for promise
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手が届かないのは、言葉が出ない程に歯痒くて。
for promise#28
can't fear your own world-10
「あれ?姉様大丈夫ですか!」
巳己巳己巴の頭頂部に乗ったまま産絹彦禰が快活に声を上げた。
切り落とした虚の腕は、細胞分裂するようにボコボコと音を立てながら元に戻っている。
口の中が鉄の味でいっぱいだ。
霊印が刻まれた胸が痛い。
これが霊圧を抑制する限定霊印が刻まれた状態で、無理に霊圧を上げるペナルティ…といったところか。
(だから何。)
死覇装の袖で口元を雑に拭えば鮮やかな緋色に染まる。
「瞬け、天狼!」
斬魄刀で宙を凪げば、蒼炎の刃が虚へ真っ直ぐ飛び火する。
堂々たる風格の虚――いや、斬魄刀というべきなのか。
巳己巳己巴は、運良く動きが鈍い。
だからといってそれを補うものは有り余る。
怪物のような形状をしていた巳己巳己巴は、手足を畳み球状に変化する。
…まるで、繭だ。
巨大な球体の周囲から霧が噴出し、その中から翼を持った中級大虚が無数現れた。
巳己巳己巴と比べたら小さいように見えるが、それは『比べたら』の話である。
大きさにバラつきはあるものの、それは大きいと揶揄してもいい虚だった。
(まるで空母…いや、要塞みたいだ)
正攻法ではキリがないだろう。
巳己巳己巴に近づくにも中級大虚を撃ち落とすのに正直手がいっぱいだ。
「こ、の、邪魔よ!」
斬魄刀を地面に突き立て霊圧を込めれば、青い猛火が轟轟と熱量のある音を立てる。
本来滅却師が扱うはずの、霊子を凝縮した炎は虚にとって毒だ。
これなら、間合いを取れる。
「千手の涯、届かざる闇の御手。
映らざる天の射手、光を落とす道。
火種を煽る風、集いて惑うな我が指を見よ」
キリキリと悲鳴を上げる、霊力で作られた光の矢。
乾いた地面にを踏みしめ、こちらへ向かってくる中級大虚に向けて掌を掲げる。
手首から血管が爆ぜる嫌な音と、思わず奥歯を噛み締める程の激痛が腕全体にはしる。
死神の手首にある霊圧の排出口が、耐え切れず裂けたのだろう。
しかし、腕へ生暖かい血が伝おうと、詠唱は止まらない。
「光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔。
弓引く彼方、皎皎として消ゆ」
虚の数と同じか、それよりも多い。
無数の光は照準を定めるように虚の脳天を狙う。
「破道の九十一『千手皎天汰炮』!」
これは、光の雨だ。
無慈悲な閃光が中級大虚の仮面を砕く度に、陶器の壺を叩き割るような悲鳴が鳴り響く。
墜落していく虚を足場に、名無しは巳己巳己巴の上に鎮座する彦禰へ向かっていく。
仕留めるなら今だ。
壁になっていた中級大虚は、今や空の藻屑と化している。
「――卍解、」
込み上げる激痛と、喀血。
吐瀉物のように喉の奥から迫り出した鮮血が、呼吸すら呑み込んだ。
血にまみれた両手首と、決壊したダムのように口から溢れる赤。
焼き鏝で焼かれたように、限定霊印を施された胸が 痛い。
チカチカと白黒に弾ける視界。
残念そうに眉を寄せる彦禰が遠くに見える。
身体の筋肉という筋肉が弛緩し、霊力という霊力が抜けていく。
無様に崩れる身体を抱えたのは、白い隊首羽織の男。
「アホ!霊印アリでここまで霊圧本気で上げるヤツがおるか!」
いや、おるわ、ここに大アホがおるわ。
あぁ。これ喜助のヤツが知ったら俺とマユリぶっ殺されるわ…。
怒っているような、呆れたような、少し怯えているような。
一人百面相をしている平子が、水彩で滲んだような視界に映った。
「姉様、もしかして本気出せていなかったんですか?それは残念です!」
にこにこと無邪気に笑いながら残念がる彦禰の言葉には、裏がない。
しかし張り付いたような笑顔が崩されることはなく、どれが本心なのか推し量ることは難儀であった。
これには平子も嫌な汗が一筋流れる。
何せ目の前の子供は『底が見えない』からだ。
「――あ、」
彦禰が不意に声を上げ、懐から一枚の札のようなものを取り出した。
ぼんやりと仄赤く光るそれは、まるでアラートのようだった。
「『巳己巳己巴』!時灘様が『あちら』からお呼びのようです!すぐに向かいましょう!」
雄叫びから黙々と、そして粛々と戦闘を続けていた巳己巳己巴が、奥底から響くような低い声を唸らせた。
『アヤツノ安否ナド知ッタコトデハナイ……ダガ、今ハ従ッテヤロウ』
同時に霧が晴れ、残骸となっていた虚が巳己巳己巴の口へと集まり、自ら『喰われる』ように元の主の元へと戻っていった。
「テメェ、逃げる気か!」
「はい!逃げます!」
次は俺の番だと言わんばかりに、グリムジョーが斬魄刀の柄に手を掛ける。
しかし彦禰はまるで悪びれる様子が欠片もないように、無邪気にただ笑う。
「姉様も折角『頑張って』くださったのに申し訳ありません!
