ハローガール!シリーズ
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子供用の義骸を作り終えて、浦原は首を回しながら研究室から出てくる。
ポキポキと首の骨が鳴る音が、寝静まった商店内に静かに響いた。
…さて。
シャワーでも浴びて、とっとと寝てしまおう。
浦原は欠伸を噛み殺しながら、気だるそうな歩調で脱衣所へ向かった。
ハローガール!#02
違和感に気づいたのは、歯を磨いている時だった。
シャコシャコと一定のリズムを刻んでいた手を止め、ぐるりと辺りを一巡する。
鉄裁が張った結界は完璧だ。
霊圧を感知させず、完全遮断できる鬼道を扱えるのは、流石元・鬼道衆の長と言えるだろう。
欠点を挙げるとすれば、商店内にいる人物の霊圧の感知も、互いに出来なくなるくらいか。
だから、この違和感は単純な『気配』だ。
とてとて、とてとて。
土踏まずが未発達の、独特な足音。
それは逃げ惑うように、あっちへいったり、こっちへいったり。
足音が止まった先は、板張りの薄暗い廊下。
そこを覗き込めば――
もぞりと動く、毛布の塊。
『ひとりでねれるもん』と強がっていた少女がそこにいた。
「シノサン?」
声を掛ければ面白い程に飛び上がる。
ふんふわの毛布に包まれた毛玉は、恐る恐るこちらを振り返った。
鼻の頭を真っ赤にして、声もあげず、いまにも泣き出しそうな顔の少女がそこにいた。
「どしたんっスか?こんなとこで。おトイレなら反対っスよ。」
子供目線でしゃがみ、ふた周りほど小さくなった頭をそろりと撫でる。
幼女独特の、ふわふわとした細い髪の毛が妙に心地よかった。
「…………てんじょーが、」
「天井?」
毛布ごとシノを抱き抱えて、階段を上る。
ふにふにとした紅葉のような手が、ボクの寝間着をきゅっと握るのを見て、なんとも言えない気持ちが湧き上がった。
シノの自室へ入り、天井を見上げる。
板張りの天井の木目。
言われなくても分かる。
確かに人の顔に見えなくも、ない。
「おばけに見えたンっスか?」
そう問えば、毛布の中の少女が小さく頷く。
――そういえば、人ならざるものが見える子だった。
それは虚だったのかもしれないし、それこそ妖の類いだったのかもしれない。
少なくとも『素質』があった彼女は、人には見えない何かと隣り合わせで、ずっと生きてきたのだろう。
怯えるのも無理はない。
「怖かったのなら雨や鉄裁サンを起こしてよかったンっスよ?」
「……………………おかあさんと、おとうさんは、怒るから…」
その一言で『あぁ、なるほど』と色々腑に落ちた。落ちてしまった。
父母には見えない何か。
それに怯えて起きて、無闇に起こされてしまったら。
見えない人間からしたら、ただの子供の虚言に聞こえるだろう。
だからこそ逃げ惑うように部屋から出て、怖くない場所を探していたのだろうか。
(三つ子の魂百まで、とは言いますけど)
彼女の今の人格形成が垣間見えてしまって、何だか複雑な心境になってしまった。
甘え下手で、意地っ張りで、泣き言も言わず。
育った環境が劣悪だった…とまでは言わないが、彼女のような体質であれば決して『良い』とは言えない環境だっただろう。
「大丈夫っスよ。ここにいる皆さんは、シノサンと同じでオバケが見える人達っスから」
「…おじちゃんも?」
「オニーサンっス。」
……無精髭を剃るべきか。
悪意ない『おじさん呼ばわり』に、年甲斐もなく傷ついてしまった。
「オバケが出てきても、ボクがやっつけてあげますから。」
「……やっつけれるの?ほんと?」
「えぇ。だから大丈夫っスよ。約束です。」
細い小指に、無骨な小指を絡める。
子供じみた口約束にほっとしたのか、強ばっていたシノの表情はふにゃりとほどけた。
「とりあえず、今日はボクと寝ちゃいましょう。怖かったりしたらいつでも起こしてくれて構いませんので」
