勝デク【孤独な爆炎と緑の幻影】
時は2500年――超高度な文明と魔法が融合した大都会『雄英』では、空を駆けるエアカーの騒音と祭りの熱気に包まれていた。それもそのはず、街は500年前の雄英を襲った闇を祓った『ジュエル様』と呼ばれる大魔法使いに感謝を伝える『ジュエル祭り』が10年ぶりに開催され活気に満ちていたからだ。そして、この街て暮らす人々は生まれた時から持つ宝石を使い魔法を使いこなしている。そんな街で暮らす爆豪勝己は掌で転がす赤色の宝石を苛立ちとともに握りしめた。その瞬間鼓膜を震わせる爆音と共に鮮烈な閃光が走った。
「……チッ、どいつもこいつも浮かれやがって」
成績は常にトップで扱う魔法の出力も規格外。けれどその苛烈な性格と強すぎる魔力は周囲を威圧し気づけば彼の周りには誰もいなくなっていた。
「最強」という名の孤独。それを紛らわすように勝己は喧騒を避けて「ジュエル広場」へと足を向けた。
そこには500年前の災厄から街を救った伝説の魔法使い「ジュエル様」の色褪せた巨大な銅像が左手を天に突き上げて立っている。
「……結局救世主なんてのも独りで戦ってたんじゃねぇのかよ」
勝己が吐き捨てるように呟いたその時だった。視界の端を、ふわりと緑色の影が横切った。
祭りの極彩色とは一線を画す春の若葉のような柔らかな緑。勝己が反射的にそちらへ目をやると、そこには自分と同じくらいの年齢の少年が背を向けてどこかに歩いていく。
「なんだ、あいつ?」
小さな声を漏らした次の瞬間、少年の姿は陽炎のようにゆらりと揺れ雑踏の中に消えてしまった。
「待てコラ! ……あ?」
目を擦りもう一度周囲を見渡すがそこには銅像を見上げる観光客しかいない。
ジュエル祭りは1週間行われ様々な街から人が集まってるなか、突然地中が割れ闇が人々を襲いはじめた。
闇に飲み込まれた人は石像となり混乱を引き起こす魔法を使えるものが闇に対抗するが次々地面が割れ闇が溢れ出てきてあっという間に街を飲み込んでいった。
そしてかつて闇から雄英を救ったジュエル様の石像の前でジュエル様に助けを求め祈り出す人達とは裏腹に勝己は襲いかかってくる闇を自分の爆破で打ち消していく。
「祈って助かるなら苦労しねぇんだよ……!」
歯噛みする勝己。その時騒音を突き抜けて彼の脳内に直接鈴の音のような声が響いた。
「………こっちだよ………」
顔を上げると逃げ惑う群衆の向こう側あの緑色の少年が立っていた。少年の表情はぼやけてよく見えず勝己を手招きをすると再び陽炎のように消え去っていった。
勝己は本能に従い少年の影を追って街外れの「古の森」へと足を踏み入れた。そこは雄英創設以来立ち入りが禁じられている聖域。森の奥深くへ進むほど街の悲鳴は遠ざかり代わりに圧倒的な緑の魔力が空気を震わせ始める。
巨木に囲まれた最奥。そこには苔むした巨大な岩が鎮座していた。
岩の隙間からは見たこともないほど純粋なエメラルド色の光が漏れ出している。
「おい、テメェ……そこにいんのか」
勝己が導かれるようにその岩へ手を触れたその瞬間次元が歪むような眩しい光を放ち勝己の飲み込まれた。
「う、ぐっ……!」
強烈な光に目を細め、勝己がようやく視界を確保したとき。そこはもはや湿った森の中ではなかった。光の粒子が舞う精神世界のような空間。
そして目の前には幻ではなく実体を持った緑の少年が立っていて先程とは違い顔がはっきり見えていた。そして少年の瞳には涙が浮かんでおりその手には7個の様々な宝石が握られていた。少年は一歩踏み出し魂を振り絞るように叫んだ。
「お願い、雄英を……未来を………守って!」
その声と共に周囲の光と少年の姿が消えた次の瞬間、勝己を襲ったのは覚醒の安堵ではなく猛烈な落下の感覚だった。
「なっ……!?」
目を開けた視界に広がるのは遥か下方を流れる激流の川。
どぶ川のような闇に呑まれていたはずの雄英の街並みはどこにもなく代わりに見たこともないほど雄大な自然が広がっている。
勝己は反射的に掌を下に向け爆破の反動で体制を立て直そうとした。しかしそれよりも早く。
「危ないっ!!」
鋭い声と共に深緑色の「魔法の鞭」が空を切って伸び勝己の胴体をがっしりと捕らえた。
そのまま強引に引き上げられ勝己の体は崖の上の柔らかな草地へと放り出される。
「……っ、痛ぇな……クソッ、何なんだよここは!」
「ごめんちょっと乱暴だったよね。でも間に合ってよかった。……大丈夫?」
顔を上げた勝己の視界に飛び込んできたのは、先ほどまで「幻」として、あるいは「夢」の中で見ていたあの少年だった。
間近で見るその顔には幻影の時のような悲壮感はなくただ春の日だまりのような温かい微笑みが浮かんでいる。
「僕は緑谷出久。君は……?」
「……爆豪勝己だ」
出久に促されるまま、勝己は彼が住むという村へ向かって歩き出しました。
そして出久の案内の元、着いたのは小さな村で入り口に置いてある巨大な岩には『雄英』と書かれている
「デク君おかえり!」「緑谷君おつかれ!」「緑谷今日のパトロールお疲れ様」と出久に労いの言葉を掛けてきたのは丸顔の茶髪の女の子――麗日お茶子、キビキビした動きをして眼鏡を掛ける少年――飯田天哉、左右で髪の色が別れた少年――轟焦凍の3人だった
勝己は驚愕を隠せなかった。ここには大都会・雄英の影も形もなく、豊かな森と宝石の魔法を生活の一部として使う人々が静かに暮らす穏やかな景色が広がっていたからだ。
「ここ、本当にここは雄英か……?」
「え? うん『雄英』だよ。」
出久は人懐っこい笑顔でそう言うと、ふと思いついたように勝己を見上げた。
「今は小さい村だけど発展させようと麗日さん達と4人で頑張ってるんだ! 4人の魔法を組み合わせれば出来ないことなんてない」と嬉しそうにはしゃぐ出久
お茶子は触れたものを無重力にする魔法、天哉は自分のスピードをあげる魔法、焦凍は氷と炎を出す魔法、出久は7個の魔法(変速、発勁、危機感知、黒鞭、煙幕、浮遊、超パワー)を使えるが1つずつしか使えない事を話した。
「あのさ、爆豪くんって呼びにくいから……『かっちゃん』って呼んでもいいかな?」
「あぁ!? ふざけた名前で呼ぶんじゃねぇよ!」
いつもの癖で威嚇するように爆破をパチパチと鳴らすが、出久は「あはは、ごめん!」と笑うだけで一向に怯える様子がなかった。大都会では誰もがその魔力に怯えて去っていったのに。
勝己は毒気を抜かれたように、ふんと鼻を鳴らしました。
「……勝手にしろ。好きに呼びやがれ」
「本当!? ありがとう、かっちゃん! じゃあ僕のことも好きに呼んでよ。『デク』って呼び名、実は気に入ってるんだ。魔法を使いこなせなかった頃に自分でつけた名前なんだけどね」
「……デクか」
その瞬間、勝己の胸の奥で、カチリと何かの歯車が噛み合う音がした。
16歳の勝己と、16歳の出久。
