勝デク×マイクラ
ここは年中雪が降り注ぐ雪原村。
村の早朝村人が起き出す時間、響く不自然な「グツグツ……」という煮えるような音。
出久は眠たい目を擦りながら音のする方向に行くと昨夜には巨大な石造りの塔が目に入る、塔の上部マグマが流れる溝の中で村を必死に守っていたはずの村の守護者が炎に包まれていた。
「そんな……嘘だろ、あんなに優しかった守護者が……!」
出久が手を伸ばそうとした瞬間、村の守護者はあっけなく煙となって消えてしまう。
足元のホッパーがカチリと音を立てチェストの中には「鉄インゴット」と彼が村の子供に贈ろうとしていた「ポピー」だけが残されていた。
ショックで膝をつく出久の横を勝己がズカズカと通り過ぎます。彼は眉ひとつ動かさず無造作にチェストを開けた。
「あぁ? 何しけた面してやがる。効率良く素材が集まってんじゃねぇか」
「かっちゃん……! 彼は村を守ってたんだよ!? それをこんな、煮込んでアイテムにするなんて……」
そこに緑色の毛と橙色の毛を持つ羊が近寄ってきて出久の袖を引っ張る。
「あっごめん……ご飯の時間だよね! 農民さんから小麦貰ってくるから待ってて!」
出久は無理に笑顔を作るとパタパタと村の中央へ走り出します。その背中を2頭の羊が弾むように追いかけていきました。
賑やかに去っていく1人と2頭を勝己は冷めた目で見送ろうとしますがその表情はいつもの険しさを失いどこか寂しげな色を帯びていた。
この村では誰もが「役割」を持っていた。
出久は羊を愛で村の経済を回す羊飼い。近所の連中も、土にまみれる農民や、氷を割って糸を垂らす漁師として日々を全うしている。最近この村に現れた旅人ですら村の発展に尽力している。
しかし勝己だけは違った。鍛冶台の前に立てば「生ぬるい」と吐き捨て、書見台を開けば「回りくどい」と蹴飛ばす。どの職業も彼の内にある「爆発的な何か」を満たしてはくれなかった。
「チッ……どいつもこいつも、型にハマりやがって……」
勝己は悪態をつくが、チェストに溜まった鉄インゴットを掴むその手はどこか居心地が悪そうだった。
この村の掟はシンプルで残酷だ。『働かざる者、住む場所なし』。
どの職にも就かない勝己に村人たちは家を貸し与えることを拒んでいた。
夜になれば氷点下まで下がる雪原の村。松明の明かりが届かない村の外れ吹きさらしの場所が勝己の定位置だった。
一方出久は羊飼いとして日々緑と橙の羊たちから美しい毛を刈り取っている。
彼はその毛を使いこっそりと「ベッド」を仕立てていました。村の仕事としてではなくただ1人の幼馴染のために。
「……かっちゃん、これまた新しいのを作ったんだ。緑と、こっちは予備の橙色。雪の上じゃ冷たいからせめてこれを使ってよ」
「あぁ!? 誰がそんなフワフワしたもん頼んだよデク! 俺はそこらの岩の上で十分だっつってんだろ!」
勝己は毒づきながらも出久が無理やり押し付けていったベッドを村人の目につかない物陰に設置する。その鮮やかな緑と橙の色合いは白一色の雪原の中で唯一の『体温』のように見えた。
「……チッ、あのデクめ。あんなフワフワしたもん作りやがって」
勝己は出久からもらった緑と橙のベッドを思い出し苛立ちを隠すように雪を蹴る。家も持たずニートと蔑まれる自分を無条件で受け入れる出久への、彼なりの「落とし前」が必要でした。勝己は懐から鉄インゴットを取り出し、その場で素早く剣を打ち直す。
「羊毛だけじゃ腹は膨れねぇだろ。あいつの代わりに肉でも集めてやるよ」
牛や豚を効率よく狩りある程度肉が集まった頃森の静寂を破るか細い声が聞こえてきた。
警戒して剣を構える勝己の視線の先にいたのは雪のように真っ白な毛並みをした1頭の狼だった。
狼は勝己を襲う様子もなく彼のズボンのポケットをじっと見つめて尻尾を控えめに振っている。
「あぁ? 何だ俺に用か。……あぁ、これか?」
勝己がポケットから取り出したのはさっき道端で拾った骨だった。
その瞬間、狼の瞳がキラキラと輝き興奮を抑えきれない様子で「ワンッ!」と短く吠えて駆け寄ってきた。
「っ!? 寄るんじゃねぇ! ……たく、腹減ってんのかよ。ほら、持っていけ!」
勝己が骨を差し出すと狼はそれを大事そうに受け取る。雪原の村で誰とも馴染めなかった勝己と森の中で1頭で生きてきた狼。
そして村に戻ってきた勝己は出久の元へ行き「……おい、デク。これ持っとけ」
勝己はぶっきらぼうに重たい肉の袋を出久に差し出しました。村から追い出され家もない自分がせめてベッドのお礼として命懸けで狩ってきた戦利品。
しかし返ってきたのは出久の困ったような申し訳なさそうな苦笑いだった。
「あ、ありがとう、かっちゃん。でも……さっき肉屋さんと羊毛を取引した時にお礼だって焼肉をたくさん貰っちゃったんだ……」
その言葉に勝己の手から力が抜けた。ドサリと雪の上に落ちる肉の袋。自分のやってきたことが無意味だったような、また「何者にもなれない自分」を突きつけられたような、やりきれない沈黙が勝己を包んだ。
俯く勝己をよそに、出久は「あ!」と声を上げて膝をついた。
「でも、この子は生肉を食べるよね。ご飯として取っておこうか!」
出久は袋から生肉を取り出すと勝己の背後に向かって優しく手を差し出す。勝己が驚いて振り返るとそこには森で別れたはずのあの真っ白な狼が座っていた。
狼は勝己を追いかけて、雪原の村までついてきていたのだ。
出久から肉を貰い嬉しそうに尻尾を振る狼。その姿を見て、出久はパッと顔を輝かせた。
「すごいよかっちゃん! この子、かっちゃんに懐いてるんだね。骨をあげたんでしょ? ……君はニートなんかじゃないよ。村の誰にもできなかった『狼を従える力』を持ってるんだ!」
勝己は相変わらず不機嫌そうな顔をしているが、自分の後ろにピタリと寄り添う狼の存在に先ほどまでの虚脱感が少しだけ和らぐのを感じていた。
雪原の冷たい夜風が吹く村外れ。勝己が出久から贈られた緑と橙のベッドに歩み寄ると、そこには村近くにあるイーグルからやってきた聖職者のオールマイトの姿があった。
松明の火が雪に反射する中、オールマイトは厳しい表情で勝己を待ち構えていた。
「爆豪少年こんな開けた場所に住んでいるのか……実は最近この付近でゾンビのうめき声が増えていてかつてないほど不穏な気配を感じてね。君と緑谷少年と村の人達に注意を促しに来たんだが……」
そこでオールマイトの言葉が止まる。勝己の足元で真っ白な狼が警戒するようにしかし主人を守るように凛と座っていたからだ。
オールマイトの瞳にかつての英雄のような輝きが戻る。
「……ほう! 狼を連れているのか! それもこれほどまでに懐いているとは。……よろしいならばこれを持っていきたまえ」
オールマイトが差し出したのは遠方の地で見つかる希少な「アルマジロ」の鱗を繋ぎ合わせて作られた、頑丈なオオカミ専用の鎧だった。
