short story
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「ただいま帰りました。」
買い物から帰れば、浦原商店の中に、人の気配。
鉄裁は商品の仕入れに、雨とジン太は学校のはず。
なのに、浦原商店の中にある霊圧は二人分だ。
一人はよく知っているものだ。
もう一方は――
「何ヒィヒィ笑ってるんですか、平子さん。」
卓袱台を挟んで、息も絶え絶えに笑い転げている平子と、珍しく背筋をピンと伸ばして座っている浦原がいた。
平子に至っては涙を浮かべて爆笑している。横隔膜が痙攣しないのだろうか。
「くっ、くくくっ、名無し、えぇところに……ぷっ、くく!」
今日は非番なのだろう。
現世らしい服に身を包んだ彼の姿は、まるで隊長職に復職する前のように見えた。
笑ってばかりで要件を言わない平子に溜息をついて、台所へ向かおうとしたところだった。
「名無しサン。こんな大荷物、重かったでしょう?ボクが運ぶんで一休みしておいてください」
……どことなく吹く、爽やかな雰囲気。
普段気遣いがないわけでない。
労いの言葉はしっかり貰っている。荷物だって重たい物は持ってくれる。
さしておかしいところはない。
なのに、何故だろう。
脳裏に過ぎったのは『綺麗なジャイアン』だった。
「えっ…いや、これくらいなら大丈夫ですよ。」
「いえ。女の子なんっスから。お箸以上に重たい物を持たせるわけにはいかないっス。」
「……………はい?」
待て待て。
斬魄刀はどうなる。箸より重いぞ。
「後で肩もお揉みしますね。」
「とか言いながらセクハラするんでしょう?大丈夫ですよ」
「セクハラ?そんなふしだらなこと、する訳ないでしょう?」
「……………………は!?」
また嘘を。
訝しげな表情で浦原を見上げれば、表情が誠実そのものだった。
……こんな浦原、初めて見た。
言うなれば、爽やかな好青年。
錯覚かもしれないがキラキラしているように見えなくも無い。
なんだこれ。
平子の方を勢いよく振り向けば、お腹を抱えたままグッと親指を突き立てる姿が目に入った。
羊と紳士と変態と
『君は不誠実の塊のような男だネ』
未だ馴れ馴れしく名前で呼ぶ平子に向かって、マユリは不愉快感を露わに顔を歪めた。
対する平子は『心外だ』と言わんばかりに肩を竦める。
『失敬やな。これでも仕事も真面目にしとるし、部下にも評判上々なんやで?どこかの十二番隊と違って。』
『目下からの評価なんて何の参考にもならないヨ、全く。私が不愉快だと言っているのだ』
まさに唯我独尊。
平子が不誠実なら、さしずめマユリは異常者だろう。
……まぁ護廷十三隊に真人間と言える人物なんて数人しかいないのだが。
『馬鹿につける薬はない、と言いたいところだがネ。実はあるんだヨ』
指先で摘んだ瓶を、ススッと平子に勧める。
明らかに怪しい小瓶を出され、流石の平子も『はい、頂きます』と言えるはずもなく。
『いやいやいや、絶対これ毒やろ!?』
『毒殺がお好みなら金色疋殺地蔵があるヨ』
『誰も望んでへんわ!なんやねん、これ!』
『何。誠実になるクスリだヨ』
『怪しすぎる。』
『義魂丸に採用された《理想の性格》の人格付けを、少しアレンジしたシロモノだヨ。なに、試作品だから安心したまえ』
『試作品だから安心出来る、って要素が欠片もないで。つーか不誠実って言うんならそれこそ喜助に試せばええやないか…』
切り揃えた金髪を無造作に掻きむしりながら平子がボヤく。
その小さな呟きを、地獄耳のマユリが聞き逃すはずもなかった。
『君、名案じゃないか』
『えっ』
『早速、次の非番で試してきたまえ。』
***
「というわけなんや」
「とりあえず、マユリさんも平子さんもクズということがよーく分かりました!」
浦原がちゃらんぽらんなのは認めるが、流れ弾を食らう必要はなかっただろうに。
いや。名無しだって何度も浦原のセクハラには悩まされたが。
そうじゃない。そうじゃないんだ。
「今までのボクはどうかしてました。名無しサンがそばにいるだけで満たされていたというのに…。過剰なスキンシップは嫌がらせですもんね。以後改めるっス」
「う、浦原さん…」
感動すればいいのか、笑えばいいのか。
…しかし身体は正直らしい。Tシャツから伸びた白い腕は、鳥肌がたっている。
「しかしホンマに喜助、紳士になっとるんかいな?どれ。」
