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おいで、おいで。
こちらの手の引く方へ。
掴まれ、呑み込まれ、悪魔の世界へ。
さぁ、憐れな贄よ、此処に来たれ。
spectrum#01
知らない街並み。
明らかに日本とは違う風景の、石畳を張った地面を私は走った。
今日履いている靴が、スニーカーで本当によかった。
降りしきる雨。
遠来から響く、重い重い雷鳴。
それは物々しい景色も相まって、恐怖感を煽るには十分すぎた。
「はぁ、はっ…」
追いかけてくる異形の者。
振り返る度にその数は増えていっている。砂から黒い影、黒い影から鎌を持った異形の怪物へ進化するように形成されていく。
『いつも見ている』ものは、精々黒い影くらいだった。
嫌な雰囲気はいつもと同じだが、圧が違う。異形の者から向けられているのは間違いなく殺気だった。
「あっ…!」
行き着いた先は袋小路。
もう、逃げ場がない。
壁に背を向けて振り返る。
ボロ布を纏ったような姿は、絵に描いたような死神を彷彿させた。
暗がりの中でギラギラと光る赤い目。安っぽいネオンの光が、彼らが持つ鎌の刃渡りを鈍く光らせた。
鎌を振り上げられた瞬間だった。
豪雨のような雨音を切り裂いて響く、一声。
「It big catch today!」
空から降ってきた赤い影。
いや、人。だった。
聞き慣れない英語。
耳に劈く異形の怪物の断末魔。
響く銃声。
まるでハリウッドのVFXを駆使したアクション映画のようだった。
耳を押さえて、路地の壁の隅で蹲る。
断末魔と銃声を聞きたくなくて耳を塞ぐが、目の前の光景からは目が離せなかった。
揺れる銀髪。翻る鮮やかな赤いコート。
月明かりに鈍く照らされた大剣が宙を凪げば、異形の影はサイレンのような悲鳴と共に砂へ戻っていった。
「Are you okay?」
差し出される手。革手袋に包まれた手は大きく、使い込んでいるのか少し草臥れていた。
「…だい、じょうぶです」
「お、何だ。英語喋れるのか?」
「すこし、だけなら」
拙い英語で返せば、ぱぁっと表情が明るくなる目の前の青年。
笑った顔は少し幼い印象だった。
アイスブルーの涼やかな瞳に、銀糸の髪。
外国人の中でもかなり整った顔立ちの印象だった。
しかし胸板の露出は、どうにからなかったのか。少し目のやり場に困った。
「あの、ここ、どこですか?」
「ん?観光で来た…わけじゃなさそうだな。まぁ観光名物なんて」
彼の背後から、先程よりも大きな影が生まれる。
鐘の、音。
巨大な鎌を携え、青白い炎を両目にたたえた姿は見ただけでも寒気がした。
「コイツら悪魔くらいなもんだもんな」
「…あくま?」
「話は後だな。待ってろ、すーぐこんなやつミンチにしてやるさ」
青年は髑髏を象った大剣に手を掛ける。髑髏の目窪の奥が赤く光ったような気がした。
「さぁ、パーティーのはじまりだ」
楽しそうに小さく笑い、目の前の青年は勇猛果敢に『悪魔』と呼ばれる異形に躍りかかって行った。
雨が降りしきる、夜闇を切り裂いて銀色が踊る。
***
通された建物は、なんとも言えぬものだった。
食べかけのピザの箱、散らかったレコード、乱雑に放置されたビリヤード台。
奥には重厚なデスクと椅子があり、彼の言う『事務所』感を思わせるのはその一角くらいだ。
「とりあえずシャワーだな。先入っとけよ。そこのドアの、突き当たりがバスルームだからよ」
「す、すみません…ありがとうございます」
言葉に甘えることにしよう。
バスルームにつくと、鎧のように重く、氷のように冷たい服を脱ぎ捨てた。濡れてしまったジーパンは脱ぐのに特に苦労した。
日本ではビジネスホテルや一人暮らしの古い賃貸くらいでしか見かけないユニットバス。
トイレや風呂が一緒なのは、少し違和感があった。けれど湯で体を温められるならこの際なんでもよかった。
使い方がいまいち分からず、四苦八苦しながら何とか湯を出す。
頬についた泥を落とし、一息ついたところだった。
「あー寒ィ。オレも入るぞー」
「へ、」
シャッ、
勢いよく開かれるシャワーカーテン。
辛うじて目の前の青年は上半身が裸で、下はズボンをまだ履いていた。
だがこっちはそうもいかない。
文字通り、全裸だ。シャワーを浴びているのだから、当たり前だが。
「ひ、ひえええっ!?」
「おまっ…女だったのか!?」
そこからか!
