for promise
名前変換
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「ところで、一ツ目サンは」
「…多分、これ。」
名無しが視線を落とした先には、脇に置いた斬魄刀だった。
for promise#06
「気配はするんですけどね。ほら、斬魄刀って名前があるじゃないですか。一ツ目…って呼んでも全然、始解も出来なくて」
「もしかして、名前が気に食わないから改名を要求してたりして」
浦原が冗談半分で笑う。
名無しは何となく思い当たる節があるらしく、暫く考え込んだ。
「…確かにその場の思いつきで名前考えたし、なんか彼も渋々了承してた気が」
浦原もその様子は彼女の記憶の中で見たことがある。確かにあの名前の付け方は、完全に名無しの思いつきだった。
「どうやって斬魄刀の名前って聞き出したんですか?」
「え、えぇー…ボクは確か…寝てたら夢の中で出てきた気が」
「真央霊術院行っている時、睡眠時間3時間だったから出てこなかったのかも…」
「何してるんっスか」
「だって座学も半年で履修する計画立てたら、必然的にそうなっちゃって…」
言われてみればそうだ。
もしかしたら一ツ目は、加減を知らない彼女に呆れて…もしくは睡眠の邪魔をしないために出てこなかったパターンも考えられる。
「…夕飯までに時間ありますし、昼寝したらどうっス?」
「現世に来て早速ですか?お夕飯、私が作ろうかと思ってたんですけど…」
「今日は名無しサンのおかえりなさい会っスよ。夕飯は鉄裁サンにお任せしましょ」
いそいそと布団を引き始める浦原。
寝させる気満々だ。
「何で枕が二つあるんです?」
「やだなァ、ボクと名無しサンの分に決まってるじゃないっスかぁ」
「ひとつは抱き枕用ですね、なるほど。」
寝言を言う浦原を置いておいて、枕をひとつ抱えて横になる。
昼寝で添い寝だなんて、白昼堂々と恥ずかしい。勘弁して欲しい。
「なんかこのお布団、久しぶりですね」
「ちゃんと干してたんっスよ。いつでも帰って来るように」
「…ありがとうございます」
少し照れくさくなって、布団に潜りながら礼を言う名無し。
何だかその姿が愛らしくて、浦原はそっと頭を撫でた。
「夕方になったら起こしますから、とりあえずゆっくり休んでください」
おやすみなさい。
肩まで優しく布団を掛けなおされる。
秋の涼しい風が、部屋を通り抜けた。
***
「またここかぁ」
空を見上げると満天の星。
以前、一ツ目が『私の心の中の世界』と呼んでいた場所だ。
何も無かった草原には白い小さな花が咲き誇り、まるで花畑のようだった。
『遅い。』
不機嫌そうな声。
振り向けば、モヤのかかった姿。
もはや脚の形すらしていない。けれど気配は一ツ目そのものだった。
「ごめんごめん。忙しくって」
『…知っている。また無茶をしたのか』
「時短と言ってほしいね。…もう姿形も足じゃないんですね」
『生憎、魂はお前と余が混ぜ合わさったからな、このような姿に生まれ変わったらしい』
新しい霊王の楔は、滅却師の長の遺体だと聞いた。
少し憐れな気もするが、必要なものならば。と割り切るしかない。
ということは、一ツ目は旧霊王になるわけで、もう霊王ではないから右足の形を…
「…なんかよくわからなくなってきたけど、『霊王の右足』って肩書きじゃなくなった、って感じ?」
『そんなところだ』
「そうだね、妙なしがらみがなくなって良かったんじゃないの?」
『…本来、斬魄刀は名前を持っているものだが、生憎、余は元が名無しだからな。改めて名付けを頼むぞ』
