for promise
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11月。
そう。この時期は文化祭の準備で全校生徒が大忙しだ。
「ウチのクラス、もう出し物決まってるんだ。アンタも手伝ってよね、名無し」
ニカッと笑いながら竜貴が背中をバシバシ叩いてくる。
事情は何となく知っていても、以前と変わりなく接してくれるのはありがたい話だ。
「何するの?」
「こればかりは織姫を手伝わすわけにはいかないもの」
for promise#08
「なーに考えてるんっスか?」
その日の深夜。
学校が終わり、虚退治も魂葬も終えた名無しは薄暗い台所で何か考え混んでいた。
風呂上がりにお茶でも・と思い、台所へ向かった浦原は、首から下げたタオルで髪を拭きながら覗き込んだ。
「いや、文化祭での出し物のメニューをいくつか頼まれまして」
「へぇ。」
「当日までにメニューのものを作っておくのは出来るので、なるべく出すのに手間が掛からない…どうせだから秋っぽいものにしたいんですよね」
それで悩んでいるらしい。
「焼き芋はどうっスか?」
「それ、浦原さんが食べたいだけじゃないですか」
薄暗い蛍光灯の下で苦笑いを浮かべて「髪、ちゃんと乾かさないと風邪引きますよ」と言いながら、タオルを手に取る名無し。
柔軟剤がきいたふかふかのタオルと、髪を拭く優しい手つき。
そんな些細なことですら幸せだと感じた。
「名無しサンのところのクラス、何されるんっスか?」
「……か、カフェです。」
一瞬の間を置いて、目を逸らしながら答える名無し。
大体こういう時の彼女は隠し事をしている。
誤魔化すことすら苦手というのも少々難儀なことだ。
「ふぅん。ボクも当日お邪魔しますね」
「駄目です。絶対ダメです。」
「えぇ〜、だってボク、今は『先生』っスよ?生徒の活動をちゃーんと監督するのも、お仕事っスから」
「…保健医なのに?」
「保健医でも、っス。」
にこにこと笑いながら訴えれば、目の前の彼女は口篭り「…好きに、すればいいじゃないですか…」と諦めたように眉尻を下げた。
***
文化祭当日。
昨晩は夜遅くまで仕込みをしていたようだが、名無しは大丈夫だろうか。
いや、彼女の事だ。手を抜くことを絶対にしない性格だから恐らく徹夜だろう。
パンフレットに目を落とし、名無しや一護達のクラスの出し物を探す。
彼らの教室で、確かに『カフェ』は行われていた。
教室の前に行けばファンシーな手作りの看板がお出迎えしてくる。
ハードカバーの本をモチーフにしたソレは、自作で作ったにしてはクオリティが高い。
恐らくそれぞれの得意分野で手分けしたのだろう。
『童話カフェ』と可愛らしい文字で書かれた看板を見て、何となく名無しが恥ずかしがっていた理由が分かった。
確かに彼女はこういう催しに慣れていないかもしれない。
「ようこそ、童話カフェへ〜!あ、浦原さん!」
お出迎えしてくれたのは織姫だった。
ふわりとした膝丈のスカートが可愛らしい。よく似合っている。
「こんにちはぁ、井上サン。その格好は白雪姫っスか?」
「ふふっ当たりです!おひとり様ですね、カウンターへどうぞ!」
にこにこと愛想のいい笑顔で案内されれば、内装も中々の出来だった。
この教室に行くまでに色々な出し物の前を通ってきたが、このクラスが一番やる気があるのではないだろうか。
森の中のような内装は確かに童話カフェだ。よく出来ている。
「そうだ、浦原さん。特等席にご案内しますね!」
「…特等席?」
首を傾げながら聞き返せば「行けばわかりますよ!」と悪戯っぽく笑う織姫。
案内された椅子に座ると、カウンターの奥の厨房がよく見えた。
そこで忙しなく動いている赤い何か。
あれは…頭巾?
「石田くーん!オーダーお願いしまーす!」
「分かったよ。…って、浦原さん。本当に来たのか」
執事の格好をした石田が厨房からひょこりと顔を出す。
大方、衣装の作成とデザインは石田と織姫が主体になって作ったのだろう。
「いやぁ、凄いモンっスねぇ。全部手作りですか」
「井上さんや有沢さん達が『うちのクラスで最優秀賞とるんだ!』って意気込んでいたからね」
メニューを差し出しながら「で、ご注文は?」と尋ねてくる石田。
可愛らしい挿絵付きのメニュー表も、勿論だが手作りだ。本当によく出来ている。
「名無しサン作ったのはどれっスか?」
「…教えてもらってないのかい?」
「ずーっと内緒にされてたんっスよぉ」
頑なにメニューを教えてくれず、今日に至る。
「メニューの内容は殆ど彼女考案だよ」
「なるほど。」
確かに料理において彼女の右に出る人間は早々いない。
手間のかかるメニューの仕込みは、彼女の手がかかっていると考えていいだろう。
軽食も置いているようで、サンドイッチやパンまで置いていた。鯖パンは…恐らく織姫の案だろう。
(なるほど、これが考えられてた季節のメニューっスか)
先程、織姫が扮していた白雪姫はアップルパイ。
シンデレラはパンプキンプリン。
不思議の国のアリスはスコーン。
ヘンゼルとグレーテルは…フォンダンショコラ?
