short story
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「おのれ、喜助め!」
珍しい。
夜一と浦原が、どうやら喧嘩したらしい。
まぁ幼馴染とは言えども、やはり馬が合わない時はあるのだろう。
下手に手を出せば拗れかねない。
相談を持ち掛けられたら、関わることにしよう。
そう、心の中でそっと誓ったのに。
「……………………腹いせじゃ。」
そう呟いた夜一に、あっという間に尸魂界に連行されてしまった。
腹いせで私の平穏な生活を乱すのはやめてください、夜一さん!
ちゅ〜る誘拐事件簿
「まぁ寛ぐといい。」
不機嫌な顔で、上座に座る夜一。
ここは貴族街にある、四楓院家屋敷。
当主は夜一の弟・夕四郎が継いでいるが、前当主ということもあって屋敷には自由に出入りが出来るらしい。
所作が驚く程に美しい侍女が、茶菓子と高級玉露を置いていったのが約5分前。
寛げ、と言われても『はいそうですか、では遠慮なく』――とは言えない。無理だ。
高い天井。調度品の洗練っぷり。
決して派手ではないが、装飾の繊細さ・緻密さから見て、この部屋がいかに『格式高い』か素人でも分かる。
朽木家の屋敷が室町時代の屋敷だとすれば、こちらはどちらかというと平安寄りだろうか。
……いや、どこかシックな色合いは中国のオリエンタルさも感じられる。
何せ出されている茶器やら皿、全てが見るからにお高そうだ。
こんなものを百均の湯のみのように扱っている夜一は、やはり普段は野良猫生活をしていても『貴族』なのだと再認識した。
「あの、夜一さん?」
「なんじゃ。」
「浦原さんとはどうして喧嘩されたので…?」
聞きたくない。
本当はこんな面倒くさいことは聞きたくない。
しかし聞く訳にもいかまい。
これを解決せねば現世には戻れないと本能が告げている。
本気を出せば逃げ遂せることは出来るかもしれないが、二度目に捕まった時が怖い。
浦原よりもよっぽど人間らしく、良識人で、相手の都合をきちんと汲む人物とはいえ、『あの浦原喜助の幼馴染』だ。
破天荒ぶりではどっこいどっこいである。
火に油を注ぐほど、名無しは馬鹿ではない。
「よくぞ聞いてくれた、名無し!喜助のヤツ、最近話題の『ちゅ〜る』とやらを仕入れておくと言っておったのに、忘れていたと申すのじゃぞ!?けしからん!」
……………………。
なるほど。CIA〇ちゅ〜る。
私はそれで拉致されたんですか。
「まぁ、忘れてる浦原さんが……悪いですね。」
「そうじゃろう!儂のための馳走を忘れるなら、ヤツにとっての馳走を奪うに限る。うむ、儂ナイスアイデアじゃの」
呆れた色はなるべく出さず、名無しは極めて冷静に応対する。
確かに浦原が悪いが、かといって私を巻き込む理由にしては些か………いや、かなりしょうもない。
一応現世の警備も担当しているのだ。
一護がいるから多少は大丈夫だろうが……いやはや勘弁して欲しい。
「あの、ちゅ〜るでしたら私がすぐに買ってくるので…」
「ダメじゃ。名無し、分かっておるのか?そうやって彼奴を甘やかすから付け上がるのじゃぞ?」
なぜ私が説教されているのだろう。
甘やかしているというより、正確にはこの面倒くさい状況をとっとと打破してしまいたいというのが本音だ。やってられるか、こんなこと。
「…というか、浦原さんの馳走って。まるで人をちゅ〜るみたいな言い方…」
「いや、実際そうじゃろ?」
脇息に肘を置き、ニタニタと笑う夜一。
……嫌な予感しかしない。
「ほれ、ちゅ〜るは猫が舐めて食すじゃろ?」
「…舐めますね。」
「おぬしも喜助のヤツににゃんにゃんぺろぺ…」
「わーわーわー!言わなくていいです!結構です!」
ほら見た事か!
そういえばこの人も中々性に対して開放的な人だった!
耳を塞いで聞かないふりをすれば、おもむろに口へ放り込まれる茶菓子。
上座に座っていた夜一が、瞬歩でも使ったのだろう。目の前で……それはもう心底面白そうに笑っていた。
「なぁに。美味しく食われているなら何よりじゃ。」
「ふがふが(どこがですか)」
上質な抹茶餡がたっぷり入った饅頭は、それはもう美味しかった。…あとで何処で仕入れたのか、聞いておくことにしよう。
「どれ。儂も少し味見をしてみるかの」
前言撤回。
饅頭を味わっている暇なんてないようだ。
掴まれる手首。
白打の神域に達している彼女の手を、力づくで振り払うことは不可能だ。
しかも名無しは白打に関しては普通の一般隊士といい勝負か、それ以下だ。
捕まったなら最後。夜一から逃げることは無理と言えるだろう。
「ふがっ、んぐ、ゲホッ、けほ、夜一さん、冗談ですよね!?」
「ん?何がじゃ?」
饅頭を食道に押し込み、ニタニタと笑う夜一へ必死に抗議する名無し。
冗談じゃない。夜一に妙なことをされたら、私の命が危うい。
主に、浦原と砕蜂から。
エキゾチックに上げられた口角。
舌なめずりする様は、さながら肉食獣のようだ。
ダメだ、駄目だダメだ、だめだってば。
近づいてくる唇に、思わず目をぎゅっと瞑った時だった。
ちゅぅっ。
スパーーーン!
