short story
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買い物の途中。
そういえば趣味でたまに引いているギターの弦が切れてしまったのを思い出して、名無しに一言断って楽器屋に立ち寄った。
高級そうな金管楽器から、ドラムのセットまで所狭しと置かれた店内。
そこの壁際に設置されているギターコーナーへ足早に赴き、お目当ての弦を手に取った。
「わぁ、たくさん楽器がありますね」
「店内が大きくない割にはな。そう言えば名無しは何か出来るのか?」
何となしにダンテが尋ねれば「えっと、ピアノが少し」と笑いながら名無しが答えた。
なるほど。彼女らしい。
「試しで弾けるみたいだし、やってみてくれよ」
「いいですけど…クラシックはダンテさんあまり聴かれないですよね?」
…ん?
「ロックばっかだな」
「えぇっと…分かりました」
こっちではトトトの歌…日本では『ねこふんじゃった』とまぁ中々凄いタイトルの曲でも弾くのだと思っていた。
あれはこちらの国でも弾かれている。国籍不明の曲だが、世界的にポピュラーらしい。
突然流れるサビのメロディ。低音の副旋律が店内に響いた。
主旋律は黒鍵を主とした和音が、厚みを帯びて奏でられる。
これは、
「『NIRVANA』か?」
「はい。Smells like…なんでしたっけ?」
「Teen spiritな。」
「それです。ほら、今日お昼ご飯を食べたお店で流れていたので」
そういえばラジオがロック特集をしていた気がする。
「…ん?ってことは、弾くのは初めてか?」
「はい。」
驚いた。これは意外な才能だ。
「小さい頃にいた施設に、ピアノがあったんです。
楽譜はなかったんですけど聴いた曲を何となく聴いて弾いてる内に、少しは弾けるようになったんですよ」
これは少し、なのか?
中々立派なもんだが…じゃあ待て。クラシックはどうなんだ?
「クラシックは何が弾けるんだ?」
「えーっと、」
幻想即興曲。
あまりクラシックを聴かないダンテも知っている曲だ。
低音の鍵盤から始まる曲。淀みのない、滑るようなレガート。
ピアノが歌うとはまさにこの事だろう。
「すげぇな。ジャズとか弾けるんだったらブルズアイのマスターが喜ぶぜ」
「ピアノ、あるんですか?」
「まーな。最近は客層が客層だから、あまり使われてなさそうだったけどな」
ピアノをお上品に聴くような人間が集まっていないのが現状だ。
…今度、昼間にピアノが借りれるかマスターに聞いてみよう。
Shall we session?
「ってことで、借りてみた」
「…思いつきで言ったのかと思ってました…」
呆れたように名無しが笑う。なんだよ、たまにはいいだろ。
弦を張り替えたばかりのギターを背中から下ろし、ダンテは少し不満そうに口先を尖らせた。
「ったく、仕込みの間だけだぞ」
「分かってるよ。」
ブルズアイのマスターと名無しは初対面だ。
今回限りだぞ・と言わんばかりのマスターに向かって、名無しは申し訳なさそうにぺこりとひとつお辞儀をした。
「さてと。とりあえずDragonforceからか?」
「この間聴いていた曲ですか?できるかな…」
ピアノの前に座りながら名無しが小さくしかめ面をする。
多少失敗しても大丈夫だ、これはお遊びなんだから。
「それじゃあ行くぜ、3,2,1,」
ダンテのカウントと共にかき鳴らされるギター。こんなヘビーメタルをまさかピアノで弾くことになるとは。
名無しは困ったように小さく笑ったあと、力強く鍵盤に指をはしらせた。
***
『なぁ。ビートルズのナンバーとかも弾けるのか?』
仕込みをしていたマスターが手を止め、ひとしきりセッションが終わった後に声を掛けてきた。
正確には俺ではなくて、名無しにだが。
『聞いたことある曲なら、多分』と曖昧に答えた彼女は今、滑るように指を踊らせピアノを弾いている。
ダンテ自身、ビートルズも好きなのだが如何せん有名曲はバラードが多い気がする。
マスターがリクエストした曲がバラードだったため、ダンテは大人しくカウンターでぼんやりと名無しの演奏を聴いていた。
明るかった日差しも、今はすっかり傾き始めている。
窓から差し込む茜色の日差しに照らされる中、彼女が柔らかい旋律を奏でる。
確か当時のジョン・レノンの息子をポールが励ますために作った曲、だったか。世界的にも一番有名なナンバーだろう。
まるでスポットライトが当たったかのように、彼女の周りだけが紅と金を混ぜたような色彩に彩られているのは、一枚の絵画のようだった。
「ダンテ、こんなピアニストどこでたらしこんだんだ?」
「失礼だな。れっきとした俺の恋人だよ。」
「…お前が『恋人』作る日がくるなんてなぁ」
「俺も驚いてるさ」
まぁマスターがそう思うのも無理はない。
あの雨の日。俺が彼女と出逢わなければもしかしたら一生、人生の線が交わることはなかったかもしれない。
懐かしさを含んだ残照が妙に神聖に見えて、ダンテは思わずとろりと目を細めた。
そういえば趣味でたまに引いているギターの弦が切れてしまったのを思い出して、名無しに一言断って楽器屋に立ち寄った。
高級そうな金管楽器から、ドラムのセットまで所狭しと置かれた店内。
そこの壁際に設置されているギターコーナーへ足早に赴き、お目当ての弦を手に取った。
「わぁ、たくさん楽器がありますね」
「店内が大きくない割にはな。そう言えば名無しは何か出来るのか?」
何となしにダンテが尋ねれば「えっと、ピアノが少し」と笑いながら名無しが答えた。
なるほど。彼女らしい。
「試しで弾けるみたいだし、やってみてくれよ」
「いいですけど…クラシックはダンテさんあまり聴かれないですよね?」
…ん?
