short story
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「じゃん。」
日曜日の穏やかな昼下がり。
名無しがやや自慢げに、スーパーの買い物袋をテーブルの上に置いた。
ゴトッ、ゴトン、と天板に当たる鈍い音。それは二つ・三つではない。
何かこう…やや重量のある『何か』が袋詰めにされていた。
「なんだよ、それ」
赤髪をいつものようにざっくりオールバック…ではなく、休日だからだろうか。ヘアバンドで適当に髪を後ろに上げたジン太が袋をまじまじと眺める。
「八百屋さんで安くなっていたから、つい買っちゃった」
sweet sweet POTATO!
「名無し、もういいかな…?」
「うーん、もう少しかな」
集めた枯葉を熾火にして、折れた枝でコロコロと丹念に転がす。
アルミホイルで巻かれたソレは、まさに秋の味覚だ。
ぷすぷすと音を立てながら、薄い煙を揺らす枯葉の山。
そう。これは、
「焚き火で焼き芋なんて久しぶりっスねぇ。名無しサンと以前やったぶりっスよぉ」
名無しを挟んで、雨の反対側へしゃがみ込む浦原。
目深に被った帽子の下の瞳は、まるではしゃぐ子供のようにキラキラしている。
以前・といえば、それこそ尸魂界にいた時ではなかろうか。
年数で数えると…百年ぶり以上か?
それを『久しぶり』の一言で片付けていいものなのか、甚だ疑問だ。
「浦原さん、焼き芋好きですよねー」
「そりゃもう。むしろ焼き芋嫌いなのは少数派じゃないんっスか?」
確かに。
十人中九人は焼き芋が好き、もしくは食べられるだろう。
だからといってこれ程にワクワクした顔で、焼き芋の出来上がりを待つ元・隊長もいないだろう。
「名無しサン、もういいんじゃないっスか?」
「もう少し待ってくださいね」
まるで『待て』をしている犬のようだ。
表情を微動だにせず、名無しは心の底でそっと思うのだった。
***
「鉄裁、俺もそっちの芋食べてみたい。」
「む。では半分ずつ分けますかな、ジン太殿」
買った芋は、鳴門金時と安納芋だ。いわゆるホクホク芋と、ねっとり芋。
大人組はホクホクを所望して、未成年組は安納芋を頬張っていた。
最近はねっとり芋が人気だと某マ〇コの番組で放送されていたが、名無しとしてはどちらも美味しいので正直こだわりはない。
昔ながらのホクホクも美味しいし、蜜たっぷりのスィーツ感覚の焼き芋も捨て難い。
難点を上げるとしたら、蜜が溢れて手がベトベトしてしまう点か。
親指についた芋片とトロリとした蜜。
この安納芋は大当たりだが、少し食べづらい。
指先についた芋を唇で食んで、ついつい指についた蜜へ舌を這わせてしまう。
うん、やっぱり甘い。
「名無しサン。どーぞ」
「あ。浦原さん。すみません、行儀悪かったですね」
差し出されたウェットティッシュを受け取りながら名無しは笑うが、浦原は些か複雑そうな顔をしていた。
それはもう、好物であろう焼き芋を食べているとは思えない程に、神妙な顔つきで。
「いや…そうじゃないんっスけどぉ…」
「?、なんです?」
「指先についた蜜を舐める仕草が、こう…見ててムラムラす・むっぐ!」
さも深刻そうに語る浦原の口を塞ぐのは、名無しの持っていた安納芋。
まるで『これ以上言わなくて結構です』と言わんばかりの芋捌きだ。
突然口に押し当てられた芋を反射的に咀嚼する浦原と、真っ赤な顔で口をパクパクさせている名無し。
ある意味この光景は浦原家では日常茶飯事だが、芋を食べる時に起こりうる光景ではないだろう。普通なら。
「名無しサン、突然口に芋を押し付けるのはやめてくださいよぉ。美味しかったっスけど。」
「じゃあセクハラを突然するのもやめましょうよ」
「えー…。あ、名無しサン。口の端に蜜がついてるっスよ」
「え。どこですか?」
口の端を慌てて押さえる白く細い指。
指が押さえた反対側の口角へ、掠めるように落ちてくるのは甘い匂いを纏った浦原の唇。
芋を食べたからか、いつもより少しだけしっとりした感触をそっと残して。
「なっ、う、うらっ、浦原、さん!?」
「名無しサン、チョロいっスねぇ」
ケタケタ悪戯っぽく、そして至極満足そうに浦原は笑う。
名無しの顔が更に赤みを増してしまったのは、言うまでもないだろう。
「う………」
「う?なんっスか?」
「浦原さん!焼き芋没収!!」
「えええええ!そりゃないっスよ、名無しサン!?」
名無しの僅かに怒気を乗せた声と、浦原の心底泣きそうな情けない声が、今日も平和に空座町へ響き渡った。
冬の足音は、もうすぐそこに。
日曜日の穏やかな昼下がり。
名無しがやや自慢げに、スーパーの買い物袋をテーブルの上に置いた。
ゴトッ、ゴトン、と天板に当たる鈍い音。それは二つ・三つではない。
何かこう…やや重量のある『何か』が袋詰めにされていた。
「なんだよ、それ」
赤髪をいつものようにざっくりオールバック…ではなく、休日だからだろうか。ヘアバンドで適当に髪を後ろに上げたジン太が袋をまじまじと眺める。
「八百屋さんで安くなっていたから、つい買っちゃった」
sweet sweet POTATO!