「よし来た。じゃあ黒マリモ」
『言っておくがまともな名前で頼むぞ。一ツ目の名は、当時かなり妥協したのだ』
「……」
まともな名前って言われても。
「じゃあモヤリン」
『ダサい』
「真っ黒くろ●け」
『各所からバッシング受けるぞ』
「元・霊王」
『そのままではないか。真面目に考えているのか!?まさかお主、ネーミングセンスゼロか。一ツ目が一番マシだぞ!』
「ちょっと待って、これ一ツ目がOK出さないと一生斬魄刀が浅打なんじゃ」
『そうなるな』
「うわ、それは困る」
ウンウン唸って考える名無し。
しかし口からボソボソ出てくる候補も、先程と大して変わらないものばかりだ。
…まさかここに来て、彼女のネーミングセンスのダサさが最大のネックになるとは。
ほかの斬魄刀のように名前があれば良かったのだろうが、幸か不幸か再びこの宿主なのだから諦めるしかない。
「っだー!名付けって何でこんなに難しいの!?」
『センスの問題だな』
「くっそぅ…言い返せない…」
やけくそ気味に地面へ寝転んで星空を見上げる。
秋から冬にかけて、星空は良く見える。そう祖父が言っていた。
その中でも、一等明るく見える星が祖父の店の名前の由来だと教えてくれたのを思い出した。
「…【天狼】」
ポツリと名無しが呟く。
「これならいいでしょ。おじいちゃんの小料理屋の名前。あの一番明るい星の名前よ」
寝返りをうち、黒いモヤに手を伸ばす。
可も不可とも返事がない。
「…ダメ?」
『思い入れがある名前だろう。いいのか?』
「思い入れがあるからこそ、よ」
名無しがそう笑うと『そうか』と満足そうに呟く。
『【天狼】か。悪くない名前だ』
「カッコイイ名前を星につけてくれた、昔の人に感謝ね」
『全くだ』
そう言いながら、黒いモヤは形を作っていく。
黒い影はみるみると獣の姿になり、それは一匹の狼の姿を象る。
青みがかった銀色の毛並みは、それはとても凛々しく芸術的だった。
隻眼の獣。この姿でも眼はひとつなのか、と思ったが、あえて口に出さなかった。
それすらも、
「…カッコイイ」
『お前のネーミングセンスよりはよっぽどいいだろう』
「うん。」
手を伸ばせば、ふわふわとした毛並み。
秋田犬のようにしっかりとした体つきで、逞しい。
斬魄刀ということも忘れ、ただひたすらに撫で回す。
『触りすぎだ』
「いや、だって可愛…かっこいいんだもん」
本音が漏れている。
満足そうにモフモフする名無しに対し、痺れを切らして一ツ目――いや、天狼が吼える。
『いい加減目を覚まして、余を呼ばぬか!』
***
ガバッと起き上がる名無し。
それは半年ほど前まで見慣れていた部屋。
枕元に置いていた斬魄刀を掴んで、玄関の方へ走る。
「おや、名無しサン。起きたんっスか?」
「はい!浦原さん、勉強部屋借りますね!」
いそいそと畳を外せば、少しだけホコリが立ち上る。
暫く使う機会もなかったのだろう。平和なのはいい事だ。
穴蔵へ一気に飛び降りる名無し。
それを追いかけるように浦原もついて行った。
左手で鞘を持ち、柄をしっかり右手で掴む。
さぁ、名前を吼えろ。
「遠来瞬け『天狼』!」
鞘から斬魄刀を抜けば、溢れる霊圧。
知っている。
この霊圧は、彼のものだ。
(お前に、返そう。その体の器であれば、十分使えるだろう)
声が、聞こえた。
蒼光りする光に思わず眼を閉じる名無し。
恐る恐る瞼を開けば、掴んでいた己の斬魄刀は、何の変哲もない浅打ではなくなっていた。
蒼く、鈍く光る銀色の刃。
柄には狼の尾のような柔らかい飾り房。
鍔は花の意匠が彫られていた。これは、
(…アネモネ?)