500年という本来交わるはずのなかった2人の運命が、1つの「愛称」によって結ばれた瞬間だった。
出久の胸元で揺れるエメラルドの宝石と勝己の掌にあるルビーの宝石が共鳴するように密かに瞬いていた。
勝己は出久の家の前に来ると『ジュエル様』の像があり自分が知っている像と誓って金メッキが貼られている。
「これってジュエル様だよな……」その言葉に出久は不思議そうな顔をして「ジュエル様ってなに? これは僕の師匠のオールマイトだよ」と返す。
「オール……マイト?」
勝己はその名を聞き、言葉を失った。
自分がいた大都会の雄英では、誰もが「ジュエル様」と崇め、その正体は複数の宝石を操る伝説の魔法使いだと伝えられていたはずだ。しかし、目の前にある金メッキの像は、右上を突き上げるポーズこそ同じだが、そこには確かに「平和の象徴」としての威厳と、出久が慕う「師匠」としての温かみが宿っていた。
「おい、デク。お前の師匠……このオールマイトってのは、500年前に闇を払った魔法使いじゃねぇのか?」
「えっ、500年前!? オールマイトは確かに凄い魔法使いだったけど……今はもう亡くなっちゃったんだよ」
出久は悲しそうな表情を見せる
「(大魔法使いオールマイト……?そんな名前聞いた事ねぇぞ!)」
勝己は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「(ここは、やっぱり歴史が作られる前の過去なのか!?)」
「立ち話もなんだし、中に入ってよ!」
勝己は出久が語った「7つの魔法」という規格外の力に眉を寄せた。未来の世界では1人が1つの魔法を極めるのが常識であり、複数の魔法を操るのは「ジュエル様」だけの特権だとされていたからだ。
「実は僕達は最初から魔法が使えてた訳じゃないんだ。オールマイトと共にこの場所に来た時、森の中にある魔力の源である岩が僕たちに宝石を与え魔法をくれたんだ、オールマイトは元から魔法を使えてたみたいだけど……」
出久が照れくさそうに笑いながらお茶を飲む。
「なぁデク、今って何年だ?」
「え? 急にどうしたの? 2000年でしょ?」
「(ここって500年前の雄英………500年前はこんな小さな村だったのか………)
「ジュエル様が何か分からないけど、森の中にその不思議な岩があるんだ見に行く?」
「ああ、この村の事知りたいから頼むわ」
そして2人は村を抜け深い緑が息づく森へと足を踏み入れた。森の中をしばらく歩き、やがて現れたのは、未来で勝己が触れたあの「巨大な岩」だった。しかし未来の朽ち果てた姿とはまるで別物だった。岩全体が呼吸をするように脈打ち直視できないほど眩い七色の輝きを放っていた。
「……これだ。俺がさっき触れたのもこれと同じ……」
勝己は恐る恐る手を伸ばし岩肌に触れた。未来で自分をこの時代へ引きずり込んだ時のような衝撃を期待したが、岩はただ温かく静かな魔力を湛えているだけだった。
「かっちゃんには、何も起きない……? 変だね。この岩は僕たちの魔法の源なのに」
「チッ、今の俺にはもう宝石 があるからか……?」
勝己はポケットに入れていたルビーを取り出し見つめる。出久はそんな勝己の手をそっと取った。
「凄い鮮やかな赤色だね」
出久の温かい手の感触と、優しい眼差しを向けられた勝己は、大都会で感じていたあの「孤独」が、この優しい光と少年の言葉によって、音を立てて溶けていくのを感じた。
「ねぇもしかしてかっちゃんも魔法使えるの? だって普通の人なら魔法の話を聞いてもおとぎ話かって信じてもらえないけど君は驚くような感じもしなかったし………」
「ああ、俺は爆破の魔法を使えるけど全員この力を恐れて近寄ってこねえんだ」
「爆破!? かっこいい! かっちゃんは魔法を正しく使ってるんだね!」
「……『正しく』だぁ? 俺は乱暴で自分勝手だって、周りからは嫌われてたんだよ」
「あはは知ってるよ。さっき崖から引き上げた時も、開口一番に怒鳴ってたもんね。でもその魔力の輝きを見ればわかるよ。かっちゃんは誰よりも『勝ちたい』だけじゃなくて、誰よりも『助けたい』って心の底で思ってる……凄く真っ直ぐな魔法だって」
出久の言葉は、勝己が今まで誰にも言ってもらえなかった、けれど一番欲しかった理解そのものだった。
出久の温かい手の感触と、優しいな眼差し。
勝己は、大都会で感じていたあの「孤独」が、この優しい光と少年の言葉によって、音を立てて溶けていくのを感じた。
その時眩いばかりの岩の光が一瞬だけ不自然に陰った。
「……っ! デク、離れろ!」
勝己は反射的に出久の腰を引き背後に隠した。
岩の根元地面の裂け目からあのどろりとした黒い霧――未来の雄英を石に変えた「闇」が蛇のように這い出してきた。
「これだ……これが村を未来を飲み込む……!」
「かっちゃん知ってるの!? これ最近森のあちこちで見かけるんだ。触れると石になっちゃう恐ろしい呪い……」
出久の顔に未来で勝己に「守って」と叫んだ時のあの悲痛な表情が重なった。
勝己は右手を前に突き出し、最大出力の火花を散らした。しかし闇の侵食は、一瞬の猶予も与えてはくれなかった。
あれほど眩く輝いていた魔法の源である巨大な岩がどろりとした漆黒の奔流に飲み込まれ、その光を失っていき、生活区域まで魔の手を伸ばして行った。出久にとって大切な仲間であるお茶子、天哉、焦凍や村の人々も全て闇が飲み込んでいった。
「そんな……麗日さん! 飯田くん! 轟くん!!」
空中に逃れた出久の叫びが静まり返った森に虚しく響いた。
眼下の村はもはや生きた者の気配を失っていた。笑顔で出久を迎えた仲間たちは、無機質な灰色の石像となり、発展を夢見た「雄英」は闇の底へと沈んでいた。
岩を喰らい巨大な不定形の怪物へと膨れ上がった闇は逃げ延びた2人の魔法使いを追って執拗に地を這ってくる。
2人が命からがら降り立ったのは村を見下ろす山頂にある、ささやかな墓所だった。
そこには「平和の象徴」と呼ばれた男が静かに眠っています。
勝己がその場に立つと、出久の胸にあるエメラルドと、墓前に供えられた古びた宝石が激しく共鳴を始めた。
黄金の光がドーム状に広がり、迫りくる闇を辛うじて押し留める。
「出久聞け、俺はここから500年後の未来から来たんだ」
勝己は結界の外でうごめく絶望を睨みつけながら重い口を開いた。
「未来の雄英はお前らが作ったこの場所を土台にした大都会だ、そこでも同じように闇が噴き出した。……だが歴史じゃ『ジュエル様』って魔法使いが、1人で全部解決したことになってんだよ」
「ジュエル様……? でもそんな魔法使い……」
出久の声は震えていた。師を失い、仲間を失い、今またこの世界そのものが終わろうとしている。その瞳からは、1粒の涙が零れ落ちた。
パリィィィィンッ!!!
