short story
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「名無しはいるか」
これはまた珍しい客人だ。
アイツが自らこの事務所に来るなんて。
「今はレディと買い物中だよ」
「そうか。これを渡しておいてくれ」
ガサッと出された紙袋は、彼――バージル御用達のコーヒーショップの紙袋だった。
彼女の読書時間
「珈琲豆か?」
「本だ。以前名無しが読んでみたいと言っていたものだ。新刊を読み終わったからまとめて貸しに来ただけだ」
中を覗けばハードカバーの推理小説が何冊か入っていた。どうやら最新のものから昔のものまで、シリーズで貸すつもりらしい。
きちんと巻数を並べて貸しているあたり、バージルの性格がよく出ている。
「こりゃ暫く名無しに構ってもらえねぇな…」
彼女とバージルは本の虫同士意気投合したようで、俺としては喜ばしいことなのだろうが、やはりモヤモヤしてしまう。
ヤキモチだなんて、人生で初めてだ。
なるほど、世の女性達が痴情のもつれが原因で、男性に対してヒステリックになる気持ちも何となく分かった。
愛は時に人を狂わす、とはよく言ったものだ。
「お前が仕事に行っている最中に読むと言っていたぞ」
呆れたように溜息をつきながらバージルが腕を組んで壁に凭れ掛かる。
つまり、俺のいるところではなるべく読まない、と。
そういえば俺が雑誌を読み始めたら、名無しも本を読み始めていた気がする。
逆に『なぁ名無し』と俺が話しかければ、読みかけのページにそっと栞を挟んで『どうかしました?』と柔らかく返事を返してくれている。
どうしよう。無茶苦茶可愛い。
いや可愛いだなんて、前から知っていたんだけどよ。改めて、だ。
名無しの遠まわしな惚気をバージル経由で聞かされている気分になって、柄にもなく少しだけ照れてしまった。
「俺の恋人、尊すぎだろ…」
「そう思うなら少しは貴様が態度を改めろ」
兄の言うことは尤もだ。
今度久しぶりに、彼女とゆっくり過ごすため遠出でもしよう。
あぁ。『ゆっくり買い物して来いよ』と言った手前、こんなことを言うのも何だが。
早く帰って来ないかと、心の底から待ち遠しくなった。
これはまた珍しい客人だ。
アイツが自らこの事務所に来るなんて。
「今はレディと買い物中だよ」
「そうか。これを渡しておいてくれ」
ガサッと出された紙袋は、彼――バージル御用達のコーヒーショップの紙袋だった。
彼女の読書時間
「珈琲豆か?」
「本だ。以前名無しが読んでみたいと言っていたものだ。新刊を読み終わったからまとめて貸しに来ただけだ」
中を覗けばハードカバーの推理小説が何冊か入っていた。どうやら最新のものから昔のものまで、シリーズで貸すつもりらしい。
きちんと巻数を並べて貸しているあたり、バージルの性格がよく出ている。
「こりゃ暫く名無しに構ってもらえねぇな…」
彼女とバージルは本の虫同士意気投合したようで、俺としては喜ばしいことなのだろうが、やはりモヤモヤしてしまう。
ヤキモチだなんて、人生で初めてだ。
なるほど、世の女性達が痴情のもつれが原因で、男性に対してヒステリックになる気持ちも何となく分かった。
愛は時に人を狂わす、とはよく言ったものだ。
「お前が仕事に行っている最中に読むと言っていたぞ」
呆れたように溜息をつきながらバージルが腕を組んで壁に凭れ掛かる。
つまり、俺のいるところではなるべく読まない、と。
そういえば俺が雑誌を読み始めたら、名無しも本を読み始めていた気がする。
逆に『なぁ名無し』と俺が話しかければ、読みかけのページにそっと栞を挟んで『どうかしました?』と柔らかく返事を返してくれている。
どうしよう。無茶苦茶可愛い。
いや可愛いだなんて、前から知っていたんだけどよ。改めて、だ。
名無しの遠まわしな惚気をバージル経由で聞かされている気分になって、柄にもなく少しだけ照れてしまった。
「俺の恋人、尊すぎだろ…」
「そう思うなら少しは貴様が態度を改めろ」
兄の言うことは尤もだ。
今度久しぶりに、彼女とゆっくり過ごすため遠出でもしよう。
あぁ。『ゆっくり買い物して来いよ』と言った手前、こんなことを言うのも何だが。
早く帰って来ないかと、心の底から待ち遠しくなった。
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