for promise
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あの日からしばらく、口をきいていない。
正しくは、視線が合うだけでも顔を真っ赤にさせて目を逸らされてしまう。
そんな姿も可愛いと思うのだけど、これは参った。
「さぁ、どうするっスかねぇ」
for promise#12
「凄い顔をしておるぞ、名無し」
尸魂界への定期報告。
十二番隊の詰所で時間を潰していると、噂を聞きつけた夜一がやってきた。
目の前の椅子に座り「何かあったのか?」とご機嫌な笑顔で聞いてくるあたり、悪気がないのか、それとも『面白そうなこと』と認識されているのか。
「まぁ、その、少し。」
歯切れの悪い返事を返せば、ケタケタと笑う彼女。
弓なりに細められた金色の瞳が、楽しそうにこちらを見てくる。
「どうせ喜助に接吻でもされたのじゃろう」
その一言に、ベタな反応かもしれないが椅子から落ちそうになった。
「なっ、なななな!え、エスパーですか!?」
「なんじゃ、図星か。」
……カマをかけたのか!
深くなる意地の悪い笑み。
そうだ、彼女は浦原と旧知の仲だ。
そういう人が悪いところもよく似ている。全く褒められたことではないのだけど。
小さくため息をついて椅子に座り直す名無し。
観念したように腕を投げ出して、ボソリボソリと呟いた。
「だって、その、初めてだったんですよ。そんな、だって、あんなにあっさり」
「おぬし、そういうところはしっかり女子じゃの」
そう言ってからかえば「だって。」と珍しく不満げに口篭る名無し。
まぁ年端もいかぬ、夜一から見ればまだまだ子供の彼女だ。
そう思うのも無理はない話だ。
(多分寝とる間にちょっかい出しておるのは……気づいとらんのぅ)
彼女は恐らく『初めて』と言っていたが、まぁそんなことはないだろう。
むしろ堪え性のない浦原がここまで大事にしていることが、夜一としては驚きだった。
「嫌なら喜助なぞぶん殴ってしまえばよかろう」
「い、嫌というわけじゃ…」
ないんですけど、
尻すぼみになる言葉尻。
あぁでもない・こうでもない、と頭を抱えながら言葉を選ぶ名無しは、夜一から見て微笑ましい光景だった。
自分の事となると俄然不器用になってしまう彼女らしい。
「では好いておるなら、接吻のひとつふたつ仕返してやればよかろう」
「そういう問題じゃない気がするんですけど。」
真っ赤な顔でじとりと夜一を見遣る名無し。
「まぁそんな顔をするな」とカラカラと笑う夜一に悪びれた様子は一切ない。
そんな気紛れな彼女を見て、名無しは小さく溜息をついた。
「そんな尻込みする程のことでもなかろう?」
「そうかもしれませんが……その、今の家族みたいな関係が崩れてしまうのが怖くて」
自分で用意した茶を一口飲んで、ポツリポツリと名無しが呟く。
上手く表現出来ない靄を吐き出すように、丁寧に言葉を選びながら。
「もし嫌われたら・って思うと、足が竦むんです。今の『家族』ですらなくなるかもしれない。それだったら曖昧な、今の関係がいいんです」
仮に、夜一と浦原が恋仲になったとしよう。
それが破綻したとしよう。
元の幼馴染としての関係も、もしかしたら瓦解するかもしれない。
つまりそういうことだ。
それが『家族』のような関係であるなら尚更。
彼女には――名無しには、この世界では身寄りがない。
今はそんなものがなくともひとりで生きて行こうと思えば生きていけるだろう。彼女ももう立派な『死神』なのだから。
しかし、人間というものは強欲な生き物で、一度手に入れてしまったものを失くしてしまうと、ぽっかりと心に穴が空くのだ。
