short story
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十三番隊に納品する商品を、持って行った時のことだった。
ルキアとの久しぶりの会話も程々に、浦原は十二番隊舎へ向かっていた。
今日は十二番隊の定例会に名無しが出席している。
どうせなら一緒に現世に帰ろうと思っていたのだが――
「名無しならさっき出て行きましたよ。」
書類を気だるそうに眺めていた阿近が答える。
特徴的な霊圧を探れば、それはすぐ近くにいた。
「今度食事でもどうだ?」
「えっと…現世で任務があるので…」
「休みくらいあるだろ?いい店知ってるんだ。」
人の往来がある、大通り。
見知らぬ死神の男と、困り顔をした名無しがいた。
若い死神の男は上背もあり、顔立ちも悪くない。ガタイの良さからおそらく席官だろう。
一方、名無しはルキア程ではないが小柄な方だ。
しかも見知らぬ人間や歳上に対しては、基本的に敬語を使う。
恐らく男は、名無しを下の立場として見ているのだろう。
だから断られないと踏んで、少し強引に誘っているのだろうが…。
(まぁ肩書きで見たら確かに名無しサンは下の立場っスけど。)
現世に長期間派遣させるために、あえて席官に置いていないだけだ。
統率力や上に立つ者としての心得云々を加味しなければ、実力や霊圧は隊長クラスにも引けを取らない。
なにせ浦原が育てているのだ。そこら辺の死神と実力を比べるのも烏滸がましいだろう。
良くも悪くも、霊圧や霊力を隠すのが上手くなったのが仇になったか。
「あの…すみません。この後予定があるので…」
「オイオイ、俺は七番隊の十席だぞ?」
引き留めようとする男が、名無しの肩に手を伸ばした時、
「はいはい、お触りはダメっスよ。」
「イデデデデ!な、なんだよ、アンタ!?」
自分以外の男と会話している姿を見ているだけでも嫉妬で狂ってしまいそうだというのに、彼女に触れようなんて言語道断だ。
自称七番隊十席の手を軽く捻れば、筋と骨が軋む音がした。我ながら中々大人気ない。
「席官で威張っておられるようっスけど、相手の実力も見極められないんじゃ鍛錬不足っスよねぇ。いやぁ〜実に馴れ馴れしい。
そもそも、仮に…仮にっスよ?名無しサンより強くても、アタシより弱いんじゃ可愛い恋人は譲れないんっスよねぇ」
「ンだよ、誰だよアンタ!しゃしゃり出てんじゃねぇよ!ぶっ殺」
続きの言葉は、紡がれなかった。
松葉色の縞模様をした帽子の下から、刺さるような眼光。
射抜くような視線は、喉元に業物の刀を突き立てているようだった。
男の喉が、生唾を飲み込み、ゆっくり上下に揺れる。
「浦原さん、大人気ないでしょう。元・隊長なんですから優しくしてあげてください。」
黒い羽織を指先で引いて、名無しが諌めた。
渡りに船、地獄に仏とはまさにこのことか。
浦原の視線が僅かに逸れた途端、十席の男は思い出したかのように呼吸を取り戻す。
が。
「で、すみません。さっき最後まで聞こえなかったんですけど、
――誰が誰をぶっ殺すんですっけ?」
にこにこと。
花のような笑顔で名無しが問うた。
十席の男が再び顔を青ざめたのは、言うまでもないだろう。
「回答次第では明日の朝日を拝めなくなりますので、慎重にお返事くださいね。」
一瞬。
ほんの、一瞬。
一般隊士のものとは思えない霊圧が、辺りに重く重く伸し掛る。
賑わっていた大通りは、一瞬にして静まり返った。
気絶する者。
卒倒する者。
凍りつく者。
呼吸を忘れる者。
敵襲かと勘違いし、刀に手をかける者。
目の前の十席の男は……残念ながら白目を剥き、泡を吹いて倒れてしまった。
***
「ダメっスよ、名無しサン。大人気ないっスよぉ」
「それ浦原さんが言います…?」
帰路の途中。
四番隊や救護班にしこたま叱られた後、浦原が楽しそうに笑った。
先程無言で殺気を放っていた人物とは思えないくらいに白々しい。
「いやぁ、馴れ馴れしく声を掛けるだけでも腹が立つのに、ボクにしては我慢した方っスよ。」
「あれくらいで腹を立てないでください。」
「名無しサンも名無しサンっスよ。キッパリ断らないから。」
「言葉を遮って喋るんですもん。あまりにしつこかったら鬼道で気絶させてから退散しようかと思ってました。」
実力行使に出る方がよっぽど容赦ないような気がするが、ここは黙っておこう。
「でも、助けて下さってありがとうございます。」
丁寧に頭を下げる名無し。
「そりゃまぁボクの大事な恋人っスから」と答えながら、彼女の手を握る指に力を込めた。
Jealousy spice
(我ながらなんて単純なのやら)
彼女が、ボクのために怒ってくれた。
その事実だけで腸を煮え繰り返していた嫉妬が、あまりに呆気なく霧散するなんて。
(しかし、どうやって虫除けをするか考えないと。)
見えるところにキスマークを幾つもつけてしまおうか。
それとも薬指に『予約』してしまおうか。
名無しの指に己の指を絡めながら、浦原は上機嫌で鼻歌を鳴らす。
