short story
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夜道を歩いていると、それは現れた。
月明かりに照らされた金髪は、夜闇に溶けるつもりは毛頭ないようだ。
気の抜けた炭酸のようにへらへらと笑う顔は正直ムカつくくらい端正で、出会い方が普通なら恋に落ちていたかもしれない。
でも、残念ながら出会い方は最悪。
通り魔的犯行と言っても差し支えないだろう。
首筋に立てられた牙。
鈍い痛みとあまい痛み。ぷつりと皮膚が破れる感覚と、ふわりと熱が抜けていく感覚。
咄嗟のことすぎて、恐怖のせいで声も出ない。
強ばる身体は痛いくらいだった。
しかも、この男。
人の血を味わった後になんて言ったと思う?
「ボクのお嫁さんにならないっスか?」
ですって。聞きました?奥さん。
この『浦原喜助』と名乗る吸血鬼は、とんでもない変態でクズだったのだ。
ハロー、吸血鬼さん
「全く、崖から落ちそうになるなんて。大怪我したらどうするんっスか」
やれやれと息をつく吸血鬼の前で、ぶすっと不機嫌そうに眉を顰める。
作らざるを得ない状況にしているのは目の前の男がそもそもの原因だというのに、なんて白々しい。
「かすり傷もまた増えちゃってるじゃないっスか。あーあ、玉のお肌が台無しっスよ」
「その玉のお肌に、夜道で牙を立てたのはどこの変質者でしたっけ?」
「え。そんな酷いヤツがいるんっスか?最低っスね」
「鏡を見てから言って貰えます!?」
森の奥深い、一軒家。
吸血鬼といったら洋風な城、貴族風な格好が定番だろうに。
(この間から思ってたけど、なんで和風。)
目の前でにこにこしながら包帯を取り出す浦原を見れば…
だらしなく着崩した老竹色の着物。
床は少し色褪せた畳。
土間には下駄が転がっていた。
紛うことなき完全な日本家屋だ。
「そもそも、名無しサンが逃げ出そうって気を起こさなければ怪我なんかしなくて済んだんっスよ?」
「誘拐されたら逃げ出そうとするのは普通のことですけど」
「いやいや。森の中は危ないっスよ?ほら、血も出ちゃって。勿体ない。」
そう言いながら、擦り傷を作ってしまった私の手に触れる彼。
長い指。吸血鬼らしく尖った爪。
生ぬるい…いや、少しひんやりとした指先が触れただけで、バクンと心臓が跳ね上がった。…気がした。
反射的に手を引っ込め、見せないように背に隠す。
…いやいや、これはほら。
捕食される側の動物的な本能だ。
心臓の心拍数が跳ね上がってる?
それもあれだ。捕食される側の恐怖とか、ほら、こう、色々。
「名無しサン、顔真っ赤っスけど。」
「き、気のせいです。触らないでください!」
「包帯巻くだけっスよぅ。あとほら。絆創膏とかも貼っちゃいましょ」
そう言って出会った時と同じような、ゆるゆるとした笑顔を向けてきた。
ぐっと言葉を呑み込んで、観察するように浦原を見遣れば、相も変わらずヘラヘラと笑っている。
胡散臭さ半分、毒気が抜かれる半分、といったところか。
恐る恐る手の甲を差し出せば、「いい子っスね」と目を細めて笑う。
ズルい。その顔は反則だ。
「…傷、舐められるのかと。」
「え?舐めてもいいんっスか?」
「だ、ダメに決まっているでしょう!」
「えー…名無しサンの血、過去最高に美味しいのに…」
「痛いのは嫌です。」
当たり前だ。細くもない牙を身体に立てられて、喜ぶ人間なんて早々いないだろう。
いるとしても、その人は相当のドMだ。間違いない。
「前みたいに痛くはしないっスよぉ。ちょーっと気持ちイイくらいで。」
「は、はい?どういう、」
ことですか。
質問することも許されぬまま、擦り傷を作った手の甲に口付けを落とされる。
やわらかい。あつい。
傷口に這う舌に、寒気とは違うゾワリとした感覚が背中にはしる。
痛くはない。痛くは、ないけれども、
「ほら、指先も傷が。」
「う、あっ、や、だめです、ってば…っそれ、へん…っ」
「んむ?」
白く尖った犬歯の間から覗く舌で、傷口をまさに『味わう』浦原。
その光景もさることながら、愛撫されるような舌技に劣情を煽られた。
顔が、火照る。
心臓がうるさい。
落ち着け。目の前の男は吸血鬼で、変態で、誘拐犯で、とんでもなく
「名無しサン、えっちな顔になってるっスよ?」
ズルい、大人だ。
そんな顔で笑うのは、やっぱり反則だ。
チートだ。
「な、なめるの、だめって言ってるじゃないですか…!」
「聞こえないっス。ほら、こんなところにも傷が。」
頬に音を立てながらキスをひとつ。
本当に傷もあったのか、ぺろりと舌を這わすのも忘れずに。
「ひえっ!?