名無しの尻をポンポンと撫でる平子。
息をするように行われるセクハラに――
「何するんですか!」
「セクハラは許さないっスよ」
名無しに、持っていたお盆で側頭部を思い切り殴られ、顔を真っ赤にする彼女を守るように背中に隠す浦原。
熱烈なカウンターを食らってしまったが、確かにこの庇うような行動は紳士的……なのかも、しれない。
普段の浦原なら『名無しサンのおしりを揉みしだく特権は、ボクのものっスよ!』とかなんとか言い出しかねない。
「ぐぉぉ……名無し…お前容赦せぇ…脳ミソ揺れたで…」
「痴漢は世の中の女子、全員の敵ですから。ということで浦原さん、助けてください!」
黒い羽織を握り、彼の背中でぷりぷりと怒る名無し。
浦原を『セクハラなどしない紳士』だと認めたのだろう。完全に助けを求める姿勢になっている。
――平子は、見逃すはずがなかった。
名無しに腕へ抱きつかれ、ニヤリと口元を緩める浦原の表情を。
「そうっスね。不埒な輩は成敗するに限りますから」
「オイ!名無し!今コイツ、」
平子の言葉を遮るように、浦原が唇だけ静かに動かす。
《今イイトコなんっスから黙っててください》
……アカン。薬なんて効いてなかった。
その瞬間、平子は全てを悟った。
流石平子やマユリを凌駕する、人でなし。
人畜無害な羊の皮を逆手にとって、可愛い女の子を食べてしまおうとする、狼そのものではないか。
もはや詐欺である。アカデミー賞もビックリな演技派だ。
「さぁ、悪い変質者はお帰り頂きましょうね」
紳士の皮を被った真の変態が、満面の笑みで杖を抜いた。
(あ。アカン。これ尻撫でとるの怒っとるわ)
平子真子は、人生で最大の後悔をすることになったそうだ。
***
「ささ、名無しサン。天敵は片付けましたし、ゆっくりしましょ」
「そうですね。……………。」
「どうかしました?」
「いえ。賢者タイムな浦原さんもいいんですけど、なんかやっぱり落ち着かないな、って。」
「…………なるほどぉ。名無しサンも中々毒されてるっスねぇ〜。」
「…はい?」
「やっぱりいつものボクの方がいいって事っスよね?」
「いや、そうは言ってな……あれ?」
「さ、撫でられたお尻を消毒しましょ。お布団の中で。」
「は!?
だ、騙しましたね!?このっ……この人でなしー!」
買い物から帰れば、浦原商店の中に、人の気配。
鉄裁は商品の仕入れに、雨とジン太は学校のはず。
なのに、浦原商店の中にある霊圧は二人分だ。
一人はよく知っているものだ。
もう一方は――
「何ヒィヒィ笑ってるんですか、平子さん。」
卓袱台を挟んで、息も絶え絶えに笑い転げている平子と、珍しく背筋をピンと伸ばして座っている浦原がいた。
平子に至っては涙を浮かべて爆笑している。横隔膜が痙攣しないのだろうか。
「くっ、くくくっ、名無し、えぇところに……ぷっ、くく!」
今日は非番なのだろう。
現世らしい服に身を包んだ彼の姿は、まるで隊長職に復職する前のように見えた。
笑ってばかりで要件を言わない平子に溜息をついて、台所へ向かおうとしたところだった。
「名無しサン。こんな大荷物、重かったでしょう?ボクが運ぶんで一休みしておいてください」
……どことなく吹く、爽やかな雰囲気。
普段気遣いがないわけでない。
労いの言葉はしっかり貰っている。荷物だって重たい物は持ってくれる。
さしておかしいところはない。
なのに、何故だろう。
脳裏に過ぎったのは『綺麗なジャイアン』だった。
「えっ…いや、これくらいなら大丈夫ですよ。」
「いえ。女の子なんっスから。お箸以上に重たい物を持たせるわけにはいかないっス。」
「……………はい?」
待て待て。
斬魄刀はどうなる。箸より重いぞ。
「後で肩もお揉みしますね。」
「とか言いながらセクハラするんでしょう?大丈夫ですよ」
「セクハラ?そんなふしだらなこと、する訳ないでしょう?」
「……………………は!?」
また嘘を。
訝しげな表情で浦原を見上げれば、表情が誠実そのものだった。
……こんな浦原、初めて見た。
言うなれば、爽やかな好青年。
錯覚かもしれないがキラキラしているように見えなくも無い。
なんだこれ。
平子の方を勢いよく振り向けば、お腹を抱えたままグッと親指を突き立てる姿が目に入った。
羊と紳士と変態と
『君は不誠実の塊のような男だネ』
未だ馴れ馴れしく名前で呼ぶ平子に向かって、マユリは不愉快感を露わに顔を歪めた。