無慈悲な音が響き、黄金の結界がガラスのように砕け散った。
岩の力を取り込んだ闇は、すでに聖者の守護すら凌駕していたのだ。
「なっ……!?」
影から伸びた無数の触手が、逃げる隙も与えず勝己と出久の身体を絡めとった。
「かっちゃん……!」
「クソ……離せ……っ!!」
闇の触手は2人を引き離そうとするのではなくむしろ1つの塊にするように強引にその深淵へと引きずり込んでいく。
視界が真っ暗に染まっていくなか、勝己の手と出久の手がどちらからともなく互いを求め合うように強く、強く絡まった。
「(……ジュエル様なんて何処にもいねぇじゃねぇか)」
闇に飲み込まれる直前、勝己の赤いルビーと出久の緑のエメラルドがこれまでにないほど、強く重なり合うように輝きを放った。
そして勝己と出久は暗闇の中で目を覚ました。
漆黒の闇に塗りつぶされた世界でただ1つ確かなものは、互いの掌から伝わる体温だけだった。
「かっちゃん、500年後の雄英は……空を飛ぶ乗り物もあるの?」
「……ああ、エアカーっつーのがビュンビュン飛んでる、ビルも空まで届くくらい高ぇ」
「すごいな……未来の雄英はそんなに発展してるんだ! かっちゃんはそんなすごい街で生きてるなんてやっぱり君は僕が思った通りのかっこいい魔法使いだね」
絶望の真っ只中だというのに出久は勝己の話を聞いて目を輝かせていた。その純粋な瞳に見つめられ、勝己は胸の奥が熱くなるのを感じる。
「当たり前だ、俺を誰だと思ってんだ。……デク、未来 には『ジュエル様』ってのがいる。そいつが全部解決したんだ。だから、ここも絶対に大丈夫だ」
根拠のない言葉、けれど出久を元気づけるためなら勝己は神にだって嘘をつくつもりだった。
闇の奥底を進む2人の前に突如としてあの巨大な岩が姿を現しました。
かつて眩い光を放っていた聖域の象徴は、今はどす黒い粘液を滴らせ、禍々しい紫色の光を放つ「闇の心臓」へと成り果てていた。
「……きっとあれを叩かねぇと、この世界の連中は元には戻らねぇ」
「うん! いこう、かっちゃん!」
出久が岩へ駆け寄った瞬間、岩の表面から無数の黒い棘が弾丸のように放たれた。
「ひっ!」
出久の『危機感知』が脳内に警鐘を鳴らし、彼は紙一重で身体を捻って回避する。
「退いてろデク! 死ねええええええ!!」
勝己が間髪入れずに空中に飛び出し、最大出力の爆破を岩に叩き込む。
紅蓮の炎が闇を焼き、一瞬だけ視界が開けたが、岩はすぐに闇を再生させ触手のように変形した影が勝己を背後から狙った。
「させないよ! 『黒鞭』!!」
出久が放った緑の光の鞭が勝己を狙った影を空中で縛り上げそのまま引き千切る。
2人の間に言葉はいらなかった。1人が攻めればもう1人が守る。まるで何十年も一緒に戦ってきた相棒のように、息が完璧に合っていきます。
出久は7つの魔法を切り替えながら岩の包囲網を突破しようとします。
しかし岩から溢れ出す闇の重圧は増すばかりで近づくほどに身体が石化していくような感覚に襲われる。
勝己は自分の右手のルビーを限界まで発光させた。
宝石が悲鳴を上げ皮膚が焼けるような熱さが走るが、勝己は構わず笑みを浮かべた。孤独だった未来では味わえなかった、「誰かと共に戦う」という高揚感が、彼の魔力を爆発的に増大させていた。
「一気に決めるぞ、デク!!」
動き回る勝己と出久に痺れを切らしたのか、闇は触手のように伸び素早く2人を拘束すると闇に染まった岩は出久を引き寄せた。
「しまった!?」
「――ッ、デク!!!」
勝己の絶叫が、闇に染まった空間で虚しく霧散した。
巨大な岩はまるで母親が子供を抱きしめるようなしかし、あまりにも残酷な執着心で出久を飲み込んでいく。雄英に魔法を授けた魔力の源である岩にとって7つの魔法を宿した出久は失った自分の半身も同然だったのだ。
「かっちゃん……! 未来を……みんなを、お願い……っ!」
出久の緑の瞳が闇に沈み、岩がドクンと鼓動を打つたびに、禍々しい紫の輝きが膨れ上がっていく。
「あああああ! クソが! 離せよコラァ!!」
拘束された勝己が全身の筋肉を千切れんばかりに躍動させて暴れる。しかし岩の重圧は増し視界が絶望に染まりかけたその時、勝己の目の前に光の粒子が舞い降りた。
勝己と捕らえる闇の触手を断ち切り鮮やかに現れたのは3つの宝石。
無重力のピンク・アメジスト
剛速のブルー・サファイア
氷炎のツートン・トパーズ
3つの石は勝己の胸にあるルビーと呼応し眩い螺旋を描いて闇を浄化していった。その輝きに耐えきれなくなった闇の岩の拒絶反応により勝己の体は闇の濁流に飲み込まれるように怪物の外へと放り出された。
ドォォォォン!!!
勝己が叩きつけられたのは、ついさっきまで彼がいたはずの「古の森」だった。
そして勝己の近くには、3つの宝石が静かに光を失い転がっていた。
「……ハッ。石像になってもお前らは諦めてなかったんだな」
空を見上げれば魔力の源である岩を闇に染め上げ核とする巨大な闇の怪物。
勝己はボロボロになった身体を引きずり出久の家の前で立つ金メッキのオールマイト像を見上げた。500年もの間、孤独に闇を抑え込み人々を守り続けてきた「ジュエル様」という名の虚像。
「『ジュエル様』が助けてくれる? ……ふざけんな、そんな奴どこにもいねぇよ」
勝己は仲間の意志が宿る3つの宝石を拾い上げると自分の赤いルビーと一緒に力強く握りしめた。掌から血が滲むが、その痛みすら今は心地よい。
「待ってろデク、お前をあんな化け物の腹の中に閉じ込めておくわけねぇだろ……」
勝己の瞳には絶望など一欠片もなかった。
勝己は掌を地面に向け最大級の爆破を放った。その推進力で彼は闇の心臓――「出久がいる場所」へと再び高く高く飛び上がった。
一方で、闇に支配された岩の中に取り込まれた出久は自分を呼ぶ何処か懐かしい声に反応していた。
「………少年……緑谷少年!!」
その声に出久は素早く目を開くと出久の震える声が、闇の奥底で静かに響いた。
「――オールマイト、なの……?」
視界を埋め尽くすドロドロとした黒い泥。その中心で、そこだけが別世界のように黄金の光を放っている場所があった。
そこに立っていたのは先日この世を去ったはずの誰よりも大きく誰よりも逞しい師の背中。
「オールマイト! なんでここに!? 僕、確か闇に飲み込まれて……」
「そう、ここは君たちに宝石 を授けた『源』の内側だ。私の肉体は滅びたが魔力はまだこの場所で眠っていたんだよ」
オールマイトは出久の胸に手を置いた。その温もりは、冷え切った闇の空間で凍えていた出久の心を一瞬で解かしていく。
「緑谷少年よく聞きなさい。この闇は人々の魔法を求める欲望や孤独な心から生まれた影だ。この岩はそれらすべてを吸収して暴走している」
「……僕を取り込んで、もっと大きな闇になろうとしてるんだね」
出久は自分を蝕もうとする紫色の触手を見つめた。しかし不思議と怖くはなかった。その闇の隙間から、「赤い火花」が激しく散っているのを感じたからだ。
「そうだが、今のこの岩には闇だけではない『未来の輝き』が流れ込んでいる……。あそこで暴れている少年が見えるかい?」
オールマイトが指差した先。
岩の「壁」の向こう側で、勝己が狂ったように爆破を繰り返し闇を削り取っている姿が幻灯機のように浮かび上がっていた。
