暦が変わり、暖冬と言われる4月の初日はすっかり春の陽気だった。
そろそろ三時のおやつが恋しくなる時間は、惰眠を貪るにはぴったりだろう。

「名無しサン、今日はエイプリルフールっスね。」

家事を終え、マユリへの報告書を書いていた名無しへ、上機嫌で話しかける浦原。
そんな彼を至極面倒くさそうにちらりと見遣る名無し。
仕事中でなければ適当に返事を返すのだが、生憎上司への報告書を作っている最中だ。あまり話しかけて欲しくないのが本音である。

「そうですね。」
「何かウソつかないんっスか？」

そうはいっても嘘をつくのが目の前の男に比べて極端に下手くそな名無しだ。
何を言っても面白いことにはならないだろうし、そもそも催促されて言うものでも――


『ねぇ、知ってる？エイプリルフールってね……』


少し前。
織姫がワクワクした表情で教えてくれた豆知識が脳裏に過った。
時計を見れば14時47分。

時間も、バッチリだ。


「そうですね…」


報告書を仕上げ、名無しはニヤリと口角を上げる。
それは勝利を確信したようにも見えるし、珍しく底意地の悪い笑みにも見えた。


「浦原さん、愛してますよ。」


ふふっと笑い、義骸を脱いでさっさと立ち上がる名無し。
一瞬不意打ちを食らったような顔をする浦原だが、流石というべきかすぐさま我に返った。

「ちょ、ちょっと名無しサン！エイプリルフールっスよ！？」
「そうですよ。」

否定も肯定もせず、地獄蝶を飛ばしてとっとと穿界門を解錠すれば浦原が顔を青ざめている。

たまにはいいだろう。おちょくられてしまえばいい。



「知ってました？エイプリルフールの嘘って、午前中だけ有効だそうです。」



これを言えば頭のいい彼は瞬時に理解するだろう。
マユリへの報告書を持って、尸魂界へ逃げるように向かえば

「言い逃げは卑怯っスよ〜！」

……なんて、嬉しそうな声が聞こえた。
なんて可愛い、単純な人。



うそつきの愛情表現



（そもそもエイプリルフールの嘘で『好き』だとか『嫌い』だとか、言うわけないんだけど）

そんな嘘なんて必要ないくらい、あなたのことが大好きなのだから。