対する平子は『心外だ』と言わんばかりに肩を竦める。
『失敬やな。これでも仕事も真面目にしとるし、部下にも評判上々なんやで?どこかの十二番隊と違って。』
『目下からの評価なんて何の参考にもならないヨ、全く。私が不愉快だと言っているのだ』
まさに唯我独尊。
平子が不誠実なら、さしずめマユリは異常者だろう。
……まぁ護廷十三隊に真人間と言える人物なんて数人しかいないのだが。
『馬鹿につける薬はない、と言いたいところだがネ。実はあるんだヨ』
指先で摘んだ瓶を、ススッと平子に勧める。
明らかに怪しい小瓶を出され、流石の平子も『はい、頂きます』と言えるはずもなく。
『いやいやいや、絶対これ毒やろ!?』
『毒殺がお好みなら金色疋殺地蔵があるヨ』
『誰も望んでへんわ!なんやねん、これ!』
『何。誠実になるクスリだヨ』
『怪しすぎる。』
『義魂丸に採用された《理想の性格》の人格付けを、少しアレンジしたシロモノだヨ。なに、試作品だから安心したまえ』
『試作品だから安心出来る、って要素が欠片もないで。つーか不誠実って言うんならそれこそ喜助に試せばええやないか…』
切り揃えた金髪を無造作に掻きむしりながら平子がボヤく。
その小さな呟きを、地獄耳のマユリが聞き逃すはずもなかった。
『君、名案じゃないか』
『えっ』
『早速、次の非番で試してきたまえ。』
***
「というわけなんや」
「とりあえず、マユリさんも平子さんもクズということがよーく分かりました!」
浦原がちゃらんぽらんなのは認めるが、流れ弾を食らう必要はなかっただろうに。
いや。名無しだって何度も浦原のセクハラには悩まされたが。
そうじゃない。そうじゃないんだ。
「今までのボクはどうかしてました。名無しサンがそばにいるだけで満たされていたというのに…。過剰なスキンシップは嫌がらせですもんね。以後改めるっス」
「う、浦原さん…」
感動すればいいのか、笑えばいいのか。
…しかし身体は正直らしい。Tシャツから伸びた白い腕は、鳥肌がたっている。
「しかしホンマに喜助、紳士になっとるんかいな?どれ。」
名無しの尻をポンポンと撫でる平子。
息をするように行われるセクハラに――
「何するんですか!」
「セクハラは許さないっスよ」
名無しに、持っていたお盆で側頭部を思い切り殴られ、顔を真っ赤にする彼女を守るように背中に隠す浦原。
熱烈なカウンターを食らってしまったが、確かにこの庇うような行動は紳士的……なのかも、しれない。
普段の浦原なら『名無しサンのおしりを揉みしだく特権は、ボクのものっスよ!』とかなんとか言い出しかねない。
「ぐぉぉ……名無し…お前容赦せぇ…脳ミソ揺れたで…」
「痴漢は世の中の女子、全員の敵ですから。ということで浦原さん、助けてください!」
黒い羽織を握り、彼の背中でぷりぷりと怒る名無し。
浦原を『セクハラなどしない紳士』だと認めたのだろう。完全に助けを求める姿勢になっている。
――平子は、見逃すはずがなかった。
名無しに腕へ抱きつかれ、ニヤリと口元を緩める浦原の表情を。
「そうっスね。不埒な輩は成敗するに限りますから」
「オイ!名無し!今コイツ、」
平子の言葉を遮るように、浦原が唇だけ静かに動かす。
《今イイトコなんっスから黙っててください》
……アカン。薬なんて効いてなかった。
その瞬間、平子は全てを悟った。
流石平子やマユリを凌駕する、人でなし。
人畜無害な羊の皮を逆手にとって、可愛い女の子を食べてしまおうとする、狼そのものではないか。
もはや詐欺である。アカデミー賞もビックリな演技派だ。
「さぁ、悪い変質者はお帰り頂きましょうね」
紳士の皮を被った真の変態が、満面の笑みで杖を抜いた。
(あ。アカン。これ尻撫でとるの怒っとるわ)
平子真子は、人生で最大の後悔をすることになったそうだ。
***
「ささ、名無しサン。天敵は片付けましたし、ゆっくりしましょ」
「そうですね。……………。」
「どうかしました?」
「いえ。賢者タイムな浦原さんもいいんですけど、なんかやっぱり落ち着かないな、って。」
「…………なるほどぉ。名無しサンも中々毒されてるっスねぇ〜。」
「…はい?」
「やっぱりいつものボクの方がいいって事っスよね?」
「いや、そうは言ってな……あれ?」
「さ、撫でられたお尻を消毒しましょ。お布団の中で。」
「は!?
だ、騙しましたね!?このっ……この人でなしー!」