for promise//short story
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滅却師との戦争が、終わった。
名無しの遺品は浦原が渡していた伝令神機のみ。
それ以外、彼女はあの場に何も残していなかった。
勿論、商店に戻れば彼女がいた痕跡は残っているが、あの場所に――彼女の最後の場所、一番隊隊舎に残っていたものは、これだけだった。
ぽっかり、穴が空いたような気分だった。
知り合いが死ぬ、なんて事は長い死神人生何度もあった。
幸い身近な人物である夜一や鉄裁は健在だが、名無しほど身近な人物の死は初めてだった。
『意外と他人に無関心。それに相手の顔色を窺うタイプではない』
自他共にそれは認めていた。そういう男だと自分でも思っていた。
だが実際はどうなのだろう。
一縷の希望に縋った。
待ってて下さい、と彼女は笑った。
何となしに浦原自身の伝令神機を触れば、留守番電話の履歴がいくつか残っていた。
適当な日付のものを再生すれば、懐かしい声が聞こえる。
『もしもし、浦原さん?』
まるで、彼女がそこで生きているかのような肉声。
過去のものだ。終わった出来事だ、と理解しているのに、浦原は僅かに震える手で耳にそっと当てた。
『…で、駄菓子の卸業者さんから連絡あったので、また店に帰ってきたら連絡差し上げてくださいね。じゃあ、お気をつけて帰ってきてください』
何件目かの留守電を聞いて、ふと気がついた。
彼女のメッセージの締めは必ず『お気をつけて帰ってきてください』と終わっていた。
身近な誰かの身を、いつも案じていた彼女。
その割に自分にはあまり頓着がなく、周りは随分やきもきしたものだ。
お気をつけて帰ってきてください。
そう言えば、彼女は今頃ここにいたのだろうか。
『もしもし、浦原さん。』
何件目かの彼女の声で、頬にひとすじ涙が流れた。
会いたい。
気がつけば、彼女の伝令神機に連絡していた。
数コール後に留守番電話に繋がる。
名無しが聞くことはないと分かっていても、かけざるを得ない気持ちになってしまった。
「もしもし、名無しサン。
…いつ、帰ってきてくださるんっスか?」
会いたい。
他人に無関心なんて、嘘だ。深入りしたから、こんな風になってしまった。
会いたい。すぐに、会いたかった。
留守電メモリーズ
浦原から元々使っていた伝令神機を受け取った名無し。
半年以上放置していたから、電源は完全に落ちていた。まぁ、当たり前だろう。
充電するためにコードに繋ぎ、再起動をかける。暫くするとある程度充電出来たようで、何ヶ月かぶりに画面に光が灯った。
すると、画面にひとつだけ入っている留守電の通知。日付は、名無しが浦原に黙って真央霊術院にいた頃だ。
名無しは小さく首を傾げながら、電源を繋げたままそっと耳に当てて再生した。
再生されたのは、浦原の声。
そのメッセージはとてもとても短いものだったが、どんな言葉よりも想いが詰まっていた。
伝令神機を手に取り、探し物をしている浦原の背中に勢いよく抱きついた。
「わっ、名無しサン?どうかされました?」
「いえ。待たせてしまって、申し訳ないなぁと思って」
彼の当時の心情を察すれば、笑い事ではないのは重々承知している。
けれど頬の弛みは抑えようがなかった。
溢れてくる幸福感。本当に、帰って来れてよかった。心からそう思った。
「何がっスか?」
「これ。」
名無しが伝令神機を浦原に見せると、留守電を残したことを思い出したのか、珍しく彼の頬が真っ赤に染まった。
「ちょっ…返してください!」
「嫌ですー。一生の宝にします」
浦原が取り返すより早く、名無しが体を軽やかに翻しポケットに伝令神機を仕舞った。
一生に一度あるかないかの、浦原が恥ずかしがっている顔。思った以上に(大の大人に対して失礼かもしれないが)可愛らしくて、頬が緩みっぱなしだ。
再び抱きつくように浦原の胸板に顔を埋める。
はだけた作務衣から感じる、彼の体温。
耳を押し付けるようにあてれば、いつもより心拍数が随分と早くて名無しは思わず笑った。
「浦原さん、お待たせしました。
ちゃんとほら。帰ってきましたよ」