「かつて旅をした際に手に入れたものだが君たちなら使いこなせそうだ。この鎧があればゾンビの群れも恐れるに足らん。……私はゾンビの研究に戻るよ。若き守護者たちに幸あれ!」
ハハハと笑いながら聖職者は雪道をイーグルへと戻っていつた。
1人と1頭が残された村外れ。勝己は念の為にと自分の周りを柵で囲み松明で周囲を照らしゾンビに襲われないようにして無言で貰ったばかりの鎧を狼の体に合わせました。鱗の色が夜の闇に鈍く光り狼は誇らしげに鼻を鳴らす。
「……チッ余計なお節介だ。……寝るぞシロ」
勝己は出久が丹精込めて作ったベッドに深く体を沈めます。すぐ傍らには最新の鎧に身を包んだ頼もしい相棒に勝己は『シロ』と名付けた。
村人からは疎まれ家もない勝己でしたが今夜だけは出久の『ベッド』と、オールマイトの『鎧』、そして自分の力で手に入れた『仲間』に守られ、深い、深い眠りにつくのだった。
翌朝昼過ぎの太陽が雪を照らす中勝己が目を覚ますとベッドの周りには凄まじい数の「腐った肉」が散乱していた。
鎧を着たシロの足元には夜通し襲いかかってきたであろうゾンビたちの残骸が山をなしていてシロは腐った肉を見て興奮していた。
「……お前一晩でこれ全部やったのかよ。つーかそんな肉見て興奮してんじゃねぇ汚ねぇだろ……」
呆れる勝己だったが、突然シロは鋭い眼光を村の広場に向けて村の異変を獣の勘が察していた。
村の中央へ向かうとそこには異様な光景が広がっていた。家々は静まり返り道端には村人たちが着ていたはずの職業服だけが持ち主を失って脱ぎ捨てられたように落ちている。
徘徊していた数体のゾンビやゾンビ化した村人たちは昼の光を浴びて青白い炎を上げながら消滅していき、残されたのは服のみ。
「おい……何なんだよこれ。……デク! デクはどこだ!!」
嫌な予感を振り切るように勝己は出久の家へと踏み込む。そこには主人の異変を察して必死に鳴きながら出久の服を引っ張る緑と橙の羊たちの姿があった。
倒れ伏している出久の肌は一部が不気味な緑色に変色し始めている。
完全にゾンビ化する一歩手前――。
「クソッ、冗談じゃねぇぞ! こんなところで終わらせるかよ!」
勝己は即座に近くの布をひったくり出久を日光から守るようにそして自分自身の震えを隠すように厚く被せた。
勝己はまだ意識が混濁している出久を背負い全速力で雪原を駆け出す。シロもその横を主人の危機を守るように並走する。
オールマイトが暮らしているイグルーの隠し梯子を出久を背負い降りた先には地上とは打って変わったひんやりとした石煉瓦の空間が広がっていた。
シロは1階で勝己が戻ってくるまで待機していて、勝己は力なく垂れ下がる出久の体を慎重に抱え二重の鉄格子で仕切られた牢屋へと運び込む。
壁に寄りかかった出久の肌は先ほどよりもさらに緑色の面積を広げ荒い息が時折「ウゥ……」という人間のものではない唸り声に混じり始めていた。
二重の頑丈な鉄格子の向こう側。いつも明るく自分を追いかけ緑と橙の羊を愛で不器用な自分にベッドを届けてくれたあの笑顔。それが今急速に「化け物」へと塗り替えられていく。
「……っ、クソが……!」
勝己はその変わり果てていく姿を直視できず思わず顔を背けた。
「ニート」だと罵られようと家がなかろうと隣にデクがいた。その当たり前の光景が手のひらからこぼれ落ちていく恐怖に勝己の心は激しく揺さぶられる。
鉄格子の向こうで出久の肌はもうほとんどが腐敗したような緑色に染まりかつての面影は失われつつあった。
「オールマイト、出久を助ける方法はあるんか………?」
「あるにはあるのだが今は手元に無くてかつての私なら集められたのだろうが……」
「なら俺が行って取ってきてやる。その素材が何だろうが、全部ぶんどってくりゃいいんだろ!」
勝己の叫びが地下室に響く。ニートと蔑まれ、村に居場所のなかった彼が、初めて「自分の役割」を自ら宣言した瞬間だった。
オールマイトは衰えた自分の体を見つめ苦しげに首を振り返った。
「……すまない。かつての私なら自らネザーへ向かったが今の聖職者としての私ではゲートの向こうの過酷な環境には耐えられないだろう。……だが爆豪少年、君が行くというなら私は全力で君をサポートする」
オールマイトは震える手で棚からいくつかの装備を取り出し勝己に託す。
耐火のポーション、黒曜石、火打石と打ち金
「必要な素材は『火薬』、『発酵した蜘蛛の目』、『ブレイズパウダー』、『8個の金のインゴット』だ。ブレイズパウダーはネザーの要塞にいるブレイズを倒すことで入手出来るがウィザースケルトンという強い奴もいる気をつけたまえ」
「ハッ、上等だ、俺が一瞬で集めて出久を元に戻してやる」
出発の直前、勝己の目の前で鉄格子を激しく掴みガリガリと金属を削る音を立てながら出久が完全にゾンビへと変貌した。かつての理知的な緑の瞳は濁り口からは言葉にならない空腹と憎悪が混じったような呻き声が漏れる。
その絶望的な光景を前にして勝己は絞り出すような声でオールマイトに頼んだ。
「……オールマイト頼みがある。シロを地下へ連れてきてあいつの傍にいさせてやってくれ」
オールマイトが驚いて目を見開く「……こいつはデクが半ゾンビになった時も攻撃しなかった。あいつが……デクが飯を食わせて優しく撫でてくれたのを……こいつは覚えてやがるんだ」
シロは勝己の言葉を理解したかのように鉄格子の向こうで暴れる出久を見つめ悲しげに「クゥーン」と鼻を鳴らした。
勝己はシロを地下に残し愛する者を救うためのたった1人の遠征へと旅立つ。
背後からはゾンビ化した出久に寄り添い優しく寄り添うシロの気配だけが地下の冷たい空気を温めていた。
「おい、クソデク。……テメェの分際で、俺より先にくたばってんじゃねぇぞ。大人しく待ってやがれ」
村外れの吹きさらし、自分に居場所をくれた「緑と橙のベッド」のすぐ隣で勝己は黒曜石を積み上げ、紫色の歪んだ光が渦巻く「門」を完成させてオールマイトからゾンビ化した人間を元に戻す素材について書かれた紙を改めて確認する。
『火薬』夜に現れるクリーパーかネザーのガストから入手。
『発酵した蜘蛛の目』蜘蛛が落とす目と茶色のキノコと砂糖。
『金インゴット8個』地下深くに眠る金を掘るかネザーにある金塊を集めて1つにする。
夜になるのを待ち勝己は今までゾンビしか見た事がなくクリーパーがどういうものかは知りませんでした
闇の中から「シュー……」という不気味な導火線の音が聞こえた瞬間、勝己は迷わず音のする方へ踏み込んだ。
目の前には無表情に膨らみ始めるクリーパー。慌てて離れると先程いた場所には爆発した後があった。
「あいつ自爆するのかよ………」と呟く勝己、クリーパーが自爆すれば火薬が手に入らない勝己はそれでも諦めなかった「爆ぜる前にバラバラにしてやんよ!!」
その後何体かクリーパーと遭遇し辺りは爆発の後ででこぼこしていた。
ザシュッ!!
