夏色バケーション!
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賑わう、人。
人気スポットを避けて選んだのはいいものの、それでも予想よりも随分と賑わいを見せていた。
「朝イチだからこれでも少ないそうっスよ」
「皆さん元気ですね…」
コンクリートを照りつける日差し。
アブラゼミの鳴く声。
鼻にツンとくる塩素の匂い。
人生初の、プールに来ました。
スプラッシュ・ランデブー
待ち合わせ場所で浦原はぼんやりと青空を眺める。
休憩スペースがてら、プール施設が設営しているテントの下に渡されたレジャーシートを敷いた。
飲み物も買っておこうか。持ってきた小銭で近くの自販機でお茶を二本購入すれば、ガタンゴトンと音を鳴らしながら冷えた緑茶が出てきた。
「すみません、浦原さん。お待たせしました」
名無しの声の方向へ顔を向ければ、それはもう眼福の一言に尽きた。
紺色の胸元を隠す水着が白い肌に映えて眩しい。
スラリと伸びた脚は、細い割に筋肉が付いている。しっかり鍛えている証だ。
それでいて太腿はやわらかいのだから、本当に女性の肉体とはよく出来ている。
水着用のショートパンツと日焼け防止用のパーカーを羽織っているので、魅惑の腰周りは隠れているものの……
(脚だけでご飯三杯はいける。)
浦原は、大真面目にそう思った。
「……あの、浦原さん。変ですかね…?」
「いや、似合いすぎてビックリしました。流石ボク。」
率直な感想を述べれば安心したように破顔する名無し。
というより、目に入れても痛くない可愛い彼女なのだ。
結局のところ、何を着ても浦原は手放しで『可愛い』と褒めれる自信があった。
「パーカーは脱がないんっスか?」
「入る時には脱ぎますよ。浦原さん、日焼け止め塗った方がいいんじゃないですか?日焼けしたら痛いらしいですよ」
持ってきていた手提げから日焼け止めを取り出す名無し。
こういう抜かりないところは彼女らしいといえば彼女らしい。
きっと夜な夜な『プール いるもの』と検索をかけて調べたのだろう。
……楽しみにしているのが自分だけではなくてちょっとほっとする浦原なのであった。
「じゃあ背中塗って貰いましょうかねぇ」
「いいですよ。」
二つ返事で了承する名無し。
風呂で背中を流すのとは訳が違うらしい。
テキパキと手際よく日焼け止めを手に取って、よく鍛えている――しかし部屋に篭もっていることが多いため、男性にしては白い肌へ丁寧に塗っていった。
「研究ばっかしてるのに、どうして筋肉が落ちないんでしょうね」
「夜な夜な運動しているからじゃないんっスか?」
「………………昼間から何言ってるんですか、もう。」
仕上げとばかりにぺちんと背中を軽く叩く名無しの表情は少し呆れてる。
意味を理解したのか、悩ましげに眉を寄せ、くるりとした目元は訝しげに細められていた。
「じゃあ今度はボクが」
「家を出る前に雨ちゃんに塗ってもらったので結構です。」
ワキワキと手を動かす浦原に対して、鉄壁の笑顔で答える。
見る人が見れば見惚れる程の完璧な微笑みの前に、「…………雨…羨ましい……」と浦原は恨みがましそうに呟くのであった。
***
「いやぁ、名無しサン。飲み込み早いっスねぇ」
「……というより思ったより恥ずかしかったので死に物狂いで覚えた、というのが正しいです。」
プールの敷地を大部分は、流れるプールとウォータースライダーで占めている。
端にあるのは、水深の浅い子供用のプールで。
手取り足取り、基本から教えるとなるとそこで教える他なかった。
そっちは人が疎らとはいえ、あまりにも恥ずかしかったので正味15分で基本を叩き込んだ。
浮いて、息継ぎさえ覚えてしまえばこっちのもの。
「……………なんですけど。ところで、なんですか?これ。ウォータースライダー…じゃないですよね?」
「リバーライドっス。」
「りばーらいど。」
ニコニコと浦原が言うものだから、つい復唱してしまう。
彼が笑顔で指さす先は、浮き輪に乗ってウォータースライダーを滑走していく子供の姿。
一人用もあれば、二人用もあるらしい。
浦原が抱えているのは、間違いなく二人用の浮き輪だった。
「結構スピード出てませんか?」
「まぁでもほら。コースは曲がりくねってますから、いい感じにスピードは落ちてると思いますよ」
「さっきまで金槌だった人間を、こんな高い所からプールにドボンさせるつもりですか!?」
