for promise
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それは轟音だった。
内臓や骨に直接響くような重低音。
「―― ―――― ― ――――!!」
産絹彦禰の斬魄刀、『巳己巳己巴』は天を見上げるような大きさに変化し、頭頂部に彦禰を乗せたまま怒号のような雄叫びを上げる。
それは言葉にならぬ叫び声。
音と霊圧で周囲を圧倒し、空気を震わせ風を呼ぶ。
「さぁ、姉様!巳己巳己巴とどちらが強いか、腕比べしましょう!」
無邪気な子供の声が、高らかに響いた。
for promise#27
can't fear your own world-09
――名無しの太刀筋は、平子は何度か目にしたことがある。
オフの日に現世へ赴いた時、ついでとばかり浦原商店に顔を出したことがあった。
店番をしていた鉄裁に案内されたのは、作った人間の品性を疑うレベルの、広い広い地下室…いや、地下空洞というべきか。
鳴り響く剣戟。
房のような飾りがついた直刀を振るう男と、青光りする刃を握りしめ間合いを詰める少女の姿。
浦原は汗ひとつかいていない。
代わりに名無しの額からは玉のような汗が一筋伝い、頬を撫でた。
インテリで、科学者で、前線を退いて数百年。
しかし浦原の斬拳走鬼は全くと言っていい程、衰えていない。
流石は護廷十三隊の元・十二番隊隊長といったところか。
そんな彼に何とか食らいついている名無しも中々だ。
荒削りではあるが悪くない。むしろ刀を握って半年でこれならば上出来だろう。
彼女の本領発揮は鬼道にあるのだろうが、真央霊術院の剣術の成績も良かったと聞いている。
それは恐らく隊長格達の剣術を見て、学び、覚えて自分の技術に落とし込んだ結果だろう。
筋力があまりない代わりに、力の乗せ方が無駄のない太刀筋をしている。
流麗といった表現が良く似合う剣術だった。
――しかし、今はどうだ。
(あれは相当アタマにキとるな)
遠目から見ただけでも分かる。
斬魄刀を握りしめる手の甲には痛々しい程に力が込められている。
細い筋が薄い皮膚に生々しく浮かんでいた。
瞬きすら忘れ、目の前の子供と虚を射殺すような視線は、平子ですら背筋が寒くなるものだった。
(それも当然やな)
彼女の、唯一の――何物にも代えられない『宝』へ彼らは手を出したのだ。
喉元を食いちぎられても文句は言えない。
だが、
(限定霊印のせいか。霊圧が思ったより上がっとらん)
生身の人間だった頃の方が恐ろしかった。
浦原が付けた『首輪』があったにせよ、それでも彼女の霊圧は重たかった。
それを省みて――少なく見積って九割カット。下手をするとあの和尚のことだ、更に削っているかもしれない。
ほぼ虫の息のような霊力に制限されているというのに、
「破道の九十『黒棺』!」
「あぁ!酷いです姉様!巳己巳己巴の腕が取れたじゃないですか!」
それでも。
(詠唱破棄の九十番台鬼道。そりゃ四六時中制限もかけられるわ)
零番隊の処置は理不尽に思うと同時に、彼女の動きを見れば妥当だと感じてしまう冷酷な自分もいる。
通常の死神は鬼道の九十番台の詠唱破棄などほぼ不可能に近い。
それこそ熟練された鬼道の技術を持つ浦原や鉄裁、有昭田鉢玄…仮面の軍勢にいた『ハッチ』なら可能だ。
もしくは化け物じみた霊圧の持ち主も出来る芸当である。
名無しは間違いなく、後者だ。
更に技術の精度も日々上がっているのだから、下手をすると藍染以上の驚異になる可能性もある。
しかし今は無理やり霊圧を上げて放っているのだろう。
例えるなら――少ししか捻っていない蛇口に、ダムの放水のような水圧を無理矢理かけるとする。
ちょろちょろと出ていた水は、勢いよく出るかもしれない。
しかし蛇口はどうなる?