そして漸く一撃目でクリーパーを仰け反らせ、爆破のカウントダウンを強制的にリセット。さらに二撃、三撃と、勝己の怒涛の連撃がクリーパーを切り刻む。
断末魔もなく煙となって消えたクリーパーの跡には黒い粉末――「火薬」が残された。
実はクリーパーを倒す道中、蜘蛛にも襲われていたが普通に倒し蜘蛛の目を手に入れていた。
「まず火薬と蜘蛛の目………」と勝己は火薬と蜘蛛の目を手に取り確認するとポケットにしまう。
そして次の目的である砂糖を探し勝己は長い距離を歩くが一向に見つからない。ポーション調合に必要な素材「砂糖」を探して遠い場所にある平原の村へと辿り着いた。
けれど、村から孤立していた勝己の「圧倒的な知識不足」により素材集めが困難となっていた、普段出久が用意した食事を食う専門だった勝己はサトウキビが砂糖になることすら知らなかった。
「あぁ!? 砂糖なんてどこにあるんだよ! 白くて甘ぇ粉だろうが!」
殺気立った顔で村を徘徊しすれ違う村人に「……さとう……さとう……」と呪文のように呟き続ける勝己。村人たちが怯えて逃げ出す中、1人の大柄な男が声をかけてきた。
「ん? 呼んだか?」
そこには麦わら帽子を被り立派なクワを持った農民の男、砂藤力道が立っていた。
「あぁ!? てめぇが『サトウ』な訳あるか!?」
「だから砂藤! 俺は砂藤力道。この村で農民をやってる。……あんた、そんなに俺に用があるのか?」
「……違う。俺が探してんのは、ポーションにぶち込むための『砂糖』だ。調合に必要なんだよ!」
事情を察した砂藤はしばらくポカンとした後耐えきれずに吹き出した。
「はははは! お前最高だな! 砂糖を探して俺に聞き回ってたのか? ほらそこを見てみろよ。川沿いに生えてるあの棒きれみたいな草、あれがサトウキビだ。あれを加工すりゃ砂糖になるんだよ!」
「……は? あの棒があの粉になるのかよ……」
顔を真っ赤にして固まる勝己。砂藤は笑いすぎて涙を浮かべながら、自分の倉庫から袋いっぱいの砂糖を持ってきてくれた。
「面白い奴だなぁ。ほらこれは俺が作った砂糖だ。お前大切な奴を助けたいんだろ? 持っていけよ爆豪!」
砂糖を手に入れあとは「発酵したクモの目」を作るために必要な茶色のキノコ。勝己は必死に記憶を辿りますが村人が何処から取ってきているのか知らなかった。
「おい……砂藤。ついでに『茶色のキノコ』の場所も教えろ。この辺の森に生えてんのか?」
「茶色のキノコか? ああ暗い場所に生えるけど探すより俺のストックを持ってけよ」
砂藤は勝己を自分の家の中へ招き入れると、作業台の横にある大きなチェストをガサゴソと探り始めた。
「これだ、これ。いつも花を入れたキノコシチューを作るのに使ってるんだ。ほら好きなだけ持っていけ」
砂藤が差し出したのは、土の香りがする立派な茶色のキノコ。
勝己はそれをひったくるように受け取る。
「……シチュー用だぁ? 俺は毒々しいポーションを作るっつってんだよ」
「はは、同じキノコだろ? 気にするなよ。……爆豪、その顔少しは休めよ?」
勝己は一瞬足を止めますが、「っせーよ、お節介だ!」と毒づきながら外へ飛び出した。しかしその手の中には砂糖と茶色のキノコ、そして砂藤が「道中、腹が減ったら食え」と持たせてくれた温かい砂糖菓子が握られていた。
素材コンプリートこれで「発酵したクモの目」を作る準備が整った。
そして村外れの吹きさらしに緑色と橙色の羊毛で作られたベットがある自分の寝床まで戻ると用意していたチェストに火薬、蜘蛛の目、砂糖、茶色のキノコを大事そうにしまった。そしていよいよ最後の素材『ブレイズパウダー』を手に入れるためネザーへ向かう
紫色の歪んだ光が渦巻く「ネザーの門」を勝己は飛び込みました。視界が歪み次に目を開けたときそこは真っ赤な空とマグマの海が広がるネザーだった。
ピグリンやガストの火球をくぐり抜け勝己が逃げ込んだ洞窟の奥には涼しい顔で座り込む1人の男がいて真っ赤な世界で、その左右に分かれた髪色はあまりにも異質だった。
「あぁ!? 誰だテメェは! ゾンビの類じゃねぇだろうな!」
「……轟焦凍だ。ゾンビじゃない。……あんたもあの要塞から逃げてきたのか?」
父親と共にエンダードラゴンを討伐をしようと要塞に来たら彼の親父――「エンデヴァー」が、要塞のブレイズスポナーの前で興奮しすぎて火力を撒き散らした結果、制御不能なほどのブレイズが湧き出してしまい収集がつかなくなっているのだと話した。
勝己が治療薬の調合台を動かすための燃料そして更なる強力な素材として「ブレイズパウダー」が必要だと告げると、焦凍は静かに立ち上がりました。
「俺はそのブレイズに用があるんだよ! どけ邪魔すんなら爆破すんぞ!」
「……ブレイズを倒しに行くのか? なら俺も行こう。親父がやり散らかした火の不始末をつけなきゃならない」
ネザー要塞の猛火の中、勝己と焦凍の即席コンビは凄まじい連携を見せた。エンダードラゴン討伐のプロである焦凍の指示の元、耐火のポーションを飲んだ2人はブレイズの火力を抑え込みその隙を突いて勝己が鉄の剣でブレイズを次々と粉砕。焦凍は暴走していた父親を回収し歪んだ森へと追いやるとエンデヴァーはそこでエンダーマン相手に大暴れを始めた。勝己の手にはついに調合の動力源となる『ブレイズロッド』が握られた。
焦凍が手慣れた様子でピグリンに金インゴットを投げ与える様子を見た勝己は「金のインゴットだよな!? 何処にあんだ?」
「……悪いな、この辺りの金鉱石は親父が暴れてるうちに全部掘り尽くしちまった。もう金はない」
勝己は金インゴットは8個必要だが焦凍も使うみたいで寄越せなんて言えなかった。
「……クソが。これじゃあいつを……デクを人間に戻せねぇじゃねぇか……!」
膝をつきネザーの赤い土を叩く勝己。その拳には自分の無力さへの怒りが滲んでいた。
そんな勝己の背中に焦凍が静かにしかし確かな重みを持った言葉をかけた。
「……爆豪。もしかしてお前ゾンビ化した人間を治そうとしてるのか?」
「……あぁ!? だったら何だよ!」
「ならこれを持ってけ。ゾンビ化した村人の治療に必要だろ?」
焦凍が差し出したのは不気味なネザーの光を跳ね返すほどに神々しく輝く「金のリンゴ」だった。
