short story
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「愛妻の日?」
「そっス。1月31日だから、まぁ語呂合わせっスね」
冬真っ只中。
寒波の影響で外の景色が薄らと雪化粧に染められた、1月最終日。
加湿代わりにストーブの上で鎮座するヤカンからは、霞のような湯気がふわふわと立ち上っている。
コタツが暖を灯している居間には、浦原と名無しのふたりきり。
特別な何かをするわけでもなく、浦原は読書を。名無しはみかんの皮を丁寧に剥いていた。
紙を静かに捲る音と、みかんの皮がやわりとさける音と、二人分の呼吸音。
まるで外で静かに降り積もる雪の音まで聞こえてきそうな、柔らかな沈黙だった。
そんな空気をいとも簡単に破ったのは、思い出したかのように呟いた浦原の声だ。
「と言われましても。妻じゃないですし。」
「それは『まだ』の話でしょう?いいじゃないっスかァ、たまには名無しサンの我儘、聞かせてくださいよぉ」
どうやら妻を労う日らしい。
…とまぁ、思いつきで突然言われても、中々『我儘』なんて思いつかないものだ。
強いて言うなら、
「……アイスが食べたいですね」
「冬なのにっスか?」
「コタツで食べるアイスほど、贅沢なおやつはないですよ。」
それが高いアイスなら尚更。
たまにはちょっとお値段の張るアイスを選んでも、バチは当たらないだろう。
なぜなら『愛妻の日』なのだから。
「了解っス。じゃあ買ってきますね」
「あ。待ってください、私も行きます」
「名無しサン労る日なんっスから、留守番してくださっててもいいんっスよ?」
椅子に掛けていた厚手の羽織に袖を通しつつ、小さく浦原が首を傾げる。
確かに彼の言うことは尤もだ。だが、
「どうせならお店であれやこれと選びたいじゃないですか」
「確かにそうっスけど」
「いいじゃないですか、雪の中のお散歩。…今日は私の我儘、聞いてくれる日なんですよね?」
そう言われて断れる男が世の中に何人いるだろうか。
つまり『一緒にいたい』と。
言葉の裏の意味を察して、浦原はつい口元を手で覆ってしまった。
彼女に首ったけ第一号なのだから、当然の反応だろうが。
「…あー押し倒したいっス」
「どうしてそうなるんですか!もう。」
ボクの彼女は世界一
我儘を言ってくれるなら、いつでも叶えよう。
今日じゃなくても、明日も明後日もずっとずっとこれからも。
(愛妻の日が一日だけだなんて、勿体ないっスねぇ)
愛でない日なんて一日たりとも欠かしたことがないのだから、実質毎日『愛妻の日』だろうか?
スーパーのアイスケースの前で、あれやこれを珍しく物色する名無しを眺めながら、浦原はそっと目を細めるのであった。
「そっス。1月31日だから、まぁ語呂合わせっスね」
冬真っ只中。
寒波の影響で外の景色が薄らと雪化粧に染められた、1月最終日。
加湿代わりにストーブの上で鎮座するヤカンからは、霞のような湯気がふわふわと立ち上っている。
コタツが暖を灯している居間には、浦原と名無しのふたりきり。
特別な何かをするわけでもなく、浦原は読書を。名無しはみかんの皮を丁寧に剥いていた。
紙を静かに捲る音と、みかんの皮がやわりとさける音と、二人分の呼吸音。
まるで外で静かに降り積もる雪の音まで聞こえてきそうな、柔らかな沈黙だった。
そんな空気をいとも簡単に破ったのは、思い出したかのように呟いた浦原の声だ。
「と言われましても。妻じゃないですし。」
「それは『まだ』の話でしょう?いいじゃないっスかァ、たまには名無しサンの我儘、聞かせてくださいよぉ」
どうやら妻を労う日らしい。
…とまぁ、思いつきで突然言われても、中々『我儘』なんて思いつかないものだ。
強いて言うなら、
「……アイスが食べたいですね」
「冬なのにっスか?」
「コタツで食べるアイスほど、贅沢なおやつはないですよ。」
それが高いアイスなら尚更。
たまにはちょっとお値段の張るアイスを選んでも、バチは当たらないだろう。
なぜなら『愛妻の日』なのだから。
「了解っス。じゃあ買ってきますね」
「あ。待ってください、私も行きます」
「名無しサン労る日なんっスから、留守番してくださっててもいいんっスよ?」
椅子に掛けていた厚手の羽織に袖を通しつつ、小さく浦原が首を傾げる。
確かに彼の言うことは尤もだ。だが、
「どうせならお店であれやこれと選びたいじゃないですか」
「確かにそうっスけど」
「いいじゃないですか、雪の中のお散歩。…今日は私の我儘、聞いてくれる日なんですよね?」
そう言われて断れる男が世の中に何人いるだろうか。
つまり『一緒にいたい』と。
言葉の裏の意味を察して、浦原はつい口元を手で覆ってしまった。
彼女に首ったけ第一号なのだから、当然の反応だろうが。
「…あー押し倒したいっス」
「どうしてそうなるんですか!もう。」
ボクの彼女は世界一
我儘を言ってくれるなら、いつでも叶えよう。
今日じゃなくても、明日も明後日もずっとずっとこれからも。
(愛妻の日が一日だけだなんて、勿体ないっスねぇ)
愛でない日なんて一日たりとも欠かしたことがないのだから、実質毎日『愛妻の日』だろうか?
スーパーのアイスケースの前で、あれやこれを珍しく物色する名無しを眺めながら、浦原はそっと目を細めるのであった。