「ロッジの裏に呼び出すなんて…名無しサンったら大胆…」
「何言ってるんですか！もう！
……水着！勝手に変えたの浦原さんでしょう！？」

真っ赤な顔で訴えてくる名無し。
きゃんきゃんと怒っている姿も可愛いと思うのは重症だろうか。

「何を隠そう、ボクっスよ！」
「ドヤ顔で言わないでください。真っ先に犯人分かりましたけどね！隠れてませんから！」
「じゃあ言い直しましょう。…流石名無しサン！ご明察！」
「そうじゃない…そうじゃない…！」

ギリリィッと歯軋りが聞こえていそうなくらい悔しそうな表情を浮かべる名無し。
そんか彼女をよそに、肝心のボクはというと早くそのファスナーを下ろしたくて堪らなかった。

「で？開けていいんっスか？『喜助さんに最初に見て欲しくて』ってことっスよね？」
「暑さで頭わきました！？は、恥ずかしいから閉めてるんですよ！」

即座に反論されるが、そこは鋼の心を持つ浦原喜助。

ファスナーを死守する名無しの手首を掴めば、あっという間に片手で拘束出来た。
彼女からしたら不服なのだろうけど、やはり単純な力比べではボクの方に軍配があがるようだ。


頭の上で手首を一纏めにしてしまえば、なんだか悪いことをしてる気分になる。
それはそれで中々オツ……とは流石に言わなかったが。

「はーい、御開帳〜」
「びゃーーーっ！」

尻尾を踏まれた猫のような叫び声をあげる名無し。
ロッジの裏では残念ながらその声も浜辺には届かまい。


楽しみにしていたプレゼントを開けるようなワクワク感。
白いパーカーのファスナーを下げれば、それはもう目が眩みそうな光景だった。


ボクがこっそり店員と選んだのは、最近流行りだと聞いたクロスワイヤーの水着。
シンプルな黒いビキニだが、左右のバストから斜め下に向かってクロスされた布のデザインが特徴的だ。

その布はというと背中でちゃんとリボン結びにしているらしい。
後ろから見ればさぞかし可愛いだろうに。パーカーで隠れているのが非常に残念だ。


『これ、布をクロスさせるから谷間もしっかり出来るんですよ』

店員が熱心に…しかしこっそりしてくれたプレゼン。
普通のブラジャーでも柔らかい谷間ができているのに、この水着のせいだろう。肉感がアップした桃源郷が眩しかった。

他にもウエストが細く見えたり色々あるそうなのだが、兎にも角にもボクは一目で気に入った。
『セクシーなの？キュートなの？』といつかの曲を女性歌手が歌っていたのを思い出す。
――が、これは『セクシーでキュート』と言えるだろう。百点満点だ。

なんなら小さめに作られているボタニカル柄のショーツも、いい。とてもいい。
先日着ていた水着はショートパンツを履いていたせいで、可愛いお尻が見えなかった。

……オッサンっぽい？何とでも言ってくれ。


「…………………な、何か、言ったら、どうですか」


沈黙するボクを真っ赤な顔で見上げる名無し。
ロッジの壁に縫い止めた、無骨なボクの片手に収まる細い手首。
見下ろせば健康的な胸の谷間が視界に入る。
なんならすらりと伸びた足も、眼福を通り越して目に毒だ。食べてしまいたい。

「今すぐベッドに連れて行きたいっス。」
「感想が下半身に忠実すぎませんか！？」

思わず声を荒らげる彼女を見て笑い、冗談（いや、結構本気なのだが）は程々にしておく。


「最高に可愛いです。ホントは誰にも見せたくないし独り占めしたいっスけどォ…まぁ海なんで仕方ないっスね。」


紛うことなき本音。
海を楽しみにしていた名無しの邪魔をする気も、毛頭ない。
ただこの少しの時間だけでも独占したいのも嘘偽りない事実で。

「あ〜〜〜、名無しサン家に帰ったら暫く水着で過ごしてくださいよ〜」
「絶対嫌です。」

駄々をこねながら可愛い彼女を抱きすくめれば、呆れたように背中をぽんぽん撫でられた。



夏の日差しより眩しくて



「でも勝手に水着買っているのも、入れ替えてるのも許してませんからね。」
「え、駄目っスか？可愛いじゃないっスか。」
「これ完全に浦原さんの趣味じゃないですか」
「だって絶対似合うと思って……」
「いや……確かに水着は可愛いです、けど、なんかこの、布をばってんにさせてるのが…」
「胸をキュッと寄せる作りになってるのがエッチっスよね。」
「息を吐くように言うのやめてもらえません！？」