確かに髪は長くないし、女らしい格好はしていなかったけれども!
慌ててバスタブの中でしゃがみこむと、再びシャワーカーテンは勢いよく閉められた。
絶対に見られた。死ぬほど恥ずかしい。
「…女の格好じゃないだろ、これ」
「動きやすい、服が好きなんです」
「アンタ、何歳だよ?」
「…二十歳です」
「嘘だろ、オレと同い歳かよ。11歳くらいに見えたぜ」
「じゅう、」
まさかの小学生。若く見られるのはいいことかもしれないが、それはそれでなんだか傷つく。
アジア系の人種は幼く見られやすいとは聞いていたが、小学生は酷くないだろうか。
「だからよ、その…ガキだし、チビだし、女っぽい顔してるけど男だろうから別に入っていいかと思ったんだけどよ…」
「大人ですし、一応女です…チビでは、ありますけど」
むしろアジア系の人間は、欧米人からしたら皆小さく見えるのでは?とも思った。
「あー、その、悪かった」
「い、いえ」
なんて気まずい。
彼がバスルームから出ていく気配を確認して、そっと、シャワーカーテンから顔を出す。
一応、着替えであろう。
かなり大きなTシャツが一枚無造作に置かれていた。この大きさならワンピースになるだろう。
一緒に男物の下着も置かれていたが、これは丁重に辞退しておこう。
少し濡れたままの下着をもう一度身につけ、ため息をつきながらTシャツの袖に腕を通した。
こちらの手の引く方へ。
掴まれ、呑み込まれ、悪魔の世界へ。
さぁ、憐れな贄よ、此処に来たれ。
spectrum#01
知らない街並み。
明らかに日本とは違う風景の、石畳を張った地面を私は走った。
今日履いている靴が、スニーカーで本当によかった。
降りしきる雨。
遠来から響く、重い重い雷鳴。
それは物々しい景色も相まって、恐怖感を煽るには十分すぎた。
「はぁ、はっ…」
追いかけてくる異形の者。
振り返る度にその数は増えていっている。砂から黒い影、黒い影から鎌を持った異形の怪物へ進化するように形成されていく。
『いつも見ている』ものは、精々黒い影くらいだった。
嫌な雰囲気はいつもと同じだが、圧が違う。異形の者から向けられているのは間違いなく殺気だった。
「あっ…!」
行き着いた先は袋小路。
もう、逃げ場がない。
壁に背を向けて振り返る。
ボロ布を纏ったような姿は、絵に描いたような死神を彷彿させた。
暗がりの中でギラギラと光る赤い目。安っぽいネオンの光が、彼らが持つ鎌の刃渡りを鈍く光らせた。
鎌を振り上げられた瞬間だった。
豪雨のような雨音を切り裂いて響く、一声。
「It big catch today!」
空から降ってきた赤い影。
いや、人。だった。
聞き慣れない英語。
耳に劈く異形の怪物の断末魔。
響く銃声。
まるでハリウッドのVFXを駆使したアクション映画のようだった。
耳を押さえて、路地の壁の隅で蹲る。
断末魔と銃声を聞きたくなくて耳を塞ぐが、目の前の光景からは目が離せなかった。
揺れる銀髪。翻る鮮やかな赤いコート。
月明かりに鈍く照らされた大剣が宙を凪げば、異形の影はサイレンのような悲鳴と共に砂へ戻っていった。
「Are you okay?」
差し出される手。革手袋に包まれた手は大きく、使い込んでいるのか少し草臥れていた。
「…だい、じょうぶです」
「お、何だ。英語喋れるのか?」
「すこし、だけなら」
拙い英語で返せば、ぱぁっと表情が明るくなる目の前の青年。
笑った顔は少し幼い印象だった。
アイスブルーの涼やかな瞳に、銀糸の髪。
外国人の中でもかなり整った顔立ちの印象だった。
