spectrum
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名無し!」
バージルの張った結界が破られた音。
駆け上がるように二階へ行けば、もうそこはもぬけの殻だった。
spectrum#11
僅かに残った魔力の残滓を辿り、行き着いた場所は街外れにある廃ビルだった。
所々崩れた階段を走り抜け、行く手を阻む下級悪魔を蹴散らせば、そこはまるで地獄絵図ののうだった。
いつもは余裕のある態度が全く崩れないにも関わらず、今日ばかりは違った。
腹の奥底から溢れるのは、純粋な殺意。
腸が煮えくり返るとはまさにこの事なのだろう。
最上階の『president room』と書かれた扉を蹴破れば、そこは廃ビルながらも豪華な作りをした部屋だった。
そこの床には、
「名無し!」
埃っぽいラグに伏せるように、彼女は倒れていた。
抱き抱えるように身体を起こせば、驚く程に体温が冷えきっていた。
辛うじて息はあるが顔色は青いを通り越して真っ白だ。
魚の腹のように生白い首筋には痛々しい噛み跡がくっきりと浮いていた。
白いシャツは、彼女の血だろう。まだ乾ききっていない薄闇でもはっきりと分かる赤が肩にまで滲んでいた。
背中に背負っていたリベリオンを抜き、窓際にある仰々しい椅子へ向ける。
そこには肘を付いて歪んだ笑みを浮かべる男が、ひとり。
いや。一見、人の姿を保っているが、駄々漏れている気配そのものは
「遅かったな、逆賊の息子」
悪魔。
猫のような瞳孔が、愉しそうにこちらを見ている。
フツフツと沸き上がる怒りが、抑えきれない。
「独り占めは駄目だと、お前の父や母に教わらなかったのか?こんなご馳走を、コソコソと手元に置いておくなんて」
「ご馳走、だと?」
「魔力を帯びた人間の血液だぞ?まさか、手を出していなかったわけではあるまい」
「生憎、俺は紳士なもんでね」
それで最近体が軽かったのか。
彼女と一緒に過ごし、抱き枕代わりにくっついていたせいで。
合点がいくと同時に、無意識とはいえ悪魔らしい習性に少しだけ嫌気がさした。
結局、自分も悪魔なのだ。と。
「それはそれは。彼女の目が覚めたら今度は犯してやろうかと思ったが、まだ手付かずだったとは。役得だな」
プツリ、と。
何かが 切れる音がした。
頭の天辺から足の指先まで、煮え滾るような魔力が血のように通う。
赤黒い閃光がバチリと弾ければ、異形の姿に変わった。
龍のような赤と黒の鱗に覆われ、獣のように伸びた鋭い爪。
煌々と光る眼で近くの飾り棚を見れば、人とはかけ離れた姿がガラスに映り込み、内心嘲笑が漏れた。
「『アンタは少し、仕置が必要みたいだな』」
「逆賊風情が。このアスモデウスに刃を向けるとは」
アスモデウスと名乗った悪魔の爪が空気を裂く。
僅かな光さえ鈍く反射する切先は、触れただけでもひとたまりもないだろう。
だが、ダンテはそんなことはどうでもよかった。
ただ彼を今突き動かすのは、目の前の悪魔に対しての純粋な殺意。
刃を交えれば耳障りな金属音が部屋に響く。
触れ合う度に瞬きのような閃光が、薄暗い黒に舞う。
「素晴らしい!身体中に魔力が満ち、スパーダの血族と渡り合っているぞ!」
「『はっ、手加減してんだよ』」
後ろへ大きくリベリオンを振りかぶれば、赤い閃光の魔力が刀身に帯びる。
柄を強く掴み勢いよく振れば、地走りのような衝撃波がはしった。
「っぐ、」
「『これで終幕だ。』」
吹き飛んだアスモデウスを追撃するようにスティンガーで切っ先を突きつける。
追い詰められたアスモデウスが掴み、投げたのは
「受け取れ!」