埋めることが難しい、空虚感に苛まれる喪失という『穴』が。
一度それを味わうと今度は失くすことを恐れる。故に人は臆病になる。
それは例えば、地位や名声・友・恋人・大切なもの。挙げだしたらキリがない。
それがたまたま名無しは『家族』だったというだけだ。
生まれも形も血筋も違う、『浦原商店』が擬似的な家族だったとしても、それは彼女にとってかけがえのない帰る場所なのだから。
家族に棄てられ、家族を二度喪くした彼女が、一歩踏み出せないのは当然の事と言えば当然の事だった。
「臆病じゃの」
「まぁ、家族には振り回されてきましたから」
家族だからといって無償の愛が永遠に続くとは限らない。それは身をもって知っている。
恋人なら、尚更だろう。
心を自己防衛できる最終防衛ラインがここだ。
まだ幼く柔らかかった心が、何度も何度も壊されて、何度も何度も踏み荒らされてぐしゃぐしゃになった。
そこから立ち直るのは正直、難しい。なんなら今だって思い出せば身が竦む。
自分でも笑ってしまう程に臆病なのだ。
だからせめて、幻滅されないように、離れてしまわないように。
「その、好きだから、怖いんです」
困ったようにはにかむ名無しを見て、夜一は笑う。
それはとてもとても、美しく、悪い笑みで。
「だ、そうじゃ。喜助。」
頬杖をついて名無しの後ろへ視線を向ける夜一。
ぎこちなく名無しが後ろを振り向けば、これまた見たことがない程に顔を真っ赤にした浦原が立っていた。
「えぇっと、名無しサン、」
「う………………」
「う?」
「う、うわぁぁあぁあぁ!」
火を噴くのではないのか・と錯覚する程に顔を赤らめる名無し。
十二番隊の詰所の窓を思い切り開けると、そこから脱兎の如く逃げ出した。
「ちょ、ちょっと、名無しサン!」
開け放たれた窓から慌てて追いかける浦原。
見えていないだろうが、夜一はその背中に向けてヒラヒラと手を振った。
まるで『あとは上手くやれ』と言わんばかりに。
「なんだネ、逃げたのか」
首をぽりぽりと掻きながら、のんびりとした足取りでやってくるマユリ。
彼の手元には本日名無しが提出した報告書が握られている。
どうやら不備などはなかったようだ。
「104年前と何ら変わってない連中だ。呆れるヨ」
「さて、それはどうじゃろうなぁ?」
ふん、と鼻を鳴らしてマユリが壁に凭れ掛かる。
思い出すのは昔の光景。
尸魂界に来て日が浅い名無しと、当時十二番隊隊長だった浦原。
怒った名無しが飛び出して、慌てて追いかけていったのも浦原だった。
「マ。私には関係ない事だがネ」
呆れたように肩を竦めて技術開発局へ戻っていくマユリの背中を見ながら「やれやれ、心配して見に来たくせに」と夜一が茶を啜り、小さく呟いた。
正しくは、視線が合うだけでも顔を真っ赤にさせて目を逸らされてしまう。
そんな姿も可愛いと思うのだけど、これは参った。
「さぁ、どうするっスかねぇ」
for promise#12
「凄い顔をしておるぞ、名無し」
尸魂界への定期報告。
十二番隊の詰所で時間を潰していると、噂を聞きつけた夜一がやってきた。
目の前の椅子に座り「何かあったのか?」とご機嫌な笑顔で聞いてくるあたり、悪気がないのか、それとも『面白そうなこと』と認識されているのか。
「まぁ、その、少し。」
歯切れの悪い返事を返せば、ケタケタと笑う彼女。
弓なりに細められた金色の瞳が、楽しそうにこちらを見てくる。
「どうせ喜助に接吻でもされたのじゃろう」
その一言に、ベタな反応かもしれないが椅子から落ちそうになった。
「なっ、なななな!え、エスパーですか!?」
「なんじゃ、図星か。」
……カマをかけたのか!