その晩、しつこいくらいに首筋に所有印を残されたことは、また別の話。
ルキアとの久しぶりの会話も程々に、浦原は十二番隊舎へ向かっていた。
今日は十二番隊の定例会に名無しが出席している。
どうせなら一緒に現世に帰ろうと思っていたのだが――
「名無しならさっき出て行きましたよ。」
書類を気だるそうに眺めていた阿近が答える。
特徴的な霊圧を探れば、それはすぐ近くにいた。
「今度食事でもどうだ?」
「えっと…現世で任務があるので…」
「休みくらいあるだろ?いい店知ってるんだ。」
人の往来がある、大通り。
見知らぬ死神の男と、困り顔をした名無しがいた。
若い死神の男は上背もあり、顔立ちも悪くない。ガタイの良さからおそらく席官だろう。
一方、名無しはルキア程ではないが小柄な方だ。
しかも見知らぬ人間や歳上に対しては、基本的に敬語を使う。
恐らく男は、名無しを下の立場として見ているのだろう。
だから断られないと踏んで、少し強引に誘っているのだろうが…。
(まぁ肩書きで見たら確かに名無しサンは下の立場っスけど。)
現世に長期間派遣させるために、あえて席官に置いていないだけだ。
統率力や上に立つ者としての心得云々を加味しなければ、実力や霊圧は隊長クラスにも引けを取らない。
なにせ浦原が育てているのだ。そこら辺の死神と実力を比べるのも烏滸がましいだろう。
良くも悪くも、霊圧や霊力を隠すのが上手くなったのが仇になったか。
「あの…すみません。この後予定があるので…」
「オイオイ、俺は七番隊の十席だぞ?」
引き留めようとする男が、名無しの肩に手を伸ばした時、
「はいはい、お触りはダメっスよ。」
「イデデデデ!な、なんだよ、アンタ!?」
自分以外の男と会話している姿を見ているだけでも嫉妬で狂ってしまいそうだというのに、彼女に触れようなんて言語道断だ。
自称七番隊十席の手を軽く捻れば、筋と骨が軋む音がした。我ながら中々大人気ない。
「席官で威張っておられるようっスけど、相手の実力も見極められないんじゃ鍛錬不足っスよねぇ。いやぁ〜実に馴れ馴れしい。
そもそも、仮に…仮にっスよ?名無しサンより強くても、アタシより弱いんじゃ可愛い恋人は譲れないんっスよねぇ」
「ンだよ、誰だよアンタ!しゃしゃり出てんじゃねぇよ!ぶっ殺」
続きの言葉は、紡がれなかった。
松葉色の縞模様をした帽子の下から、刺さるような眼光。
射抜くような視線は、喉元に業物の刀を突き立てているようだった。
男の喉が、生唾を飲み込み、ゆっくり上下に揺れる。
「浦原さん、大人気ないでしょう。元・隊長なんですから優しくしてあげてください。」
黒い羽織を指先で引いて、名無しが諌めた。
渡りに船、地獄に仏とはまさにこのことか。
浦原の視線が僅かに逸れた途端、十席の男は思い出したかのように呼吸を取り戻す。
が。
「で、すみません。さっき最後まで聞こえなかったんですけど、
――誰が誰をぶっ殺すんですっけ?」
にこにこと。
花のような笑顔で名無しが問うた。
十席の男が再び顔を青ざめたのは、言うまでもないだろう。
「回答次第では明日の朝日を拝めなくなりますので、慎重にお返事くださいね。」
一瞬。
ほんの、一瞬。
一般隊士のものとは思えない霊圧が、辺りに重く重く伸し掛る。
賑わっていた大通りは、一瞬にして静まり返った。
気絶する者。
卒倒する者。
凍りつく者。
呼吸を忘れる者。
敵襲かと勘違いし、刀に手をかける者。
目の前の十席の男は……残念ながら白目を剥き、泡を吹いて倒れてしまった。
***
「ダメっスよ、名無しサン。大人気ないっスよぉ」
「それ浦原さんが言います…?」
帰路の途中。
四番隊や救護班にしこたま叱られた後、浦原が楽しそうに笑った。
先程無言で殺気を放っていた人物とは思えないくらいに白々しい。
「いやぁ、馴れ馴れしく声を掛けるだけでも腹が立つのに、ボクにしては我慢した方っスよ。」
「あれくらいで腹を立てないでください。」
「名無しサンも名無しサンっスよ。キッパリ断らないから。」
「言葉を遮って喋るんですもん。あまりにしつこかったら鬼道で気絶させてから退散しようかと思ってました。」
実力行使に出る方がよっぽど容赦ないような気がするが、ここは黙っておこう。
「でも、助けて下さってありがとうございます。」
丁寧に頭を下げる名無し。
「そりゃまぁボクの大事な恋人っスから」と答えながら、彼女の手を握る指に力を込めた。
Jealousy spice
(我ながらなんて単純なのやら)
彼女が、ボクのために怒ってくれた。
その事実だけで腸を煮え繰り返していた嫉妬が、あまりに呆気なく霧散するなんて。
(しかし、どうやって虫除けをするか考えないと。)
見えるところにキスマークを幾つもつけてしまおうか。
それとも薬指に『予約』してしまおうか。
名無しの指に己の指を絡めながら、浦原は上機嫌で鼻歌を鳴らす。
その晩、しつこいくらいに首筋に所有印を残されたことは、また別の話。