「『っ!』」
剣先を逸らし、咄嗟に抱きとめたのは名無しだった。
その一瞬の隙をついて、深手を負ったアスモデウスは窓ガラスを破って逃げていった。
今は、追うべきではないだろう。
それよりもこの腕の中の彼女をどうにかしなければ。
「ん……」
抱きとめられた衝撃で目を覚ましたのか、顔面蒼白の名無しがゆるゆると目を開ける。
薄闇の中でも僅かな光を孕む蒼碧の瞳と視線が絡む。
「…ダンテ、さん?」
僅かに上がる言葉尻。
疑問形の言葉。
理由はすぐに分かった。
今、彼女を抱いている腕は人間のソレではなかった。
獣よりもおぞましい、悪魔の、
「『見るな』」
「わ…っ」
「見ないで、くれ」
咄嗟に彼女の美しい目元を、龍のような鱗に覆われた手で隠す。
すぐに魔人化を解けば、目元を覆う手はいつも見慣れた革グローブに戻った。
「…大丈夫、じゃないな。すぐに事務所に戻るぞ」
「あの、大丈夫、です。少し、頭がクラクラしますけど」
「いいから大人しくしてろ。」
羽織っていた血のように赤いコートを脱ぎ、名無しを覆い隠すように包み込む。
もう魔人の姿ではないのだから、そうまでして彼女を隠す必要はなかったのだが、ダンテはせざるを得なかった。
ひとつは、彼女の傷口から滲んだ血の匂いが魔人化していると、本当に不思議と『美味そう』だと認識されてしまったのだ。
悪魔の本能なのだろうか。あの感覚がまだ残っているような気がして、血の匂いを遮るようにコートで包んだ。
ふたつめは、見られたくなかったのだ。
魔人化した醜い姿も、動揺を隠しきれないこの情けない顔も。
(情けねぇ)
悪魔も取り逃した。久しぶりに犯した失敗だ。
それに名無しを危険な目に晒してしまった。これが一番堪えた。
今すぐ叫んでしまいたいような衝動をぐっと抑え、ダンテはビルの上から事務所に向かって空を切るように、勢いよく窓から飛び降りた。
バージルの張った結界が破られた音。
駆け上がるように二階へ行けば、もうそこはもぬけの殻だった。
spectrum#11
僅かに残った魔力の残滓を辿り、行き着いた場所は街外れにある廃ビルだった。
所々崩れた階段を走り抜け、行く手を阻む下級悪魔を蹴散らせば、そこはまるで地獄絵図ののうだった。
いつもは余裕のある態度が全く崩れないにも関わらず、今日ばかりは違った。
腹の奥底から溢れるのは、純粋な殺意。
腸が煮えくり返るとはまさにこの事なのだろう。
最上階の『president room』と書かれた扉を蹴破れば、そこは廃ビルながらも豪華な作りをした部屋だった。
そこの床には、
「名無し!」
埃っぽいラグに伏せるように、彼女は倒れていた。
抱き抱えるように身体を起こせば、驚く程に体温が冷えきっていた。
辛うじて息はあるが顔色は青いを通り越して真っ白だ。
魚の腹のように生白い首筋には痛々しい噛み跡がくっきりと浮いていた。
白いシャツは、彼女の血だろう。まだ乾ききっていない薄闇でもはっきりと分かる赤が肩にまで滲んでいた。
背中に背負っていたリベリオンを抜き、窓際にある仰々しい椅子へ向ける。
そこには肘を付いて歪んだ笑みを浮かべる男が、ひとり。
いや。一見、人の姿を保っているが、駄々漏れている気配そのものは
「遅かったな、逆賊の息子」
悪魔。
猫のような瞳孔が、愉しそうにこちらを見ている。
フツフツと沸き上がる怒りが、抑えきれない。
「独り占めは駄目だと、お前の父や母に教わらなかったのか?こんなご馳走を、コソコソと手元に置いておくなんて」
「ご馳走、だと?」
「魔力を帯びた人間の血液だぞ?まさか、手を出していなかったわけではあるまい」
