short story
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むかしむかしある所に、名無しという女の子が住んでいました。
赤ずきんをよく被っているので、村中のみんなからは『赤ずきん』と呼ばれていました。
瀞霊廷迷作劇場#赤ずきん
「では名無し。これを森のはずれに住んでおる、婆様に持って行って参れ。」
にこにこと笑うのは、褐色の肌をし、黒髪をたおやかに揺らす母親です。
猫のように金色の目を細め、赤ずきんをくしゃりとひと撫でしました。
「鰹節に鯖缶に猫缶にゆで卵…。なんか日持ちするものばっかですね、お母さん。」
「パンや果物ばかり渡しても、老婆の一人暮らしじゃぞ?保存のきく食べ物の方がよかろう。」
「それもそうですね」
これは酷いラインナップです。お母さんの趣味でしょうか?
猫缶は流石のおばあさんも食べないのではないでしょうか。
お母さんに見送られ、赤ずきんは森の中をスタスタと歩きます。
寄り道なんてしません。帰って夕飯の支度が待っているのですから、早足で突き進みます。
「赤ずきんや、赤ずきんや。どこかへお出掛けかい?」
炎のように真っ赤な赤毛に、派手な刺青。
まるでチンピラのようなオオカミが赤ずきんに声を掛けました。
しかし赤ずきんはそれを無視して森の奥へ進みます。
「だァァァ!待て!そこは答えろよ!」
「知らない人に声を掛けられても無視しなさいってお母さんに言われてるので。」
「クソッ!夜一さんの教育の賜物か…じゃねぇ!話が進まねーだろうが!それに今は『狼』だからいいんだよ!」
狼さん、怒涛のツッコミです。
肩で息をするオオカミを一瞥して、名無しは小さく溜息をつきます。
「はぁ。おばあちゃんのところへ、常備食を届けに行くの。」
「オイ、溜息つくな。…って何だよ、常備食って…いや、もう触れないでおくか……。
おばあさんに会いに行くなら花でも摘んで行ったらどうだい?」
「野草を摘んで行って喜ばれるのは小学生くらいまでだと思うよ。」
「うるせぇ!今お前は赤ずきんなんだから大人しく摘んでろ!でなきゃ俺が困る!」
「瞬歩使えばいいんじゃない?」
赤ずきん、そこ。世界観壊さない。
渋々赤ずきんは道端に咲いていたカタバミを摘んで、スタスタと再び歩きだします。
赤毛のオオカミは赤ずきんがあまりにも歩くのが早いので、しょうがなく瞬歩を使いました。
瞬歩を使って、おばあさんの家へ先回りしたオオカミは青筋を立てながら言いました。
「ミスキャストだろうが!」
***
寄り道をせず、真っ直ぐおばあさんの家に辿り着いた赤ずきん。
古びた木製のドアをノックして、声をかけます。
「おばあさん、お母さんに言われて差し入れを持ってきたよ。」
「おぉ、赤ずきん。よく来たね、入っておいで。」
いつもより低い声の、おばあさん。
赤ずきんはドアを開け、ベッドにいるおばあさんを見て驚きました。
おばあさんの服を着た、赤毛のオオカミ――ではなく、栗色の癖毛を持った男がそこにいたのです。
「………………………はい?」
「赤ずきんや、赤ずきんや。久しぶりじゃのう。どれ、近くに来てよく顔を見せておくれ。それともベッドに入るかい?」
穏やかな笑みを浮かべた男が、芝居がかった口調で手招きをします。
……あれ?おかしいな、台本と違――
「だァァァ!チェェストォォォ!!」
鬼道の、爆発音がおばあさんの家に響いた。
***
《映像に乱れがございました。少々お待ちください。》
***
「なんで藍染がここにいるのよ!」
「何、獣の役など度し難いが、このあと赤ずきんを食べるのだろう?なら私が適任だろう。」
やはり詠唱破棄した鬼道ではビクともしません。
流石『私が天に立つ』と、高らかに宣言した男です。強いですね。
「カニバリスト気取ってんじゃないわよ。恋次く…あー…オオカミ役どうしたの。」
「彼は舞台袖で簀巻きの役になってもらっているよ。それに私も人肉を食す趣味はないさ。お誂え向けにベッドまであるんだ、性的に食べるに決まっているだろう?」
「なおタチ悪いわ!」
おばあさんの寝間着を纏った男――いや、真・オオカミがドヤ顔で語りますが、赤ずきんは青筋を浮かべるばかりです。
そこへ――
「何言ってるンっスか!赤ずきんを襲おうとするオオカミを倒して、赤ずきんと狩人はハッピーエンド&可愛い幼妻と年の差結婚して子宝に恵まれ一族安泰、って話でしょう!」
猟銃を持った金髪の狩人が、舞台袖から飛び出て来ました。
そんなエンディング初めて聞きました。狩人は幻覚でも見ているのでしょうか?