「かっちゃん……!」
オールマイトの姿が、黄金の粒子となってゆっくりと崩れ始める。
彼は最後の力を振り絞るように出久の肩を叩いた。
「――雄英を、頼んだぞ」
師の最期の言葉が、出久の魂に火を灯した。
「はいっ!!」
闇の岩の深部で、出久がその瞳をカッと見開く。
同時に地上に転がった3つの宝石――お茶子、天哉、焦凍の宝石がまるで命を吹き込まれたかのように空へと舞い上がる。墓所に残されたオールマイトの宝石もまた黄金の尾を引いて空を駆け抜けた。
勝己の視界で、のたうつ闇の怪物が異変を起こした。
「……っ、来るか!?」
内側から爆発するような光の衝撃。
禍々しい闇の岩を突き破り一筋のいや七色の光の筋が天を貫いた。
溢れ出した光の玉の中からゆっくりと姿を現したのは深緑の光を全身に纏った出久。
彼の胸元にあるエメラルドがパキンと音を立てて、7つに分裂すると彼の周囲を惑星のように周回し始める。
勝己は、呆然と空を見上げた。
今まで一つずつしか使えなかったはずの魔法が完璧な調和 を持って発動していました。
『黒鞭』が闇の腕を縛り上げ、『発勁』と『変速』を重ねた『超パワー』が空間ごと闇を粉砕する。
『煙幕』と『浮遊』で敵を翻弄し、『危機感知』がすべての反撃を無に帰す。
それは500年後の教科書に「たった1人で世界を救った」と記された神々しいまでの魔法使いの姿。
「……あれが、歴史に刻まれた『ジュエル様』の正体かよ」
出久の強力な魔法によって闇の怪物徐々に追い詰められ、やがてコアと化した闇の岩が現れると変速と発勁で力を増大させた超パワーで殴り、岩の闇を祓うとそのまま森の中に落下していく。
地面に着地した出久は自分の魔法と魔力の源である岩を共鳴させると、周囲の闇を祓い石像にされていたお茶子たちや森の動物たちも元の姿に戻していった。
勝己たちは出久に駆け寄り、雄英を救った出久への感謝を伝えると、何故か出久の身体は粒子となり岩の方へと流れだした。
「――デクッ!!」
勝己の叫びは、浄化されたばかりの澄み切った空気に虚しく響き渡る。
闇の怪物は消え去り村には再び麗日たちの息遣いと森の動物たちの鳴き声が戻ってきた。けれどその平和と引き換えに、出久の身体は淡い緑色の粒子となって静かにけれど確実に崩れ始めていた。
出久は魔力の源と共鳴した事でしばらく眠りにつく事を伝えたその期間は500年。
「麗日さん達とは短い間しか居られなかったけど凄い楽しかった」
出久は消えゆく体で涙を浮かべる。
「500年……そんな、お前……!」
勝己は吸い込まれそうになる出久の身体を無理やり踏みとどまらせようと駆け寄った。しかし、勝己の背後には未来へと繋がる時空の裂け目が開き彼を元の時代へと引き戻そうとする強烈な斥力が働きだした。
「ごめんねみんな雄英を発展させようと言ったのに約束を破って………麗日さん、飯田くん、轟くん、あとの雄英を……お願い」
泣きそうな顔で、けれどどこか清々しい笑みを浮かべて出久は仲間に別れを告げる。そして最後に自分を必死に呼ぶ勝己を真っ直ぐに見つめた。
「500年後……もし僕がまだ寝ぼけていたらちゃんと叩き起こしてね、かっちゃん!」
「……っ、ふざけんな! 寝坊してんじゃねぇぞ、このデクが!!」
勝己の指先が出久の頬をかすめた瞬間、2人はそれぞれの光の中に飲み込まれた。
そして未来の世界――大都会「雄英」は、相変わらず静寂に包まれていた。
勝己が目を開けると、そこは「ジュエル祭り」の会場のすぐ近く――あの巨大な、今は苔むして沈黙した岩の前だった。
「ハァ……ッ、ハァ……!」
肩で息をしながら、勝己は自分の右手のルビーを見つた。
そこには、自分1人の魔力ではない、温かくて眩い「緑の輝き」が、確かな記憶として刻まれている。
勝己は、岩の表面に歩み寄り、思い切りその拳を叩きつけた。
「起きろコラ!! 500年だ……十分寝ただろ!!」
パキッ――。
岩の表面に、小さな亀裂が入った。
そこから溢れ出したのは、過去の世界で見た、あの純粋で眩しいエメラルドの光。
「チッ……お利口に呼んでりゃ起きるようなタマじゃねぇよな、テメェは!」
勝己は不敵に口角を上げると、右手のルビーに全ての魔力を集約させた。周囲の空気が熱に歪み、バチバチと火花が空間を削り取る。
「耳元で特大の目覚まし鳴らしてやるよ! 『ハウザーインパクト』――ッ!!!」
轟音と共に、最大火力の爆破が岩の芯を直撃した。
その瞬間、岩は限界を超えた眩い輝きを放ち、ひび割れた隙間から暖かな春の風が吹き抜けた。
「……ふぁ……。おはようかっちゃん」
煙が晴れた岩の後ろから、500年前と変わらない姿の出久が、のんびりとあくびをしながら現れた。
しかし、彼が周囲の惨状――石化した人々や街を覆う闇――を目にした瞬間、その瞳に鋭い意志が宿る。
「そっか……まだ終わってなかったんだね……」
出久がそう言ったかと思うと、彼の全身から奔流のような緑の光が溢れ出した。
それは未来のどの魔法使いも見たことがないほど純粋で慈愛に満ちた輝き、光が波紋のように雄英の街を駆け抜けていくと、触れるものすべてから闇が剥がれ落ち灰色の石像だった人々が次々と血色を取り戻していく。
「すげぇな……」
勝己はその圧倒的な光景を隣で見つめていた。
歴史の教科書に載っている「ジュエル様」の伝説。たった1人で闇を消し去る孤独で神格化された英雄の姿。
やがて街に平和が戻り、人々は「奇跡の再臨だ!」「ジュエル様が救ってくれた!」と歓喜の声を上げ始めました。
勝己は出久の襟元をぐいと掴み騒ぎになる前に彼を物陰へと引き寄せる。
「……おいデク、お前の正体は誰にも言うなよ」
「え? どうして? 隠さなくてもいいのに……」
「バカか。お前が『ジュエル様』だってバレたら、一生どっかの研究機関に閉じ込められるか、拝まれ続けて終わるぞ。……そんなの、俺がごめんだ」
勝己は不器用に顔を背けましたが、その耳は少し赤くなっていた。
「……そうだね。僕もかっちゃんと一緒にこの街を歩きたいから秘密守るよ」
出久は嬉しそうに微笑み、勝己のゴツゴツした手をそっと握り返した。
街のあちこちに立つ「ジュエル様」の銅像を横目に、二人は賑わいを取り戻した雑踏の中へとしっかりと手を繋いだまま消えていった。
500年前小さな村の片隅で仲間と夢を語り合っていた少年は、今や歴史に刻まれた伝説そのものとなっていた。しかしそんなことは露知らず、街の人々は勝己のすぐ隣でリンゴ飴を頬張る緑色の髪の少年が「ジュエル様」本人だとは夢にも思っていない。
「『ジュエル様』を祝う祭りにジュエル様本人が参加してるとか前代未聞だろ」と言う勝己の隣で出久は『えへへなんか照れくさいな、僕はただ麗日さん達と笑って過ごせるように必死に戦っただけなのに』と笑いながら、この時代の食べ物カツ丼を食べている。
そして出久は街の中央で黄金に輝く「オールマイト像」を見上げ瞳を潤ませた。
500年前、師匠のオールマイトを尊敬して作り上げた像があの頃と変わらない姿で雄英にあることに感慨深くなる
「すごいよ……500年経っても、まだここにいてくれるんだね」
驚くべきことにその像を代々守り続けてきたのはかつての親友・焦凍の子孫である現代のNo.1魔法使い・轟炎司がかつての「雄英」の創設メンバーの想いを今日まで繋いできたのだ。