「かまどのイメージらしいよ」
「あぁ、熱々だからっスか。
っていうか赤ずきんのモチーフが肉って、どうなんっス?それ狼かおばあさんの肉なんじゃ、」
「考案は名無しさんだからね。」
肩を竦めながら答える石田に対して、思わず苦笑いが零れた。
ハンバーガーって。確かにおばあさんへの差し入れで赤ずきんはパンも持っていくが。
「じゃあハンバーガーとパンプキンプリンをお願いするっス」
「分かったよ。」
厨房スペースへ戻って行った石田は、赤ずきんに話しかけている。
どうやら彼女が厨房を仕切っているようだが。…もしかすると、
「名無しさん、いい加減店に出たらどうだい?」
「いやいやいや…私、厨房から出る気なかったし。」
「僕と井上さんの自慢の合作の衣装、浦原さんに見てもらわなくていいのかい?」
「浦原さんが問題なんだってば。」
「…頑張ったのに、人目に付かせずに終わらせる気かい?」
頑張って作ったんだよ。特に井上さん。
半ば脅しのような台詞が奥から聞こえてくる。
それに観念したのか、トレーを持った赤い人影がひょこりと厨房から顔を出てきた。
「…………お、お待たせしました。ハンバーガーと、パンプキンプリンです」
赤い頭巾を目深に被って、おずおずと出てきたのは名無しだ。
縁にレースをあしらった頭巾のフードもよく似合っている。
ふんわりとしたスカートの裾に、エプロンドレスも犯罪的だ。
何より、パニエで膨らんだスカートの裾が短い。中が見えそうで見えない。
こんな丈のスカートなんて、制服くらいなものだ。制服ですらもう少し長い。
なるほど。織姫が頑張ったというのがよくわかった。
彼女には感謝しかない。眼福だ。
フードの下で顔を赤らめる彼女は無茶苦茶可愛い。
確かにこんな子が店に出ていたら危険すぎる。文字通り、教室内が狼で溢れるに違いない。
「〜〜っ名無しサン、写真撮ってもいいっスか!?」
「ダメですよ。何言ってるんですか。」
そう。この時期は文化祭の準備で全校生徒が大忙しだ。
「ウチのクラス、もう出し物決まってるんだ。アンタも手伝ってよね、名無し」
ニカッと笑いながら竜貴が背中をバシバシ叩いてくる。
事情は何となく知っていても、以前と変わりなく接してくれるのはありがたい話だ。
「何するの?」
「こればかりは織姫を手伝わすわけにはいかないもの」
for promise#08
「なーに考えてるんっスか?」
その日の深夜。
学校が終わり、虚退治も魂葬も終えた名無しは薄暗い台所で何か考え混んでいた。
風呂上がりにお茶でも・と思い、台所へ向かった浦原は、首から下げたタオルで髪を拭きながら覗き込んだ。
「いや、文化祭での出し物のメニューをいくつか頼まれまして」
「へぇ。」
「当日までにメニューのものを作っておくのは出来るので、なるべく出すのに手間が掛からない…どうせだから秋っぽいものにしたいんですよね」
それで悩んでいるらしい。
「焼き芋はどうっスか?」
「それ、浦原さんが食べたいだけじゃないですか」
薄暗い蛍光灯の下で苦笑いを浮かべて「髪、ちゃんと乾かさないと風邪引きますよ」と言いながら、タオルを手に取る名無し。
柔軟剤がきいたふかふかのタオルと、髪を拭く優しい手つき。
そんな些細なことですら幸せだと感じた。
「名無しサンのところのクラス、何されるんっスか?」
「……か、カフェです。」
一瞬の間を置いて、目を逸らしながら答える名無し。
大体こういう時の彼女は隠し事をしている。
誤魔化すことすら苦手というのも少々難儀なことだ。
「ふぅん。ボクも当日お邪魔しますね」
「駄目です。絶対ダメです。」
「えぇ〜、だってボク、今は『先生』っスよ?生徒の活動をちゃーんと監督するのも、お仕事っスから」
「…保健医なのに?」
「保健医でも、っス。」
にこにこと笑いながら訴えれば、目の前の彼女は口篭り「…好きに、すればいいじゃないですか…」と諦めたように眉尻を下げた。
***
文化祭当日。
昨晩は夜遅くまで仕込みをしていたようだが、名無しは大丈夫だろうか。
いや、彼女の事だ。手を抜くことを絶対にしない性格だから恐らく徹夜だろう。
パンフレットに目を落とし、名無しや一護達のクラスの出し物を探す。
彼らの教室で、確かに『カフェ』は行われていた。
教室の前に行けばファンシーな手作りの看板がお出迎えしてくる。
ハードカバーの本をモチーフにしたソレは、自作で作ったにしてはクオリティが高い。
恐らくそれぞれの得意分野で手分けしたのだろう。
『童話カフェ』と可愛らしい文字で書かれた看板を見て、何となく名無しが恥ずかしがっていた理由が分かった。
確かに彼女はこういう催しに慣れていないかもしれない。
「ようこそ、童話カフェへ〜!あ、浦原さん!」
お出迎えしてくれたのは織姫だった。
ふわりとした膝丈のスカートが可愛らしい。よく似合っている。
「こんにちはぁ、井上サン。その格好は白雪姫っスか?」
「ふふっ当たりです!おひとり様ですね、カウンターへどうぞ!」
にこにこと愛想のいい笑顔で案内されれば、内装も中々の出来だった。
この教室に行くまでに色々な出し物の前を通ってきたが、このクラスが一番やる気があるのではないだろうか。
森の中のような内装は確かに童話カフェだ。よく出来ている。
「そうだ、浦原さん。特等席にご案内しますね!」
「…特等席?」
首を傾げながら聞き返せば「行けばわかりますよ!」と悪戯っぽく笑う織姫。
案内された椅子に座ると、カウンターの奥の厨房がよく見えた。
そこで忙しなく動いている赤い何か。
あれは…頭巾?
