない。
私が、殿をつとめなければ。
「小太郎へ、桂へ動ける者は伝達を!奇襲を受けたと、早く!」
「は、はい!」
まだ傷の浅い侍が、薮を通って逃げていく。
もう少し。もう少しだけ時間を稼がなければ。
「ここが拠点か。オイ、人質になりそうなヤツを捕まえろ!抵抗する人間は、」
こちらを見て、ニタリと笑う天人。
「殺せ。」
刀を持つ手が僅かに震える。
辺りを見回しても、敵、敵。
異形の民、天人ばかりだった。
「逃がすな、追え!」
ぐっと歯を食いしばり、姿勢を低くして刀を振るう。
肉が切れる感覚。
飛び散る血の生暖かさ。
(怖い、)
いつもこんな風に、銀時達は戦っているのか。
転がるように棍棒から逃げれば、板間が沈むように穴が空いた。
久しぶりに握る刀は、酷く重い。きちんと振るうのは、何年ぶりだろうか。
それでも戦場で振るうのは、これが初めてだった。
背中に当たる、土壁の感触。
ひやりと冷たいのは、壁の温度か、それとも私の背筋か。
「追い詰めたぞ、逃がすな!」
一斉に突き立てられる槍を、タイミングを合わせて姿勢を低くし紙一重で躱した。
土壁に深く突き刺さった切っ先はすぐには抜けない。今が、チャンスだ。
『動きを止めるなら足を斬りなさい。』
昔、『あの人』から手ほどきを受けた言葉が脳内にリフレインする。
短刀を抜き、足元を縫うように斬れば断末魔が響く。
『首を落とせば大抵は死にます。』
(動きは少なく、最小限に、)
刃を振るう『あの人』は死神のようだった。
烏の面を付けて冷徹な視線を向ける目は、未だに忘れられない。
生暖かい返り血が頬を濡らす。
不愉快なはずなのに、何故だろう。
(感覚が、動きが、全部、ぜんぶ、)
鮮明に思い出せる。
自分が自分じゃなくなっていく感覚。
視界が、赤に染まる。
「女から殺せ!被害がデカくなる前に、」
背中を大きく袈裟斬りにされる感覚。
痛い。熱い。
ダメだ、鬼に なってしまう。
『名無し。せめて君は、誰かを守れる鬼でいてください』
ごめんなさい先生。
少し、自信がないや。
目の前で刃を振るう小さな手。
血濡れた姿でゆっくりと振り返る姿は、まるで
茜色ノ小鬼#13
京を発って、数日後。
いつも通りの戦場、いつも通りの死体の山。
見慣れた光景のはずなのにどこか違和感があった。
「銀時。なんか、妙だ」
襲ってくる天人。
血腥い戦場。
いつもと同じ。けれど、どこかで違和感を感じていた。
「正面が手薄すぎる」
「やっぱ、ヅラもそう思う?」
「ヅラじゃない、桂だ」
お互いの背を守るように立ち回り、辺りを見回す。
左翼にいる坂本の隊も、右翼に展開する高杉率いる鬼兵隊も寸分の遅れを取っていない。
上手く行き過ぎている戦況を心から喜べない。
嫌な予感がした。
「…こっちの怪我人が殆ど出てないのが救い何だけどよ、どーもな。いつもなら結構な人数リタイアしてるだろ?」
「皮肉なことにな。…銀時、お前は引き返せ」
「あ?」
「背後から挟み撃ちの可能性もある。
偵察だ、行ってきてくれるか」
「偵察って、お前。どこまで」
「俺達の拠点までだ」
拠点。
すなわち、名無しが救護しているあばら家になっている屋敷まで。
「……骨折り損だったら、あれだオメー、パフェ奢ってもらうからな」
「貸した金をまだ返さんヤツが何を言うか!早く行け!」
桂の声に急かされるように、銀時は来た戦場を駆け戻る。
嫌な予感ほど、当たるものなのだ。
昔、誰かが言っていた気がする。
***
「大丈夫ですか?傷は浅いですから、まずは消毒して止血します。暫くの辛抱ですからね」
「すまねぇ」
いつも通り手際よく手当をする名無し。
今日は担ぎ込まれる怪我人がいつもより少ない。
負傷して戻ってきた兵によると、今日は戦をしている相手の天人が少ないらしい。
大怪我をしてくる仲間も少ない。
今日は、血を使わなくて済みそうだ、と。
最終手段を使わないことに、少しだけホッした。
すると、地響きのような低い音が近づいてくる。
引き戸の隙間からそっと外を眺めると、名無しはその光景見て目を疑った。
まるで戦の最前線のような、天人の数。
「かかれェ!」
天人の大将の掛け声と共に、こちらへ雪崩のように押し入ってくる敵。
一方、こちらは怪我人だらけだ。
中には自由に体を動かせない者も数名いる。
「っ、皆さん!裏口から逃げて!」
蹴り破るように引き戸を開け、傷の浅い人間が重傷者を背負って外へ飛び出る。
部屋の隅に立て掛けられていた刀を手に取り、スラリと抜く名無し。
怪我人が全員逃げられるまでの時間稼ぎと言わんばかりに正面の扉に切っ先を向けた。
金棒のような鈍器で、木製の扉は一瞬にして吹っ飛んだ。
まだ怪我人は全員逃げられていない。
私が、殿をつとめなければ。
「小太郎へ、桂へ動ける者は伝達を!奇襲を受けたと、早く!」
「は、はい!」
まだ傷の浅い侍が、薮を通って逃げていく。
もう少し。もう少しだけ時間を稼がなければ。
「ここが拠点か。オイ、人質になりそうなヤツを捕まえろ!抵抗する人間は、」
こちらを見て、ニタリと笑う天人。
「殺せ。」
刀を持つ手が僅かに震える。
辺りを見回しても、敵、敵。
異形の民、天人ばかりだった。
「逃がすな、追え!」
ぐっと歯を食いしばり、姿勢を低くして刀を振るう。
肉が切れる感覚。
飛び散る血の生暖かさ。
(怖い、)
いつもこんな風に、銀時達は戦っているのか。
転がるように棍棒から逃げれば、板間が沈むように穴が空いた。
久しぶりに握る刀は、酷く重い。きちんと振るうのは、何年ぶりだろうか。
それでも戦場で振るうのは、これが初めてだった。
背中に当たる、土壁の感触。
ひやりと冷たいのは、壁の温度か、それとも私の背筋か。
「追い詰めたぞ、逃がすな!」
一斉に突き立てられる槍を、タイミングを合わせて姿勢を低くし紙一重で躱した。
土壁に深く突き刺さった切っ先はすぐには抜けない。今が、チャンスだ。
『動きを止めるなら足を斬りなさい。』
昔、『あの人』から手ほどきを受けた言葉が脳内にリフレインする。
短刀を抜き、足元を縫うように斬れば断末魔が響く。
『首を落とせば大抵は死にます。』
(動きは少なく、最小限に、)
刃を振るう『あの人』は死神のようだった。
烏の面を付けて冷徹な視線を向ける目は、未だに忘れられない。
生暖かい返り血が頬を濡らす。
不愉快なはずなのに、何故だろう。
(感覚が、動きが、全部、ぜんぶ、)
鮮明に思い出せる。
自分が自分じゃなくなっていく感覚。
視界が、赤に染まる。
「女から殺せ!被害がデカくなる前に、」
背中を大きく袈裟斬りにされる感覚。
痛い。熱い。
ダメだ、鬼に なってしまう。
『名無し。せめて君は、誰かを守れる鬼でいてください』
ごめんなさい先生。
少し、自信がないや。