――答えは簡単。
「――ッ!」
ゴボッと生々しい濡れた音が、距離をとっている平子にも聞こえてきそうだった。
喀血した血が、死覇装の黒に吸い込まれるようにじわりと広がる。
(蛇口は、壊れる)
内臓や骨に直接響くような重低音。
「―― ―――― ― ――――!!」
産絹彦禰の斬魄刀、『巳己巳己巴』は天を見上げるような大きさに変化し、頭頂部に彦禰を乗せたまま怒号のような雄叫びを上げる。
それは言葉にならぬ叫び声。
音と霊圧で周囲を圧倒し、空気を震わせ風を呼ぶ。
「さぁ、姉様!巳己巳己巴とどちらが強いか、腕比べしましょう!」
無邪気な子供の声が、高らかに響いた。
for promise#27
can't fear your own world-09
――名無しの太刀筋は、平子は何度か目にしたことがある。
オフの日に現世へ赴いた時、ついでとばかり浦原商店に顔を出したことがあった。
店番をしていた鉄裁に案内されたのは、作った人間の品性を疑うレベルの、広い広い地下室…いや、地下空洞というべきか。
鳴り響く剣戟。
房のような飾りがついた直刀を振るう男と、青光りする刃を握りしめ間合いを詰める少女の姿。
浦原は汗ひとつかいていない。
代わりに名無しの額からは玉のような汗が一筋伝い、頬を撫でた。
インテリで、科学者で、前線を退いて数百年。
しかし浦原の斬拳走鬼は全くと言っていい程、衰えていない。
流石は護廷十三隊の元・十二番隊隊長といったところか。
そんな彼に何とか食らいついている名無しも中々だ。
荒削りではあるが悪くない。むしろ刀を握って半年でこれならば上出来だろう。
彼女の本領発揮は鬼道にあるのだろうが、真央霊術院の剣術の成績も良かったと聞いている。
それは恐らく隊長格達の剣術を見て、学び、覚えて自分の技術に落とし込んだ結果だろう。
筋力があまりない代わりに、力の乗せ方が無駄のない太刀筋をしている。
流麗といった表現が良く似合う剣術だった。
――しかし、今はどうだ。
(あれは相当アタマにキとるな)
遠目から見ただけでも分かる。
斬魄刀を握りしめる手の甲には痛々しい程に力が込められている。
細い筋が薄い皮膚に生々しく浮かんでいた。
瞬きすら忘れ、目の前の子供と虚を射殺すような視線は、平子ですら背筋が寒くなるものだった。
(それも当然やな)
彼女の、唯一の――何物にも代えられない『宝』へ彼らは手を出したのだ。
喉元を食いちぎられても文句は言えない。
だが、
(限定霊印のせいか。霊圧が思ったより上がっとらん)
生身の人間だった頃の方が恐ろしかった。
浦原が付けた『首輪』があったにせよ、それでも彼女の霊圧は重たかった。
それを省みて――少なく見積って九割カット。下手をするとあの和尚のことだ、更に削っているかもしれない。
ほぼ虫の息のような霊力に制限されているというのに、
「破道の九十『黒棺』!」
「あぁ!酷いです姉様!巳己巳己巴の腕が取れたじゃないですか!」
それでも。
(詠唱破棄の九十番台鬼道。そりゃ四六時中制限もかけられるわ)
零番隊の処置は理不尽に思うと同時に、彼女の動きを見れば妥当だと感じてしまう冷酷な自分もいる。
通常の死神は鬼道の九十番台の詠唱破棄などほぼ不可能に近い。
それこそ熟練された鬼道の技術を持つ浦原や鉄裁、有昭田鉢玄…仮面の軍勢にいた『ハッチ』なら可能だ。
もしくは化け物じみた霊圧の持ち主も出来る芸当である。
名無しは間違いなく、後者だ。
更に技術の精度も日々上がっているのだから、下手をすると藍染以上の驚異になる可能性もある。
しかし今は無理やり霊圧を上げて放っているのだろう。
例えるなら――少ししか捻っていない蛇口に、ダムの放水のような水圧を無理矢理かけるとする。
ちょろちょろと出ていた水は、勢いよく出るかもしれない。
しかし蛇口はどうなる?
――答えは簡単。
「――ッ!」
ゴボッと生々しい濡れた音が、距離をとっている平子にも聞こえてきそうだった。
喀血した血が、死覇装の黒に吸い込まれるようにじわりと広がる。
(蛇口は、壊れる)