強めのお薬出しときますね。
「ロリコン趣味があったのか?浦原喜助。」
「そのセリフ、斬魄刀で打ち返して差し上げますよ、藍染サン」
「ふん。よく見ろ、今の私はオオカミだ。つまり最近流行りの人外×少女だ。コンプライアンス的に――」
「よくないです。全ッ然、よくありませんから!」
赤ずきんの忍耐袋の尾が、キレた。
真・オオカミにはゆで卵を丸々一個飲み込ませ、狩人には猫缶を――脳天目掛けて投げつけた。
カコーーーン!と快い音が、舞台に響き渡った。
***
「……そもそも名無しを赤ずきん役にしたのがミスキャストでしょう、乱菊さん。」
「だってぇ、面白そうだったし。それに赤ずきんの衣装着た名無しを見たいって各所から要望がきたんだもの。」
「……どこからですか。」
「聞きたい?」
「いや。やっぱやめときます。」
簀巻きになった恋次が、重々しい溜息をついた。
憐れなオオカミに幸あれ。
赤ずきんをよく被っているので、村中のみんなからは『赤ずきん』と呼ばれていました。
瀞霊廷迷作劇場#赤ずきん
「では名無し。これを森のはずれに住んでおる、婆様に持って行って参れ。」
にこにこと笑うのは、褐色の肌をし、黒髪をたおやかに揺らす母親です。
猫のように金色の目を細め、赤ずきんをくしゃりとひと撫でしました。
「鰹節に鯖缶に猫缶にゆで卵…。なんか日持ちするものばっかですね、お母さん。」
「パンや果物ばかり渡しても、老婆の一人暮らしじゃぞ?保存のきく食べ物の方がよかろう。」
「それもそうですね」
これは酷いラインナップです。お母さんの趣味でしょうか?