「………へ、」
「ふむ。柔らかい餅のようじゃの。」
「夜一サン!何してるンっスか!?」
「遅いぞ喜助。見ての通り『味見』じゃよ。」
頬に当たった唇の感触。
軽く、食まれた。食べられてしまった。
それと同時に勢いよく開く襖。
……浦原さん、豪華な屋敷なんですから壊さないようにお願いします。
「ホント堪え性のない人っスね、あぁもう。夜一サンが御所望なのはこれでしょう!」
袋いっぱいに詰められた、CIA〇ちゅ〜る。
急いで買ってきたのか、袋の中にレシートまで押し込まれていた。
「最初から喜助が用意していれば、儂だって強硬手段は取らなかったのじゃがな。」
「…全くです。」
「名無しサン!?どっちの味方っスか!」
「どっちの味方でもありませんよ!もう」
寿命が縮んだ気がした。
……いや、頬にキスも十分砕蜂からしばかれる要因になりかねない。ここは黙っておこう、そうしよう。
「というかウチの子に何勝手にチューしてるンっスか。」
「喧しい。お主がちゅ〜るを用意するのがもう少し遅ければ、そのままくんずほぐれつの貝合わせをしてやろうと企んでおったのに……」
……聞かなかったことにしよう。
あれだ、きっと平安貴族が遊んでたアレでしょう。うん。
くんずほぐれつとか聞こえたけど聞こえません。あーあーあー!
「夜一サン、その悪い癖どうにかならないンっスか?」
「なぁに。女のイイところは女が一番よく知っておるもんじゃ。のう?名無し。」
「〜〜ッいいから私を早く家に帰してくださいー!」
貴族の屋敷に似つかわしくない、名無しの悲痛な叫びが虚しく響き渡った。
珍しい。
夜一と浦原が、どうやら喧嘩したらしい。
まぁ幼馴染とは言えども、やはり馬が合わない時はあるのだろう。
下手に手を出せば拗れかねない。
相談を持ち掛けられたら、関わることにしよう。
そう、心の中でそっと誓ったのに。
「……………………腹いせじゃ。」
そう呟いた夜一に、あっという間に尸魂界に連行されてしまった。
腹いせで私の平穏な生活を乱すのはやめてください、夜一さん!
ちゅ〜る誘拐事件簿
「まぁ寛ぐといい。」
不機嫌な顔で、上座に座る夜一。
ここは貴族街にある、四楓院家屋敷。
当主は夜一の弟・夕四郎が継いでいるが、前当主ということもあって屋敷には自由に出入りが出来るらしい。
所作が驚く程に美しい侍女が、茶菓子と高級玉露を置いていったのが約5分前。
寛げ、と言われても『はいそうですか、では遠慮なく』――とは言えない。無理だ。
高い天井。調度品の洗練っぷり。
決して派手ではないが、装飾の繊細さ・緻密さから見て、この部屋がいかに『格式高い』か素人でも分かる。
朽木家の屋敷が室町時代の屋敷だとすれば、こちらはどちらかというと平安寄りだろうか。
……いや、どこかシックな色合いは中国のオリエンタルさも感じられる。
何せ出されている茶器やら皿、全てが見るからにお高そうだ。
こんなものを百均の湯のみのように扱っている夜一は、やはり普段は野良猫生活をしていても『貴族』なのだと再認識した。
「あの、夜一さん?」
「なんじゃ。」
「浦原さんとはどうして喧嘩されたので…?」
聞きたくない。
本当はこんな面倒くさいことは聞きたくない。
しかし聞く訳にもいかまい。
これを解決せねば現世には戻れないと本能が告げている。
本気を出せば逃げ遂せることは出来るかもしれないが、二度目に捕まった時が怖い。
浦原よりもよっぽど人間らしく、良識人で、相手の都合をきちんと汲む人物とはいえ、『あの浦原喜助の幼馴染』だ。
破天荒ぶりではどっこいどっこいである。
火に油を注ぐほど、名無しは馬鹿ではない。
「よくぞ聞いてくれた、名無し!喜助のヤツ、最近話題の『ちゅ〜る』とやらを仕入れておくと言っておったのに、忘れていたと申すのじゃぞ!?けしからん!」
……………………。
なるほど。CIA〇ちゅ〜る。
私はそれで拉致されたんですか。
「まぁ、忘れてる浦原さんが……悪いですね。」
「そうじゃろう!儂のための馳走を忘れるなら、ヤツにとっての馳走を奪うに限る。うむ、儂ナイスアイデアじゃの」