〜〜っや、やっぱり帰ります!何としてでも脱走します!!」
「えー、ボクと一緒にひとつ屋根の下で暮らしましょうよぉ」
哀れな子羊と吸血鬼の攻防は、はじまったばかり。
月明かりに照らされた金髪は、夜闇に溶けるつもりは毛頭ないようだ。
気の抜けた炭酸のようにへらへらと笑う顔は正直ムカつくくらい端正で、出会い方が普通なら恋に落ちていたかもしれない。
でも、残念ながら出会い方は最悪。
通り魔的犯行と言っても差し支えないだろう。
首筋に立てられた牙。
鈍い痛みとあまい痛み。ぷつりと皮膚が破れる感覚と、ふわりと熱が抜けていく感覚。
咄嗟のことすぎて、恐怖のせいで声も出ない。
強ばる身体は痛いくらいだった。
しかも、この男。
人の血を味わった後になんて言ったと思う?
「ボクのお嫁さんにならないっスか?」
ですって。聞きました?奥さん。
この『浦原喜助』と名乗る吸血鬼は、とんでもない変態でクズだったのだ。
ハロー、吸血鬼さん
「全く、崖から落ちそうになるなんて。大怪我したらどうするんっスか」
やれやれと息をつく吸血鬼の前で、ぶすっと不機嫌そうに眉を顰める。
作らざるを得ない状況にしているのは目の前の男がそもそもの原因だというのに、なんて白々しい。
「かすり傷もまた増えちゃってるじゃないっスか。あーあ、玉のお肌が台無しっスよ」
「その玉のお肌に、夜道で牙を立てたのはどこの変質者でしたっけ?」
「え。そんな酷いヤツがいるんっスか?最低っスね」
「鏡を見てから言って貰えます!?」
森の奥深い、一軒家。
吸血鬼といったら洋風な城、貴族風な格好が定番だろうに。
(この間から思ってたけど、なんで和風。)
目の前でにこにこしながら包帯を取り出す浦原を見れば…
だらしなく着崩した老竹色の着物。
床は少し色褪せた畳。
土間には下駄が転がっていた。
紛うことなき完全な日本家屋だ。
「そもそも、名無しサンが逃げ出そうって気を起こさなければ怪我なんかしなくて済んだんっスよ?」
「誘拐されたら逃げ出そうとするのは普通のことですけど」
「いやいや。森の中は危ないっスよ?ほら、血も出ちゃって。勿体ない。」
そう言いながら、擦り傷を作ってしまった私の手に触れる彼。
長い指。吸血鬼らしく尖った爪。
生ぬるい…いや、少しひんやりとした指先が触れただけで、バクンと心臓が跳ね上がった。…気がした。
反射的に手を引っ込め、見せないように背に隠す。
…いやいや、これはほら。
捕食される側の動物的な本能だ。
心臓の心拍数が跳ね上がってる?
それもあれだ。捕食される側の恐怖とか、ほら、こう、色々。
「名無しサン、顔真っ赤っスけど。」
「き、気のせいです。触らないでください!」
「包帯巻くだけっスよぅ。あとほら。絆創膏とかも貼っちゃいましょ」
そう言って出会った時と同じような、ゆるゆるとした笑顔を向けてきた。
ぐっと言葉を呑み込んで、観察するように浦原を見遣れば、相も変わらずヘラヘラと笑っている。
胡散臭さ半分、毒気が抜かれる半分、といったところか。
恐る恐る手の甲を差し出せば、「いい子っスね」と目を細めて笑う。
ズルい。その顔は反則だ。
「…傷、舐められるのかと。」
「え?舐めてもいいんっスか?」
「だ、ダメに決まっているでしょう!」
「えー…名無しサンの血、過去最高に美味しいのに…」
「痛いのは嫌です。」
当たり前だ。細くもない牙を身体に立てられて、喜ぶ人間なんて早々いないだろう。
いるとしても、その人は相当のドMだ。間違いない。
「前みたいに痛くはしないっスよぉ。ちょーっと気持ちイイくらいで。」
「は、はい?どういう、」
ことですか。
質問することも許されぬまま、擦り傷を作った手の甲に口付けを落とされる。
やわらかい。あつい。
傷口に這う舌に、寒気とは違うゾワリとした感覚が背中にはしる。
痛くはない。痛くは、ないけれども、
「ほら、指先も傷が。」
「う、あっ、や、だめです、ってば…っそれ、へん…っ」
「んむ?」
白く尖った犬歯の間から覗く舌で、傷口をまさに『味わう』浦原。
その光景もさることながら、愛撫されるような舌技に劣情を煽られた。
顔が、火照る。
心臓がうるさい。
落ち着け。目の前の男は吸血鬼で、変態で、誘拐犯で、とんでもなく
「名無しサン、えっちな顔になってるっスよ?」
ズルい、大人だ。
そんな顔で笑うのは、やっぱり反則だ。
チートだ。
「な、なめるの、だめって言ってるじゃないですか…!」
「聞こえないっス。ほら、こんなところにも傷が。」
頬に音を立てながらキスをひとつ。
本当に傷もあったのか、ぺろりと舌を這わすのも忘れずに。
「ひえっ!?
〜〜っや、やっぱり帰ります!何としてでも脱走します!!」
「えー、ボクと一緒にひとつ屋根の下で暮らしましょうよぉ」
哀れな子羊と吸血鬼の攻防は、はじまったばかり。