志摩スペイン村付近に何が?

 当たり前だが、この世で生きているということは、生かされているという意味である。そうして、レオンがいないということは、すなわち何故かいなくてもだいじょうぶな理由があるという意味である。そう、替えが利くわけではない。でも、けれども、いなくても、なんとか世界が廻っていくとき、誰かがいないという珍現象は発生するのだった。この世で必要としてもらえる、とは、すなわち、自分が便利な道具であるという意味である。便利な道具とは、すなわち、役に立つ、お徳用えもん掛けのような、自分であれという意味である。だからと言って、レオンが役に立たない道具だった、というわけでは一切ない。それはかつ、役に立つ、立たないでない。必要だから、必要でないから、でない。世界はどうにかこうにか、レオンがいなくてもだいじょうぶな範囲で保っている、ただ、それが珍現象、彼がいない、彼を忘れた世界、という意味である。なんじゃそれは。

 赤毛のレオンは、背が小さく、いつも虎柄のパンツが好きな、はちまき着けた愉快なナイスガイだった。たこやきが好きなことを誰でも覚えがある。大きな両手剣を握り締め、「ローリングサンダー!」と叫びながら、敵に切り付ける様は、志摩市付近の婦女子にも、子供たちにも、他のナイスガイにも大好評だった。特に、アルフとツバートのウケが良かった。アルフは、無二の親友と彼を呼び、ツバートは、まるで水と火のように、レオンのことを尊敬し、慕っていたのだった。

 ツバートは、かるがもが大好きな、海の好きな、けれど実際には水平線の見えない街で生まれた、ヘイゼルの髪に、水色の瞳の、少し癖のある冷たげな美男である。いつもライトオンをこよなく愛し、自分でも最近ブログを始めたのだと、優しく語る、ナイスガイである。普段は、漁師をしている。朝起きたら、漁へ行き、港で魚を並べ、愛する妻がおり、その娘の名をオフェーリアと言う。オフェーリア・リロンと言うその娘さんは、金髪碧眼のべっぴんさんで、三つ編みが大好きな、料理がじょうずな、大地母神リフィアの司祭さんである。ツバートは、海が好き。オファは、大地の女神の、立派な体得者。だから、ご飯が美味しく、結婚してから、ツバートは、二つとない幸福の上に、太らないように気をつけ、妻が、万が一にも、多くいる自分のファン(笑)に、怒られたりしないことを祈っているのだった。

 友人たちは、ツバートがギターがじょうずなことを、いつもホメてくれる。山の中で過ごしていた頃は、内気なほうだったのに、海の傍に越してきたら、まるで自分が海のように、明るく快活に暮らせるようになった。だから海がツバートの、元気の原動力である。
3/14ページ