「どうして名無しサンは実装されないんっスか。」

不満そうに頬杖をついたまま、目の前の恋人はボヤいた。

「まぁしがない平隊員ですし。」
「お。どの口が仰ってるンっスか？」

のんびり茶を傾けながら答えれば、浦原が重い重い溜息をついた。


「だって実装されたら、合法的に色んなコスプレさせることが出来るんですよ？」
「真面目な顔で訴えてくるのやめて頂けません？」


コタツの中に入れられた彼の足を、足先で小突いてみる。
牽制としての効果は皆無だろう。
だからそう。これはただの軽い抗議だ。

「なんなら衣装はボクが全部プロデュースしますけど？」
「謹んで御遠慮申し上げます。」

ハロウィンイベントの時の夜一のような衣装を着せられたらたまったもんじゃない。
際どい服を作らせたら、妙に上手いのが癪に障る。
それが本人達に似合っているから尚更。

「だって高校の制服名無しサンを実装したら、デフォルメされたCGとはいえ合法的に制服名無しサンが毎日いつでも拝めるンっスよ！？」
「卒業して何年経っていると思っているんですか。忘れてください。」

制服に夢を見すぎでは？
空座高校の制服が可愛かったのは事実だが。
以前浦原が『JKは男のロマンっスよ！』と豪語していたのを思い出し、名無しは無意識のうちに溜息を零した。


「いいじゃないですか。ゲームに実装されていなくても。目の前にいるんですから、それで我慢してください。」


言った直後に思った。
『しまった』と。

「我慢だなんてとんでもない。充分っスよ。」

にへらにへらと両頬を緩ませる浦原。
先程まで浮かべていた不満そうな表情は何処へやら。

「よく考えたら激レア中の激レアっスもんね。」
「まぁ、一人だけですから。」

コタツの中で足が、絡む。
下駄を好んで履いているせいか、人一倍硬くなった足裏が少しくすぐったかった。

まるで手を繋ぐように、ポカポカと温まった彼の足と私の足の裏が、表裏一体になるようにくっつけられた。


「ボクだけの名無しサン。」


心底嬉しそうに、蕩けるような笑顔で。
多幸感に溢れた浦原の声を聞いただけで目眩がした。



あなただけのUR



「まぁそれは別として実装は諦めていないんスけど。」
「執念がすごい。」

あと私のときめきを返してください。