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見るもの全て珍しいのか、彼女の表情は面白い程にコロコロと変わった。
楽しそうに細められる深い青と翠が混ざった双眸。
女と買い物なんて、優柔不断で選ぶのが長いし、退屈なモンだと思っていたのに。
spectrum#06
夕飯の買い物も済ませてしまい事務所へ戻った。
今日は名無しが夕食を作ってくれるらしいが、さて何が出てくるのやら。
偏食の割には好き嫌いは少ない方だと思う。
最近はピザばかり食べていたから、少し食べ飽きてきていたところだ。
調味料も殆どキッチンに揃っていなかったため、名無しの生活雑貨よりも食料の買出しが意外と大変だった。
「じゃあ、少し待っててくださいね」
今日の夕飯メニューのリクエストを肉か魚か、と二択で聞かれたため即答で『肉。』と答えた。
じゃあ明日はお魚ですね、と言っていたが、何が出るのか教えてくれなかった。
事務所のソファで寝転がれば、ウトウトと乳白色に溶ける意識。
そういえば、子供の頃もこんな感じだった気がする。母の手料理を待っている間、俺は夕寝をして、向かいのソファでバージルが本を読んでいた。
起きれば大好物がテーブルに並び、メインディッシュを取り合いして母に窘められた。
自分でも驚く程に、他人がひとつ屋根の下にいることに違和感がなかった。
恐らく今まで知り合ったどの女よりも、人畜無害なオーラを出している彼女だからだろう。
性的アピールを自らするわけでもなく、金に貪欲なわけでもない。
まるでそこにいるのが自然で、空気のような。
「ダンテさん、」
ゆさゆさと軽く揺さぶられる身体。
窓の景色は先程まで茜色だったのに、今はすっかり夜になっていた。どのくらいうたた寝をしていたのだろう。
「お夕飯、出来ましたよ」
ふにゃふにゃといつもの表情で、名無しが柔らかく笑った。
***
「名無しがあんなに飯作るのが上手いなんてな」
「お口にあってよかったです。おかわり分、作ってて正解でした」
夕食を終えてシャワーを浴びた後、ダンテが改めてしみじみと言った。
メインディッシュはハンバーグだった。またお子様向けのメニューだな、と思いつつ口に運んだら考えがすぐに改まった。
今まで食べたハンバーグの中で抜群に美味かったのだ。
肉汁の味もしっかりしているのに、ふわふわと柔らかい。どうやら日本の食材であるトウフを混ぜたらしい。お豆腐は大豆で出来ているんですよ、と名無しが笑っていた。
中はチーズが入っており、ボリューム感も大満足だった。トマトソースも手作りらしくダンテの胃袋は一瞬にして掴まれた。
もちろん、メインディッシュ以外のスープやサラダも美味しかった。
野菜をしっかり使った食卓でこんなに満足したのは久方ぶりだった。
これは明日の夕食も楽しみだ。普段魚をあまり食べないから、どんなメニューが出てくるのか想像もつかない。
「レストランの料理人だったのか?」
「まさか。そんな立派なものじゃないですよ。
料理作るくらいしか楽しみがなかっただけですから」
名無しが困ったようにはにかむ。
…もしかしたらストロベリーサンデーを彼女にリクエストしたら本格的なものが出てくるかもしれない。今度頼んでみよう。
「さて、寝るとするか」
「はい」
名無しがブランケットを掴んでソファに寝転ぼうとするのを見て、少し意地悪な考えが浮かんだ。
「今晩は冷えるのに、こっちじゃなくてよかったのか?」
ダンテがベッドの横をポンポンと軽く叩く。
名無しがキョトンと目を丸くするが、朝言ったことを思い出したのか顔が一気に紅潮した。
「え、あっ」