「語弊があるっスよぉ。こんな高い所から、滑らせて、ドボン!っス。」
「ほぼ同じです。」
「大丈夫っスよ、ボクがついてますから。」
「キメッキメのキメ顔で言われても嬉しくありません。」
ウォータースライダー…もとい、リバーライドの搭乗口へ登る階段は、正直狭い。
今から引き返すとなると並んでる後列の方々にご迷惑だろう。
浦原はというと…ご満悦そうに笑っている。
正確に言えば、腰が引けている名無しを見て楽しんでいた。性格が悪いにも程がある。
そうこう言っているうちに、目の前のカップルが悠々と滑って行った。
スライダーを流れる水量は多く、勢いも早い。本当にこれを、ブレーキがきかない浮き輪で滑走するのか。
「じゃ、名無しサン前にどーぞ。」
「なんで前なんですか!?景色丸見えで怖いじゃないですか!」
「体重があるボクが前だと、結構スピード出ますよ?」
「前に乗らせて頂きます。」
即答。
係員のお兄さんが安全確認している間、まるで死刑執行を待つ罪人のような気分になる。
ちらりと外を見れば、かなりの高さだ。
他のスライダーでは楽しそうな悲鳴が聞こえてきているが……果たして溺れずに滑れるのだろうか、これは。
「名無しサン。」
名前を呼ばれ、後ろを振り返る。
強ばったままの表情で浦原を見遣れば、視線が合った途端に吹き出された。
「……くくっ、」
「ちょ、ちょっと、何笑ってるんですか!」
「いえ、すみません。名無しサン、可愛いなと思って。」
肩を震わせながら笑う浦原。
褒められている気がしない。名無しが不満そうにじとりと睨めば、浦原は「すみません」ともう一度謝った。
「いや。強かな名無しサンも好きなんっスけど、やっぱりこうやって普通に女の子してる名無しサンも好きだな、と思って。」
「……………………へ」
そっと耳元で告げられた言葉。
突然の砂糖菓子のように甘い台詞に、思考が一瞬にして漂白される。
係員のお兄さんの「はい、じゃあ行きますよー」と爽やかな声が、遠くで聞こえた……気がした。
「ちょっ…早……はやい!浦原さん!これ!早いです!」
「名無しサン〜、そろそろ口を閉じないと水飲んじゃいますよォ」
「へ!?どういう…う、わっ!」
ゴボッ。
着水時、思い切り水を飲んだのは言うまでもない。
人気スポットを避けて選んだのはいいものの、それでも予想よりも随分と賑わいを見せていた。
「朝イチだからこれでも少ないそうっスよ」
「皆さん元気ですね…」
コンクリートを照りつける日差し。
アブラゼミの鳴く声。
鼻にツンとくる塩素の匂い。
人生初の、プールに来ました。
スプラッシュ・ランデブー
待ち合わせ場所で浦原はぼんやりと青空を眺める。
休憩スペースがてら、プール施設が設営しているテントの下に渡されたレジャーシートを敷いた。
飲み物も買っておこうか。持ってきた小銭で近くの自販機でお茶を二本購入すれば、ガタンゴトンと音を鳴らしながら冷えた緑茶が出てきた。
「すみません、浦原さん。お待たせしました」
名無しの声の方向へ顔を向ければ、それはもう眼福の一言に尽きた。
紺色の胸元を隠す水着が白い肌に映えて眩しい。
スラリと伸びた脚は、細い割に筋肉が付いている。しっかり鍛えている証だ。
それでいて太腿はやわらかいのだから、本当に女性の肉体とはよく出来ている。
水着用のショートパンツと日焼け防止用のパーカーを羽織っているので、魅惑の腰周りは隠れているものの……
(脚だけでご飯三杯はいける。)
浦原は、大真面目にそう思った。
「……あの、浦原さん。変ですかね…?」
「いや、似合いすぎてビックリしました。流石ボク。」
率直な感想を述べれば安心したように破顔する名無し。
というより、目に入れても痛くない可愛い彼女なのだ。
結局のところ、何を着ても浦原は手放しで『可愛い』と褒めれる自信があった。
「パーカーは脱がないんっスか?」
「入る時には脱ぎますよ。浦原さん、日焼け止め塗った方がいいんじゃないですか?日焼けしたら痛いらしいですよ」
持ってきていた手提げから日焼け止めを取り出す名無し。
こういう抜かりないところは彼女らしいといえば彼女らしい。
きっと夜な夜な『プール いるもの』と検索をかけて調べたのだろう。
……楽しみにしているのが自分だけではなくてちょっとほっとする浦原なのであった。
「じゃあ背中塗って貰いましょうかねぇ」
「いいですよ。」
二つ返事で了承する名無し。