呆れた色はなるべく出さず、名無しは極めて冷静に応対する。
確かに浦原が悪いが、かといって私を巻き込む理由にしては些か………いや、かなりしょうもない。
一応現世の警備も担当しているのだ。
一護がいるから多少は大丈夫だろうが……いやはや勘弁して欲しい。
「あの、ちゅ〜るでしたら私がすぐに買ってくるので…」
「ダメじゃ。名無し、分かっておるのか?そうやって彼奴を甘やかすから付け上がるのじゃぞ?」
なぜ私が説教されているのだろう。
甘やかしているというより、正確にはこの面倒くさい状況をとっとと打破してしまいたいというのが本音だ。やってられるか、こんなこと。
「…というか、浦原さんの馳走って。まるで人をちゅ〜るみたいな言い方…」
「いや、実際そうじゃろ?」
脇息に肘を置き、ニタニタと笑う夜一。
……嫌な予感しかしない。
「ほれ、ちゅ〜るは猫が舐めて食すじゃろ?」
「…舐めますね。」
「おぬしも喜助のヤツににゃんにゃんぺろぺ…」
「わーわーわー!言わなくていいです!結構です!」
ほら見た事か!
そういえばこの人も中々性に対して開放的な人だった!
耳を塞いで聞かないふりをすれば、おもむろに口へ放り込まれる茶菓子。
上座に座っていた夜一が、瞬歩でも使ったのだろう。目の前で……それはもう心底面白そうに笑っていた。
「なぁに。美味しく食われているなら何よりじゃ。」
「ふがふが(どこがですか)」
上質な抹茶餡がたっぷり入った饅頭は、それはもう美味しかった。…あとで何処で仕入れたのか、聞いておくことにしよう。
「どれ。儂も少し味見をしてみるかの」
前言撤回。
饅頭を味わっている暇なんてないようだ。
掴まれる手首。
白打の神域に達している彼女の手を、力づくで振り払うことは不可能だ。
しかも名無しは白打に関しては普通の一般隊士といい勝負か、それ以下だ。
捕まったなら最後。夜一から逃げることは無理と言えるだろう。
「ふがっ、んぐ、ゲホッ、けほ、夜一さん、冗談ですよね!?」
「ん?何がじゃ?」
饅頭を食道に押し込み、ニタニタと笑う夜一へ必死に抗議する名無し。
冗談じゃない。夜一に妙なことをされたら、私の命が危うい。
主に、浦原と砕蜂から。
エキゾチックに上げられた口角。
舌なめずりする様は、さながら肉食獣のようだ。
ダメだ、駄目だダメだ、だめだってば。
近づいてくる唇に、思わず目をぎゅっと瞑った時だった。
ちゅぅっ。
スパーーーン!
「………へ、」
「ふむ。柔らかい餅のようじゃの。」
「夜一サン!何してるンっスか!?」
「遅いぞ喜助。見ての通り『味見』じゃよ。」
頬に当たった唇の感触。
軽く、食まれた。食べられてしまった。
それと同時に勢いよく開く襖。
……浦原さん、豪華な屋敷なんですから壊さないようにお願いします。
「ホント堪え性のない人っスね、あぁもう。夜一サンが御所望なのはこれでしょう!」
袋いっぱいに詰められた、CIA〇ちゅ〜る。
急いで買ってきたのか、袋の中にレシートまで押し込まれていた。
「最初から喜助が用意していれば、儂だって強硬手段は取らなかったのじゃがな。」
「…全くです。」
「名無しサン!?どっちの味方っスか!」
「どっちの味方でもありませんよ!もう」
寿命が縮んだ気がした。
……いや、頬にキスも十分砕蜂からしばかれる要因になりかねない。ここは黙っておこう、そうしよう。
「というかウチの子に何勝手にチューしてるンっスか。」
「喧しい。お主がちゅ〜るを用意するのがもう少し遅ければ、そのままくんずほぐれつの貝合わせをしてやろうと企んでおったのに……」
……聞かなかったことにしよう。
あれだ、きっと平安貴族が遊んでたアレでしょう。うん。
くんずほぐれつとか聞こえたけど聞こえません。あーあーあー!
「夜一サン、その悪い癖どうにかならないンっスか?」
「なぁに。女のイイところは女が一番よく知っておるもんじゃ。のう?名無し。」
「〜〜ッいいから私を早く家に帰してくださいー!」
貴族の屋敷に似つかわしくない、名無しの悲痛な叫びが虚しく響き渡った。