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昼。
カラッと晴れた晴天は、掃除洗濯をするに限る。
ダンテが買ってみたものの、ほとんど使われずに埃を被っていた掃除機も今は名無しの手によって綺麗に磨かれ、生き生きと事務所の床を綺麗にしていた。
名無しが黙々と掃除をしている時に、その事件は起きた。
spectrum#10
事務所の机の下から出てきた一冊の雑誌。
掃除機で吸っていたら、ガサッと異音がした。電源を切り、手を伸ばして取り出したもの。
ただの雑誌ならなんの問題もなかった。
出てきたのは、
「う、わぁ!?」
中身を確認して反射的に閉じた。
グラビア雑誌、だがヌードの写真もあった。
これはいわゆる、成人向け雑誌。
バクバクと心臓が早鐘を鳴らす。
見てしまった罪悪感と、どうしてこれがこんなところに、と頭の中がぐるぐるした。
顔が熱い、なんてものじゃない。
初めて目にする肌色が多い本に目眩を覚えた。
落ち着け。ここはダンテの事務所であり、家だ。
いくら優秀なデビルハンターと言えども、ダンテだって健全な青年であり、お年頃だ。ある方が自然なのだ。
ちらっと雑誌にもう一度目を落とす。
水着のグラマラス美女が、それはもう見事な谷間を作っている。何を食べたらそうなるんだ。
「…こういうのが好きなのかな」
別に自分がツルペタだとか、何も無いわけではない。
むしろ成人したばかりの年頃なのだ、成長の余地はまだある。…はず。
そもそも欧米のボンキュッボンはDNAの作りから違うのであって、
(って、なんでこんなこと、気にしなくちゃいけないの)
別にダンテが巨乳が好きだとか、名無しには関係ない話だ。
そう、関係ない。
彼にはお世話になりっぱなしなのだ。色んなものを貰っている。
これ以上何を望むというのだろう。
そっと雑誌を元あった場所にしまい、名無しは掃除機を再び手にした。
その時だった。
ドアノックが一階の事務所から鳴り響く。
電源を入れようとしていた掃除機を丁寧に置き、名無しは軽い足取りで入口へ向かった。
「はい、」
「あら。店を間違えたかしら」
やって来たのは長い金髪を揺らす絶世の美女。それこそさっき見た雑誌の女優なんて霞んでしまいそうなくらいだ。
グラマラスな体型がよく分かるレザー服に身を包んだ彼女に、思わず呆気にとられてしまった。
「あ…こ、ここは、デビルメイクライですけど、」
「やっぱりそうよね。ダンテはいるかしら?」
「えっと…すぐに戻ってくると仰ってましたけど、事務所で待たれますか?」
「そうさせてもらうわ」
勝手知ったる風に事務所へ入り、周りをゆっくりと一望する彼女。「随分綺麗になったのね」と呟く辺り、以前にも来たことがあるのだろう。
「すぐにコーヒー、お出ししますね」
「あぁ、ちょっと待って」
手首を咄嗟に掴まれて、思わず無遠慮に彼女を見上げる。
じっとこちらを見下ろしてくるアイスブルーの瞳。この色、どこかで…。
「『星天の瞳』じゃないの。貴女、それどこで?」
「………へ、」
はらりと落ちる前髪。
目元を隠していた長い前髪はウォールナットのフローリングに切って落とされた。
途端に視界がひらける。
あまりの突然の出来事に、前髪を切って落とされた事実に理解が追いつかなかった。
「オイ、何やってんだトリッシュ!」
事務所の入口から大きな足音を立てて入ってきたのは、先程まで外出していたダンテだ。
トリッシュと呼ばれた女性の手を振り落とし、咄嗟に背中に隠された。
「何って。貴方こそ何してるの。
知らない悪魔を無用心に事務所に通さないようにって、店番の子に言っておかなきゃ危ないでしょう?」
「それもそうだな…じゃなくて。お前、何名無しの前髪切り落としてんだ」
ダンテの言葉に我に返って前髪を触れば、チクチクした短い残り毛が手のひらに落ちた。
「だって勿体無いじゃない。可愛い顔をしているのに」
「髪を切り落としても人間の世界では傷害罪になるんだぞ、知ってたか?」
悪びれた様子もなく、肩をすくめるトリッシュと呼ばれた女性。
