short story
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「そぉいや、浦原さんって弱点あんのか?」
尸魂界へ定期報告に行った時のことだ。
たい焼き屋の帰りの…その日はたまたま仕事が休みだったのだろう。ラフな着物姿の恋次に遭遇した。
ゆるりと着物を着たらチンピラみたいに見える、という言葉をぐっと呑み込み、お裾分けしてもらったたい焼きを飲み込んだ。
その時言われた言葉が、冒頭の台詞だった。
貴方の弱点、教えて下さい。
「…苦手な食べ物とかも聞いたことないしなぁ」
尻尾からたい焼きを頬張りつつ、名無しが答える。
正直言うと、彼女が今まで手合わせした中の人物で最強格の人物が浦原だ。
弱点を知っているなら容赦なく戦法に取り入れるが、斬拳走鬼とバランスよく扱える彼は難攻不落だった。
もちろん、浦原以外にも万能型の死神がいるのはよく分かっている。しかし彼には『技術開発』という大きなアドバンテージがある。
先日は携帯用義骸に鬼道を忍ばされていた。おかげで斬った途端に爆発して煤まみれになってしまった。あれは酷かった。
悪ふざけの鬼道ではなく、本気のものを仕込んでしたら…考えだけでゾッとする。
「うわ…容赦ねーな…。よくあんな人との修行耐えられるな」
「だいぶ手加減してると思うけどね。人で新しい発明道具を試すのはやめて欲しいかな」
裏を返せば、言い方は悪いが舐められてる、と言っても過言ではない。子供扱いとも言える。
「弱点…弱点かぁ。脇腹とか弱い!とかないのかな」
「お前、戦いの最中に擽るつもりか?」
「いや。もうこの際なんでもいい。浦原さんの弱味を握りたい」
「必死か。」
***
そして現世に帰ってきた。
鉄裁の作った美味しい夕食を食べた後、居間で死神向け商品の在庫を整理している浦原。
その背中をじっと見つめる名無しの目は、獲物を狙う猫のようだった。
ひたひたと畳の上を裸足でそっと歩く。
なるべく音を立てずに浦原の背後にしゃがみ込み、両手で脇腹を不意に擽った。
「?、どしたんっスか?名無しサン」
「……いえ。」
不思議そうに振り返る浦原。擽ったそうな素振りは一切見せない。
脇腹は効果なし。
「……あ、足裏マッサージしましょうか!?」
「どしたんっスか、突然」
「そういう、その、マッサージしたい気分なんです」
我ながら無茶苦茶だ。どんな気分だ。
「じゃあお願いするっス」と仕事がひと段落したのだろう。チェックしていた紙を置き、畳の上に浦原がうつ伏せた。
…これはもしかして、擽り放題なのでは?
「じゃあお願いするっス」
「はい、任せてください!」
おお、これは千載一遇のチャンスでは!?
少し硬そうな足の裏を、そぉっと指先でなぞった。
「…あれ?」
「どしたんっスか?」
「あ、いえ。ゴミが付いていたので」
凄い言い訳だ。
ごめんなさい、浦原さん。ゴミなんて何もついていません。
足の裏、効果なし…と。
大人しく足の裏をマッサージすれば「あぁぁー…」と何とも間延びした声が聞こえる。気持ちいいなら、まぁ…良かった。良かったということにしよう。
次は腰だ。
わさわさ、とソフトタッチで触っても反応がない。諦めてとっととマッサージをすることにした。
腰も効果なし。
首筋。これも最初そっと触るが、なんの反応もない。
そもそも首筋を擽ったがる性質なら、彼自身の跳ねっ毛も耐えられないか、と何となく察した。
首も効果なし。
他に考えられるのは耳とか…だが、正直難易度が高い。やめておこう。
これはもう、擽ったいところがない、と考えた方がいいのだろうか。
そもそも弱点を探すなら別にくすぐりにこだわる理由はなかったのでは?と根本的な問題を見つめ直す名無し。
まぁこの目の前で呑気に寝そべるチート店主に弱点がない。と言われても、素直に納得してしまうのがなんだか悔しい。
かと言って、名無し自身の弱味は意外と彼に握られている。それをネタにゆすったり…なんて悪質なことを浦原はしないが、弱点を一方的に知られているというのも少し癪だった。
「…はい。終わりましたよ」
「あぁー…ありがとっスー…」
畳の上で、クッション代わりにしている座布団を幸せそうに抱えている浦原。
…擽ったい箇所、もとい弱点は結局分からず終いだったが、彼が少しはリフレッシュできたならば良しとしよう。
「で、ボクの擽ったい場所、分かったっスか?」
………………………ん?