日本刀に少しミスマッチのような気もするが、自然としっくりくる彫り物だった。
(お前の、不屈の象徴だからな。悪くないだろう)
天狼の声が、聞こえる。
「…悪くないね。」
ひと振り振るえば、空間が裂ける。
馴染みのある感覚だった。
そうだ。これが、私と彼のカタチだ。
「いやぁ、お見事。ちゃんと名前、決まったんっスね」
「浦原さん。」
後ろでパチパチと手を叩く浦原。
その表情は酷く嬉しそうだった。
「…ありがとうございます」
「初・始解に立ち会えて光栄っスよ」
「それはよかった」
そっと天狼を鞘に仕舞う。
チン、と鳴る涼やかな音も、心做しか軽やかだった。
「ちなみに名前、黒マリモは即行却下されました」
「なんでそういうなまえが出てくるんっスか?」
「…多分、これ。」
名無しが視線を落とした先には、脇に置いた斬魄刀だった。
for promise#06
「気配はするんですけどね。ほら、斬魄刀って名前があるじゃないですか。一ツ目…って呼んでも全然、始解も出来なくて」
「もしかして、名前が気に食わないから改名を要求してたりして」
浦原が冗談半分で笑う。
名無しは何となく思い当たる節があるらしく、暫く考え込んだ。
「…確かにその場の思いつきで名前考えたし、なんか彼も渋々了承してた気が」
浦原もその様子は彼女の記憶の中で見たことがある。確かにあの名前の付け方は、完全に名無しの思いつきだった。
「どうやって斬魄刀の名前って聞き出したんですか?」
「え、えぇー…ボクは確か…寝てたら夢の中で出てきた気が」
「真央霊術院行っている時、睡眠時間3時間だったから出てこなかったのかも…」
「何してるんっスか」
「だって座学も半年で履修する計画立てたら、必然的にそうなっちゃって…」
言われてみればそうだ。
もしかしたら一ツ目は、加減を知らない彼女に呆れて…もしくは睡眠の邪魔をしないために出てこなかったパターンも考えられる。
「…夕飯までに時間ありますし、昼寝したらどうっス?」
「現世に来て早速ですか?お夕飯、私が作ろうかと思ってたんですけど…」
「今日は名無しサンのおかえりなさい会っスよ。夕飯は鉄裁サンにお任せしましょ」
いそいそと布団を引き始める浦原。
寝させる気満々だ。
「何で枕が二つあるんです?」
「やだなァ、ボクと名無しサンの分に決まってるじゃないっスかぁ」
「ひとつは抱き枕用ですね、なるほど。」
寝言を言う浦原を置いておいて、枕をひとつ抱えて横になる。
昼寝で添い寝だなんて、白昼堂々と恥ずかしい。勘弁して欲しい。
「なんかこのお布団、久しぶりですね」
「ちゃんと干してたんっスよ。いつでも帰って来るように」
「…ありがとうございます」
少し照れくさくなって、布団に潜りながら礼を言う名無し。
何だかその姿が愛らしくて、浦原はそっと頭を撫でた。
「夕方になったら起こしますから、とりあえずゆっくり休んでください」
おやすみなさい。
肩まで優しく布団を掛けなおされる。
秋の涼しい風が、部屋を通り抜けた。
***
「またここかぁ」
空を見上げると満天の星。
以前、一ツ目が『私の心の中の世界』と呼んでいた場所だ。
何も無かった草原には白い小さな花が咲き誇り、まるで花畑のようだった。
『遅い。』
不機嫌そうな声。
振り向けば、モヤのかかった姿。
もはや脚の形すらしていない。けれど気配は一ツ目そのものだった。
「ごめんごめん。忙しくって」
『…知っている。また無茶をしたのか』
「時短と言ってほしいね。…もう姿形も足じゃないんですね」
『生憎、魂はお前と余が混ぜ合わさったからな、このような姿に生まれ変わったらしい』
新しい霊王の楔は、滅却師の長の遺体だと聞いた。
少し憐れな気もするが、必要なものならば。と割り切るしかない。
ということは、一ツ目は旧霊王になるわけで、もう霊王ではないから右足の形を…
「…なんかよくわからなくなってきたけど、『霊王の右足』って肩書きじゃなくなった、って感じ?」
『そんなところだ』
「そうだね、妙なしがらみがなくなって良かったんじゃないの?」
『…本来、斬魄刀は名前を持っているものだが、生憎、余は元が名無しだからな。改めて名付けを頼むぞ』
「よし来た。じゃあ黒マリモ」
『言っておくがまともな名前で頼むぞ。一ツ目の名は、当時かなり妥協したのだ』