彼女に対して呆れたように文句を言いながら、ダンテにそっと背中へ隠された。
まるで、トリッシュに見られたくないように。
「ダンテ。その子、どこで見つけたの」
「…拾ったんだよ。よく分からねぇけど、迷い込んで、助けてたから成り行きで」
「成り行き、ね」
含みのある彼女の言葉に、僅かだがダンテの空気が揺らいだのが分かった。
「その子がいると悪魔が勝手に寄ってきて仕事が増えるから。じゃなくて?」
悪魔が、寄ってくる。
「どういう、ことですか?」
「その眼は元々魔界にあったものなのよ。それも、かなり強い魔力を帯びたもの。2000年程前にとある悪魔が魔界から持ち出して、そこから行方知れず。
つまり、魔力だけが強い無抵抗な人間なんて、悪魔の格好の餌食なのよ」
特に、あなたは女の子だしね。
そう言われ、今まで疑問に思っていたことが少しずつ解けてきた気がした。
あまりの情報量の多さに目眩すら覚える。
「じゃあ、ダンテさんが最近全然休めていないのも、」
「それは仕事がたまたま、忙しいだけだって」
「嘘。」
彼の正面に立ち、無遠慮に下から見上げれる。
気まずそうにアイスブルーの瞳が僅かに視線を逸らされた。
なんだかそれが、無性に悲しくて。
「…すみません。部屋で、少し頭を冷やしてきます」
その場にいたくなくて、逃げるように階段を駆け上がった。
***
埃っぽい空き部屋の窓を大きく開き、床に座り込んで深いため息をゆっくりと吐いた。
分かっている。それを知ったところで、ダンテのように悪魔を退ける術は、私には何もない。
教えたところでどうしようもないのだ。
一番嫌になったのは、彼に迷惑をかけてしまっている事実だった。
最近夜も出掛けたまま、帰ってこないことはよくあった。もしかしたら夜通し悪魔を狩っていたのかもしれない。
あぁ、自己嫌悪だ。
「赴いてみれば、呆気なく見つかるものだな」
少々、厄介な結界が張られていたがな。
低い声。
開け放った窓に佇む黒い影。
「星天の瞳、見つけたぞ」
さぁ、来たれ。憐れな子羊よ。
地を這うような声で、私の意識はそこで途切れた。
カラッと晴れた晴天は、掃除洗濯をするに限る。
ダンテが買ってみたものの、ほとんど使われずに埃を被っていた掃除機も今は名無しの手によって綺麗に磨かれ、生き生きと事務所の床を綺麗にしていた。
名無しが黙々と掃除をしている時に、その事件は起きた。
spectrum#10
事務所の机の下から出てきた一冊の雑誌。
掃除機で吸っていたら、ガサッと異音がした。電源を切り、手を伸ばして取り出したもの。
ただの雑誌ならなんの問題もなかった。
出てきたのは、
「う、わぁ!?」
中身を確認して反射的に閉じた。
グラビア雑誌、だがヌードの写真もあった。
これはいわゆる、成人向け雑誌。
バクバクと心臓が早鐘を鳴らす。
見てしまった罪悪感と、どうしてこれがこんなところに、と頭の中がぐるぐるした。
顔が熱い、なんてものじゃない。
初めて目にする肌色が多い本に目眩を覚えた。
落ち着け。ここはダンテの事務所であり、家だ。
いくら優秀なデビルハンターと言えども、ダンテだって健全な青年であり、お年頃だ。ある方が自然なのだ。
ちらっと雑誌にもう一度目を落とす。
水着のグラマラス美女が、それはもう見事な谷間を作っている。何を食べたらそうなるんだ。
「…こういうのが好きなのかな」
別に自分がツルペタだとか、何も無いわけではない。
むしろ成人したばかりの年頃なのだ、成長の余地はまだある。…はず。
そもそも欧米のボンキュッボンはDNAの作りから違うのであって、
(って、なんでこんなこと、気にしなくちゃいけないの)
別にダンテが巨乳が好きだとか、名無しには関係ない話だ。
そう、関係ない。
彼にはお世話になりっぱなしなのだ。色んなものを貰っている。
これ以上何を望むというのだろう。
そっと雑誌を元あった場所にしまい、名無しは掃除機を再び手にした。
その時だった。
ドアノックが一階の事務所から鳴り響く。
電源を入れようとしていた掃除機を丁寧に置き、名無しは軽い足取りで入口へ向かった。