出久は今はもう会えない親友の面影を空に描きながら小さくけれど深い感謝を込めて呟いた。
「ありがとうみんな。……君たちの繋いでくれた未来はこんなに温かいよ」
それから数ヶ月後。
平和を取り戻した雄英の学び舎にはいつもの光景があった。
掲示板に貼り出された成績表の1番上には、不動の「爆豪勝己」の名。そのすぐ下、2番目の位置にかつては存在しなかった「緑谷出久」の名が並んでいます。
「かっちゃん凄いや! また学年1位だね。僕、今回こそはいけると思ったんだけどな……!」
背後から駆け寄ってきた出久が、キラキラとした瞳で勝己を覗き込む。かつての勝己なら「近寄んなデク!」と突き放していたところだが、今の彼は違う。
「……フン、当たり前だ。テメェに抜かれるわけねぇだろ。次はもっと気合い入れろ、追い抜いてみせるとか言ったのはどこのどいつだ」
「もうわかってるよ! 次の演習魔法では負けないからね!」
ぶっきらぼうに応えながらも、勝己の口元には隠しきれない柔らかな笑みが浮かんでいた。
帰り道夕日に染まる校門を抜けるとき。
勝己は誰にも見られないよう、出久の手をぎゅっと握りしめた。
「……おいデク腹減った。今日こそ飯作らせてやる」
「あははかっちゃんの料理世界一好きだよ!」
時を超えた約束を果たし、2人の少年は今、本当の意味で自分たちの「未来」を歩き始めた。
苛烈な性格と強すぎる魔力故に孤独だった「爆豪勝己」と大昔の雄英創設メンバーで500年眠りに続けた事により1人時代に取り残され孤独になった「緑谷出久」
孤独だった2人の少年はお互いを支えあい恋人のように寄り添って生きている。
「……チッ、どいつもこいつも浮かれやがって」
成績は常にトップで扱う魔法の出力も規格外。けれどその苛烈な性格と強すぎる魔力は周囲を威圧し気づけば彼の周りには誰もいなくなっていた。
「最強」という名の孤独。それを紛らわすように勝己は喧騒を避けて「ジュエル広場」へと足を向けた。
そこには500年前の災厄から街を救った伝説の魔法使い「ジュエル様」の色褪せた巨大な銅像が左手を天に突き上げて立っている。
「……結局救世主なんてのも独りで戦ってたんじゃねぇのかよ」
勝己が吐き捨てるように呟いたその時だった。視界の端を、ふわりと緑色の影が横切った。
祭りの極彩色とは一線を画す春の若葉のような柔らかな緑。勝己が反射的にそちらへ目をやると、そこには自分と同じくらいの年齢の少年が背を向けてどこかに歩いていく。
「なんだ、あいつ?」
小さな声を漏らした次の瞬間、少年の姿は陽炎のようにゆらりと揺れ雑踏の中に消えてしまった。
「待てコラ! ……あ?」
目を擦りもう一度周囲を見渡すがそこには銅像を見上げる観光客しかいない。
ジュエル祭りは1週間行われ様々な街から人が集まってるなか、突然地中が割れ闇が人々を襲いはじめた。
闇に飲み込まれた人は石像となり混乱を引き起こす魔法を使えるものが闇に対抗するが次々地面が割れ闇が溢れ出てきてあっという間に街を飲み込んでいった。
そしてかつて闇から雄英を救ったジュエル様の石像の前でジュエル様に助けを求め祈り出す人達とは裏腹に勝己は襲いかかってくる闇を自分の爆破で打ち消していく。
「祈って助かるなら苦労しねぇんだよ……!」
歯噛みする勝己。その時騒音を突き抜けて彼の脳内に直接鈴の音のような声が響いた。
「………こっちだよ………」
顔を上げると逃げ惑う群衆の向こう側あの緑色の少年が立っていた。少年の表情はぼやけてよく見えず勝己を手招きをすると再び陽炎のように消え去っていった。
勝己は本能に従い少年の影を追って街外れの「古の森」へと足を踏み入れた。そこは雄英創設以来立ち入りが禁じられている聖域。森の奥深くへ進むほど街の悲鳴は遠ざかり代わりに圧倒的な緑の魔力が空気を震わせ始める。
巨木に囲まれた最奥。そこには苔むした巨大な岩が鎮座していた。
岩の隙間からは見たこともないほど純粋なエメラルド色の光が漏れ出している。
「おい、テメェ……そこにいんのか」
勝己が導かれるようにその岩へ手を触れたその瞬間次元が歪むような眩しい光を放ち勝己の飲み込まれた。
「う、ぐっ……!」
強烈な光に目を細め、勝己がようやく視界を確保したとき。そこはもはや湿った森の中ではなかった。光の粒子が舞う精神世界のような空間。
そして目の前には幻ではなく実体を持った緑の少年が立っていて先程とは違い顔がはっきり見えていた。そして少年の瞳には涙が浮かんでおりその手には7個の様々な宝石が握られていた。少年は一歩踏み出し魂を振り絞るように叫んだ。
「お願い、雄英を……未来を………守って!」
その声と共に周囲の光と少年の姿が消えた次の瞬間、勝己を襲ったのは覚醒の安堵ではなく猛烈な落下の感覚だった。
「なっ……!?」
目を開けた視界に広がるのは遥か下方を流れる激流の川。
どぶ川のような闇に呑まれていたはずの雄英の街並みはどこにもなく代わりに見たこともないほど雄大な自然が広がっている。
勝己は反射的に掌を下に向け爆破の反動で体制を立て直そうとした。しかしそれよりも早く。
「危ないっ!!」
鋭い声と共に深緑色の「魔法の鞭」が空を切って伸び勝己の胴体をがっしりと捕らえた。
そのまま強引に引き上げられ勝己の体は崖の上の柔らかな草地へと放り出される。
「……っ、痛ぇな……クソッ、何なんだよここは!」
「ごめんちょっと乱暴だったよね。でも間に合ってよかった。……大丈夫?」
顔を上げた勝己の視界に飛び込んできたのは、先ほどまで「幻」として、あるいは「夢」の中で見ていたあの少年だった。
間近で見るその顔には幻影の時のような悲壮感はなくただ春の日だまりのような温かい微笑みが浮かんでいる。
「僕は緑谷出久。君は……?」
「……爆豪勝己だ」
出久に促されるまま、勝己は彼が住むという村へ向かって歩き出しました。
そして出久の案内の元、着いたのは小さな村で入り口に置いてある巨大な岩には『雄英』と書かれている
「デク君おかえり!」「緑谷君おつかれ!」「緑谷今日のパトロールお疲れ様」と出久に労いの言葉を掛けてきたのは丸顔の茶髪の女の子――麗日お茶子、キビキビした動きをして眼鏡を掛ける少年――飯田天哉、左右で髪の色が別れた少年――轟焦凍の3人だった
勝己は驚愕を隠せなかった。ここには大都会・雄英の影も形もなく、豊かな森と宝石の魔法を生活の一部として使う人々が静かに暮らす穏やかな景色が広がっていたからだ。
「ここ、本当にここは雄英か……?」
「え? うん『雄英』だよ。」
出久は人懐っこい笑顔でそう言うと、ふと思いついたように勝己を見上げた。
「今は小さい村だけど発展させようと麗日さん達と4人で頑張ってるんだ! 4人の魔法を組み合わせれば出来ないことなんてない」と嬉しそうにはしゃぐ出久
お茶子は触れたものを無重力にする魔法、天哉は自分のスピードをあげる魔法、焦凍は氷と炎を出す魔法、出久は7個の魔法(変速、発勁、危機感知、黒鞭、煙幕、浮遊、超パワー)を使えるが1つずつしか使えない事を話した。
「あのさ、爆豪くんって呼びにくいから……『かっちゃん』って呼んでもいいかな?」
「あぁ!? ふざけた名前で呼ぶんじゃねぇよ!」
いつもの癖で威嚇するように爆破をパチパチと鳴らすが、出久は「あはは、ごめん!」と笑うだけで一向に怯える様子がなかった。大都会では誰もがその魔力に怯えて去っていったのに。