「へ、」
「ダメっスよぉ、名無しサン。もっとこう、やらしい触り方しないとぉ」
「えっ、いつから気づいていたんですか!?」
「最初からっス」
ノオォォ!
やっぱり最初が露骨だったか!もう!失敗した!!
「大方、今日尸魂界に行った時に阿散井サンあたりと『浦原さんの弱点ないかなー』なんて話をしたんでしょうけど」
「エスパーですか!き、気持ち悪ッ!」
盗聴疑惑が思わず浮上するレベルだ。思わず本音が出てしまった。
「ボクにだって弱点くらいあるっスよぉ」
「本当に!?」
「まぁ擽りは平気っスけど」
ほらぁ!
ただマッサージして終わっただけじゃないか、悔しい!!
「教えて貰えたりとかは…」
「んー?
………………んー…」
じっとこちらを見てくる浦原。
ジロジロと、しかし何処か楽しそうに見てくる視線は些か居心地が悪い。
…何だっていうんだ。
「…やっぱ秘密っス」
「ズルいですよ!」
「ちょっと考えたら分かることっスよぉ」
なんだろう、食べ物の好き嫌い!?それとも苦手な人がいる!?
真剣に頭をフル回転させる名無し。
意外に浦原の言葉に対して真に受ける単純な彼女を見て、彼は心底楽しそうに笑うだけだった。
「で、名無しサン。さっきからボクに一方的に触ったんっスから、ボクも触っていいスよね?」
「へ!?ダメです!ダメですよ!?」
「名無しサン、わきとか弱そうっスもんねぇ」
「ダメです、ダメですってば、あーーー!!」
***
一方、尸魂界では。
「浦原喜助の弱点?そんなの簡単だヨ」
現世に行く時用の義骸の最終調整で、恋次とルキアは十二番隊に訪れていた。
恋次はオフの日だったからラフな格好だが、ルキアは執務の合間を抜けてきたのだろう。副官章をつけた死覇装の姿だった。
そんな二人の前で義骸の調整を行いながら、マユリは淡々と答えた。
「なんだ、恋次。そんなことも分からないのか?」
ルキアがさも意外そうに目を丸くする。
先程名無しと会ったからだろう、殊更機嫌のいいマユリに、先程名無しと交わした会話の内容を話をしたのだが…。
まさか、浦原の弱点を知らないのは自分と名無しだけなのか?
「え。涅隊長とルキアは知ってんのか!?」
「見ればわかるヨ」
「そうですね」
性格も思考も全く異なるマユリとルキアが、珍しく意見が合致した。
見合わせて小さく頷く姿は、まるで打ち合わせしたかのような動きだった。
「猿でも分かるヨ。」
「浦原の弱点なんか、見れば分かるだろう?」
「「名無しだろう」」
…………………あぁ、なるほど。凄く腑に落ちた。
今までの行動を顧みればすぐに答えが出る、簡単な話だった。
こりゃ灯台下暗しというか。意外と鈍い名無し自身が気づかないのも無理はない。
これは弱点として彼女は活用できるのか?
いや…そもそも、その事実に気付いていない時点で名無しは浦原に勝てないんじゃ…?