そして村で皆から厄介者扱いされていたニートの勝己はネザーから帰還してチェストにしまっていた火薬、蜘蛛の目、砂糖、茶色のキノコ、金のリンゴを持って出久が待っているオールマイトのイグルーに向かって駆け出した。
雪原を切り裂くような速さで勝己はイグルーへと滑り込んだ。
ネザーの熱気と現世の冷気が混ざり合い彼の体からは白い蒸気が立ち上がっている。
地下へ飛び込むとそこには既に準備を整えたオールマイトが待っていました。「ガラス瓶」をいくつも作成し醸造台にセットしていた。
「ハァ、ハァ……! 持ってきたぞ……! 全部だ、全部揃えてきた!!」
「……よくやった、爆豪少年! 君はもうただの『ニート』ではない。彼を救うための唯一の希望だ!」
オールマイトは勝己が集めた素材を受け取り「弱体化のスプラッシュポーション」の醸造を始める。まず砂藤から譲り受けた砂糖とキノコと道中で手に入れた蜘蛛の目を合わせ「発酵したクモの目」を作り上げた。それを醸造台に投げ込むとブレイズロッドの炎がゴォォと音を立てて瓶の中の水を紫色に変えていく。
最後にクリーパーから倒して手に入れた火薬を混ぜ投げられる形へと変えたその瞬間「弱体化のスプラッシュポーション」が完成した。
鉄格子の向こうでは完全にゾンビ化した出久が「グガァァ……!」と獣のような声を上げ最後の突進を繰り返していた。
勝己は鉄格子の隙間から黒色の瓶を思い切り叩きつけた。
パリンッ!!
ポーションが弾け出久の体が弱体化の煙に包まれる。
「今だ爆豪少年! 金のリンゴを!!」
オールマイトの叫びに合わせ勝己は焦凍から託された金のリンゴを出久の口元に無理やり押し込み、ゾンビ化した出久がそれを噛み砕いた瞬間膝から崩れ落ちゆっくりと元の肌の色に戻っていく。何分経過したのか分からないが牢屋の前でひたすら見守る勝己とシロとオールマイト。
そして鉄格子の向こうにいる出久から、不気味な緑色の肌は消え、元の柔らかい肌の色とボサボサの緑色の髪が戻っていた。
オールマイトはもう大丈夫だろうと牢屋の鍵を開けるとシロが真っ先に飛び込みます。「ワンッ、ワンッ!」と歓喜の声を上げ、出久の頬を必死に舐め回した。
「……ん……。 かっ……ちゃん?」
その掠れたしかし間違いなく「人間」である出久の声を聞いた瞬間勝己の我慢は限界を迎えた。
「この……っ、クソデクがぁ!!」
勝己は叫びながら出久の胸ぐらを掴むようにして抱きしめ、シロも2人の間に割り込むようにしてじゃれついてくる。背後ではオールマイトが「本当によかった……」と枯れた声で涙を流していた。
1階に上がり冷たい雪原の空気を吸った出久でしたが勝己から聞かされた「村の現状」に言葉を失った。
「僕が……ゾンビに……。じゃあ農民さんも肉屋さんもみんな……」村を歩けばそこにあるのは無人の家々と雪に埋もれかけた衣服だけ。
出久はその場にふらふらと座り込んでしまった。自分の命は助かったけれど大好きだった村の仲間たちはもういない。その事実が彼の心に重くのしかかる。シロはそんな出久の顔を心配そうに下から覗き込んでいた。
そんな彼らの知らぬところで以前村の発展を手伝っていた旅人が1人空っぽになった村を訪れていた。
しかし人っ子1人いないゴーストタウンと化した光景に彼は何処に去っていった。残されたのは出久の帰りを待つ緑色と橙色の羊毛を持つ2頭の羊だけだった。
「なんだよ、これ……」
絶望に打ちひしがれながら村に戻った出久と勝己が目にしたのは無人だったはずの家にひしめき合う見たこともない服を着た村人たちだった。
彼らは互いに見つめ合い頭上からこれでもかとピンクのハートマークを撒き散らしている。するとどこからともなく「ポフッ」という音と共に小さな子供の村人が走り出してきた。
「えっ!? ええええええ!? いつの間に!? 命ってそんなに簡単に……えっ!?」
「っざけんな! 何だこの繁殖力は! 俺らが必死こいてる間に、何勝手に盛り上がってやがる!!」
実は先ほど去っていった旅人はただ逃げ出したわけではなかった。
旅人は「村人が全滅したなら他所から連れてくればいい」という冷徹かつ効率的な判断を下しボートやトロッコを駆使して近隣の村から強制的にもとい迅速に村人を「移送」してきたのだ。
見慣れない茶色のコートや雪原の民族衣装を着た新しい村人たちが出久たちの周りに集まってきた。
「フゥン!」
「フゥフゥン!」
彼らは出久が羊飼いだと気づくとさっそく取引の準備を始めた。
出久は新しい子供たちが自分の緑と橙の羊を見て喜んでいる姿を見てようやく少しだけ表情を和らげた。
「……かっちゃん。前のみんなとは違うけどまた新しい村が始まるんだね」
「……フン。これだけ人数いりゃ鉄がもっと効率よく集まるな。おいシロ! 迷子のガキを羊の柵から追い出せ!」
シロは新しい住人たちに戸惑いながらも勝己の指示に従って元気に村を駆け回る。
こうして、雪原の村はかなり強引に救われた。
村の早朝村人が起き出す時間、響く不自然な「グツグツ……」という煮えるような音。
出久は眠たい目を擦りながら音のする方向に行くと昨夜には巨大な石造りの塔が目に入る、塔の上部マグマが流れる溝の中で村を必死に守っていたはずの村の守護者が炎に包まれていた。
「そんな……嘘だろ、あんなに優しかった守護者が……!」
出久が手を伸ばそうとした瞬間、村の守護者はあっけなく煙となって消えてしまう。
足元のホッパーがカチリと音を立てチェストの中には「鉄インゴット」と彼が村の子供に贈ろうとしていた「ポピー」だけが残されていた。
ショックで膝をつく出久の横を勝己がズカズカと通り過ぎます。彼は眉ひとつ動かさず無造作にチェストを開けた。
「あぁ? 何しけた面してやがる。効率良く素材が集まってんじゃねぇか」
「かっちゃん……! 彼は村を守ってたんだよ!? それをこんな、煮込んでアイテムにするなんて……」
そこに緑色の毛と橙色の毛を持つ羊が近寄ってきて出久の袖を引っ張る。
「あっごめん……ご飯の時間だよね! 農民さんから小麦貰ってくるから待ってて!」
出久は無理に笑顔を作るとパタパタと村の中央へ走り出します。その背中を2頭の羊が弾むように追いかけていきました。
