spectrum
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秘境の、海のような色。
spectrum#02
『彼女』の後にシャワーを軽く浴び、風呂上がりだというのに珍しく青年――ダンテはシャツとズボンを珍しくきちんと身につけた。
流石にいつも通りズボンだけ履いて、上半身裸というわけにはいかないだろう。
目の前の少女(と言ってもいい年齢なのかはさておき、見た目が幼いのだから仕方ない)の名前を問う。
名無し、というらしい。日本人だそうだ。
確かに部屋の明かりの下で見れば、しっかりと女だった。
細い首筋、生白い肌。華奢な骨格に、Tシャツからスラリと伸びた脚。
彼女が着ていた大きめのパーカーで分からなかったが、身長と体型の細さの割にしっかり胸もあった。確かにこれで少年と間違えるのはかなり失礼だったかもしれない。
「あの、ダンテさん」
長い前髪に隠された顔。
髪の隙間から覗く目は、アジア系でよく見る黒い目だ。
いや。見間違いでなければ、先程シャワーシーンを覗いてしまった事故では、確か――
「ん、どうした?」
「お話を聞いた限りだと、ここの世界は…私の知っている場所じゃないんですけど、」
「あぁ、そうだな」
「何か…その、先程仰ってくださったここに置いてくださる…って話はありがたいのですが、お世話になりっぱなしになる訳にもいきませんし、何かお仕事を紹介して頂けると助かるんですけれど…」
なるほど、日本人は真面目だと聞くがまさにその通りだと思った。
自分の置かれた状況は兎も角、真っ先にライフラインを整えようとする逞しさは見上げたものだった。
「と言っても、俺は悪魔相手の商売が殆どだからなぁ…ツテを期待されてもな。なんならここの事務員してくれりゃあ最高なんだけどな」
「例えば?」
「掃除洗濯、電話対応ってところか。」
「それだけですか?」
「欲を言えば食事も出ると最高だな」
「…じゃあとりあえず、お世話になります。助けてもらった上にすみません…」
申し訳なさそうに頭を下げる名無し。
流石に困った女子供を放り出すほど冷血漢ではない。かといってそこまで世話を焼く義理もないのだが、風呂を覗いてしまった罪悪感も少しある。まぁ、成り行きだ。
「それにしても、同い歳か…そうは見えねぇよな」
長い名無しの前髪を片手でそっと横に流してみた。
驚いたような名無しの顔。
少し幼さが残る顔立ちだが、大きな潤んだ黒い瞳が印象的だった。
――否、深く青い、瞳だ。
正確には、オレが髪を掻き分けた瞬間、部屋の明かりが差し込んだ虹彩が、青と翠のガラスを混ぜたような色に乱反射したような。
黒い瞳に、鮮やかなガラスを繊細に光の粒のように落とした双眸は異形でもあり――
ぱっと身を引く名無し。はらりと長い黒髪が風にはためくカーテンのように、柔らかく彼女の幼さの残る顔を隠した。
サァっと名無しの血の気が引いた。
前髪が長かったのは目元を隠すためだったのだろうか、咄嗟に両手で目を覆った。
「す、すみません。
……目が、変な色なんです。あまり…その、見せたく、なくて。気持ち悪いでしょう…?」
視界を覆ったまま、ポツリポツリと覚束無い英語で名無しが答える。
変な色。そう例えた彼女の言葉に、素直に首を横に振った。
「全然。凄ェ綺麗だ」
そう絶賛すれば、前髪の隙間から泣きそうな目で見上げてくる視線。
少し恥ずかしそうに、それ以上に泣き出しそうな顔だった。
「…そんなこと、言われたの、初めてです」
「じゃあオレが記念すべき一人目だな。光栄の至りです、ってな」
彼女の手を取りおどけて口付けを手の甲に落とせば、面白いくらいに顔が赤くなった。凄い。耳まで赤い。
こういうことにアジア人が慣れていないのか、はたまた名無しだけがこういうことに慣れていないのか。
まぁ、両方だろう。
例えが不謹慎だが、新しいペットを貰った子供気持ちはこんな感じなのだろう。