しかし胸板の露出は、どうにからなかったのか。少し目のやり場に困った。
「あの、ここ、どこですか?」
「ん?観光で来た…わけじゃなさそうだな。まぁ観光名物なんて」
彼の背後から、先程よりも大きな影が生まれる。
鐘の、音。
巨大な鎌を携え、青白い炎を両目にたたえた姿は見ただけでも寒気がした。
「コイツら悪魔くらいなもんだもんな」
「…あくま?」
「話は後だな。待ってろ、すーぐこんなやつミンチにしてやるさ」
青年は髑髏を象った大剣に手を掛ける。髑髏の目窪の奥が赤く光ったような気がした。
「さぁ、パーティーのはじまりだ」
楽しそうに小さく笑い、目の前の青年は勇猛果敢に『悪魔』と呼ばれる異形に躍りかかって行った。
雨が降りしきる、夜闇を切り裂いて銀色が踊る。
***
通された建物は、なんとも言えぬものだった。
食べかけのピザの箱、散らかったレコード、乱雑に放置されたビリヤード台。
奥には重厚なデスクと椅子があり、彼の言う『事務所』感を思わせるのはその一角くらいだ。
「とりあえずシャワーだな。先入っとけよ。そこのドアの、突き当たりがバスルームだからよ」
「す、すみません…ありがとうございます」
言葉に甘えることにしよう。
バスルームにつくと、鎧のように重く、氷のように冷たい服を脱ぎ捨てた。濡れてしまったジーパンは脱ぐのに特に苦労した。
日本ではビジネスホテルや一人暮らしの古い賃貸くらいでしか見かけないユニットバス。
トイレや風呂が一緒なのは、少し違和感があった。けれど湯で体を温められるならこの際なんでもよかった。
使い方がいまいち分からず、四苦八苦しながら何とか湯を出す。
頬についた泥を落とし、一息ついたところだった。
「あー寒ィ。オレも入るぞー」
「へ、」
シャッ、
勢いよく開かれるシャワーカーテン。
辛うじて目の前の青年は上半身が裸で、下はズボンをまだ履いていた。
だがこっちはそうもいかない。
文字通り、全裸だ。シャワーを浴びているのだから、当たり前だが。
「ひ、ひえええっ!?」
「おまっ…女だったのか!?」
そこからか!
確かに髪は長くないし、女らしい格好はしていなかったけれども!
慌ててバスタブの中でしゃがみこむと、再びシャワーカーテンは勢いよく閉められた。
絶対に見られた。死ぬほど恥ずかしい。
「…女の格好じゃないだろ、これ」
「動きやすい、服が好きなんです」
「アンタ、何歳だよ?」
「…二十歳です」
「嘘だろ、オレと同い歳かよ。11歳くらいに見えたぜ」
「じゅう、」
まさかの小学生。若く見られるのはいいことかもしれないが、それはそれでなんだか傷つく。
アジア系の人種は幼く見られやすいとは聞いていたが、小学生は酷くないだろうか。
「だからよ、その…ガキだし、チビだし、女っぽい顔してるけど男だろうから別に入っていいかと思ったんだけどよ…」
「大人ですし、一応女です…チビでは、ありますけど」
むしろアジア系の人間は、欧米人からしたら皆小さく見えるのでは?とも思った。
「あー、その、悪かった」
「い、いえ」
なんて気まずい。
彼がバスルームから出ていく気配を確認して、そっと、シャワーカーテンから顔を出す。
一応、着替えであろう。
かなり大きなTシャツが一枚無造作に置かれていた。この大きさならワンピースになるだろう。
一緒に男物の下着も置かれていたが、これは丁重に辞退しておこう。
少し濡れたままの下着をもう一度身につけ、ため息をつきながらTシャツの袖に腕を通した。
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