「石田くーん!オーダーお願いしまーす!」
「分かったよ。…って、浦原さん。本当に来たのか」
執事の格好をした石田が厨房からひょこりと顔を出す。
大方、衣装の作成とデザインは石田と織姫が主体になって作ったのだろう。
「いやぁ、凄いモンっスねぇ。全部手作りですか」
「井上さんや有沢さん達が『うちのクラスで最優秀賞とるんだ!』って意気込んでいたからね」
メニューを差し出しながら「で、ご注文は?」と尋ねてくる石田。
可愛らしい挿絵付きのメニュー表も、勿論だが手作りだ。本当によく出来ている。
「名無しサン作ったのはどれっスか?」
「…教えてもらってないのかい?」
「ずーっと内緒にされてたんっスよぉ」
頑なにメニューを教えてくれず、今日に至る。
「メニューの内容は殆ど彼女考案だよ」
「なるほど。」
確かに料理において彼女の右に出る人間は早々いない。
手間のかかるメニューの仕込みは、彼女の手がかかっていると考えていいだろう。
軽食も置いているようで、サンドイッチやパンまで置いていた。鯖パンは…恐らく織姫の案だろう。
(なるほど、これが考えられてた季節のメニューっスか)
先程、織姫が扮していた白雪姫はアップルパイ。
シンデレラはパンプキンプリン。
不思議の国のアリスはスコーン。
ヘンゼルとグレーテルは…フォンダンショコラ?
「かまどのイメージらしいよ」
「あぁ、熱々だからっスか。
っていうか赤ずきんのモチーフが肉って、どうなんっス?それ狼かおばあさんの肉なんじゃ、」
「考案は名無しさんだからね。」
肩を竦めながら答える石田に対して、思わず苦笑いが零れた。
ハンバーガーって。確かにおばあさんへの差し入れで赤ずきんはパンも持っていくが。
「じゃあハンバーガーとパンプキンプリンをお願いするっス」
「分かったよ。」
厨房スペースへ戻って行った石田は、赤ずきんに話しかけている。
どうやら彼女が厨房を仕切っているようだが。…もしかすると、
「名無しさん、いい加減店に出たらどうだい?」
「いやいやいや…私、厨房から出る気なかったし。」
「僕と井上さんの自慢の合作の衣装、浦原さんに見てもらわなくていいのかい?」
「浦原さんが問題なんだってば。」
「…頑張ったのに、人目に付かせずに終わらせる気かい?」
頑張って作ったんだよ。特に井上さん。
半ば脅しのような台詞が奥から聞こえてくる。
それに観念したのか、トレーを持った赤い人影がひょこりと厨房から顔を出てきた。
「…………お、お待たせしました。ハンバーガーと、パンプキンプリンです」
赤い頭巾を目深に被って、おずおずと出てきたのは名無しだ。
縁にレースをあしらった頭巾のフードもよく似合っている。
ふんわりとしたスカートの裾に、エプロンドレスも犯罪的だ。
何より、パニエで膨らんだスカートの裾が短い。中が見えそうで見えない。
こんな丈のスカートなんて、制服くらいなものだ。制服ですらもう少し長い。
なるほど。織姫が頑張ったというのがよくわかった。
彼女には感謝しかない。眼福だ。
フードの下で顔を赤らめる彼女は無茶苦茶可愛い。
確かにこんな子が店に出ていたら危険すぎる。文字通り、教室内が狼で溢れるに違いない。
「〜〜っ名無しサン、写真撮ってもいいっスか!?」
「ダメですよ。何言ってるんですか。」