頬を紅潮させたまま固まっている名無しを見て、ダンテは楽しそうに笑った。
spectrum#02
『彼女』の後にシャワーを軽く浴び、風呂上がりだというのに珍しく青年――ダンテはシャツとズボンを珍しくきちんと身につけた。
流石にいつも通りズボンだけ履いて、上半身裸というわけにはいかないだろう。
目の前の少女(と言ってもいい年齢なのかはさておき、見た目が幼いのだから仕方ない)の名前を問う。
名無し、というらしい。日本人だそうだ。
確かに部屋の明かりの下で見れば、しっかりと女だった。
細い首筋、生白い肌。華奢な骨格に、Tシャツからスラリと伸びた脚。
彼女が着ていた大きめのパーカーで分からなかったが、身長と体型の細さの割にしっかり胸もあった。確かにこれで少年と間違えるのはかなり失礼だったかもしれない。
「あの、ダンテさん」
長い前髪に隠された顔。
髪の隙間から覗く目は、アジア系でよく見る黒い目だ。
いや。見間違いでなければ、先程シャワーシーンを覗いてしまった事故では、確か――
「ん、どうした?」
「お話を聞いた限りだと、ここの世界は…私の知っている場所じゃないんですけど、」
「あぁ、そうだな」
「何か…その、先程仰ってくださったここに置いてくださる…って話はありがたいのですが、お世話になりっぱなしになる訳にもいきませんし、何かお仕事を紹介して頂けると助かるんですけれど…」
なるほど、日本人は真面目だと聞くがまさにその通りだと思った。
自分の置かれた状況は兎も角、真っ先にライフラインを整えようとする逞しさは見上げたものだった。
「と言っても、俺は悪魔相手の商売が殆どだからなぁ…ツテを期待されてもな。なんならここの事務員してくれりゃあ最高なんだけどな」
「例えば?」
「掃除洗濯、電話対応ってところか。」
「それだけですか?」
「欲を言えば食事も出ると最高だな」
「…じゃあとりあえず、お世話になります。助けてもらった上にすみません…」
申し訳なさそうに頭を下げる名無し。
流石に困った女子供を放り出すほど冷血漢ではない。かといってそこまで世話を焼く義理もないのだが、風呂を覗いてしまった罪悪感も少しある。まぁ、成り行きだ。
「それにしても、同い歳か…そうは見えねぇよな」
長い名無しの前髪を片手でそっと横に流してみた。
驚いたような名無しの顔。
少し幼さが残る顔立ちだが、大きな潤んだ黒い瞳が印象的だった。
――否、深く青い、瞳だ。
正確には、オレが髪を掻き分けた瞬間、部屋の明かりが差し込んだ虹彩が、青と翠のガラスを混ぜたような色に乱反射したような。
黒い瞳に、鮮やかなガラスを繊細に光の粒のように落とした双眸は異形でもあり――
ぱっと身を引く名無し。はらりと長い黒髪が風にはためくカーテンのように、柔らかく彼女の幼さの残る顔を隠した。
サァっと名無しの血の気が引いた。
前髪が長かったのは目元を隠すためだったのだろうか、咄嗟に両手で目を覆った。
「す、すみません。
……目が、変な色なんです。あまり…その、見せたく、なくて。気持ち悪いでしょう…?」
視界を覆ったまま、ポツリポツリと覚束無い英語で名無しが答える。
変な色。そう例えた彼女の言葉に、素直に首を横に振った。
「全然。凄ェ綺麗だ」
そう絶賛すれば、前髪の隙間から泣きそうな目で見上げてくる視線。
少し恥ずかしそうに、それ以上に泣き出しそうな顔だった。
「…そんなこと、言われたの、初めてです」
「じゃあオレが記念すべき一人目だな。光栄の至りです、ってな」
彼女の手を取りおどけて口付けを手の甲に落とせば、面白いくらいに顔が赤くなった。凄い。耳まで赤い。
こういうことにアジア人が慣れていないのか、はたまた名無しだけがこういうことに慣れていないのか。
まぁ、両方だろう。
例えが不謹慎だが、新しいペットを貰った子供気持ちはこんな感じなのだろう。
頬を紅潮させたまま固まっている名無しを見て、ダンテは楽しそうに笑った。