それは我が目を疑う光景だった。


「浦原さん、おはようございます。」


形のいい唇は柔らかく弧を描き、くるりとした黒眼は磨かれた宝石のようだ。
きちんと梳かれた黒髪は艶やか…なのだが。


ぴょこり。


不自然なまでに主張しているのは、ひと房の寝癖。
彼女からは死角なのだろう。後頭部でしなりのよさそうな竿のように、名無しが動く度にふよふよと揺れていた。

勿論、朝の支度で髪を梳かして整えたのだろうが…この様子からするとかなり頑固な寝癖のようだ。
まるで『意地でも整えられてやるか』と強い意志を感じてしまう程に。

普段滅多に見せることがない、名無しの隙だらけの姿に思わず笑いが零れそうになるのを必死に堪えた。

「おはよう、ございますっス」
「朝ごはん、パンとご飯どっちがいいですか？」
「じゃあご飯で、」

リクエストすれば手際よく用意される朝食。
テキパキと彼女が動けば、やはり寝癖は揺れ続けていて。

浦原は用意された納豆を箸で練りながら、その様子をぼんやりと眺めた。


（さて、いつ言えばいいのやら。）



それはまるで妖怪アンテナ



言うタイミングを逃してしまい、彼女が赤面するのはもう少し後の話。

それに気づいていたのに黙っていた浦原が怒られるのは、その後すぐの話。


「ど、どうして教えてくれなかったんですか！」
「いやぁ、なんか可愛くてつい。」