自分は時灘様の『本殿』に向かいますので、まだ自分が王になる事が納得いかないという方がいらっしゃっるなら、そちらで納得されるまで戦わせて頂きます!」
霞む視界。
文句のひとつ吐き捨ててやりたくとも、喉の奥からはヒューヒューと漏れる息と、ゴボリと溢れてくる血だけだ。
斬魄刀を握っていない左腕を馬鹿丁寧に頭を下げる子供へ向けるが、勿論届くはずもない。
動脈まで爆ぜた腕からは、血溜まりが出来るほどの赤が白い腕に伝っては落ちた。
届かない。
逃げられてしまう。
大切なひとに手を出した奴の、手掛かりをみすみすと逃してしまう。
動け動けと念じる心は折れていなくとも、『封』を破ったカウンターでボロボロになった肉体は正直だった。
「それでは、失礼しますね!」
感情を感じさせない瞳に、無邪気な笑顔を張り付け、産絹彦禰は虚空へ消えた。
声にならぬ叫びを喉の奥に押し留め、名無しは霞む視線で宙を睨んだ。
for promise#28
can't fear your own world-10
「あれ?姉様大丈夫ですか!」
巳己巳己巴の頭頂部に乗ったまま産絹彦禰が快活に声を上げた。
切り落とした虚の腕は、細胞分裂するようにボコボコと音を立てながら元に戻っている。
口の中が鉄の味でいっぱいだ。
霊印が刻まれた胸が痛い。
これが霊圧を抑制する限定霊印が刻まれた状態で、無理に霊圧を上げるペナルティ…といったところか。
(だから何。)
死覇装の袖で口元を雑に拭えば鮮やかな緋色に染まる。
「瞬け、天狼!」
斬魄刀で宙を凪げば、蒼炎の刃が虚へ真っ直ぐ飛び火する。
堂々たる風格の虚――いや、斬魄刀というべきなのか。
巳己巳己巴は、運良く動きが鈍い。
だからといってそれを補うものは有り余る。
怪物のような形状をしていた巳己巳己巴は、手足を畳み球状に変化する。
…まるで、繭だ。
巨大な球体の周囲から霧が噴出し、その中から翼を持った中級大虚が無数現れた。
巳己巳己巴と比べたら小さいように見えるが、それは『比べたら』の話である。
大きさにバラつきはあるものの、それは大きいと揶揄してもいい虚だった。
(まるで空母…いや、要塞みたいだ)
正攻法ではキリがないだろう。
巳己巳己巴に近づくにも中級大虚を撃ち落とすのに正直手がいっぱいだ。
「こ、の、邪魔よ!」
斬魄刀を地面に突き立て霊圧を込めれば、青い猛火が轟轟と熱量のある音を立てる。
本来滅却師が扱うはずの、霊子を凝縮した炎は虚にとって毒だ。
これなら、間合いを取れる。
「千手の涯、届かざる闇の御手。
映らざる天の射手、光を落とす道。
火種を煽る風、集いて惑うな我が指を見よ」
キリキリと悲鳴を上げる、霊力で作られた光の矢。
乾いた地面にを踏みしめ、こちらへ向かってくる中級大虚に向けて掌を掲げる。
手首から血管が爆ぜる嫌な音と、思わず奥歯を噛み締める程の激痛が腕全体にはしる。
死神の手首にある霊圧の排出口が、耐え切れず裂けたのだろう。
しかし、腕へ生暖かい血が伝おうと、詠唱は止まらない。
「光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔。
弓引く彼方、皎皎として消ゆ」
虚の数と同じか、それよりも多い。
無数の光は照準を定めるように虚の脳天を狙う。
「破道の九十一『千手皎天汰炮』!」
これは、光の雨だ。
