茜色ノ子鬼
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あぁ、やってしまった。
茜色ノ小鬼#11
次の日。
とりあえず一番塩梅がよかった薬屋に行っているものを仕入れておこう。
辰馬から要望のものはキチンと揃えられたのだが、一応念のため、だ。
「おや、旦那。昨日はどうも」
…昨日の少年がいざこざを起こした薬屋の主人だ。あまり会いたくない男に会ってしまった。
「あぁ、どうも」
「ちょっと美味い話があるんですよ」
手首を掴まれ、ささコチラへ…と店の中へ促される。
行く気がなかった店へ連れていかれるが、ここで無理矢理断ってもトラブルの火種になりそうで名無しは渋々案内されてしまった。
「で、何の用だ」
「こちらを」
主人が差し出してきたのは手のひらサイズの木箱。
中を開ければ薬草の粉末と…何か白い粉が混ざっているようなものだった。薬、だろうか。
「新作の『痛み止め』でございます。」
「…へぇ」
すん、と僅かに匂いを嗅いで名無しは形のいい眉を思い切り顰めた。
「これ、」
「最近ここらで暴れている、生意気な攘夷の犬共に旦那のコネで何とか撒けれませんかねぇ?」
間違い。麻薬だ。
視界がくらりと揺れる感覚を、悟られてはいけない。
「生憎コネなんかないんでな。失礼する。」
おもむろに立ち上がれば、慌てて追いかけて肩を掴んでくる主人の男。
ハムのように膨らんだ手の関節が、厭に気持ち悪い。
「そうおっしゃらずに。こちらも天人から商品卸して貰ってるんでね、何とかせにゃならんよですよ」
あの目障りなゴミ共を。
主人の一言に、何かが切れた気がした。
「ゴミはどっちだ、下衆が」
利き足の右足で思い切り男の袴を蹴り上げる。
怒りで視界が赤く染まる。
――ダメだ、ここで殺しは、いけない。
バクバクと早鐘を打つ鼓動を抑え、じわりと侵食してくる『それ』を見て見ぬふりをする。
怒りに任せるな。それはあの人が最も忌み嫌った『化け物の剣』だ。
「くっ…お…っ」
悶絶する主人を尻目に、逃げ去るように薬屋を名無しは出ていった。
***
宿へ息も絶え絶えにたどり着けば、銀時と坂本が部屋にいた。
呑気に茶を啜っている彼らを見て、足元から崩れ落ちるように名無しは座り込んだ。
「オイ、大丈夫か?」
「……全速力で…走ったから、気持ち悪い…」
口元を抑えながらゆっくり喋る彼女。
気持ち悪いのは、走ったからだけではないのだけど。
先程の経緯を、銀時と坂本に順を追って話した。
坂本が飲みかけだが茶を差し出してきたので、ありがたく一口頂いた。ぬるい。
「で、ベタベタ触ってくるから股間蹴り上げた」
「「うわ…」」
本当は侮辱されたからなのだけど、そこは黙っててもいいだろう。彼らに伝える必要は無い。
同時に股間をスっと抑える二人を見て、何だか笑いが込み上げそうになった。
本当にあそこは男の急所らしい。
「辰馬、情報収集ついでに女物の着物買ってきてくんね?これいつもの格好で外出たら名無し、ヤベーだろ。まだここに五日くらいはいるってのによ」
「了解じゃあ。名無し、げにまっこと可愛らしいの買うてきちゃるけんの!」
「ありがとうね、辰馬」
大手を振るって部屋を出る辰馬を、宿の窓から見送った後に銀時は溜息をひとつ吐いた。
「で?」
「…何?」
「大丈夫か?顔色やべーぞ」
新しい茶を湯呑みに入れて差し出してくる銀時。彼が茶を入れてくれるなんて、珍しいこともあるものだ。
「少し嗅いだだけであんなクラクラするんだね、麻薬って。正直、気持ち悪い」
ありがたく頂いた茶を一気に飲み干し、名無しは湯呑みを盆に戻した。
「ははーん、口直しに銀さんの匂い嗅いどく?風呂に入ったからいい匂いす、」