現世で今頃、あの手この手と奮闘している友人に思いを馳せる。
きっと今頃あのドS店長の手のひらで転がされているのだろう。
そう思うと、なんだか恋次は現世に向かって敬礼したい気持ちで、胸がいっぱいになった。
尸魂界へ定期報告に行った時のことだ。
たい焼き屋の帰りの…その日はたまたま仕事が休みだったのだろう。ラフな着物姿の恋次に遭遇した。
ゆるりと着物を着たらチンピラみたいに見える、という言葉をぐっと呑み込み、お裾分けしてもらったたい焼きを飲み込んだ。
その時言われた言葉が、冒頭の台詞だった。
貴方の弱点、教えて下さい。
「…苦手な食べ物とかも聞いたことないしなぁ」
尻尾からたい焼きを頬張りつつ、名無しが答える。
正直言うと、彼女が今まで手合わせした中の人物で最強格の人物が浦原だ。
弱点を知っているなら容赦なく戦法に取り入れるが、斬拳走鬼とバランスよく扱える彼は難攻不落だった。
もちろん、浦原以外にも万能型の死神がいるのはよく分かっている。しかし彼には『技術開発』という大きなアドバンテージがある。
先日は携帯用義骸に鬼道を忍ばされていた。おかげで斬った途端に爆発して煤まみれになってしまった。あれは酷かった。
悪ふざけの鬼道ではなく、本気のものを仕込んでしたら…考えだけでゾッとする。
「うわ…容赦ねーな…。よくあんな人との修行耐えられるな」
「だいぶ手加減してると思うけどね。人で新しい発明道具を試すのはやめて欲しいかな」
裏を返せば、言い方は悪いが舐められてる、と言っても過言ではない。子供扱いとも言える。
「弱点…弱点かぁ。脇腹とか弱い!とかないのかな」
「お前、戦いの最中に擽るつもりか?」
「いや。もうこの際なんでもいい。浦原さんの弱味を握りたい」
「必死か。」
***
そして現世に帰ってきた。
鉄裁の作った美味しい夕食を食べた後、居間で死神向け商品の在庫を整理している浦原。
その背中をじっと見つめる名無しの目は、獲物を狙う猫のようだった。
ひたひたと畳の上を裸足でそっと歩く。
なるべく音を立てずに浦原の背後にしゃがみ込み、両手で脇腹を不意に擽った。
「?、どしたんっスか?名無しサン」
「……いえ。」
不思議そうに振り返る浦原。擽ったそうな素振りは一切見せない。
脇腹は効果なし。
「……あ、足裏マッサージしましょうか!?」
「どしたんっスか、突然」
「そういう、その、マッサージしたい気分なんです」
我ながら無茶苦茶だ。どんな気分だ。
「じゃあお願いするっス」と仕事がひと段落したのだろう。チェックしていた紙を置き、畳の上に浦原がうつ伏せた。
…これはもしかして、擽り放題なのでは?
「じゃあお願いするっス」
「はい、任せてください!」
おお、これは千載一遇のチャンスでは!?
少し硬そうな足の裏を、そぉっと指先でなぞった。
「…あれ?」
「どしたんっスか?」
「あ、いえ。ゴミが付いていたので」
凄い言い訳だ。
ごめんなさい、浦原さん。ゴミなんて何もついていません。
足の裏、効果なし…と。
大人しく足の裏をマッサージすれば「あぁぁー…」と何とも間延びした声が聞こえる。気持ちいいなら、まぁ…良かった。良かったということにしよう。
次は腰だ。
わさわさ、とソフトタッチで触っても反応がない。諦めてとっととマッサージをすることにした。
腰も効果なし。
首筋。これも最初そっと触るが、なんの反応もない。
そもそも首筋を擽ったがる性質なら、彼自身の跳ねっ毛も耐えられないか、と何となく察した。
首も効果なし。
他に考えられるのは耳とか…だが、正直難易度が高い。やめておこう。
これはもう、擽ったいところがない、と考えた方がいいのだろうか。
そもそも弱点を探すなら別にくすぐりにこだわる理由はなかったのでは?と根本的な問題を見つめ直す名無し。
まぁこの目の前で呑気に寝そべるチート店主に弱点がない。と言われても、素直に納得してしまうのがなんだか悔しい。
かと言って、名無し自身の弱味は意外と彼に握られている。それをネタにゆすったり…なんて悪質なことを浦原はしないが、弱点を一方的に知られているというのも少し癪だった。
「…はい。終わりましたよ」
「あぁー…ありがとっスー…」
畳の上で、クッション代わりにしている座布団を幸せそうに抱えている浦原。
…擽ったい箇所、もとい弱点は結局分からず終いだったが、彼が少しはリフレッシュできたならば良しとしよう。
「で、ボクの擽ったい場所、分かったっスか?」
………………………ん?