「こっちで寝るって言ってなかったか?」
「言い、ましたけど、」
しどろもどろと歯切れ悪く名無しが答える。
そんな彼女を見て、畳み掛けるように演技がかったような動きでダンテはしょぼくれた。
「人肌がないと寂しいな」
「…寂しいんですか?」
「おー」
ぐっと唇を固く噤み、意を決したように遠慮がちにベッドに入ってくる名無し。
まさか、本当にくるとは。
驚きと、僅かな動揺を見せないように、ダンテは余裕ぶった笑みを浮かべる。ポーカーフェイスは結構得意だ。
「じゃあ寝るか」
「へ、ちょっと、なんでシャツを脱ぐんです!?」
着ていたグレーのシャツを脱ぎ捨てて半裸になれば、真っ赤な顔で名無しが即座に抗議した。
「俺は元々シャツ着て寝ないんだよ。安心しろって、ズボンは履いてるから」
「当たり前ですよ!」
半裸で寝るのはやはり快適だ。
たかが布一枚、されど布一枚なのだろう。
ベッドから逃げようとしている名無しの腰を引き寄せて、シーツに倒れ込むように沈んだ。
「う、ひゃっ」
胸板に彼女の柔らかい頬の感触。
昨日とは違う、今日買ったばかりのシャンプーの匂いが鼻をくすぐった。
生ぬるい人肌はどんな抱き枕よりも抱き心地がいい。
「あったけぇな」
「…寒いなら服着ればいいのに…」
「その分、温めてくれるんだろ?」
視線が絡めば、恥ずかしそうにそっぽを向かれる。
ピーコックアイのような不思議な色の瞳は、ダンテから明後日の方向に向いたまま。
「…添い寝するだけです」
ごにょごにょと諦めたように名無しが言えば、至極楽しそうにダンテが笑う。
眼前に広がる胸板を見るのすら恥ずかしいのか、寝返りを打って名無しは完全に背を向けてしまった。
それでもいいかと半ば妥協して、後ろからそっと抱き竦める。
「おやすみ」
「…おやすみなさい」
柔らかい、いい匂いのする黒髪にひとつ頬ずりを落とし、ダンテはゆっくりと目を閉じた。
今夜は、悪夢を見なくてすみそうだ。
楽しそうに細められる深い青と翠が混ざった双眸。
女と買い物なんて、優柔不断で選ぶのが長いし、退屈なモンだと思っていたのに。
spectrum#06
夕飯の買い物も済ませてしまい事務所へ戻った。
今日は名無しが夕食を作ってくれるらしいが、さて何が出てくるのやら。
偏食の割には好き嫌いは少ない方だと思う。
最近はピザばかり食べていたから、少し食べ飽きてきていたところだ。
調味料も殆どキッチンに揃っていなかったため、名無しの生活雑貨よりも食料の買出しが意外と大変だった。
「じゃあ、少し待っててくださいね」
今日の夕飯メニューのリクエストを肉か魚か、と二択で聞かれたため即答で『肉。』と答えた。
じゃあ明日はお魚ですね、と言っていたが、何が出るのか教えてくれなかった。
事務所のソファで寝転がれば、ウトウトと乳白色に溶ける意識。
そういえば、子供の頃もこんな感じだった気がする。母の手料理を待っている間、俺は夕寝をして、向かいのソファでバージルが本を読んでいた。
起きれば大好物がテーブルに並び、メインディッシュを取り合いして母に窘められた。
自分でも驚く程に、他人がひとつ屋根の下にいることに違和感がなかった。
恐らく今まで知り合ったどの女よりも、人畜無害なオーラを出している彼女だからだろう。
性的アピールを自らするわけでもなく、金に貪欲なわけでもない。
まるでそこにいるのが自然で、空気のような。
「ダンテさん、」
ゆさゆさと軽く揺さぶられる身体。
窓の景色は先程まで茜色だったのに、今はすっかり夜になっていた。どのくらいうたた寝をしていたのだろう。
「お夕飯、出来ましたよ」
ふにゃふにゃといつもの表情で、名無しが柔らかく笑った。