「じゃあ。」
胡座をかいていた銀時の背中に頭を預ける。
広くて、大きな背中。
適当に着ている浴衣は宿屋のものだろう。清潔な香りがした。
「て、えぇ…これ、俺動けなくない?」
「これがいい。」
すりっ、と顔を擦り寄せば銀時の匂いがふわりと香った。
いつもの血の匂いはせず、なんとも表現しにくいのだが確かに『人』の匂いだった。
「…ふふっ」
「何だよ。」
「んーん、銀時の心臓の音、落ち着くなぁ、って」
「俺は全然落ち着かねー」
「ごめんごめん。少しだけだから」
目を閉じてそっと鼓動に耳を傾ける。
力強いその音は、紛うことなく生きている証だった。
きっと桂達にはこういうことは出来ない。
幼い頃から知っている彼だけが、知らず知らずのうちに心の拠り所へなってしまっていた。
「…いい匂い。」
焦がすような殺意は、気がつけばすっかり形を潜めていた。
***
「…本当に胸があったんだな」
「いやぁ、まっこと別嬪じゃの!ワシの目に狂いはなかった!」
坂本が戻ってきて「かまえてみ、似合わんかったら大変じゃ」と早速着物を手渡してきた。
銀時の背中を押すように部屋を出ていったため、着替えるしかないと諦めた。
湯浴みするときくらいしか外さないサラシを取れば、呼吸が少し楽になった。
そのまま着物の袖を通して、あまり慣れない着付けをしたら…まぁそれなりになった。
そして冒頭の台詞に戻る。
「なんじゃ金時。もっと褒めるとこがあるじゃろう!名無し、後でスリーサイズ教えて欲しいんじゃが」
「馬鹿、オメーも邪な目で見てんじゃねーか!」
騒がしくしていると、隣部屋にいた高杉が襖を勢いよく開けてきた。
「うるせーぞ、テメーら。
…って、なに女を連れ込んでんだ」
「名無しだぞ」「名無しじゃき」「私だけど」
「………………………は?」
ひと間置いて、珍しく高杉の気の抜けたような声が部屋に響いた。
茜色ノ小鬼#11
次の日。
とりあえず一番塩梅がよかった薬屋に行っているものを仕入れておこう。
辰馬から要望のものはキチンと揃えられたのだが、一応念のため、だ。
「おや、旦那。昨日はどうも」
…昨日の少年がいざこざを起こした薬屋の主人だ。あまり会いたくない男に会ってしまった。
「あぁ、どうも」
「ちょっと美味い話があるんですよ」
手首を掴まれ、ささコチラへ…と店の中へ促される。
行く気がなかった店へ連れていかれるが、ここで無理矢理断ってもトラブルの火種になりそうで名無しは渋々案内されてしまった。
「で、何の用だ」
「こちらを」
主人が差し出してきたのは手のひらサイズの木箱。
中を開ければ薬草の粉末と…何か白い粉が混ざっているようなものだった。薬、だろうか。
「新作の『痛み止め』でございます。」
「…へぇ」
すん、と僅かに匂いを嗅いで名無しは形のいい眉を思い切り顰めた。
「これ、」
「最近ここらで暴れている、生意気な攘夷の犬共に旦那のコネで何とか撒けれませんかねぇ?」
間違い。麻薬だ。
視界がくらりと揺れる感覚を、悟られてはいけない。
「生憎コネなんかないんでな。失礼する。」
おもむろに立ち上がれば、慌てて追いかけて肩を掴んでくる主人の男。
ハムのように膨らんだ手の関節が、厭に気持ち悪い。
「そうおっしゃらずに。こちらも天人から商品卸して貰ってるんでね、何とかせにゃならんよですよ」
あの目障りなゴミ共を。
主人の一言に、何かが切れた気がした。
「ゴミはどっちだ、下衆が」
利き足の右足で思い切り男の袴を蹴り上げる。
怒りで視界が赤く染まる。
――ダメだ、ここで殺しは、いけない。
バクバクと早鐘を打つ鼓動を抑え、じわりと侵食してくる『それ』を見て見ぬふりをする。