猫缶は流石のおばあさんも食べないのではないでしょうか。
お母さんに見送られ、赤ずきんは森の中をスタスタと歩きます。
寄り道なんてしません。帰って夕飯の支度が待っているのですから、早足で突き進みます。
「赤ずきんや、赤ずきんや。どこかへお出掛けかい?」
炎のように真っ赤な赤毛に、派手な刺青。
まるでチンピラのようなオオカミが赤ずきんに声を掛けました。
しかし赤ずきんはそれを無視して森の奥へ進みます。
「だァァァ!待て!そこは答えろよ!」
「知らない人に声を掛けられても無視しなさいってお母さんに言われてるので。」
「クソッ!夜一さんの教育の賜物か…じゃねぇ!話が進まねーだろうが!それに今は『狼』だからいいんだよ!」
狼さん、怒涛のツッコミです。
肩で息をするオオカミを一瞥して、名無しは小さく溜息をつきます。
「はぁ。おばあちゃんのところへ、常備食を届けに行くの。」
「オイ、溜息つくな。…って何だよ、常備食って…いや、もう触れないでおくか……。
おばあさんに会いに行くなら花でも摘んで行ったらどうだい?」
「野草を摘んで行って喜ばれるのは小学生くらいまでだと思うよ。」
「うるせぇ!今お前は赤ずきんなんだから大人しく摘んでろ!でなきゃ俺が困る!」
「瞬歩使えばいいんじゃない?」
赤ずきん、そこ。世界観壊さない。
渋々赤ずきんは道端に咲いていたカタバミを摘んで、スタスタと再び歩きだします。
赤毛のオオカミは赤ずきんがあまりにも歩くのが早いので、しょうがなく瞬歩を使いました。
瞬歩を使って、おばあさんの家へ先回りしたオオカミは青筋を立てながら言いました。
「ミスキャストだろうが!」
***
寄り道をせず、真っ直ぐおばあさんの家に辿り着いた赤ずきん。
古びた木製のドアをノックして、声をかけます。
「おばあさん、お母さんに言われて差し入れを持ってきたよ。」
「おぉ、赤ずきん。よく来たね、入っておいで。」
いつもより低い声の、おばあさん。
赤ずきんはドアを開け、ベッドにいるおばあさんを見て驚きました。
おばあさんの服を着た、赤毛のオオカミ――ではなく、栗色の癖毛を持った男がそこにいたのです。
「………………………はい?」
「赤ずきんや、赤ずきんや。久しぶりじゃのう。どれ、近くに来てよく顔を見せておくれ。それともベッドに入るかい?」
穏やかな笑みを浮かべた男が、芝居がかった口調で手招きをします。
……あれ?おかしいな、台本と違――
「だァァァ!チェェストォォォ!!」
鬼道の、爆発音がおばあさんの家に響いた。
***
《映像に乱れがございました。少々お待ちください。》
***
「なんで藍染がここにいるのよ!」
「何、獣の役など度し難いが、このあと赤ずきんを食べるのだろう?なら私が適任だろう。」
やはり詠唱破棄した鬼道ではビクともしません。
流石『私が天に立つ』と、高らかに宣言した男です。強いですね。
「カニバリスト気取ってんじゃないわよ。恋次く…あー…オオカミ役どうしたの。」
「彼は舞台袖で簀巻きの役になってもらっているよ。それに私も人肉を食す趣味はないさ。お誂え向けにベッドまであるんだ、性的に食べるに決まっているだろう?」
「なおタチ悪いわ!」
おばあさんの寝間着を纏った男――いや、真・オオカミがドヤ顔で語りますが、赤ずきんは青筋を浮かべるばかりです。
そこへ――
「何言ってるンっスか!赤ずきんを襲おうとするオオカミを倒して、赤ずきんと狩人はハッピーエンド&可愛い幼妻と年の差結婚して子宝に恵まれ一族安泰、って話でしょう!」
猟銃を持った金髪の狩人が、舞台袖から飛び出て来ました。
そんなエンディング初めて聞きました。狩人は幻覚でも見ているのでしょうか?
強めのお薬出しときますね。
「ロリコン趣味があったのか?浦原喜助。」
「そのセリフ、斬魄刀で打ち返して差し上げますよ、藍染サン」
「ふん。よく見ろ、今の私はオオカミだ。つまり最近流行りの人外×少女だ。コンプライアンス的に――」
「よくないです。全ッ然、よくありませんから!」
赤ずきんの忍耐袋の尾が、キレた。
真・オオカミにはゆで卵を丸々一個飲み込ませ、狩人には猫缶を――脳天目掛けて投げつけた。
カコーーーン!と快い音が、舞台に響き渡った。
***
「……そもそも名無しを赤ずきん役にしたのがミスキャストでしょう、乱菊さん。」
「だってぇ、面白そうだったし。それに赤ずきんの衣装着た名無しを見たいって各所から要望がきたんだもの。」
「……どこからですか。」
「聞きたい?」
「いや。やっぱやめときます。」
簀巻きになった恋次が、重々しい溜息をついた。
憐れなオオカミに幸あれ。