勝己は毒気を抜かれたように、ふんと鼻を鳴らしました。
「……勝手にしろ。好きに呼びやがれ」
「本当!? ありがとう、かっちゃん! じゃあ僕のことも好きに呼んでよ。『デク』って呼び名、実は気に入ってるんだ。魔法を使いこなせなかった頃に自分でつけた名前なんだけどね」
「……デクか」
その瞬間、勝己の胸の奥で、カチリと何かの歯車が噛み合う音がした。
16歳の勝己と、16歳の出久。
500年という本来交わるはずのなかった2人の運命が、1つの「愛称」によって結ばれた瞬間だった。
出久の胸元で揺れるエメラルドの宝石と勝己の掌にあるルビーの宝石が共鳴するように密かに瞬いていた。
勝己は出久の家の前に来ると『ジュエル様』の像があり自分が知っている像と誓って金メッキが貼られている。
「これってジュエル様だよな……」その言葉に出久は不思議そうな顔をして「ジュエル様ってなに? これは僕の師匠のオールマイトだよ」と返す。
「オール……マイト?」
勝己はその名を聞き、言葉を失った。
自分がいた大都会の雄英では、誰もが「ジュエル様」と崇め、その正体は複数の宝石を操る伝説の魔法使いだと伝えられていたはずだ。しかし、目の前にある金メッキの像は、右上を突き上げるポーズこそ同じだが、そこには確かに「平和の象徴」としての威厳と、出久が慕う「師匠」としての温かみが宿っていた。
「おい、デク。お前の師匠……このオールマイトってのは、500年前に闇を払った魔法使いじゃねぇのか?」
「えっ、500年前!? オールマイトは確かに凄い魔法使いだったけど……今はもう亡くなっちゃったんだよ」
出久は悲しそうな表情を見せる
「(大魔法使いオールマイト……?そんな名前聞いた事ねぇぞ!)」
勝己は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「(ここは、やっぱり歴史が作られる前の過去なのか!?)」
「立ち話もなんだし、中に入ってよ!」
勝己は出久が語った「7つの魔法」という規格外の力に眉を寄せた。未来の世界では1人が1つの魔法を極めるのが常識であり、複数の魔法を操るのは「ジュエル様」だけの特権だとされていたからだ。
「実は僕達は最初から魔法が使えてた訳じゃないんだ。オールマイトと共にこの場所に来た時、森の中にある魔力の源である岩が僕たちに宝石を与え魔法をくれたんだ、オールマイトは元から魔法を使えてたみたいだけど……」
出久が照れくさそうに笑いながらお茶を飲む。
「なぁデク、今って何年だ?」
「え? 急にどうしたの? 2000年でしょ?」
「(ここって500年前の雄英………500年前はこんな小さな村だったのか………)
「ジュエル様が何か分からないけど、森の中にその不思議な岩があるんだ見に行く?」
「ああ、この村の事知りたいから頼むわ」
そして2人は村を抜け深い緑が息づく森へと足を踏み入れた。森の中をしばらく歩き、やがて現れたのは、未来で勝己が触れたあの「巨大な岩」だった。しかし未来の朽ち果てた姿とはまるで別物だった。岩全体が呼吸をするように脈打ち直視できないほど眩い七色の輝きを放っていた。
「……これだ。俺がさっき触れたのもこれと同じ……」
勝己は恐る恐る手を伸ばし岩肌に触れた。未来で自分をこの時代へ引きずり込んだ時のような衝撃を期待したが、岩はただ温かく静かな魔力を湛えているだけだった。
「かっちゃんには、何も起きない……? 変だね。この岩は僕たちの魔法の源なのに」
「チッ、今の俺にはもう
勝己はポケットに入れていたルビーを取り出し見つめる。出久はそんな勝己の手をそっと取った。
「凄い鮮やかな赤色だね」
出久の温かい手の感触と、優しい眼差しを向けられた勝己は、大都会で感じていたあの「孤独」が、この優しい光と少年の言葉によって、音を立てて溶けていくのを感じた。
「ねぇもしかしてかっちゃんも魔法使えるの? だって普通の人なら魔法の話を聞いてもおとぎ話かって信じてもらえないけど君は驚くような感じもしなかったし………」
「ああ、俺は爆破の魔法を使えるけど全員この力を恐れて近寄ってこねえんだ」
「爆破!? かっこいい! かっちゃんは魔法を正しく使ってるんだね!」
「……『正しく』だぁ? 俺は乱暴で自分勝手だって、周りからは嫌われてたんだよ」
「あはは知ってるよ。さっき崖から引き上げた時も、開口一番に怒鳴ってたもんね。でもその魔力の輝きを見ればわかるよ。かっちゃんは誰よりも『勝ちたい』だけじゃなくて、誰よりも『助けたい』って心の底で思ってる……凄く真っ直ぐな魔法だって」
出久の言葉は、勝己が今まで誰にも言ってもらえなかった、けれど一番欲しかった理解そのものだった。
出久の温かい手の感触と、優しいな眼差し。
勝己は、大都会で感じていたあの「孤独」が、この優しい光と少年の言葉によって、音を立てて溶けていくのを感じた。
その時眩いばかりの岩の光が一瞬だけ不自然に陰った。
「……っ! デク、離れろ!」
勝己は反射的に出久の腰を引き背後に隠した。
岩の根元地面の裂け目からあのどろりとした黒い霧――未来の雄英を石に変えた「闇」が蛇のように這い出してきた。
「これだ……これが村を未来を飲み込む……!」
「かっちゃん知ってるの!? これ最近森のあちこちで見かけるんだ。触れると石になっちゃう恐ろしい呪い……」
出久の顔に未来で勝己に「守って」と叫んだ時のあの悲痛な表情が重なった。
勝己は右手を前に突き出し、最大出力の火花を散らした。しかし闇の侵食は、一瞬の猶予も与えてはくれなかった。
あれほど眩く輝いていた魔法の源である巨大な岩がどろりとした漆黒の奔流に飲み込まれ、その光を失っていき、生活区域まで魔の手を伸ばして行った。出久にとって大切な仲間であるお茶子、天哉、焦凍や村の人々も全て闇が飲み込んでいった。
「そんな……麗日さん! 飯田くん! 轟くん!!」
空中に逃れた出久の叫びが静まり返った森に虚しく響いた。
眼下の村はもはや生きた者の気配を失っていた。笑顔で出久を迎えた仲間たちは、無機質な灰色の石像となり、発展を夢見た「雄英」は闇の底へと沈んでいた。
岩を喰らい巨大な不定形の怪物へと膨れ上がった闇は逃げ延びた2人の魔法使いを追って執拗に地を這ってくる。
2人が命からがら降り立ったのは村を見下ろす山頂にある、ささやかな墓所だった。
そこには「平和の象徴」と呼ばれた男が静かに眠っています。
勝己がその場に立つと、出久の胸にあるエメラルドと、墓前に供えられた古びた宝石が激しく共鳴を始めた。
黄金の光がドーム状に広がり、迫りくる闇を辛うじて押し留める。
「出久聞け、俺はここから500年後の未来から来たんだ」
勝己は結界の外でうごめく絶望を睨みつけながら重い口を開いた。
「未来の雄英はお前らが作ったこの場所を土台にした大都会だ、そこでも同じように闇が噴き出した。……だが歴史じゃ『ジュエル様』って魔法使いが、1人で全部解決したことになってんだよ」
「ジュエル様……? でもそんな魔法使い……」
出久の声は震えていた。師を失い、仲間を失い、今またこの世界そのものが終わろうとしている。その瞳からは、1粒の涙が零れ落ちた。
パリィィィィンッ!!!