賑やかに去っていく1人と2頭を勝己は冷めた目で見送ろうとしますがその表情はいつもの険しさを失いどこか寂しげな色を帯びていた。
この村では誰もが「役割」を持っていた。
出久は羊を愛で村の経済を回す羊飼い。近所の連中も、土にまみれる農民や、氷を割って糸を垂らす漁師として日々を全うしている。最近この村に現れた旅人ですら村の発展に尽力している。
しかし勝己だけは違った。鍛冶台の前に立てば「生ぬるい」と吐き捨て、書見台を開けば「回りくどい」と蹴飛ばす。どの職業も彼の内にある「爆発的な何か」を満たしてはくれなかった。
「チッ……どいつもこいつも、型にハマりやがって……」
勝己は悪態をつくが、チェストに溜まった鉄インゴットを掴むその手はどこか居心地が悪そうだった。
この村の掟はシンプルで残酷だ。『働かざる者、住む場所なし』。
どの職にも就かない勝己に村人たちは家を貸し与えることを拒んでいた。
夜になれば氷点下まで下がる雪原の村。松明の明かりが届かない村の外れ吹きさらしの場所が勝己の定位置だった。
一方出久は羊飼いとして日々緑と橙の羊たちから美しい毛を刈り取っている。
彼はその毛を使いこっそりと「ベッド」を仕立てていました。村の仕事としてではなくただ1人の幼馴染のために。
「……かっちゃん、これまた新しいのを作ったんだ。緑と、こっちは予備の橙色。雪の上じゃ冷たいからせめてこれを使ってよ」
「あぁ!? 誰がそんなフワフワしたもん頼んだよデク! 俺はそこらの岩の上で十分だっつってんだろ!」
勝己は毒づきながらも出久が無理やり押し付けていったベッドを村人の目につかない物陰に設置する。その鮮やかな緑と橙の色合いは白一色の雪原の中で唯一の『体温』のように見えた。
「……チッ、あのデクめ。あんなフワフワしたもん作りやがって」
勝己は出久からもらった緑と橙のベッドを思い出し苛立ちを隠すように雪を蹴る。家も持たずニートと蔑まれる自分を無条件で受け入れる出久への、彼なりの「落とし前」が必要でした。勝己は懐から鉄インゴットを取り出し、その場で素早く剣を打ち直す。
「羊毛だけじゃ腹は膨れねぇだろ。あいつの代わりに肉でも集めてやるよ」
牛や豚を効率よく狩りある程度肉が集まった頃森の静寂を破るか細い声が聞こえてきた。
警戒して剣を構える勝己の視線の先にいたのは雪のように真っ白な毛並みをした1頭の狼だった。
狼は勝己を襲う様子もなく彼のズボンのポケットをじっと見つめて尻尾を控えめに振っている。
「あぁ? 何だ俺に用か。……あぁ、これか?」
勝己がポケットから取り出したのはさっき道端で拾った骨だった。
その瞬間、狼の瞳がキラキラと輝き興奮を抑えきれない様子で「ワンッ!」と短く吠えて駆け寄ってきた。
「っ!? 寄るんじゃねぇ! ……たく、腹減ってんのかよ。ほら、持っていけ!」
勝己が骨を差し出すと狼はそれを大事そうに受け取る。雪原の村で誰とも馴染めなかった勝己と森の中で1頭で生きてきた狼。
そして村に戻ってきた勝己は出久の元へ行き「……おい、デク。これ持っとけ」
勝己はぶっきらぼうに重たい肉の袋を出久に差し出しました。村から追い出され家もない自分がせめてベッドのお礼として命懸けで狩ってきた戦利品。
しかし返ってきたのは出久の困ったような申し訳なさそうな苦笑いだった。
「あ、ありがとう、かっちゃん。でも……さっき肉屋さんと羊毛を取引した時にお礼だって焼肉をたくさん貰っちゃったんだ……」
その言葉に勝己の手から力が抜けた。ドサリと雪の上に落ちる肉の袋。自分のやってきたことが無意味だったような、また「何者にもなれない自分」を突きつけられたような、やりきれない沈黙が勝己を包んだ。
俯く勝己をよそに、出久は「あ!」と声を上げて膝をついた。
「でも、この子は生肉を食べるよね。ご飯として取っておこうか!」
出久は袋から生肉を取り出すと勝己の背後に向かって優しく手を差し出す。勝己が驚いて振り返るとそこには森で別れたはずのあの真っ白な狼が座っていた。
狼は勝己を追いかけて、雪原の村までついてきていたのだ。
出久から肉を貰い嬉しそうに尻尾を振る狼。その姿を見て、出久はパッと顔を輝かせた。
「すごいよかっちゃん! この子、かっちゃんに懐いてるんだね。骨をあげたんでしょ? ……君はニートなんかじゃないよ。村の誰にもできなかった『狼を従える力』を持ってるんだ!」
勝己は相変わらず不機嫌そうな顔をしているが、自分の後ろにピタリと寄り添う狼の存在に先ほどまでの虚脱感が少しだけ和らぐのを感じていた。
雪原の冷たい夜風が吹く村外れ。勝己が出久から贈られた緑と橙のベッドに歩み寄ると、そこには村近くにあるイーグルからやってきた聖職者のオールマイトの姿があった。
松明の火が雪に反射する中、オールマイトは厳しい表情で勝己を待ち構えていた。
「爆豪少年こんな開けた場所に住んでいるのか……実は最近この付近でゾンビのうめき声が増えていてかつてないほど不穏な気配を感じてね。君と緑谷少年と村の人達に注意を促しに来たんだが……」
そこでオールマイトの言葉が止まる。勝己の足元で真っ白な狼が警戒するようにしかし主人を守るように凛と座っていたからだ。
オールマイトの瞳にかつての英雄のような輝きが戻る。
「……ほう! 狼を連れているのか! それもこれほどまでに懐いているとは。……よろしいならばこれを持っていきたまえ」
オールマイトが差し出したのは遠方の地で見つかる希少な「アルマジロ」の鱗を繋ぎ合わせて作られた、頑丈なオオカミ専用の鎧だった。
「かつて旅をした際に手に入れたものだが君たちなら使いこなせそうだ。この鎧があればゾンビの群れも恐れるに足らん。……私はゾンビの研究に戻るよ。若き守護者たちに幸あれ!」
ハハハと笑いながら聖職者は雪道をイーグルへと戻っていつた。
1人と1頭が残された村外れ。勝己は念の為にと自分の周りを柵で囲み松明で周囲を照らしゾンビに襲われないようにして無言で貰ったばかりの鎧を狼の体に合わせました。鱗の色が夜の闇に鈍く光り狼は誇らしげに鼻を鳴らす。
「……チッ余計なお節介だ。……寝るぞシロ」
勝己は出久が丹精込めて作ったベッドに深く体を沈めます。すぐ傍らには最新の鎧に身を包んだ頼もしい相棒に勝己は『シロ』と名付けた。