***
「名無しがあんなに飯作るのが上手いなんてな」
「お口にあってよかったです。おかわり分、作ってて正解でした」
夕食を終えてシャワーを浴びた後、ダンテが改めてしみじみと言った。
メインディッシュはハンバーグだった。またお子様向けのメニューだな、と思いつつ口に運んだら考えがすぐに改まった。
今まで食べたハンバーグの中で抜群に美味かったのだ。
肉汁の味もしっかりしているのに、ふわふわと柔らかい。どうやら日本の食材であるトウフを混ぜたらしい。お豆腐は大豆で出来ているんですよ、と名無しが笑っていた。
中はチーズが入っており、ボリューム感も大満足だった。トマトソースも手作りらしくダンテの胃袋は一瞬にして掴まれた。
もちろん、メインディッシュ以外のスープやサラダも美味しかった。
野菜をしっかり使った食卓でこんなに満足したのは久方ぶりだった。
これは明日の夕食も楽しみだ。普段魚をあまり食べないから、どんなメニューが出てくるのか想像もつかない。
「レストランの料理人だったのか?」
「まさか。そんな立派なものじゃないですよ。
料理作るくらいしか楽しみがなかっただけですから」
名無しが困ったようにはにかむ。
…もしかしたらストロベリーサンデーを彼女にリクエストしたら本格的なものが出てくるかもしれない。今度頼んでみよう。
「さて、寝るとするか」
「はい」
名無しがブランケットを掴んでソファに寝転ぼうとするのを見て、少し意地悪な考えが浮かんだ。
「今晩は冷えるのに、こっちじゃなくてよかったのか?」
ダンテがベッドの横をポンポンと軽く叩く。
名無しがキョトンと目を丸くするが、朝言ったことを思い出したのか顔が一気に紅潮した。
「え、あっ」
「こっちで寝るって言ってなかったか?」
「言い、ましたけど、」
しどろもどろと歯切れ悪く名無しが答える。
そんな彼女を見て、畳み掛けるように演技がかったような動きでダンテはしょぼくれた。
「人肌がないと寂しいな」
「…寂しいんですか?」
「おー」
ぐっと唇を固く噤み、意を決したように遠慮がちにベッドに入ってくる名無し。
まさか、本当にくるとは。
驚きと、僅かな動揺を見せないように、ダンテは余裕ぶった笑みを浮かべる。ポーカーフェイスは結構得意だ。
「じゃあ寝るか」
「へ、ちょっと、なんでシャツを脱ぐんです!?」
着ていたグレーのシャツを脱ぎ捨てて半裸になれば、真っ赤な顔で名無しが即座に抗議した。
「俺は元々シャツ着て寝ないんだよ。安心しろって、ズボンは履いてるから」
「当たり前ですよ!」
半裸で寝るのはやはり快適だ。
たかが布一枚、されど布一枚なのだろう。
ベッドから逃げようとしている名無しの腰を引き寄せて、シーツに倒れ込むように沈んだ。
「う、ひゃっ」
胸板に彼女の柔らかい頬の感触。
昨日とは違う、今日買ったばかりのシャンプーの匂いが鼻をくすぐった。
生ぬるい人肌はどんな抱き枕よりも抱き心地がいい。
「あったけぇな」
「…寒いなら服着ればいいのに…」
「その分、温めてくれるんだろ?」
視線が絡めば、恥ずかしそうにそっぽを向かれる。
ピーコックアイのような不思議な色の瞳は、ダンテから明後日の方向に向いたまま。
「…添い寝するだけです」
ごにょごにょと諦めたように名無しが言えば、至極楽しそうにダンテが笑う。
眼前に広がる胸板を見るのすら恥ずかしいのか、寝返りを打って名無しは完全に背を向けてしまった。
それでもいいかと半ば妥協して、後ろからそっと抱き竦める。
「おやすみ」
「…おやすみなさい」
柔らかい、いい匂いのする黒髪にひとつ頬ずりを落とし、ダンテはゆっくりと目を閉じた。
今夜は、悪夢を見なくてすみそうだ。