short story
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バケツをひっくり返したような雨が降りしきる、六月。
視界は灰色。
昨日までは吹き抜けるような初夏の青が空いっぱいに広がっていたというのに、今や見上げれば重苦しい分厚い雨雲が彼方まで覆い尽くしていた。
「た、ただいま帰りました」
少し息を切らし、浦原商店の引戸を開けたのは名無しだ。
彼女の姿を見てちょっとだけ面食らった。
「どしたんっスか、名無しサン。ずぶ濡れで」
濡れ鼠と形容するに相応しい、見事なずぶ濡れっぷりだ。
……しかし確か彼女は、今朝傘を持って登校していたはず。
「ええっと、雨宿りしてるおばあさんがいたから…傘を貸してしまって…」
きっと彼女は『大丈夫です、家すぐそこなので』となんでもないように笑って貸してしまったのだろう。
人の悪意をよく知っている上で、中々のお人好し。そういう性分なのだ、目の前の彼女は。
何事も打算的に考えてしまう自分には、到底届かない眩しさだった。
だからこそ、惹かれてしまうのだろうけど。
「だからって名無しサンがずぶ濡れなのはどうかと思いますけどねぇ、ボクは。」
「大丈夫です、これくらいでは風邪引きませんよ」
「いえいえ、そうじゃなくて。」
一言で言えば、まさに眼福。
夏服の空座第一高等学校の制服は白いブラウスに灰色のスカート、真っ赤なリボンのみ。
雨に濡れたら……つまりはお察しだ。
今日はどうやらピンクらしい。
「そうじゃなくて…何ですか?」
「いーえ、なんでもないっスよぉ。
ほら、シャワー浴びて着替えていらっしゃい」
頬に張り付いた髪を指先でやさしく払えば、ヒヤリとした肌の感触。
『一緒にお風呂入っちゃいますぅ?』と茶化して言ってしまえば、更に冷ややかな視線を贈られるのだろう。
ボクは喉まで出かかった言葉を、ぐっと呑み込んだ。
「ありがとうございます」と笑う彼女を見送り…さて、温かいお茶でも用意しようかと、重い腰を上げるのであった。
とある雨の日
ザァザァと降りしきる雨は、まだ止まない。
視界は灰色。
昨日までは吹き抜けるような初夏の青が空いっぱいに広がっていたというのに、今や見上げれば重苦しい分厚い雨雲が彼方まで覆い尽くしていた。
「た、ただいま帰りました」
少し息を切らし、浦原商店の引戸を開けたのは名無しだ。
彼女の姿を見てちょっとだけ面食らった。
「どしたんっスか、名無しサン。ずぶ濡れで」
濡れ鼠と形容するに相応しい、見事なずぶ濡れっぷりだ。
……しかし確か彼女は、今朝傘を持って登校していたはず。
「ええっと、雨宿りしてるおばあさんがいたから…傘を貸してしまって…」
きっと彼女は『大丈夫です、家すぐそこなので』となんでもないように笑って貸してしまったのだろう。
人の悪意をよく知っている上で、中々のお人好し。そういう性分なのだ、目の前の彼女は。
何事も打算的に考えてしまう自分には、到底届かない眩しさだった。
だからこそ、惹かれてしまうのだろうけど。
「だからって名無しサンがずぶ濡れなのはどうかと思いますけどねぇ、ボクは。」
「大丈夫です、これくらいでは風邪引きませんよ」
「いえいえ、そうじゃなくて。」
一言で言えば、まさに眼福。
夏服の空座第一高等学校の制服は白いブラウスに灰色のスカート、真っ赤なリボンのみ。
雨に濡れたら……つまりはお察しだ。
今日はどうやらピンクらしい。
「そうじゃなくて…何ですか?」
「いーえ、なんでもないっスよぉ。
ほら、シャワー浴びて着替えていらっしゃい」
頬に張り付いた髪を指先でやさしく払えば、ヒヤリとした肌の感触。
『一緒にお風呂入っちゃいますぅ?』と茶化して言ってしまえば、更に冷ややかな視線を贈られるのだろう。
ボクは喉まで出かかった言葉を、ぐっと呑み込んだ。
「ありがとうございます」と笑う彼女を見送り…さて、温かいお茶でも用意しようかと、重い腰を上げるのであった。
とある雨の日
ザァザァと降りしきる雨は、まだ止まない。