無慈悲な音が響き、黄金の結界がガラスのように砕け散った。
岩の力を取り込んだ闇は、すでに聖者の守護すら凌駕していたのだ。
「なっ……!?」
影から伸びた無数の触手が、逃げる隙も与えず勝己と出久の身体を絡めとった。
「かっちゃん……!」
「クソ……離せ……っ!!」
闇の触手は2人を引き離そうとするのではなくむしろ1つの塊にするように強引にその深淵へと引きずり込んでいく。
視界が真っ暗に染まっていくなか、勝己の手と出久の手がどちらからともなく互いを求め合うように強く、強く絡まった。
「(……ジュエル様なんて何処にもいねぇじゃねぇか)」
闇に飲み込まれる直前、勝己の赤いルビーと出久の緑のエメラルドがこれまでにないほど、強く重なり合うように輝きを放った。
そして勝己と出久は暗闇の中で目を覚ました。
漆黒の闇に塗りつぶされた世界でただ1つ確かなものは、互いの掌から伝わる体温だけだった。
「かっちゃん、500年後の雄英は……空を飛ぶ乗り物もあるの?」
「……ああ、エアカーっつーのがビュンビュン飛んでる、ビルも空まで届くくらい高ぇ」
「すごいな……未来の雄英はそんなに発展してるんだ! かっちゃんはそんなすごい街で生きてるなんてやっぱり君は僕が思った通りのかっこいい魔法使いだね」
絶望の真っ只中だというのに出久は勝己の話を聞いて目を輝かせていた。その純粋な瞳に見つめられ、勝己は胸の奥が熱くなるのを感じる。
「当たり前だ、俺を誰だと思ってんだ。……デク、
根拠のない言葉、けれど出久を元気づけるためなら勝己は神にだって嘘をつくつもりだった。
闇の奥底を進む2人の前に突如としてあの巨大な岩が姿を現しました。
かつて眩い光を放っていた聖域の象徴は、今はどす黒い粘液を滴らせ、禍々しい紫色の光を放つ「闇の心臓」へと成り果てていた。
「……きっとあれを叩かねぇと、この世界の連中は元には戻らねぇ」
「うん! いこう、かっちゃん!」
出久が岩へ駆け寄った瞬間、岩の表面から無数の黒い棘が弾丸のように放たれた。
「ひっ!」
出久の『危機感知』が脳内に警鐘を鳴らし、彼は紙一重で身体を捻って回避する。
「退いてろデク! 死ねええええええ!!」
勝己が間髪入れずに空中に飛び出し、最大出力の爆破を岩に叩き込む。
紅蓮の炎が闇を焼き、一瞬だけ視界が開けたが、岩はすぐに闇を再生させ触手のように変形した影が勝己を背後から狙った。
「させないよ! 『黒鞭』!!」
出久が放った緑の光の鞭が勝己を狙った影を空中で縛り上げそのまま引き千切る。
2人の間に言葉はいらなかった。1人が攻めればもう1人が守る。まるで何十年も一緒に戦ってきた相棒のように、息が完璧に合っていきます。
出久は7つの魔法を切り替えながら岩の包囲網を突破しようとします。
しかし岩から溢れ出す闇の重圧は増すばかりで近づくほどに身体が石化していくような感覚に襲われる。
勝己は自分の右手のルビーを限界まで発光させた。
宝石が悲鳴を上げ皮膚が焼けるような熱さが走るが、勝己は構わず笑みを浮かべた。孤独だった未来では味わえなかった、「誰かと共に戦う」という高揚感が、彼の魔力を爆発的に増大させていた。
「一気に決めるぞ、デク!!」
動き回る勝己と出久に痺れを切らしたのか、闇は触手のように伸び素早く2人を拘束すると闇に染まった岩は出久を引き寄せた。
「しまった!?」
「――ッ、デク!!!」
勝己の絶叫が、闇に染まった空間で虚しく霧散した。
巨大な岩はまるで母親が子供を抱きしめるようなしかし、あまりにも残酷な執着心で出久を飲み込んでいく。雄英に魔法を授けた魔力の源である岩にとって7つの魔法を宿した出久は失った自分の半身も同然だったのだ。
「かっちゃん……! 未来を……みんなを、お願い……っ!」
出久の緑の瞳が闇に沈み、岩がドクンと鼓動を打つたびに、禍々しい紫の輝きが膨れ上がっていく。
「あああああ! クソが! 離せよコラァ!!」
拘束された勝己が全身の筋肉を千切れんばかりに躍動させて暴れる。しかし岩の重圧は増し視界が絶望に染まりかけたその時、勝己の目の前に光の粒子が舞い降りた。
勝己と捕らえる闇の触手を断ち切り鮮やかに現れたのは3つの宝石。
無重力のピンク・アメジスト
剛速のブルー・サファイア
氷炎のツートン・トパーズ
3つの石は勝己の胸にあるルビーと呼応し眩い螺旋を描いて闇を浄化していった。その輝きに耐えきれなくなった闇の岩の拒絶反応により勝己の体は闇の濁流に飲み込まれるように怪物の外へと放り出された。
ドォォォォン!!!
勝己が叩きつけられたのは、ついさっきまで彼がいたはずの「古の森」だった。
そして勝己の近くには、3つの宝石が静かに光を失い転がっていた。
「……ハッ。石像になってもお前らは諦めてなかったんだな」
空を見上げれば魔力の源である岩を闇に染め上げ核とする巨大な闇の怪物。
勝己はボロボロになった身体を引きずり出久の家の前で立つ金メッキのオールマイト像を見上げた。500年もの間、孤独に闇を抑え込み人々を守り続けてきた「ジュエル様」という名の虚像。
「『ジュエル様』が助けてくれる? ……ふざけんな、そんな奴どこにもいねぇよ」
勝己は仲間の意志が宿る3つの宝石を拾い上げると自分の赤いルビーと一緒に力強く握りしめた。掌から血が滲むが、その痛みすら今は心地よい。
「待ってろデク、お前をあんな化け物の腹の中に閉じ込めておくわけねぇだろ……」
勝己の瞳には絶望など一欠片もなかった。
勝己は掌を地面に向け最大級の爆破を放った。その推進力で彼は闇の心臓――「出久がいる場所」へと再び高く高く飛び上がった。
一方で、闇に支配された岩の中に取り込まれた出久は自分を呼ぶ何処か懐かしい声に反応していた。
「………少年……緑谷少年!!」
その声に出久は素早く目を開くと出久の震える声が、闇の奥底で静かに響いた。
「――オールマイト、なの……?」
視界を埋め尽くすドロドロとした黒い泥。その中心で、そこだけが別世界のように黄金の光を放っている場所があった。
そこに立っていたのは先日この世を去ったはずの誰よりも大きく誰よりも逞しい師の背中。
「オールマイト! なんでここに!? 僕、確か闇に飲み込まれて……」
「そう、ここは君たちに
オールマイトは出久の胸に手を置いた。その温もりは、冷え切った闇の空間で凍えていた出久の心を一瞬で解かしていく。
「緑谷少年よく聞きなさい。この闇は人々の魔法を求める欲望や孤独な心から生まれた影だ。この岩はそれらすべてを吸収して暴走している」
「……僕を取り込んで、もっと大きな闇になろうとしてるんだね」
出久は自分を蝕もうとする紫色の触手を見つめた。しかし不思議と怖くはなかった。その闇の隙間から、「赤い火花」が激しく散っているのを感じたからだ。
「そうだが、今のこの岩には闇だけではない『未来の輝き』が流れ込んでいる……。あそこで暴れている少年が見えるかい?」
オールマイトが指差した先。
岩の「壁」の向こう側で、勝己が狂ったように爆破を繰り返し闇を削り取っている姿が幻灯機のように浮かび上がっていた。
「かっちゃん……!」
オールマイトの姿が、黄金の粒子となってゆっくりと崩れ始める。
彼は最後の力を振り絞るように出久の肩を叩いた。
「――雄英を、頼んだぞ」
師の最期の言葉が、出久の魂に火を灯した。
「はいっ!!」
闇の岩の深部で、出久がその瞳をカッと見開く。
同時に地上に転がった3つの宝石――お茶子、天哉、焦凍の宝石がまるで命を吹き込まれたかのように空へと舞い上がる。墓所に残されたオールマイトの宝石もまた黄金の尾を引いて空を駆け抜けた。
勝己の視界で、のたうつ闇の怪物が異変を起こした。
「……っ、来るか!?」