村人からは疎まれ家もない勝己でしたが今夜だけは出久の『ベッド』と、オールマイトの『鎧』、そして自分の力で手に入れた『仲間』に守られ、深い、深い眠りにつくのだった。
翌朝昼過ぎの太陽が雪を照らす中勝己が目を覚ますとベッドの周りには凄まじい数の「腐った肉」が散乱していた。
鎧を着たシロの足元には夜通し襲いかかってきたであろうゾンビたちの残骸が山をなしていてシロは腐った肉を見て興奮していた。
「……お前一晩でこれ全部やったのかよ。つーかそんな肉見て興奮してんじゃねぇ汚ねぇだろ……」
呆れる勝己だったが、突然シロは鋭い眼光を村の広場に向けて村の異変を獣の勘が察していた。
村の中央へ向かうとそこには異様な光景が広がっていた。家々は静まり返り道端には村人たちが着ていたはずの職業服だけが持ち主を失って脱ぎ捨てられたように落ちている。
徘徊していた数体のゾンビやゾンビ化した村人たちは昼の光を浴びて青白い炎を上げながら消滅していき、残されたのは服のみ。
「おい……何なんだよこれ。……デク! デクはどこだ!!」
嫌な予感を振り切るように勝己は出久の家へと踏み込む。そこには主人の異変を察して必死に鳴きながら出久の服を引っ張る緑と橙の羊たちの姿があった。
倒れ伏している出久の肌は一部が不気味な緑色に変色し始めている。
完全にゾンビ化する一歩手前――。
「クソッ、冗談じゃねぇぞ! こんなところで終わらせるかよ!」
勝己は即座に近くの布をひったくり出久を日光から守るようにそして自分自身の震えを隠すように厚く被せた。
勝己はまだ意識が混濁している出久を背負い全速力で雪原を駆け出す。シロもその横を主人の危機を守るように並走する。
オールマイトが暮らしているイグルーの隠し梯子を出久を背負い降りた先には地上とは打って変わったひんやりとした石煉瓦の空間が広がっていた。
シロは1階で勝己が戻ってくるまで待機していて、勝己は力なく垂れ下がる出久の体を慎重に抱え二重の鉄格子で仕切られた牢屋へと運び込む。
壁に寄りかかった出久の肌は先ほどよりもさらに緑色の面積を広げ荒い息が時折「ウゥ……」という人間のものではない唸り声に混じり始めていた。
二重の頑丈な鉄格子の向こう側。いつも明るく自分を追いかけ緑と橙の羊を愛で不器用な自分にベッドを届けてくれたあの笑顔。それが今急速に「化け物」へと塗り替えられていく。
「……っ、クソが……!」
勝己はその変わり果てていく姿を直視できず思わず顔を背けた。
「ニート」だと罵られようと家がなかろうと隣にデクがいた。その当たり前の光景が手のひらからこぼれ落ちていく恐怖に勝己の心は激しく揺さぶられる。
鉄格子の向こうで出久の肌はもうほとんどが腐敗したような緑色に染まりかつての面影は失われつつあった。
「オールマイト、出久を助ける方法はあるんか………?」
「あるにはあるのだが今は手元に無くてかつての私なら集められたのだろうが……」
「なら俺が行って取ってきてやる。その素材が何だろうが、全部ぶんどってくりゃいいんだろ!」
勝己の叫びが地下室に響く。ニートと蔑まれ、村に居場所のなかった彼が、初めて「自分の役割」を自ら宣言した瞬間だった。
オールマイトは衰えた自分の体を見つめ苦しげに首を振り返った。
「……すまない。かつての私なら自らネザーへ向かったが今の聖職者としての私ではゲートの向こうの過酷な環境には耐えられないだろう。……だが爆豪少年、君が行くというなら私は全力で君をサポートする」
オールマイトは震える手で棚からいくつかの装備を取り出し勝己に託す。
耐火のポーション、黒曜石、火打石と打ち金
「必要な素材は『火薬』、『発酵した蜘蛛の目』、『ブレイズパウダー』、『8個の金のインゴット』だ。ブレイズパウダーはネザーの要塞にいるブレイズを倒すことで入手出来るがウィザースケルトンという強い奴もいる気をつけたまえ」
「ハッ、上等だ、俺が一瞬で集めて出久を元に戻してやる」
出発の直前、勝己の目の前で鉄格子を激しく掴みガリガリと金属を削る音を立てながら出久が完全にゾンビへと変貌した。かつての理知的な緑の瞳は濁り口からは言葉にならない空腹と憎悪が混じったような呻き声が漏れる。
その絶望的な光景を前にして勝己は絞り出すような声でオールマイトに頼んだ。
「……オールマイト頼みがある。シロを地下へ連れてきてあいつの傍にいさせてやってくれ」
オールマイトが驚いて目を見開く「……こいつはデクが半ゾンビになった時も攻撃しなかった。あいつが……デクが飯を食わせて優しく撫でてくれたのを……こいつは覚えてやがるんだ」
シロは勝己の言葉を理解したかのように鉄格子の向こうで暴れる出久を見つめ悲しげに「クゥーン」と鼻を鳴らした。
勝己はシロを地下に残し愛する者を救うためのたった1人の遠征へと旅立つ。
背後からはゾンビ化した出久に寄り添い優しく寄り添うシロの気配だけが地下の冷たい空気を温めていた。
「おい、クソデク。……テメェの分際で、俺より先にくたばってんじゃねぇぞ。大人しく待ってやがれ」
村外れの吹きさらし、自分に居場所をくれた「緑と橙のベッド」のすぐ隣で勝己は黒曜石を積み上げ、紫色の歪んだ光が渦巻く「門」を完成させてオールマイトからゾンビ化した人間を元に戻す素材について書かれた紙を改めて確認する。
『火薬』夜に現れるクリーパーかネザーのガストから入手。
『発酵した蜘蛛の目』蜘蛛が落とす目と茶色のキノコと砂糖。
『金インゴット8個』地下深くに眠る金を掘るかネザーにある金塊を集めて1つにする。
夜になるのを待ち勝己は今までゾンビしか見た事がなくクリーパーがどういうものかは知りませんでした
闇の中から「シュー……」という不気味な導火線の音が聞こえた瞬間、勝己は迷わず音のする方へ踏み込んだ。
目の前には無表情に膨らみ始めるクリーパー。慌てて離れると先程いた場所には爆発した後があった。
「あいつ自爆するのかよ………」と呟く勝己、クリーパーが自爆すれば火薬が手に入らない勝己はそれでも諦めなかった「爆ぜる前にバラバラにしてやんよ!!」
その後何体かクリーパーと遭遇し辺りは爆発の後ででこぼこしていた。
ザシュッ!!