「へ、」
「ダメっスよぉ、名無しサン。もっとこう、やらしい触り方しないとぉ」
「えっ、いつから気づいていたんですか!?」
「最初からっス」
ノオォォ!
やっぱり最初が露骨だったか!もう!失敗した!!
「大方、今日尸魂界に行った時に阿散井サンあたりと『浦原さんの弱点ないかなー』なんて話をしたんでしょうけど」
「エスパーですか!き、気持ち悪ッ!」
盗聴疑惑が思わず浮上するレベルだ。思わず本音が出てしまった。
「ボクにだって弱点くらいあるっスよぉ」
「本当に!?」
「まぁ擽りは平気っスけど」
ほらぁ!
ただマッサージして終わっただけじゃないか、悔しい!!
「教えて貰えたりとかは…」
「んー?
………………んー…」
じっとこちらを見てくる浦原。
ジロジロと、しかし何処か楽しそうに見てくる視線は些か居心地が悪い。
…何だっていうんだ。
「…やっぱ秘密っス」
「ズルいですよ!」
「ちょっと考えたら分かることっスよぉ」
なんだろう、食べ物の好き嫌い!?それとも苦手な人がいる!?
真剣に頭をフル回転させる名無し。
意外に浦原の言葉に対して真に受ける単純な彼女を見て、彼は心底楽しそうに笑うだけだった。
「で、名無しサン。さっきからボクに一方的に触ったんっスから、ボクも触っていいスよね?」
「へ!?ダメです!ダメですよ!?」
「名無しサン、わきとか弱そうっスもんねぇ」
「ダメです、ダメですってば、あーーー!!」
***
一方、尸魂界では。
「浦原喜助の弱点?そんなの簡単だヨ」
現世に行く時用の義骸の最終調整で、恋次とルキアは十二番隊に訪れていた。
恋次はオフの日だったからラフな格好だが、ルキアは執務の合間を抜けてきたのだろう。副官章をつけた死覇装の姿だった。
そんな二人の前で義骸の調整を行いながら、マユリは淡々と答えた。
「なんだ、恋次。そんなことも分からないのか?」
ルキアがさも意外そうに目を丸くする。
先程名無しと会ったからだろう、殊更機嫌のいいマユリに、先程名無しと交わした会話の内容を話をしたのだが…。
まさか、浦原の弱点を知らないのは自分と名無しだけなのか?
「え。涅隊長とルキアは知ってんのか!?」
「見ればわかるヨ」
「そうですね」
性格も思考も全く異なるマユリとルキアが、珍しく意見が合致した。
見合わせて小さく頷く姿は、まるで打ち合わせしたかのような動きだった。
「猿でも分かるヨ。」
「浦原の弱点なんか、見れば分かるだろう?」
「「名無しだろう」」
…………………あぁ、なるほど。凄く腑に落ちた。
今までの行動を顧みればすぐに答えが出る、簡単な話だった。
こりゃ灯台下暗しというか。意外と鈍い名無し自身が気づかないのも無理はない。
これは弱点として彼女は活用できるのか?
いや…そもそも、その事実に気付いていない時点で名無しは浦原に勝てないんじゃ…?
現世で今頃、あの手この手と奮闘している友人に思いを馳せる。
きっと今頃あのドS店長の手のひらで転がされているのだろう。
そう思うと、なんだか恋次は現世に向かって敬礼したい気持ちで、胸がいっぱいになった。
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