spectrum
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今日は一段と身体が軽い。
滾る、というのだろうか。
身体の奥底から湧き出る力のせいか、いつもより気分が高揚していた。
spectrum#08
事務所の前まで迫ってきていた悪魔を蹴散らしてシャワーを浴びる。
烏の行水ほどの湯を浴びれば埃や返り血は綺麗に落とせた。
寝室に戻れば、ドアの開く音に驚いたのか部屋の隅で小さく揺れる白いシーツの塊。
「名無し?」
布の上からポンポンと叩けば、泣きそうな顔の名無しが恐る恐る顔を出した。
「ダンテさん、怪我は」
「するわけねぇだろ、あんな雑魚で」
緊張が解けたのか、肺に溜めていた空気を全部抜くような長い長い息を彼女は吐き出した。
「…よかった…」
「何だよ、怖かったのか」
そう問えば、素直に首を縦に振る名無し。
本当に怖かったのだろう、顔色がかわいそうな程に真っ青だった。
くるまったシーツごと引き寄せて、子供をあやす様に背中を軽く撫でる。
人肌に安心したのか、強ばった身体が徐々に解れていった。
「ああいうのは前から見えていたのか?」
「その、黒い影みたいな…あのザワザワした感じは、昔から」
時には大人の男に取り憑いて。時には建物の仄暗い影からじっとこちらを見つめるように。
得体の知れない気配を誰にも相談することが出来ず、ずっとひとりで抱え込んでいた。
きっと疲れているからだ。気のせいだ、大丈夫、大丈夫、と。
「結局こっちに来た理由も分からずじまいだしな」
「そうですね…」
「戻りたいのか?」
名無しの髪を撫でながら見下ろせば、不安そうに見上げてくる黒い蒼碧。
「…戻った方が、いいんですよね。やっぱり」
「俺は名無しの気持ちを聞いてるんだけどな」
理屈的で、少し曖昧に答えた彼女。
話を聞く限りだと向こうでも悪魔に襲われていたことになる。人間に取り憑けられる、それこそ厄介なタイプに。
環境的にはどちらも大差ない気がしたが、彼女だってあちらで20年生きてきたわけだ。置いてきて後ろ髪引かれるものだってあるかもしれない。
ダンテとしては胃袋をすっかり掴まれているので、彼女が帰りたいと言うのなら止めはしないが、名残惜しい気もした。
「よく、分からないです。向こうには心残りになるようなものもありませんでしたし…でも、ここにいたらダンテさんに迷惑じゃ」
「美味いメシが出るのにか?楽しい同居人が出来て、俺は退屈しないから全然歓迎だけどな」
それは本音だ。
名無しが来てから特に迷惑はかかっていない。
精々、悪魔の出現が多くなってるくらい………
(…名無しが、来てから?)
ただの目の色が妙な、日本人の娘だ。
普通の人間に見える。
脳裏にふと仮説がよぎるが、ダンテの思い過しかもしれない。気のせいだろう、と頭の隅に追いやった。
「さて。一仕事したし、寝るか」
「は、はい」
名無しがチラリとソファを見やるが、あちらへ返すつもりは毛頭なかった。
抵抗されるより早く、人間湯たんぽを大事そうにダンテは抱き抱えた。
名無しも諦めたのか、抵抗する気がないのか、大人しく横になった。
「今度こそ静かに寝られればいいんだけどな」
「そうですね」
ダンテの要望も虚しく、明け方まで悪魔の気配に起こされることになるのは、あと一時間ほど後の話。
滾る、というのだろうか。
身体の奥底から湧き出る力のせいか、いつもより気分が高揚していた。
spectrum#08
事務所の前まで迫ってきていた悪魔を蹴散らしてシャワーを浴びる。
烏の行水ほどの湯を浴びれば埃や返り血は綺麗に落とせた。
寝室に戻れば、ドアの開く音に驚いたのか部屋の隅で小さく揺れる白いシーツの塊。
「名無し?」
布の上からポンポンと叩けば、泣きそうな顔の名無しが恐る恐る顔を出した。
「ダンテさん、怪我は」
「するわけねぇだろ、あんな雑魚で」
緊張が解けたのか、肺に溜めていた空気を全部抜くような長い長い息を彼女は吐き出した。
「…よかった…」
「何だよ、怖かったのか」
そう問えば、素直に首を縦に振る名無し。
本当に怖かったのだろう、顔色がかわいそうな程に真っ青だった。
くるまったシーツごと引き寄せて、子供をあやす様に背中を軽く撫でる。
人肌に安心したのか、強ばった身体が徐々に解れていった。
「ああいうのは前から見えていたのか?」
「その、黒い影みたいな…あのザワザワした感じは、昔から」
時には大人の男に取り憑いて。時には建物の仄暗い影からじっとこちらを見つめるように。
得体の知れない気配を誰にも相談することが出来ず、ずっとひとりで抱え込んでいた。
きっと疲れているからだ。気のせいだ、大丈夫、大丈夫、と。
「結局こっちに来た理由も分からずじまいだしな」
「そうですね…」
「戻りたいのか?」
名無しの髪を撫でながら見下ろせば、不安そうに見上げてくる黒い蒼碧。
「…戻った方が、いいんですよね。やっぱり」
「俺は名無しの気持ちを聞いてるんだけどな」
理屈的で、少し曖昧に答えた彼女。
話を聞く限りだと向こうでも悪魔に襲われていたことになる。人間に取り憑けられる、それこそ厄介なタイプに。
環境的にはどちらも大差ない気がしたが、彼女だってあちらで20年生きてきたわけだ。置いてきて後ろ髪引かれるものだってあるかもしれない。
ダンテとしては胃袋をすっかり掴まれているので、彼女が帰りたいと言うのなら止めはしないが、名残惜しい気もした。
「よく、分からないです。向こうには心残りになるようなものもありませんでしたし…でも、ここにいたらダンテさんに迷惑じゃ」
「美味いメシが出るのにか?楽しい同居人が出来て、俺は退屈しないから全然歓迎だけどな」
それは本音だ。
名無しが来てから特に迷惑はかかっていない。
精々、悪魔の出現が多くなってるくらい………
(…名無しが、来てから?)
ただの目の色が妙な、日本人の娘だ。
普通の人間に見える。
脳裏にふと仮説がよぎるが、ダンテの思い過しかもしれない。気のせいだろう、と頭の隅に追いやった。
「さて。一仕事したし、寝るか」
「は、はい」
名無しがチラリとソファを見やるが、あちらへ返すつもりは毛頭なかった。
抵抗されるより早く、人間湯たんぽを大事そうにダンテは抱き抱えた。
名無しも諦めたのか、抵抗する気がないのか、大人しく横になった。
「今度こそ静かに寝られればいいんだけどな」
「そうですね」
ダンテの要望も虚しく、明け方まで悪魔の気配に起こされることになるのは、あと一時間ほど後の話。