「名無し、もういいかな…?」
「うーん、もう少しかな」
集めた枯葉を熾火にして、折れた枝でコロコロと丹念に転がす。
アルミホイルで巻かれたソレは、まさに秋の味覚だ。
ぷすぷすと音を立てながら、薄い煙を揺らす枯葉の山。
そう。これは、
「焚き火で焼き芋なんて久しぶりっスねぇ。名無しサンと以前やったぶりっスよぉ」
名無しを挟んで、雨の反対側へしゃがみ込む浦原。
目深に被った帽子の下の瞳は、まるではしゃぐ子供のようにキラキラしている。
以前・といえば、それこそ尸魂界にいた時ではなかろうか。
年数で数えると…百年ぶり以上か?
それを『久しぶり』の一言で片付けていいものなのか、甚だ疑問だ。
「浦原さん、焼き芋好きですよねー」
「そりゃもう。むしろ焼き芋嫌いなのは少数派じゃないんっスか?」
確かに。
十人中九人は焼き芋が好き、もしくは食べられるだろう。
だからといってこれ程にワクワクした顔で、焼き芋の出来上がりを待つ元・隊長もいないだろう。
「名無しサン、もういいんじゃないっスか?」
「もう少し待ってくださいね」
まるで『待て』をしている犬のようだ。
表情を微動だにせず、名無しは心の底でそっと思うのだった。
***
「鉄裁、俺もそっちの芋食べてみたい。」
「む。では半分ずつ分けますかな、ジン太殿」
買った芋は、鳴門金時と安納芋だ。いわゆるホクホク芋と、ねっとり芋。
大人組はホクホクを所望して、未成年組は安納芋を頬張っていた。
最近はねっとり芋が人気だと某マ〇コの番組で放送されていたが、名無しとしてはどちらも美味しいので正直こだわりはない。
昔ながらのホクホクも美味しいし、蜜たっぷりのスィーツ感覚の焼き芋も捨て難い。
難点を上げるとしたら、蜜が溢れて手がベトベトしてしまう点か。
親指についた芋片とトロリとした蜜。
この安納芋は大当たりだが、少し食べづらい。
指先についた芋を唇で食んで、ついつい指についた蜜へ舌を這わせてしまう。
うん、やっぱり甘い。
「名無しサン。どーぞ」
「あ。浦原さん。すみません、行儀悪かったですね」
差し出されたウェットティッシュを受け取りながら名無しは笑うが、浦原は些か複雑そうな顔をしていた。
それはもう、好物であろう焼き芋を食べているとは思えない程に、神妙な顔つきで。
「いや…そうじゃないんっスけどぉ…」
「?、なんです?」
「指先についた蜜を舐める仕草が、こう…見ててムラムラす・むっぐ!」
さも深刻そうに語る浦原の口を塞ぐのは、名無しの持っていた安納芋。
まるで『これ以上言わなくて結構です』と言わんばかりの芋捌きだ。
突然口に押し当てられた芋を反射的に咀嚼する浦原と、真っ赤な顔で口をパクパクさせている名無し。
ある意味この光景は浦原家では日常茶飯事だが、芋を食べる時に起こりうる光景ではないだろう。普通なら。
「名無しサン、突然口に芋を押し付けるのはやめてくださいよぉ。美味しかったっスけど。」
「じゃあセクハラを突然するのもやめましょうよ」
「えー…。あ、名無しサン。口の端に蜜がついてるっスよ」
「え。どこですか?」
口の端を慌てて押さえる白く細い指。
指が押さえた反対側の口角へ、掠めるように落ちてくるのは甘い匂いを纏った浦原の唇。
芋を食べたからか、いつもより少しだけしっとりした感触をそっと残して。
「なっ、う、うらっ、浦原、さん!?」
「名無しサン、チョロいっスねぇ」
ケタケタ悪戯っぽく、そして至極満足そうに浦原は笑う。
名無しの顔が更に赤みを増してしまったのは、言うまでもないだろう。
「う………」
「う?なんっスか?」
「浦原さん!焼き芋没収!!」
「えええええ!そりゃないっスよ、名無しサン!?」
名無しの僅かに怒気を乗せた声と、浦原の心底泣きそうな情けない声が、今日も平和に空座町へ響き渡った。
冬の足音は、もうすぐそこに。