short story
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バサリ。
物干し竿に広げていたバスタオルを取り込めば、布が風を孕む音が辺りに響く。
気持ちのいいそよ風と、柔らかい日差し。
そろそろ紫外線が気になる季節になってきたが、それはさておき洗濯日和なのはいい事だ。
腕いっぱいに抱えた洗濯物取り込み作業も、これで最後の往復だ。
流石に毎日五人分となればお世辞にも量は少なくない。
畳の上で山盛りになった布の山を、丁寧に畳む作業が今から始まる。
「名無しサン、ご苦労さまっス」
「あ。浦原さん。おはようございます。」
「もう15時っスけどね」
仮眠から目が覚めたであろう浦原が、隣の和室から顔を出す。
端正な頬にはくっきりと畳の跡が残っている。
なんだかそれが可笑しくて、名無しは口を固く噤んで笑いを噛み殺した。
「お茶でもいれましょうか?」
「いえいえ、お構いなく」
畳から立ち上がろうとすると、やんわり手で遮られる。
むしろ洗濯物を畳むことを手伝ってくれるらしい。隣に座り込んで畳みやすそうなタオルをペラリと一枚手に取りはじめた。
「毎日この量っスか。頭が上がりませんねぇ」
「大丈夫ですよ、慣れましたし。」
確かに家事で地味に面倒くさいのは服を畳む作業だ。
枚数が多ければ時間はかかるし、雨とジン太の制服はアイロンの必要だってある。
勿論、その分達成感も一入なのだが…まぁ面倒なものは面倒だ。
畳の上でテキパキとTシャツを畳む名無しの隣で、フェイスタオルの四隅を揃える浦原。
何かに気がついたのか、彼には珍しくスンと鼻を鳴らした。
「…あれ?名無しサン、洗剤変えました?」
「柔軟剤をちょっと。サンプルで貰ったやつなんですけど、これもいい匂いだなーって。」
いつもの柔軟剤より、少しいいお値段の物だ。
ちょっと高級な香り…と言えばいいのだろうか。サンプルのパッケージにはジャスミンの花が描かれていた気がする。
普段使い慣れたものも好きだが、名無しとしてはこの匂いも嫌いじゃなかった。
好評であれば柔軟剤の変更を視野に入れることも吝かではないのだが……。
干したてのタオルに鼻を埋めて、匂いを確かめる浦原の表情はあまりよろしくない。
「……その匂い、あまり好きじゃなかったですか?」
「いやぁ、いい匂いだとは思うんっスけど」
困ったような顔色と言葉は釣り合っていない。
すると不意に身体を傾けて、名無しの肩口に顔を無遠慮に埋める。
スンと匂いをひと嗅ぎすれば、浦原の怪訝な表情は納得したようなものにふわりと変わった。
「うん。いつもの匂いの方が『名無しサンの匂い』って感じっスね」
「…………って、匂いを確かめるなら自分の服を嗅げばいいじゃないですか」
「えー。ボクのはほら。加齢臭ありますし。」
よく言う。
加齢臭なんて此方、漂わせたことなんかないというのに。
呆れたように浦原を見遣れば、意に介さない様子で至近距離で笑っている。
分かっててやっているのだ。この男は。
「もう。洗濯物、早く畳んじゃいましょう」
「はいはい。で、柔軟剤は変えちゃうんっスか?」
「…分かってるくせに。」
Afternoon Fragrance
そんなこと言われたら、変更できるわけないじゃないか。
悪戯っぽく笑う浦原を一瞥して、畳み掛けの洗濯物に視線を落とした。
あぁ、ダメだダメだ。頬が熱い。
物干し竿に広げていたバスタオルを取り込めば、布が風を孕む音が辺りに響く。
気持ちのいいそよ風と、柔らかい日差し。
そろそろ紫外線が気になる季節になってきたが、それはさておき洗濯日和なのはいい事だ。
腕いっぱいに抱えた洗濯物取り込み作業も、これで最後の往復だ。
流石に毎日五人分となればお世辞にも量は少なくない。
畳の上で山盛りになった布の山を、丁寧に畳む作業が今から始まる。
「名無しサン、ご苦労さまっス」
「あ。浦原さん。おはようございます。」
「もう15時っスけどね」
仮眠から目が覚めたであろう浦原が、隣の和室から顔を出す。
端正な頬にはくっきりと畳の跡が残っている。
なんだかそれが可笑しくて、名無しは口を固く噤んで笑いを噛み殺した。
「お茶でもいれましょうか?」
「いえいえ、お構いなく」
畳から立ち上がろうとすると、やんわり手で遮られる。
むしろ洗濯物を畳むことを手伝ってくれるらしい。隣に座り込んで畳みやすそうなタオルをペラリと一枚手に取りはじめた。
「毎日この量っスか。頭が上がりませんねぇ」
「大丈夫ですよ、慣れましたし。」
確かに家事で地味に面倒くさいのは服を畳む作業だ。
枚数が多ければ時間はかかるし、雨とジン太の制服はアイロンの必要だってある。
勿論、その分達成感も一入なのだが…まぁ面倒なものは面倒だ。
畳の上でテキパキとTシャツを畳む名無しの隣で、フェイスタオルの四隅を揃える浦原。
何かに気がついたのか、彼には珍しくスンと鼻を鳴らした。
「…あれ?名無しサン、洗剤変えました?」
「柔軟剤をちょっと。サンプルで貰ったやつなんですけど、これもいい匂いだなーって。」
いつもの柔軟剤より、少しいいお値段の物だ。
ちょっと高級な香り…と言えばいいのだろうか。サンプルのパッケージにはジャスミンの花が描かれていた気がする。
普段使い慣れたものも好きだが、名無しとしてはこの匂いも嫌いじゃなかった。
好評であれば柔軟剤の変更を視野に入れることも吝かではないのだが……。
干したてのタオルに鼻を埋めて、匂いを確かめる浦原の表情はあまりよろしくない。
「……その匂い、あまり好きじゃなかったですか?」
「いやぁ、いい匂いだとは思うんっスけど」
困ったような顔色と言葉は釣り合っていない。
すると不意に身体を傾けて、名無しの肩口に顔を無遠慮に埋める。
スンと匂いをひと嗅ぎすれば、浦原の怪訝な表情は納得したようなものにふわりと変わった。
「うん。いつもの匂いの方が『名無しサンの匂い』って感じっスね」
「…………って、匂いを確かめるなら自分の服を嗅げばいいじゃないですか」
「えー。ボクのはほら。加齢臭ありますし。」
よく言う。
加齢臭なんて此方、漂わせたことなんかないというのに。
呆れたように浦原を見遣れば、意に介さない様子で至近距離で笑っている。
分かっててやっているのだ。この男は。
「もう。洗濯物、早く畳んじゃいましょう」
「はいはい。で、柔軟剤は変えちゃうんっスか?」
「…分かってるくせに。」
Afternoon Fragrance
そんなこと言われたら、変更できるわけないじゃないか。
悪戯っぽく笑う浦原を一瞥して、畳み掛けの洗濯物に視線を落とした。
あぁ、ダメだダメだ。頬が熱い。