そう言って無遠慮に見上げれば、嬉しそうなのにどこか泣きそうな顔で、浦原も笑った。
名無しの遺品は浦原が渡していた伝令神機のみ。
それ以外、彼女はあの場に何も残していなかった。
勿論、商店に戻れば彼女がいた痕跡は残っているが、あの場所に――彼女の最後の場所、一番隊隊舎に残っていたものは、これだけだった。
ぽっかり、穴が空いたような気分だった。
知り合いが死ぬ、なんて事は長い死神人生何度もあった。
幸い身近な人物である夜一や鉄裁は健在だが、名無しほど身近な人物の死は初めてだった。
『意外と他人に無関心。それに相手の顔色を窺うタイプではない』
自他共にそれは認めていた。そういう男だと自分でも思っていた。
だが実際はどうなのだろう。
一縷の希望に縋った。
待ってて下さい、と彼女は笑った。
何となしに浦原自身の伝令神機を触れば、留守番電話の履歴がいくつか残っていた。
適当な日付のものを再生すれば、懐かしい声が聞こえる。
『もしもし、浦原さん?』
まるで、彼女がそこで生きているかのような肉声。
過去のものだ。終わった出来事だ、と理解しているのに、浦原は僅かに震える手で耳にそっと当てた。
『…で、駄菓子の卸業者さんから連絡あったので、また店に帰ってきたら連絡差し上げてくださいね。じゃあ、お気をつけて帰ってきてください』
何件目かの留守電を聞いて、ふと気がついた。
彼女のメッセージの締めは必ず『お気をつけて帰ってきてください』と終わっていた。
身近な誰かの身を、いつも案じていた彼女。
その割に自分にはあまり頓着がなく、周りは随分やきもきしたものだ。
お気をつけて帰ってきてください。
そう言えば、彼女は今頃ここにいたのだろうか。
『もしもし、浦原さん。』
何件目かの彼女の声で、頬にひとすじ涙が流れた。
会いたい。
気がつけば、彼女の伝令神機に連絡していた。
数コール後に留守番電話に繋がる。
名無しが聞くことはないと分かっていても、かけざるを得ない気持ちになってしまった。
「もしもし、名無しサン。
…いつ、帰ってきてくださるんっスか?」
会いたい。
他人に無関心なんて、嘘だ。深入りしたから、こんな風になってしまった。
会いたい。すぐに、会いたかった。
留守電メモリーズ
浦原から元々使っていた伝令神機を受け取った名無し。
半年以上放置していたから、電源は完全に落ちていた。まぁ、当たり前だろう。
充電するためにコードに繋ぎ、再起動をかける。暫くするとある程度充電出来たようで、何ヶ月かぶりに画面に光が灯った。
すると、画面にひとつだけ入っている留守電の通知。日付は、名無しが浦原に黙って真央霊術院にいた頃だ。
名無しは小さく首を傾げながら、電源を繋げたままそっと耳に当てて再生した。
再生されたのは、浦原の声。
そのメッセージはとてもとても短いものだったが、どんな言葉よりも想いが詰まっていた。
伝令神機を手に取り、探し物をしている浦原の背中に勢いよく抱きついた。
「わっ、名無しサン?どうかされました?」
「いえ。待たせてしまって、申し訳ないなぁと思って」
彼の当時の心情を察すれば、笑い事ではないのは重々承知している。
けれど頬の弛みは抑えようがなかった。
溢れてくる幸福感。本当に、帰って来れてよかった。心からそう思った。
「何がっスか?」
「これ。」
名無しが伝令神機を浦原に見せると、留守電を残したことを思い出したのか、珍しく彼の頬が真っ赤に染まった。
「ちょっ…返してください!」
「嫌ですー。一生の宝にします」
浦原が取り返すより早く、名無しが体を軽やかに翻しポケットに伝令神機を仕舞った。
一生に一度あるかないかの、浦原が恥ずかしがっている顔。思った以上に(大の大人に対して失礼かもしれないが)可愛らしくて、頬が緩みっぱなしだ。
再び抱きつくように浦原の胸板に顔を埋める。
はだけた作務衣から感じる、彼の体温。
耳を押し付けるようにあてれば、いつもより心拍数が随分と早くて名無しは思わず笑った。
「浦原さん、お待たせしました。
ちゃんとほら。帰ってきましたよ」
そう言って無遠慮に見上げれば、嬉しそうなのにどこか泣きそうな顔で、浦原も笑った。