怒りに任せるな。それはあの人が最も忌み嫌った『化け物の剣』だ。
「くっ…お…っ」
悶絶する主人を尻目に、逃げ去るように薬屋を名無しは出ていった。
***
宿へ息も絶え絶えにたどり着けば、銀時と坂本が部屋にいた。
呑気に茶を啜っている彼らを見て、足元から崩れ落ちるように名無しは座り込んだ。
「オイ、大丈夫か?」
「……全速力で…走ったから、気持ち悪い…」
口元を抑えながらゆっくり喋る彼女。
気持ち悪いのは、走ったからだけではないのだけど。
先程の経緯を、銀時と坂本に順を追って話した。
坂本が飲みかけだが茶を差し出してきたので、ありがたく一口頂いた。ぬるい。
「で、ベタベタ触ってくるから股間蹴り上げた」
「「うわ…」」
本当は侮辱されたからなのだけど、そこは黙っててもいいだろう。彼らに伝える必要は無い。
同時に股間をスっと抑える二人を見て、何だか笑いが込み上げそうになった。
本当にあそこは男の急所らしい。
「辰馬、情報収集ついでに女物の着物買ってきてくんね?これいつもの格好で外出たら名無し、ヤベーだろ。まだここに五日くらいはいるってのによ」
「了解じゃあ。名無し、げにまっこと可愛らしいの買うてきちゃるけんの!」
「ありがとうね、辰馬」
大手を振るって部屋を出る辰馬を、宿の窓から見送った後に銀時は溜息をひとつ吐いた。
「で?」
「…何?」
「大丈夫か?顔色やべーぞ」
新しい茶を湯呑みに入れて差し出してくる銀時。彼が茶を入れてくれるなんて、珍しいこともあるものだ。
「少し嗅いだだけであんなクラクラするんだね、麻薬って。正直、気持ち悪い」
ありがたく頂いた茶を一気に飲み干し、名無しは湯呑みを盆に戻した。
「ははーん、口直しに銀さんの匂い嗅いどく?風呂に入ったからいい匂いす、」
「じゃあ。」
胡座をかいていた銀時の背中に頭を預ける。
広くて、大きな背中。
適当に着ている浴衣は宿屋のものだろう。清潔な香りがした。
「て、えぇ…これ、俺動けなくない?」
「これがいい。」
すりっ、と顔を擦り寄せば銀時の匂いがふわりと香った。
いつもの血の匂いはせず、なんとも表現しにくいのだが確かに『人』の匂いだった。
「…ふふっ」
「何だよ。」
「んーん、銀時の心臓の音、落ち着くなぁ、って」
「俺は全然落ち着かねー」
「ごめんごめん。少しだけだから」
目を閉じてそっと鼓動に耳を傾ける。
力強いその音は、紛うことなく生きている証だった。
きっと桂達にはこういうことは出来ない。
幼い頃から知っている彼だけが、知らず知らずのうちに心の拠り所へなってしまっていた。
「…いい匂い。」
焦がすような殺意は、気がつけばすっかり形を潜めていた。
***
「…本当に胸があったんだな」
「いやぁ、まっこと別嬪じゃの!ワシの目に狂いはなかった!」
坂本が戻ってきて「かまえてみ、似合わんかったら大変じゃ」と早速着物を手渡してきた。
銀時の背中を押すように部屋を出ていったため、着替えるしかないと諦めた。
湯浴みするときくらいしか外さないサラシを取れば、呼吸が少し楽になった。
そのまま着物の袖を通して、あまり慣れない着付けをしたら…まぁそれなりになった。
そして冒頭の台詞に戻る。
「なんじゃ金時。もっと褒めるとこがあるじゃろう!名無し、後でスリーサイズ教えて欲しいんじゃが」
「馬鹿、オメーも邪な目で見てんじゃねーか!」
騒がしくしていると、隣部屋にいた高杉が襖を勢いよく開けてきた。
「うるせーぞ、テメーら。
…って、なに女を連れ込んでんだ」
「名無しだぞ」「名無しじゃき」「私だけど」
「………………………は?」
ひと間置いて、珍しく高杉の気の抜けたような声が部屋に響いた。