抱き抱えたままの背中をぽんぽんと撫でれば、シノは小さく頷いた。
子供独特の湯たんぽのような体温に、ボクは思わず目尻を蕩けた。
ポキポキと首の骨が鳴る音が、寝静まった商店内に静かに響いた。
…さて。
シャワーでも浴びて、とっとと寝てしまおう。
浦原は欠伸を噛み殺しながら、気だるそうな歩調で脱衣所へ向かった。
ハローガール!#02
違和感に気づいたのは、歯を磨いている時だった。
シャコシャコと一定のリズムを刻んでいた手を止め、ぐるりと辺りを一巡する。
鉄裁が張った結界は完璧だ。
霊圧を感知させず、完全遮断できる鬼道を扱えるのは、流石元・鬼道衆の長と言えるだろう。
欠点を挙げるとすれば、商店内にいる人物の霊圧の感知も、互いに出来なくなるくらいか。
だから、この違和感は単純な『気配』だ。
とてとて、とてとて。
土踏まずが未発達の、独特な足音。
それは逃げ惑うように、あっちへいったり、こっちへいったり。
足音が止まった先は、板張りの薄暗い廊下。
そこを覗き込めば――
もぞりと動く、毛布の塊。
『ひとりでねれるもん』と強がっていた少女がそこにいた。
「シノサン?」
声を掛ければ面白い程に飛び上がる。
ふんふわの毛布に包まれた毛玉は、恐る恐るこちらを振り返った。
鼻の頭を真っ赤にして、声もあげず、いまにも泣き出しそうな顔の少女がそこにいた。
「どしたんっスか?こんなとこで。おトイレなら反対っスよ。」
子供目線でしゃがみ、ふた周りほど小さくなった頭をそろりと撫でる。
幼女独特の、ふわふわとした細い髪の毛が妙に心地よかった。
「…………てんじょーが、」
「天井?」
毛布ごとシノを抱き抱えて、階段を上る。
ふにふにとした紅葉のような手が、ボクの寝間着をきゅっと握るのを見て、なんとも言えない気持ちが湧き上がった。
シノの自室へ入り、天井を見上げる。
板張りの天井の木目。
言われなくても分かる。
確かに人の顔に見えなくも、ない。
「おばけに見えたンっスか?」
そう問えば、毛布の中の少女が小さく頷く。
――そういえば、人ならざるものが見える子だった。
それは虚だったのかもしれないし、それこそ妖の類いだったのかもしれない。
少なくとも『素質』があった彼女は、人には見えない何かと隣り合わせで、ずっと生きてきたのだろう。
怯えるのも無理はない。
「怖かったのなら雨や鉄裁サンを起こしてよかったンっスよ?」
「……………………おかあさんと、おとうさんは、怒るから…」
その一言で『あぁ、なるほど』と色々腑に落ちた。落ちてしまった。
父母には見えない何か。
それに怯えて起きて、無闇に起こされてしまったら。
見えない人間からしたら、ただの子供の虚言に聞こえるだろう。
だからこそ逃げ惑うように部屋から出て、怖くない場所を探していたのだろうか。
(三つ子の魂百まで、とは言いますけど)
彼女の今の人格形成が垣間見えてしまって、何だか複雑な心境になってしまった。
甘え下手で、意地っ張りで、泣き言も言わず。
育った環境が劣悪だった…とまでは言わないが、彼女のような体質であれば決して『良い』とは言えない環境だっただろう。
「大丈夫っスよ。ここにいる皆さんは、シノサンと同じでオバケが見える人達っスから」
「…おじちゃんも?」
「オニーサンっス。」
……無精髭を剃るべきか。
悪意ない『おじさん呼ばわり』に、年甲斐もなく傷ついてしまった。
「オバケが出てきても、ボクがやっつけてあげますから。」
「……やっつけれるの?ほんと?」
「えぇ。だから大丈夫っスよ。約束です。」
細い小指に、無骨な小指を絡める。
子供じみた口約束にほっとしたのか、強ばっていたシノの表情はふにゃりとほどけた。
「とりあえず、今日はボクと寝ちゃいましょう。怖かったりしたらいつでも起こしてくれて構いませんので」
抱き抱えたままの背中をぽんぽんと撫でれば、シノは小さく頷いた。
子供独特の湯たんぽのような体温に、ボクは思わず目尻を蕩けた。