そして漸く一撃目でクリーパーを仰け反らせ、爆破のカウントダウンを強制的にリセット。さらに二撃、三撃と、勝己の怒涛の連撃がクリーパーを切り刻む。
断末魔もなく煙となって消えたクリーパーの跡には黒い粉末――「火薬」が残された。
実はクリーパーを倒す道中、蜘蛛にも襲われていたが普通に倒し蜘蛛の目を手に入れていた。
「まず火薬と蜘蛛の目………」と勝己は火薬と蜘蛛の目を手に取り確認するとポケットにしまう。
そして次の目的である砂糖を探し勝己は長い距離を歩くが一向に見つからない。ポーション調合に必要な素材「砂糖」を探して遠い場所にある平原の村へと辿り着いた。
けれど、村から孤立していた勝己の「圧倒的な知識不足」により素材集めが困難となっていた、普段出久が用意した食事を食う専門だった勝己はサトウキビが砂糖になることすら知らなかった。
「あぁ!? 砂糖なんてどこにあるんだよ! 白くて甘ぇ粉だろうが!」
殺気立った顔で村を徘徊しすれ違う村人に「……さとう……さとう……」と呪文のように呟き続ける勝己。村人たちが怯えて逃げ出す中、1人の大柄な男が声をかけてきた。
「ん? 呼んだか?」
そこには麦わら帽子を被り立派なクワを持った農民の男、砂藤力道が立っていた。
「あぁ!? てめぇが『サトウ』な訳あるか!?」
「だから砂藤! 俺は砂藤力道。この村で農民をやってる。……あんた、そんなに俺に用があるのか?」
「……違う。俺が探してんのは、ポーションにぶち込むための『砂糖』だ。調合に必要なんだよ!」
事情を察した砂藤はしばらくポカンとした後耐えきれずに吹き出した。
「はははは! お前最高だな! 砂糖を探して俺に聞き回ってたのか? ほらそこを見てみろよ。川沿いに生えてるあの棒きれみたいな草、あれがサトウキビだ。あれを加工すりゃ砂糖になるんだよ!」
「……は? あの棒があの粉になるのかよ……」
顔を真っ赤にして固まる勝己。砂藤は笑いすぎて涙を浮かべながら、自分の倉庫から袋いっぱいの砂糖を持ってきてくれた。
「面白い奴だなぁ。ほらこれは俺が作った砂糖だ。お前大切な奴を助けたいんだろ? 持っていけよ爆豪!」
砂糖を手に入れあとは「発酵したクモの目」を作るために必要な茶色のキノコ。勝己は必死に記憶を辿りますが村人が何処から取ってきているのか知らなかった。
「おい……砂藤。ついでに『茶色のキノコ』の場所も教えろ。この辺の森に生えてんのか?」
「茶色のキノコか? ああ暗い場所に生えるけど探すより俺のストックを持ってけよ」
砂藤は勝己を自分の家の中へ招き入れると、作業台の横にある大きなチェストをガサゴソと探り始めた。
「これだ、これ。いつも花を入れたキノコシチューを作るのに使ってるんだ。ほら好きなだけ持っていけ」
砂藤が差し出したのは、土の香りがする立派な茶色のキノコ。
勝己はそれをひったくるように受け取る。
「……シチュー用だぁ? 俺は毒々しいポーションを作るっつってんだよ」
「はは、同じキノコだろ? 気にするなよ。……爆豪、その顔少しは休めよ?」
勝己は一瞬足を止めますが、「っせーよ、お節介だ!」と毒づきながら外へ飛び出した。しかしその手の中には砂糖と茶色のキノコ、そして砂藤が「道中、腹が減ったら食え」と持たせてくれた温かい砂糖菓子が握られていた。
素材コンプリートこれで「発酵したクモの目」を作る準備が整った。
そして村外れの吹きさらしに緑色と橙色の羊毛で作られたベットがある自分の寝床まで戻ると用意していたチェストに火薬、蜘蛛の目、砂糖、茶色のキノコを大事そうにしまった。そしていよいよ最後の素材『ブレイズパウダー』を手に入れるためネザーへ向かう
紫色の歪んだ光が渦巻く「ネザーの門」を勝己は飛び込みました。視界が歪み次に目を開けたときそこは真っ赤な空とマグマの海が広がるネザーだった。
ピグリンやガストの火球をくぐり抜け勝己が逃げ込んだ洞窟の奥には涼しい顔で座り込む1人の男がいて真っ赤な世界で、その左右に分かれた髪色はあまりにも異質だった。
「あぁ!? 誰だテメェは! ゾンビの類じゃねぇだろうな!」
「……轟焦凍だ。ゾンビじゃない。……あんたもあの要塞から逃げてきたのか?」
父親と共にエンダードラゴンを討伐をしようと要塞に来たら彼の親父――「エンデヴァー」が、要塞のブレイズスポナーの前で興奮しすぎて火力を撒き散らした結果、制御不能なほどのブレイズが湧き出してしまい収集がつかなくなっているのだと話した。
勝己が治療薬の調合台を動かすための燃料そして更なる強力な素材として「ブレイズパウダー」が必要だと告げると、焦凍は静かに立ち上がりました。
「俺はそのブレイズに用があるんだよ! どけ邪魔すんなら爆破すんぞ!」
「……ブレイズを倒しに行くのか? なら俺も行こう。親父がやり散らかした火の不始末をつけなきゃならない」
ネザー要塞の猛火の中、勝己と焦凍の即席コンビは凄まじい連携を見せた。エンダードラゴン討伐のプロである焦凍の指示の元、耐火のポーションを飲んだ2人はブレイズの火力を抑え込みその隙を突いて勝己が鉄の剣でブレイズを次々と粉砕。焦凍は暴走していた父親を回収し歪んだ森へと追いやるとエンデヴァーはそこでエンダーマン相手に大暴れを始めた。勝己の手にはついに調合の動力源となる『ブレイズロッド』が握られた。
焦凍が手慣れた様子でピグリンに金インゴットを投げ与える様子を見た勝己は「金のインゴットだよな!? 何処にあんだ?」
「……悪いな、この辺りの金鉱石は親父が暴れてるうちに全部掘り尽くしちまった。もう金はない」
勝己は金インゴットは8個必要だが焦凍も使うみたいで寄越せなんて言えなかった。