「生憎、俺は紳士なもんでね」
それで最近体が軽かったのか。
彼女と一緒に過ごし、抱き枕代わりにくっついていたせいで。
合点がいくと同時に、無意識とはいえ悪魔らしい習性に少しだけ嫌気がさした。
結局、自分も悪魔なのだ。と。
「それはそれは。彼女の目が覚めたら今度は犯してやろうかと思ったが、まだ手付かずだったとは。役得だな」
プツリ、と。
何かが 切れる音がした。
頭の天辺から足の指先まで、煮え滾るような魔力が血のように通う。
赤黒い閃光がバチリと弾ければ、異形の姿に変わった。
龍のような赤と黒の鱗に覆われ、獣のように伸びた鋭い爪。
煌々と光る眼で近くの飾り棚を見れば、人とはかけ離れた姿がガラスに映り込み、内心嘲笑が漏れた。
「『アンタは少し、仕置が必要みたいだな』」
「逆賊風情が。このアスモデウスに刃を向けるとは」
アスモデウスと名乗った悪魔の爪が空気を裂く。
僅かな光さえ鈍く反射する切先は、触れただけでもひとたまりもないだろう。
だが、ダンテはそんなことはどうでもよかった。
ただ彼を今突き動かすのは、目の前の悪魔に対しての純粋な殺意。
刃を交えれば耳障りな金属音が部屋に響く。
触れ合う度に瞬きのような閃光が、薄暗い黒に舞う。
「素晴らしい!身体中に魔力が満ち、スパーダの血族と渡り合っているぞ!」
「『はっ、手加減してんだよ』」
後ろへ大きくリベリオンを振りかぶれば、赤い閃光の魔力が刀身に帯びる。
柄を強く掴み勢いよく振れば、地走りのような衝撃波がはしった。
「っぐ、」
「『これで終幕だ。』」
吹き飛んだアスモデウスを追撃するようにスティンガーで切っ先を突きつける。
追い詰められたアスモデウスが掴み、投げたのは
「受け取れ!」
「『っ!』」
剣先を逸らし、咄嗟に抱きとめたのは名無しだった。
その一瞬の隙をついて、深手を負ったアスモデウスは窓ガラスを破って逃げていった。
今は、追うべきではないだろう。
それよりもこの腕の中の彼女をどうにかしなければ。
「ん……」
抱きとめられた衝撃で目を覚ましたのか、顔面蒼白の名無しがゆるゆると目を開ける。
薄闇の中でも僅かな光を孕む蒼碧の瞳と視線が絡む。
「…ダンテ、さん?」
僅かに上がる言葉尻。
疑問形の言葉。
理由はすぐに分かった。
今、彼女を抱いている腕は人間のソレではなかった。
獣よりもおぞましい、悪魔の、
「『見るな』」
「わ…っ」
「見ないで、くれ」
咄嗟に彼女の美しい目元を、龍のような鱗に覆われた手で隠す。
すぐに魔人化を解けば、目元を覆う手はいつも見慣れた革グローブに戻った。
「…大丈夫、じゃないな。すぐに事務所に戻るぞ」
「あの、大丈夫、です。少し、頭がクラクラしますけど」
「いいから大人しくしてろ。」
羽織っていた血のように赤いコートを脱ぎ、名無しを覆い隠すように包み込む。
もう魔人の姿ではないのだから、そうまでして彼女を隠す必要はなかったのだが、ダンテはせざるを得なかった。
ひとつは、彼女の傷口から滲んだ血の匂いが魔人化していると、本当に不思議と『美味そう』だと認識されてしまったのだ。
悪魔の本能なのだろうか。あの感覚がまだ残っているような気がして、血の匂いを遮るようにコートで包んだ。
ふたつめは、見られたくなかったのだ。
魔人化した醜い姿も、動揺を隠しきれないこの情けない顔も。
(情けねぇ)
悪魔も取り逃した。久しぶりに犯した失敗だ。
それに名無しを危険な目に晒してしまった。これが一番堪えた。
今すぐ叫んでしまいたいような衝動をぐっと抑え、ダンテはビルの上から事務所に向かって空を切るように、勢いよく窓から飛び降りた。