「はい、」
「あら。店を間違えたかしら」
やって来たのは長い金髪を揺らす絶世の美女。それこそさっき見た雑誌の女優なんて霞んでしまいそうなくらいだ。
グラマラスな体型がよく分かるレザー服に身を包んだ彼女に、思わず呆気にとられてしまった。
「あ…こ、ここは、デビルメイクライですけど、」
「やっぱりそうよね。ダンテはいるかしら?」
「えっと…すぐに戻ってくると仰ってましたけど、事務所で待たれますか?」
「そうさせてもらうわ」
勝手知ったる風に事務所へ入り、周りをゆっくりと一望する彼女。「随分綺麗になったのね」と呟く辺り、以前にも来たことがあるのだろう。
「すぐにコーヒー、お出ししますね」
「あぁ、ちょっと待って」
手首を咄嗟に掴まれて、思わず無遠慮に彼女を見上げる。
じっとこちらを見下ろしてくるアイスブルーの瞳。この色、どこかで…。
「『星天の瞳』じゃないの。貴女、それどこで?」
「………へ、」
はらりと落ちる前髪。
目元を隠していた長い前髪はウォールナットのフローリングに切って落とされた。
途端に視界がひらける。
あまりの突然の出来事に、前髪を切って落とされた事実に理解が追いつかなかった。
「オイ、何やってんだトリッシュ!」
事務所の入口から大きな足音を立てて入ってきたのは、先程まで外出していたダンテだ。
トリッシュと呼ばれた女性の手を振り落とし、咄嗟に背中に隠された。
「何って。貴方こそ何してるの。
知らない悪魔を無用心に事務所に通さないようにって、店番の子に言っておかなきゃ危ないでしょう?」
「それもそうだな…じゃなくて。お前、何名無しの前髪切り落としてんだ」
ダンテの言葉に我に返って前髪を触れば、チクチクした短い残り毛が手のひらに落ちた。
「だって勿体無いじゃない。可愛い顔をしているのに」
「髪を切り落としても人間の世界では傷害罪になるんだぞ、知ってたか?」
悪びれた様子もなく、肩をすくめるトリッシュと呼ばれた女性。
彼女に対して呆れたように文句を言いながら、ダンテにそっと背中へ隠された。
まるで、トリッシュに見られたくないように。
「ダンテ。その子、どこで見つけたの」
「…拾ったんだよ。よく分からねぇけど、迷い込んで、助けてたから成り行きで」
「成り行き、ね」
含みのある彼女の言葉に、僅かだがダンテの空気が揺らいだのが分かった。
「その子がいると悪魔が勝手に寄ってきて仕事が増えるから。じゃなくて?」
悪魔が、寄ってくる。
「どういう、ことですか?」
「その眼は元々魔界にあったものなのよ。それも、かなり強い魔力を帯びたもの。2000年程前にとある悪魔が魔界から持ち出して、そこから行方知れず。
つまり、魔力だけが強い無抵抗な人間なんて、悪魔の格好の餌食なのよ」
特に、あなたは女の子だしね。
そう言われ、今まで疑問に思っていたことが少しずつ解けてきた気がした。
あまりの情報量の多さに目眩すら覚える。
「じゃあ、ダンテさんが最近全然休めていないのも、」
「それは仕事がたまたま、忙しいだけだって」
「嘘。」
彼の正面に立ち、無遠慮に下から見上げれる。
気まずそうにアイスブルーの瞳が僅かに視線を逸らされた。
なんだかそれが、無性に悲しくて。
「…すみません。部屋で、少し頭を冷やしてきます」
その場にいたくなくて、逃げるように階段を駆け上がった。
***
埃っぽい空き部屋の窓を大きく開き、床に座り込んで深いため息をゆっくりと吐いた。
分かっている。それを知ったところで、ダンテのように悪魔を退ける術は、私には何もない。
教えたところでどうしようもないのだ。
一番嫌になったのは、彼に迷惑をかけてしまっている事実だった。
最近夜も出掛けたまま、帰ってこないことはよくあった。もしかしたら夜通し悪魔を狩っていたのかもしれない。
あぁ、自己嫌悪だ。
「赴いてみれば、呆気なく見つかるものだな」
少々、厄介な結界が張られていたがな。
低い声。
開け放った窓に佇む黒い影。
「星天の瞳、見つけたぞ」
さぁ、来たれ。憐れな子羊よ。
地を這うような声で、私の意識はそこで途切れた。