風呂で背中を流すのとは訳が違うらしい。
テキパキと手際よく日焼け止めを手に取って、よく鍛えている――しかし部屋に篭もっていることが多いため、男性にしては白い肌へ丁寧に塗っていった。
「研究ばっかしてるのに、どうして筋肉が落ちないんでしょうね」
「夜な夜な運動しているからじゃないんっスか?」
「………………昼間から何言ってるんですか、もう。」
仕上げとばかりにぺちんと背中を軽く叩く名無しの表情は少し呆れてる。
意味を理解したのか、悩ましげに眉を寄せ、くるりとした目元は訝しげに細められていた。
「じゃあ今度はボクが」
「家を出る前に雨ちゃんに塗ってもらったので結構です。」
ワキワキと手を動かす浦原に対して、鉄壁の笑顔で答える。
見る人が見れば見惚れる程の完璧な微笑みの前に、「…………雨…羨ましい……」と浦原は恨みがましそうに呟くのであった。
***
「いやぁ、名無しサン。飲み込み早いっスねぇ」
「……というより思ったより恥ずかしかったので死に物狂いで覚えた、というのが正しいです。」
プールの敷地を大部分は、流れるプールとウォータースライダーで占めている。
端にあるのは、水深の浅い子供用のプールで。
手取り足取り、基本から教えるとなるとそこで教える他なかった。
そっちは人が疎らとはいえ、あまりにも恥ずかしかったので正味15分で基本を叩き込んだ。
浮いて、息継ぎさえ覚えてしまえばこっちのもの。
「……………なんですけど。ところで、なんですか?これ。ウォータースライダー…じゃないですよね?」
「リバーライドっス。」
「りばーらいど。」
ニコニコと浦原が言うものだから、つい復唱してしまう。
彼が笑顔で指さす先は、浮き輪に乗ってウォータースライダーを滑走していく子供の姿。
一人用もあれば、二人用もあるらしい。
浦原が抱えているのは、間違いなく二人用の浮き輪だった。
「結構スピード出てませんか?」
「まぁでもほら。コースは曲がりくねってますから、いい感じにスピードは落ちてると思いますよ」
「さっきまで金槌だった人間を、こんな高い所からプールにドボンさせるつもりですか!?」
「語弊があるっスよぉ。こんな高い所から、滑らせて、ドボン!っス。」
「ほぼ同じです。」
「大丈夫っスよ、ボクがついてますから。」
「キメッキメのキメ顔で言われても嬉しくありません。」
ウォータースライダー…もとい、リバーライドの搭乗口へ登る階段は、正直狭い。
今から引き返すとなると並んでる後列の方々にご迷惑だろう。
浦原はというと…ご満悦そうに笑っている。
正確に言えば、腰が引けている名無しを見て楽しんでいた。性格が悪いにも程がある。
そうこう言っているうちに、目の前のカップルが悠々と滑って行った。
スライダーを流れる水量は多く、勢いも早い。本当にこれを、ブレーキがきかない浮き輪で滑走するのか。
「じゃ、名無しサン前にどーぞ。」
「なんで前なんですか!?景色丸見えで怖いじゃないですか!」
「体重があるボクが前だと、結構スピード出ますよ?」
「前に乗らせて頂きます。」
即答。
係員のお兄さんが安全確認している間、まるで死刑執行を待つ罪人のような気分になる。
ちらりと外を見れば、かなりの高さだ。
他のスライダーでは楽しそうな悲鳴が聞こえてきているが……果たして溺れずに滑れるのだろうか、これは。
「名無しサン。」
名前を呼ばれ、後ろを振り返る。
強ばったままの表情で浦原を見遣れば、視線が合った途端に吹き出された。
「……くくっ、」
「ちょ、ちょっと、何笑ってるんですか!」
「いえ、すみません。名無しサン、可愛いなと思って。」
肩を震わせながら笑う浦原。
褒められている気がしない。名無しが不満そうにじとりと睨めば、浦原は「すみません」ともう一度謝った。
「いや。強かな名無しサンも好きなんっスけど、やっぱりこうやって普通に女の子してる名無しサンも好きだな、と思って。」
「……………………へ」
そっと耳元で告げられた言葉。
突然の砂糖菓子のように甘い台詞に、思考が一瞬にして漂白される。
係員のお兄さんの「はい、じゃあ行きますよー」と爽やかな声が、遠くで聞こえた……気がした。
「ちょっ…早……はやい!浦原さん!これ!早いです!」
「名無しサン〜、そろそろ口を閉じないと水飲んじゃいますよォ」
「へ!?どういう…う、わっ!」
ゴボッ。
着水時、思い切り水を飲んだのは言うまでもない。