「……クソが。これじゃあいつを……デクを人間に戻せねぇじゃねぇか……!」
膝をつきネザーの赤い土を叩く勝己。その拳には自分の無力さへの怒りが滲んでいた。
そんな勝己の背中に焦凍が静かにしかし確かな重みを持った言葉をかけた。
「……爆豪。もしかしてお前ゾンビ化した人間を治そうとしてるのか?」
「……あぁ!? だったら何だよ!」
「ならこれを持ってけ。ゾンビ化した村人の治療に必要だろ?」
焦凍が差し出したのは不気味なネザーの光を跳ね返すほどに神々しく輝く「金のリンゴ」だった。
そして村で皆から厄介者扱いされていたニートの勝己はネザーから帰還してチェストにしまっていた火薬、蜘蛛の目、砂糖、茶色のキノコ、金のリンゴを持って出久が待っているオールマイトのイグルーに向かって駆け出した。
雪原を切り裂くような速さで勝己はイグルーへと滑り込んだ。
ネザーの熱気と現世の冷気が混ざり合い彼の体からは白い蒸気が立ち上がっている。
地下へ飛び込むとそこには既に準備を整えたオールマイトが待っていました。「ガラス瓶」をいくつも作成し醸造台にセットしていた。
「ハァ、ハァ……! 持ってきたぞ……! 全部だ、全部揃えてきた!!」
「……よくやった、爆豪少年! 君はもうただの『ニート』ではない。彼を救うための唯一の希望だ!」
オールマイトは勝己が集めた素材を受け取り「弱体化のスプラッシュポーション」の醸造を始める。まず砂藤から譲り受けた砂糖とキノコと道中で手に入れた蜘蛛の目を合わせ「発酵したクモの目」を作り上げた。それを醸造台に投げ込むとブレイズロッドの炎がゴォォと音を立てて瓶の中の水を紫色に変えていく。
最後にクリーパーから倒して手に入れた火薬を混ぜ投げられる形へと変えたその瞬間「弱体化のスプラッシュポーション」が完成した。
鉄格子の向こうでは完全にゾンビ化した出久が「グガァァ……!」と獣のような声を上げ最後の突進を繰り返していた。
勝己は鉄格子の隙間から黒色の瓶を思い切り叩きつけた。
パリンッ!!
ポーションが弾け出久の体が弱体化の煙に包まれる。
「今だ爆豪少年! 金のリンゴを!!」
オールマイトの叫びに合わせ勝己は焦凍から託された金のリンゴを出久の口元に無理やり押し込み、ゾンビ化した出久がそれを噛み砕いた瞬間膝から崩れ落ちゆっくりと元の肌の色に戻っていく。何分経過したのか分からないが牢屋の前でひたすら見守る勝己とシロとオールマイト。
そして鉄格子の向こうにいる出久から、不気味な緑色の肌は消え、元の柔らかい肌の色とボサボサの緑色の髪が戻っていた。
オールマイトはもう大丈夫だろうと牢屋の鍵を開けるとシロが真っ先に飛び込みます。「ワンッ、ワンッ!」と歓喜の声を上げ、出久の頬を必死に舐め回した。
「……ん……。 かっ……ちゃん?」
その掠れたしかし間違いなく「人間」である出久の声を聞いた瞬間勝己の我慢は限界を迎えた。
「この……っ、クソデクがぁ!!」
勝己は叫びながら出久の胸ぐらを掴むようにして抱きしめ、シロも2人の間に割り込むようにしてじゃれついてくる。背後ではオールマイトが「本当によかった……」と枯れた声で涙を流していた。
1階に上がり冷たい雪原の空気を吸った出久でしたが勝己から聞かされた「村の現状」に言葉を失った。
「僕が……ゾンビに……。じゃあ農民さんも肉屋さんもみんな……」村を歩けばそこにあるのは無人の家々と雪に埋もれかけた衣服だけ。
出久はその場にふらふらと座り込んでしまった。自分の命は助かったけれど大好きだった村の仲間たちはもういない。その事実が彼の心に重くのしかかる。シロはそんな出久の顔を心配そうに下から覗き込んでいた。
そんな彼らの知らぬところで以前村の発展を手伝っていた旅人が1人空っぽになった村を訪れていた。
しかし人っ子1人いないゴーストタウンと化した光景に彼は何処に去っていった。残されたのは出久の帰りを待つ緑色と橙色の羊毛を持つ2頭の羊だけだった。
「なんだよ、これ……」
絶望に打ちひしがれながら村に戻った出久と勝己が目にしたのは無人だったはずの家にひしめき合う見たこともない服を着た村人たちだった。
彼らは互いに見つめ合い頭上からこれでもかとピンクのハートマークを撒き散らしている。するとどこからともなく「ポフッ」という音と共に小さな子供の村人が走り出してきた。
「えっ!? ええええええ!? いつの間に!? 命ってそんなに簡単に……えっ!?」
「っざけんな! 何だこの繁殖力は! 俺らが必死こいてる間に、何勝手に盛り上がってやがる!!」
実は先ほど去っていった旅人はただ逃げ出したわけではなかった。
旅人は「村人が全滅したなら他所から連れてくればいい」という冷徹かつ効率的な判断を下しボートやトロッコを駆使して近隣の村から強制的にもとい迅速に村人を「移送」してきたのだ。
見慣れない茶色のコートや雪原の民族衣装を着た新しい村人たちが出久たちの周りに集まってきた。
「フゥン!」
「フゥフゥン!」
彼らは出久が羊飼いだと気づくとさっそく取引の準備を始めた。
出久は新しい子供たちが自分の緑と橙の羊を見て喜んでいる姿を見てようやく少しだけ表情を和らげた。
「……かっちゃん。前のみんなとは違うけどまた新しい村が始まるんだね」
「……フン。これだけ人数いりゃ鉄がもっと効率よく集まるな。おいシロ! 迷子のガキを羊の柵から追い出せ!」
シロは新しい住人たちに戸惑いながらも勝己の指示に従って元気に村を駆け回る。
こうして、雪原の村はかなり強引に救われた。
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