「……」
まともな名前って言われても。
「じゃあモヤリン」
『ダサい』
「真っ黒くろ●け」
『各所からバッシング受けるぞ』
「元・霊王」
『そのままではないか。真面目に考えているのか!?まさかお主、ネーミングセンスゼロか。一ツ目が一番マシだぞ!』
「ちょっと待って、これ一ツ目がOK出さないと一生斬魄刀が浅打なんじゃ」
『そうなるな』
「うわ、それは困る」
ウンウン唸って考える名無し。
しかし口からボソボソ出てくる候補も、先程と大して変わらないものばかりだ。
…まさかここに来て、彼女のネーミングセンスのダサさが最大のネックになるとは。
ほかの斬魄刀のように名前があれば良かったのだろうが、幸か不幸か再びこの宿主なのだから諦めるしかない。
「っだー!名付けって何でこんなに難しいの!?」
『センスの問題だな』
「くっそぅ…言い返せない…」
やけくそ気味に地面へ寝転んで星空を見上げる。
秋から冬にかけて、星空は良く見える。そう祖父が言っていた。
その中でも、一等明るく見える星が祖父の店の名前の由来だと教えてくれたのを思い出した。
「…【天狼】」
ポツリと名無しが呟く。
「これならいいでしょ。おじいちゃんの小料理屋の名前。あの一番明るい星の名前よ」
寝返りをうち、黒いモヤに手を伸ばす。
可も不可とも返事がない。
「…ダメ?」
『思い入れがある名前だろう。いいのか?』
「思い入れがあるからこそ、よ」
名無しがそう笑うと『そうか』と満足そうに呟く。
『【天狼】か。悪くない名前だ』
「カッコイイ名前を星につけてくれた、昔の人に感謝ね」
『全くだ』
そう言いながら、黒いモヤは形を作っていく。
黒い影はみるみると獣の姿になり、それは一匹の狼の姿を象る。
青みがかった銀色の毛並みは、それはとても凛々しく芸術的だった。
隻眼の獣。この姿でも眼はひとつなのか、と思ったが、あえて口に出さなかった。
それすらも、
「…カッコイイ」
『お前のネーミングセンスよりはよっぽどいいだろう』
「うん。」
手を伸ばせば、ふわふわとした毛並み。
秋田犬のようにしっかりとした体つきで、逞しい。
斬魄刀ということも忘れ、ただひたすらに撫で回す。
『触りすぎだ』
「いや、だって可愛…かっこいいんだもん」
本音が漏れている。
満足そうにモフモフする名無しに対し、痺れを切らして一ツ目――いや、天狼が吼える。
『いい加減目を覚まして、余を呼ばぬか!』
***
ガバッと起き上がる名無し。
それは半年ほど前まで見慣れていた部屋。
枕元に置いていた斬魄刀を掴んで、玄関の方へ走る。
「おや、名無しサン。起きたんっスか?」
「はい!浦原さん、勉強部屋借りますね!」
いそいそと畳を外せば、少しだけホコリが立ち上る。
暫く使う機会もなかったのだろう。平和なのはいい事だ。
穴蔵へ一気に飛び降りる名無し。
それを追いかけるように浦原もついて行った。
左手で鞘を持ち、柄をしっかり右手で掴む。
さぁ、名前を吼えろ。
「遠来瞬け『天狼』!」
鞘から斬魄刀を抜けば、溢れる霊圧。
知っている。
この霊圧は、彼のものだ。
(お前に、返そう。その体の器であれば、十分使えるだろう)
声が、聞こえた。
蒼光りする光に思わず眼を閉じる名無し。
恐る恐る瞼を開けば、掴んでいた己の斬魄刀は、何の変哲もない浅打ではなくなっていた。
蒼く、鈍く光る銀色の刃。
柄には狼の尾のような柔らかい飾り房。
鍔は花の意匠が彫られていた。これは、
(…アネモネ?)
日本刀に少しミスマッチのような気もするが、自然としっくりくる彫り物だった。
(お前の、不屈の象徴だからな。悪くないだろう)
天狼の声が、聞こえる。
「…悪くないね。」
ひと振り振るえば、空間が裂ける。
馴染みのある感覚だった。
そうだ。これが、私と彼のカタチだ。
「いやぁ、お見事。ちゃんと名前、決まったんっスね」
「浦原さん。」
後ろでパチパチと手を叩く浦原。
その表情は酷く嬉しそうだった。
「…ありがとうございます」
「初・始解に立ち会えて光栄っスよ」
「それはよかった」
そっと天狼を鞘に仕舞う。
チン、と鳴る涼やかな音も、心做しか軽やかだった。
「ちなみに名前、黒マリモは即行却下されました」
「なんでそういうなまえが出てくるんっスか?」