short story
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白地に青藍と山吹色の朝顔模様の浴衣。
髪には控えめな青いトンボ玉の簪が結われている。
艶やかな黒髪に映える青は目が覚めるような色だった。
「名無しサン。」
声を掛ければ少し照れくさそうにはにかみながら振り返る彼女。
あぁ、どうしよう。可愛いを通り越して綺麗だ。
このまま一日中眺めていたい。けれど、そうもいかない。分かっている。
「変じゃないですか?」
「よく似合ってるっスよ。」
語彙力がなくなる・とは、まさにこういうことなのだろう。
褒めちぎりたいくらいに可愛いのに、言葉が出ない。
言葉少なに褒めたというのに、それだけでも嬉しそうに照れる彼女が愛しくて愛しくて仕方がない。
「さ、行きましょうか」
僕の履きなれた駒下駄の音がカラン、と鳴る。
その音を追いかけるように辿々しい足取りの右近下駄がついてくる。
何だかそれが酷くくすぐったくて、ボクは商店の戸を引きながら小さく笑った。
夏の綺羅星(前篇)
今日は空座町…ではなく、少し離れた町の花火大会に来ていた。
空座町の夏祭りでは浦原商店は出店側だ。
打ち上げ花火は上がるが、正直見る間もないくらいに忙しい。夏祭りを満喫するなんて以ての外だ。
だから今日は、二人で少し遠出をしていた。
と言っても電車で行ける距離なのでたかが知れているといえば知れているのだが。
それでもあまり空座町の外に出る機会が少ないからか、名無しの挙動は面白いくらいに不審だった。
電車の切符を買うのすら何度も確認して、間違いがないか何度もホームの番号と電車の行き先を確認する。
電車に慣れてないのだろうが、何でも卒なくこなす普段の彼女からは少しかけ離れた姿だった。
何だか警戒をしてる小動物のようで、あぁ本当に見ていて飽きないな、と思ってしまう。
「浦原さん!どの出店から回りますか?」
まぁそんな彼女は色気より食い気というか。
食事を提供するのは慣れたものだが、こんな風に買い食いするのは滅多にない。
今回は雨とジン太もいない。引率する必要がなく無邪気な子供のようにはしゃぐ名無しを見て、ボクは自然と笑顔が零れた。
「暑いっスからねぇ。かき氷から食べたいっスね」
「いいですね!練乳かけ放題のお店がいいなぁ」
今にもスキップしだしそうなくらい彼女の足取りは軽い。
「あまりはしゃぐと迷子になるっスよ?」
「なりませんよぅ。もう成人女性ですよ?一応。」
「ほらでも、名無しサンちっちゃいから人混みに呑まれたら見えなくなっちゃいますし。」
笑いながらそう言えば「ちっちゃいのは余計ですよ」と言いながらムッとむくれる。
あぁ、今日の格好も相まって可愛らしさがいつもより三割増だ。
「でも、はぐれても浦原さんならすぐ見つけてくださるんでしょう?」
ニシシと歯をむいて悪戯っぽく笑う名無し。
本当に。彼女には敵わない。
「お安い御用っスけど、それよりもこっちの方がいいんじゃないっスか?」
彼女の右手を手に取って指を絡める。
普段スキンシップは家の中でもよくするのだが、人混みに紛れそうになる・ということが殆どないため手を繋ぐことは滅多になかった。
強いて言うなら情事の最中はあるのだが、それでも外で手を握るなんて片手で数える程しかない気がする。
だからなのか。
指が絡むだけで恥ずかしそうに紅潮する名無しの頬。
あまりにも初々しい反応に、ボクは目眩がしそうになった。
あぁ。本当に、彼女は。
「…じゃ、じゃあ、その。歩くのに邪魔じゃなければ。」
「大歓迎っスよ。さ、行きましょうか」
そう言って手を引けば、蕩けるような表情で彼女は笑った。
髪には控えめな青いトンボ玉の簪が結われている。
艶やかな黒髪に映える青は目が覚めるような色だった。
「名無しサン。」
声を掛ければ少し照れくさそうにはにかみながら振り返る彼女。
あぁ、どうしよう。可愛いを通り越して綺麗だ。
このまま一日中眺めていたい。けれど、そうもいかない。分かっている。
「変じゃないですか?」
「よく似合ってるっスよ。」
語彙力がなくなる・とは、まさにこういうことなのだろう。
褒めちぎりたいくらいに可愛いのに、言葉が出ない。
言葉少なに褒めたというのに、それだけでも嬉しそうに照れる彼女が愛しくて愛しくて仕方がない。
「さ、行きましょうか」
僕の履きなれた駒下駄の音がカラン、と鳴る。
その音を追いかけるように辿々しい足取りの右近下駄がついてくる。
何だかそれが酷くくすぐったくて、ボクは商店の戸を引きながら小さく笑った。
夏の綺羅星(前篇)
今日は空座町…ではなく、少し離れた町の花火大会に来ていた。
空座町の夏祭りでは浦原商店は出店側だ。
打ち上げ花火は上がるが、正直見る間もないくらいに忙しい。夏祭りを満喫するなんて以ての外だ。
だから今日は、二人で少し遠出をしていた。
と言っても電車で行ける距離なのでたかが知れているといえば知れているのだが。
それでもあまり空座町の外に出る機会が少ないからか、名無しの挙動は面白いくらいに不審だった。
電車の切符を買うのすら何度も確認して、間違いがないか何度もホームの番号と電車の行き先を確認する。
電車に慣れてないのだろうが、何でも卒なくこなす普段の彼女からは少しかけ離れた姿だった。
何だか警戒をしてる小動物のようで、あぁ本当に見ていて飽きないな、と思ってしまう。
「浦原さん!どの出店から回りますか?」
まぁそんな彼女は色気より食い気というか。
食事を提供するのは慣れたものだが、こんな風に買い食いするのは滅多にない。
今回は雨とジン太もいない。引率する必要がなく無邪気な子供のようにはしゃぐ名無しを見て、ボクは自然と笑顔が零れた。
「暑いっスからねぇ。かき氷から食べたいっスね」
「いいですね!練乳かけ放題のお店がいいなぁ」
今にもスキップしだしそうなくらい彼女の足取りは軽い。
「あまりはしゃぐと迷子になるっスよ?」
「なりませんよぅ。もう成人女性ですよ?一応。」
「ほらでも、名無しサンちっちゃいから人混みに呑まれたら見えなくなっちゃいますし。」
笑いながらそう言えば「ちっちゃいのは余計ですよ」と言いながらムッとむくれる。
あぁ、今日の格好も相まって可愛らしさがいつもより三割増だ。
「でも、はぐれても浦原さんならすぐ見つけてくださるんでしょう?」
ニシシと歯をむいて悪戯っぽく笑う名無し。
本当に。彼女には敵わない。
「お安い御用っスけど、それよりもこっちの方がいいんじゃないっスか?」
彼女の右手を手に取って指を絡める。
普段スキンシップは家の中でもよくするのだが、人混みに紛れそうになる・ということが殆どないため手を繋ぐことは滅多になかった。
強いて言うなら情事の最中はあるのだが、それでも外で手を握るなんて片手で数える程しかない気がする。
だからなのか。
指が絡むだけで恥ずかしそうに紅潮する名無しの頬。
あまりにも初々しい反応に、ボクは目眩がしそうになった。
あぁ。本当に、彼女は。
「…じゃ、じゃあ、その。歩くのに邪魔じゃなければ。」
「大歓迎っスよ。さ、行きましょうか」
そう言って手を引けば、蕩けるような表情で彼女は笑った。