short story
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近所の少し大きなショッピングモールへ買い物に行った時だった。
賑わう客足、ピンク色のバルーンやリボンで装飾された店内。
催し物のスペースでは有名ホテルやブランドのチョコレートが所狭しと売られていた。
「大盛況っスねぇ」
「バレンタインですから。」
必要最低限の買い物を済ませ、買い物袋を手に下げた浦原が興味深そうに眺めている。
人混みではぐれないように・と、浦原から握られる手にも慣れたのだ。
「名無しサン、あーゆーのは興味あるんじゃないンっスか?」
「ないと言ったら嘘になりますよ。去年は自分の分を買ってこっそり食べ、」
ここまで言って、つい言葉を止めた。
浦原からは『そんなの初耳っスけど』と言わんばかりの視線を送られている。
「……だって、新作のチョコとか、気になるじゃないですか。」
「別にやましいことしてるわけじゃないんっスからいいんじゃないです?
ほら、ボクは毎年名無しサンの手作りチョコ貰ってるんで、それで満足っスよ」
しどろもどろに答えれば、あっけらかんと笑って浦原は肩を竦めた。
そう言ってもらえるのは何より嬉しいのだが。
「……実はまだチェックしてないんですよね。今年の新作。」
「寄ってもいいですか?」と遠慮がちに訊ねると「勿論。」と二つ返事で頷かれる。
そうと決まれば、共犯者になってもらおうじゃないか。
「家へ帰る前にコンビニでコーヒー買って、車の中でこっそり食べましょう、浦原さん。」
「おや。ボクも巻き込んじゃうんっス?」
「秘密を知ったからには口止め料が必要でしょう?」
なんて。
そんなことこをしなくても彼が鉄裁やジン太、雨に話すとは到底思えないけど。
これは、ただの口実だ。
少し良いチョコを、ふたりでこっそり味わう。
うん。ちょっとした背徳感だ。
「名無しサンたら悪い子なんっスからぁ~」
「私だってたまには、こっそり美味しいもの食べたりしたいですもん」
堂々と買って帰ってもいいが、もしもプロの味と比べられたら少しだけ恥ずかしい。
それでもきっと目の前の恋人は『名無しサンの作ってくれたチョコが一番っスよ』と、恥ずかしい台詞を、いとも簡単に紡ぐのだろうけど。
(ありがたいのやら、恥ずかしいのやら)
想像して、ついつい頬が緩んでしまうのは惚れた弱みだろうか。
「どうせだから高級チョコにしましょ。名無しサン気になるの選んじゃってくださいっス」
悪戯っぽく笑う浦原に手を引かれながら、私は女の園――もとい戦場と化しているバレンタインチョコ販売コーナーへ、勇猛に足を踏み入れるのであった。
Secret sweet!
毎年こっそり行っていたチョコレート品評会は、どうやら今年から審査員が二人になりそうだ。
賑わう客足、ピンク色のバルーンやリボンで装飾された店内。
催し物のスペースでは有名ホテルやブランドのチョコレートが所狭しと売られていた。
「大盛況っスねぇ」
「バレンタインですから。」
必要最低限の買い物を済ませ、買い物袋を手に下げた浦原が興味深そうに眺めている。
人混みではぐれないように・と、浦原から握られる手にも慣れたのだ。
「名無しサン、あーゆーのは興味あるんじゃないンっスか?」
「ないと言ったら嘘になりますよ。去年は自分の分を買ってこっそり食べ、」
ここまで言って、つい言葉を止めた。
浦原からは『そんなの初耳っスけど』と言わんばかりの視線を送られている。
「……だって、新作のチョコとか、気になるじゃないですか。」
「別にやましいことしてるわけじゃないんっスからいいんじゃないです?
ほら、ボクは毎年名無しサンの手作りチョコ貰ってるんで、それで満足っスよ」
しどろもどろに答えれば、あっけらかんと笑って浦原は肩を竦めた。
そう言ってもらえるのは何より嬉しいのだが。
「……実はまだチェックしてないんですよね。今年の新作。」
「寄ってもいいですか?」と遠慮がちに訊ねると「勿論。」と二つ返事で頷かれる。
そうと決まれば、共犯者になってもらおうじゃないか。
「家へ帰る前にコンビニでコーヒー買って、車の中でこっそり食べましょう、浦原さん。」
「おや。ボクも巻き込んじゃうんっス?」
「秘密を知ったからには口止め料が必要でしょう?」
なんて。
そんなことこをしなくても彼が鉄裁やジン太、雨に話すとは到底思えないけど。
これは、ただの口実だ。
少し良いチョコを、ふたりでこっそり味わう。
うん。ちょっとした背徳感だ。
「名無しサンたら悪い子なんっスからぁ~」
「私だってたまには、こっそり美味しいもの食べたりしたいですもん」
堂々と買って帰ってもいいが、もしもプロの味と比べられたら少しだけ恥ずかしい。
それでもきっと目の前の恋人は『名無しサンの作ってくれたチョコが一番っスよ』と、恥ずかしい台詞を、いとも簡単に紡ぐのだろうけど。
(ありがたいのやら、恥ずかしいのやら)
想像して、ついつい頬が緩んでしまうのは惚れた弱みだろうか。
「どうせだから高級チョコにしましょ。名無しサン気になるの選んじゃってくださいっス」
悪戯っぽく笑う浦原に手を引かれながら、私は女の園――もとい戦場と化しているバレンタインチョコ販売コーナーへ、勇猛に足を踏み入れるのであった。
Secret sweet!
毎年こっそり行っていたチョコレート品評会は、どうやら今年から審査員が二人になりそうだ。