西野カナの郷、松阪市。

 アイヌーブさまは悲痛なうめき声を上げながら、痛みに耐えていた。

 とりあえず、とあたしのうちまで(伊勢市ですね)、帰ってきてもらった。何箇所も傷を負い、凄く弱っているのに、ただ、あたしに会えたのが嬉しい、と、涙を流して喜んでくれているのがありがたく、生きていてくれてありがとう、と、何度も言葉が出るあたしなのだった。

 あの日のあの丘のときに、大きな損傷をいくつもして。で、マムシの毒矢に撃たれ。最後頸動脈を切り裂いてなんとか助かった伝説のファルコンナイト。ミルザの主神とも呼ばれるアイヌーブ・レインリバーである。他にも海に消えたセイレーンとか、この辺の上役さんだとか、色々なモチーフで呼ばれる。

 包帯を取り換えてあげると嬉しそうに、喉を鳴らして喜んでくれるところがとても好きなのであった。

 コーンクリームシチューが好物なので、アンちゃんが作ってくれるとせかせかとしていた。

 美味しいものを食べて元気出してほしい。

 あ、なんですか?

「ラルさん、俺本当にこんな弱ってごめんな」

 あ、お安い御用ですよ(笑)。

「何にも気にしなくていいんですよ、アイヌーブさま」

 本当に生きて動いていてくれてありがとう。

「どこで何していたかとかというのは、聞きませんからね」

 あら、嬉しそうにしている(頬を染めて)。

「ありがとう」

 お腹空いていますか、食べられますか?

「うん、久しぶりに飯食べたいなーと思って(笑)」

 相変わらずだね(笑・涙)。

「アンちゃん、ありがとうな」

 アンちゃん、嬉しそう。

「もちろんだとも。でももう二度とそんな特攻はしてくれるなよ。全部フェニでいいんだから」

 あら、困った顔している。

「優しいね」

 アンちゃんの言葉。

「アタボーよ(爆)」

 もうあれから何年経ったと思っているのよ(笑)。あの丘で、2万騎ぐらい斬り殺したんだってね。5時間かかったと言っていた。どうしても部下がいると、足を引っ張られたときに憶測より深い傷を負って、死ぬから、と、部下を放置にしてひとり出ていったんだ、と聞いたことがある(その後訪ねてきてくれたときに)。人食い蛮族のバルス、というところの軍隊が攻めかかってきたときの、ミルザという騎士団領の話で、ティナという素敵なベジタリアンの騎士を失くしたときの、あたしたち世界の話なのでした。
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