「ロックばっかだな」
「えぇっと…分かりました」
こっちではトトトの歌…日本では『ねこふんじゃった』とまぁ中々凄いタイトルの曲でも弾くのだと思っていた。
あれはこちらの国でも弾かれている。国籍不明の曲だが、世界的にポピュラーらしい。
突然流れるサビのメロディ。低音の副旋律が店内に響いた。
主旋律は黒鍵を主とした和音が、厚みを帯びて奏でられる。
これは、
「『NIRVANA』か?」
「はい。Smells like…なんでしたっけ?」
「Teen spiritな。」
「それです。ほら、今日お昼ご飯を食べたお店で流れていたので」
そういえばラジオがロック特集をしていた気がする。
「…ん?ってことは、弾くのは初めてか?」
「はい。」
驚いた。これは意外な才能だ。
「小さい頃にいた施設に、ピアノがあったんです。
楽譜はなかったんですけど聴いた曲を何となく聴いて弾いてる内に、少しは弾けるようになったんですよ」
これは少し、なのか?
中々立派なもんだが…じゃあ待て。クラシックはどうなんだ?
「クラシックは何が弾けるんだ?」
「えーっと、」
幻想即興曲。
あまりクラシックを聴かないダンテも知っている曲だ。
低音の鍵盤から始まる曲。淀みのない、滑るようなレガート。
ピアノが歌うとはまさにこの事だろう。
「すげぇな。ジャズとか弾けるんだったらブルズアイのマスターが喜ぶぜ」
「ピアノ、あるんですか?」
「まーな。最近は客層が客層だから、あまり使われてなさそうだったけどな」
ピアノをお上品に聴くような人間が集まっていないのが現状だ。
…今度、昼間にピアノが借りれるかマスターに聞いてみよう。
Shall we session?
「ってことで、借りてみた」
「…思いつきで言ったのかと思ってました…」
呆れたように名無しが笑う。なんだよ、たまにはいいだろ。
弦を張り替えたばかりのギターを背中から下ろし、ダンテは少し不満そうに口先を尖らせた。
「ったく、仕込みの間だけだぞ」
「分かってるよ。」
ブルズアイのマスターと名無しは初対面だ。
今回限りだぞ・と言わんばかりのマスターに向かって、名無しは申し訳なさそうにぺこりとひとつお辞儀をした。
「さてと。とりあえずDragonforceからか?」
「この間聴いていた曲ですか?できるかな…」
ピアノの前に座りながら名無しが小さくしかめ面をする。
多少失敗しても大丈夫だ、これはお遊びなんだから。
「それじゃあ行くぜ、3,2,1,」
ダンテのカウントと共にかき鳴らされるギター。こんなヘビーメタルをまさかピアノで弾くことになるとは。
名無しは困ったように小さく笑ったあと、力強く鍵盤に指をはしらせた。
***
『なぁ。ビートルズのナンバーとかも弾けるのか?』
仕込みをしていたマスターが手を止め、ひとしきりセッションが終わった後に声を掛けてきた。
正確には俺ではなくて、名無しにだが。
『聞いたことある曲なら、多分』と曖昧に答えた彼女は今、滑るように指を踊らせピアノを弾いている。
ダンテ自身、ビートルズも好きなのだが如何せん有名曲はバラードが多い気がする。
マスターがリクエストした曲がバラードだったため、ダンテは大人しくカウンターでぼんやりと名無しの演奏を聴いていた。
明るかった日差しも、今はすっかり傾き始めている。
窓から差し込む茜色の日差しに照らされる中、彼女が柔らかい旋律を奏でる。
確か当時のジョン・レノンの息子をポールが励ますために作った曲、だったか。世界的にも一番有名なナンバーだろう。
まるでスポットライトが当たったかのように、彼女の周りだけが紅と金を混ぜたような色彩に彩られているのは、一枚の絵画のようだった。
「ダンテ、こんなピアニストどこでたらしこんだんだ?」
「失礼だな。れっきとした俺の恋人だよ。」
「…お前が『恋人』作る日がくるなんてなぁ」
「俺も驚いてるさ」
まぁマスターがそう思うのも無理はない。
あの雨の日。俺が彼女と出逢わなければもしかしたら一生、人生の線が交わることはなかったかもしれない。
懐かしさを含んだ残照が妙に神聖に見えて、ダンテは思わずとろりと目を細めた。
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