無慈悲な閃光が中級大虚の仮面を砕く度に、陶器の壺を叩き割るような悲鳴が鳴り響く。
墜落していく虚を足場に、名無しは巳己巳己巴の上に鎮座する彦禰へ向かっていく。
仕留めるなら今だ。
壁になっていた中級大虚は、今や空の藻屑と化している。
「――卍解、」
込み上げる激痛と、喀血。
吐瀉物のように喉の奥から迫り出した鮮血が、呼吸すら呑み込んだ。
血にまみれた両手首と、決壊したダムのように口から溢れる赤。
焼き鏝で焼かれたように、限定霊印を施された胸が 痛い。
チカチカと白黒に弾ける視界。
残念そうに眉を寄せる彦禰が遠くに見える。
身体の筋肉という筋肉が弛緩し、霊力という霊力が抜けていく。
無様に崩れる身体を抱えたのは、白い隊首羽織の男。
「アホ!霊印アリでここまで霊圧本気で上げるヤツがおるか!」
いや、おるわ、ここに大アホがおるわ。
あぁ。これ喜助のヤツが知ったら俺とマユリぶっ殺されるわ…。
怒っているような、呆れたような、少し怯えているような。
一人百面相をしている平子が、水彩で滲んだような視界に映った。
「姉様、もしかして本気出せていなかったんですか?それは残念です!」
にこにこと無邪気に笑いながら残念がる彦禰の言葉には、裏がない。
しかし張り付いたような笑顔が崩されることはなく、どれが本心なのか推し量ることは難儀であった。
これには平子も嫌な汗が一筋流れる。
何せ目の前の子供は『底が見えない』からだ。
「――あ、」
彦禰が不意に声を上げ、懐から一枚の札のようなものを取り出した。
ぼんやりと仄赤く光るそれは、まるでアラートのようだった。
「『巳己巳己巴』!時灘様が『あちら』からお呼びのようです!すぐに向かいましょう!」
雄叫びから黙々と、そして粛々と戦闘を続けていた巳己巳己巴が、奥底から響くような低い声を唸らせた。
『アヤツノ安否ナド知ッタコトデハナイ……ダガ、今ハ従ッテヤロウ』
同時に霧が晴れ、残骸となっていた虚が巳己巳己巴の口へと集まり、自ら『喰われる』ように元の主の元へと戻っていった。
「テメェ、逃げる気か!」
「はい!逃げます!」
次は俺の番だと言わんばかりに、グリムジョーが斬魄刀の柄に手を掛ける。
しかし彦禰はまるで悪びれる様子が欠片もないように、無邪気にただ笑う。
「姉様も折角『頑張って』くださったのに申し訳ありません!
自分は時灘様の『本殿』に向かいますので、まだ自分が王になる事が納得いかないという方がいらっしゃっるなら、そちらで納得されるまで戦わせて頂きます!」
霞む視界。
文句のひとつ吐き捨ててやりたくとも、喉の奥からはヒューヒューと漏れる息と、ゴボリと溢れてくる血だけだ。
斬魄刀を握っていない左腕を馬鹿丁寧に頭を下げる子供へ向けるが、勿論届くはずもない。
動脈まで爆ぜた腕からは、血溜まりが出来るほどの赤が白い腕に伝っては落ちた。
届かない。
逃げられてしまう。
大切なひとに手を出した奴の、手掛かりをみすみすと逃してしまう。
動け動けと念じる心は折れていなくとも、『封』を破ったカウンターでボロボロになった肉体は正直だった。
「それでは、失礼しますね!」
感情を感じさせない瞳に、無邪気な笑顔を張り付け、産絹彦禰は虚空へ消えた。
声にならぬ叫びを喉の奥に押し留め、名無しは霞む視線で宙を睨んだ。
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