深くなる意地の悪い笑み。
そうだ、彼女は浦原と旧知の仲だ。
そういう人が悪いところもよく似ている。全く褒められたことではないのだけど。
小さくため息をついて椅子に座り直す名無し。
観念したように腕を投げ出して、ボソリボソリと呟いた。
「だって、その、初めてだったんですよ。そんな、だって、あんなにあっさり」
「おぬし、そういうところはしっかり女子じゃの」
そう言ってからかえば「だって。」と珍しく不満げに口篭る名無し。
まぁ年端もいかぬ、夜一から見ればまだまだ子供の彼女だ。
そう思うのも無理はない話だ。
(多分寝とる間にちょっかい出しておるのは……気づいとらんのぅ)
彼女は恐らく『初めて』と言っていたが、まぁそんなことはないだろう。
むしろ堪え性のない浦原がここまで大事にしていることが、夜一としては驚きだった。
「嫌なら喜助なぞぶん殴ってしまえばよかろう」
「い、嫌というわけじゃ…」
ないんですけど、
尻すぼみになる言葉尻。
あぁでもない・こうでもない、と頭を抱えながら言葉を選ぶ名無しは、夜一から見て微笑ましい光景だった。
自分の事となると俄然不器用になってしまう彼女らしい。
「では好いておるなら、接吻のひとつふたつ仕返してやればよかろう」
「そういう問題じゃない気がするんですけど。」
真っ赤な顔でじとりと夜一を見遣る名無し。
「まぁそんな顔をするな」とカラカラと笑う夜一に悪びれた様子は一切ない。
そんな気紛れな彼女を見て、名無しは小さく溜息をついた。
「そんな尻込みする程のことでもなかろう?」
「そうかもしれませんが……その、今の家族みたいな関係が崩れてしまうのが怖くて」
自分で用意した茶を一口飲んで、ポツリポツリと名無しが呟く。
上手く表現出来ない靄を吐き出すように、丁寧に言葉を選びながら。
「もし嫌われたら・って思うと、足が竦むんです。今の『家族』ですらなくなるかもしれない。それだったら曖昧な、今の関係がいいんです」
仮に、夜一と浦原が恋仲になったとしよう。
それが破綻したとしよう。
元の幼馴染としての関係も、もしかしたら瓦解するかもしれない。
つまりそういうことだ。
それが『家族』のような関係であるなら尚更。
彼女には――名無しには、この世界では身寄りがない。
今はそんなものがなくともひとりで生きて行こうと思えば生きていけるだろう。彼女ももう立派な『死神』なのだから。
しかし、人間というものは強欲な生き物で、一度手に入れてしまったものを失くしてしまうと、ぽっかりと心に穴が空くのだ。
埋めることが難しい、空虚感に苛まれる喪失という『穴』が。
一度それを味わうと今度は失くすことを恐れる。故に人は臆病になる。
それは例えば、地位や名声・友・恋人・大切なもの。挙げだしたらキリがない。
それがたまたま名無しは『家族』だったというだけだ。
生まれも形も血筋も違う、『浦原商店』が擬似的な家族だったとしても、それは彼女にとってかけがえのない帰る場所なのだから。
家族に棄てられ、家族を二度喪くした彼女が、一歩踏み出せないのは当然の事と言えば当然の事だった。
「臆病じゃの」
「まぁ、家族には振り回されてきましたから」
家族だからといって無償の愛が永遠に続くとは限らない。それは身をもって知っている。
恋人なら、尚更だろう。
心を自己防衛できる最終防衛ラインがここだ。
まだ幼く柔らかかった心が、何度も何度も壊されて、何度も何度も踏み荒らされてぐしゃぐしゃになった。
そこから立ち直るのは正直、難しい。なんなら今だって思い出せば身が竦む。
自分でも笑ってしまう程に臆病なのだ。
だからせめて、幻滅されないように、離れてしまわないように。
「その、好きだから、怖いんです」
困ったようにはにかむ名無しを見て、夜一は笑う。
それはとてもとても、美しく、悪い笑みで。
「だ、そうじゃ。喜助。」
頬杖をついて名無しの後ろへ視線を向ける夜一。
ぎこちなく名無しが後ろを振り向けば、これまた見たことがない程に顔を真っ赤にした浦原が立っていた。
「えぇっと、名無しサン、」
「う………………」
「う?」
「う、うわぁぁあぁあぁ!」
火を噴くのではないのか・と錯覚する程に顔を赤らめる名無し。
十二番隊の詰所の窓を思い切り開けると、そこから脱兎の如く逃げ出した。
「ちょ、ちょっと、名無しサン!」
開け放たれた窓から慌てて追いかける浦原。
見えていないだろうが、夜一はその背中に向けてヒラヒラと手を振った。
まるで『あとは上手くやれ』と言わんばかりに。
「なんだネ、逃げたのか」
首をぽりぽりと掻きながら、のんびりとした足取りでやってくるマユリ。
彼の手元には本日名無しが提出した報告書が握られている。
どうやら不備などはなかったようだ。
「104年前と何ら変わってない連中だ。呆れるヨ」
「さて、それはどうじゃろうなぁ?」
ふん、と鼻を鳴らしてマユリが壁に凭れ掛かる。
思い出すのは昔の光景。
尸魂界に来て日が浅い名無しと、当時十二番隊隊長だった浦原。
怒った名無しが飛び出して、慌てて追いかけていったのも浦原だった。
「マ。私には関係ない事だがネ」
呆れたように肩を竦めて技術開発局へ戻っていくマユリの背中を見ながら「やれやれ、心配して見に来たくせに」と夜一が茶を啜り、小さく呟いた。