内側から爆発するような光の衝撃。
禍々しい闇の岩を突き破り一筋のいや七色の光の筋が天を貫いた。
溢れ出した光の玉の中からゆっくりと姿を現したのは深緑の光を全身に纏った出久。
彼の胸元にあるエメラルドがパキンと音を立てて、7つに分裂すると彼の周囲を惑星のように周回し始める。
勝己は、呆然と空を見上げた。
今まで一つずつしか使えなかったはずの魔法が完璧な
『黒鞭』が闇の腕を縛り上げ、『発勁』と『変速』を重ねた『超パワー』が空間ごと闇を粉砕する。
『煙幕』と『浮遊』で敵を翻弄し、『危機感知』がすべての反撃を無に帰す。
それは500年後の教科書に「たった1人で世界を救った」と記された神々しいまでの魔法使いの姿。
「……あれが、歴史に刻まれた『ジュエル様』の正体かよ」
出久の強力な魔法によって闇の怪物徐々に追い詰められ、やがてコアと化した闇の岩が現れると変速と発勁で力を増大させた超パワーで殴り、岩の闇を祓うとそのまま森の中に落下していく。
地面に着地した出久は自分の魔法と魔力の源である岩を共鳴させると、周囲の闇を祓い石像にされていたお茶子たちや森の動物たちも元の姿に戻していった。
勝己たちは出久に駆け寄り、雄英を救った出久への感謝を伝えると、何故か出久の身体は粒子となり岩の方へと流れだした。
「――デクッ!!」
勝己の叫びは、浄化されたばかりの澄み切った空気に虚しく響き渡る。
闇の怪物は消え去り村には再び麗日たちの息遣いと森の動物たちの鳴き声が戻ってきた。けれどその平和と引き換えに、出久の身体は淡い緑色の粒子となって静かにけれど確実に崩れ始めていた。
出久は魔力の源と共鳴した事でしばらく眠りにつく事を伝えたその期間は500年。
「麗日さん達とは短い間しか居られなかったけど凄い楽しかった」
出久は消えゆく体で涙を浮かべる。
「500年……そんな、お前……!」
勝己は吸い込まれそうになる出久の身体を無理やり踏みとどまらせようと駆け寄った。しかし、勝己の背後には未来へと繋がる時空の裂け目が開き彼を元の時代へと引き戻そうとする強烈な斥力が働きだした。
「ごめんねみんな雄英を発展させようと言ったのに約束を破って………麗日さん、飯田くん、轟くん、あとの雄英を……お願い」
泣きそうな顔で、けれどどこか清々しい笑みを浮かべて出久は仲間に別れを告げる。そして最後に自分を必死に呼ぶ勝己を真っ直ぐに見つめた。
「500年後……もし僕がまだ寝ぼけていたらちゃんと叩き起こしてね、かっちゃん!」
「……っ、ふざけんな! 寝坊してんじゃねぇぞ、このデクが!!」
勝己の指先が出久の頬をかすめた瞬間、2人はそれぞれの光の中に飲み込まれた。
そして未来の世界――大都会「雄英」は、相変わらず静寂に包まれていた。
勝己が目を開けると、そこは「ジュエル祭り」の会場のすぐ近く――あの巨大な、今は苔むして沈黙した岩の前だった。
「ハァ……ッ、ハァ……!」
肩で息をしながら、勝己は自分の右手のルビーを見つた。
そこには、自分1人の魔力ではない、温かくて眩い「緑の輝き」が、確かな記憶として刻まれている。
勝己は、岩の表面に歩み寄り、思い切りその拳を叩きつけた。
「起きろコラ!! 500年だ……十分寝ただろ!!」
パキッ――。
岩の表面に、小さな亀裂が入った。
そこから溢れ出したのは、過去の世界で見た、あの純粋で眩しいエメラルドの光。
「チッ……お利口に呼んでりゃ起きるようなタマじゃねぇよな、テメェは!」
勝己は不敵に口角を上げると、右手のルビーに全ての魔力を集約させた。周囲の空気が熱に歪み、バチバチと火花が空間を削り取る。
「耳元で特大の目覚まし鳴らしてやるよ! 『ハウザーインパクト』――ッ!!!」
轟音と共に、最大火力の爆破が岩の芯を直撃した。
その瞬間、岩は限界を超えた眩い輝きを放ち、ひび割れた隙間から暖かな春の風が吹き抜けた。
「……ふぁ……。おはようかっちゃん」
煙が晴れた岩の後ろから、500年前と変わらない姿の出久が、のんびりとあくびをしながら現れた。
しかし、彼が周囲の惨状――石化した人々や街を覆う闇――を目にした瞬間、その瞳に鋭い意志が宿る。
「そっか……まだ終わってなかったんだね……」
出久がそう言ったかと思うと、彼の全身から奔流のような緑の光が溢れ出した。
それは未来のどの魔法使いも見たことがないほど純粋で慈愛に満ちた輝き、光が波紋のように雄英の街を駆け抜けていくと、触れるものすべてから闇が剥がれ落ち灰色の石像だった人々が次々と血色を取り戻していく。
「すげぇな……」
勝己はその圧倒的な光景を隣で見つめていた。
歴史の教科書に載っている「ジュエル様」の伝説。たった1人で闇を消し去る孤独で神格化された英雄の姿。
やがて街に平和が戻り、人々は「奇跡の再臨だ!」「ジュエル様が救ってくれた!」と歓喜の声を上げ始めました。
勝己は出久の襟元をぐいと掴み騒ぎになる前に彼を物陰へと引き寄せる。
「……おいデク、お前の正体は誰にも言うなよ」
「え? どうして? 隠さなくてもいいのに……」
「バカか。お前が『ジュエル様』だってバレたら、一生どっかの研究機関に閉じ込められるか、拝まれ続けて終わるぞ。……そんなの、俺がごめんだ」
勝己は不器用に顔を背けましたが、その耳は少し赤くなっていた。
「……そうだね。僕もかっちゃんと一緒にこの街を歩きたいから秘密守るよ」
出久は嬉しそうに微笑み、勝己のゴツゴツした手をそっと握り返した。
街のあちこちに立つ「ジュエル様」の銅像を横目に、二人は賑わいを取り戻した雑踏の中へとしっかりと手を繋いだまま消えていった。
500年前小さな村の片隅で仲間と夢を語り合っていた少年は、今や歴史に刻まれた伝説そのものとなっていた。しかしそんなことは露知らず、街の人々は勝己のすぐ隣でリンゴ飴を頬張る緑色の髪の少年が「ジュエル様」本人だとは夢にも思っていない。
「『ジュエル様』を祝う祭りにジュエル様本人が参加してるとか前代未聞だろ」と言う勝己の隣で出久は『えへへなんか照れくさいな、僕はただ麗日さん達と笑って過ごせるように必死に戦っただけなのに』と笑いながら、この時代の食べ物カツ丼を食べている。
そして出久は街の中央で黄金に輝く「オールマイト像」を見上げ瞳を潤ませた。
500年前、師匠のオールマイトを尊敬して作り上げた像があの頃と変わらない姿で雄英にあることに感慨深くなる
「すごいよ……500年経っても、まだここにいてくれるんだね」
驚くべきことにその像を代々守り続けてきたのはかつての親友・焦凍の子孫である現代のNo.1魔法使い・轟炎司がかつての「雄英」の創設メンバーの想いを今日まで繋いできたのだ。
出久は今はもう会えない親友の面影を空に描きながら小さくけれど深い感謝を込めて呟いた。
「ありがとうみんな。……君たちの繋いでくれた未来はこんなに温かいよ」
それから数ヶ月後。
平和を取り戻した雄英の学び舎にはいつもの光景があった。
掲示板に貼り出された成績表の1番上には、不動の「爆豪勝己」の名。そのすぐ下、2番目の位置にかつては存在しなかった「緑谷出久」の名が並んでいます。
「かっちゃん凄いや! また学年1位だね。僕、今回こそはいけると思ったんだけどな……!」
背後から駆け寄ってきた出久が、キラキラとした瞳で勝己を覗き込む。かつての勝己なら「近寄んなデク!」と突き放していたところだが、今の彼は違う。
「……フン、当たり前だ。テメェに抜かれるわけねぇだろ。次はもっと気合い入れろ、追い抜いてみせるとか言ったのはどこのどいつだ」
「もうわかってるよ! 次の演習魔法では負けないからね!」
ぶっきらぼうに応えながらも、勝己の口元には隠しきれない柔らかな笑みが浮かんでいた。
帰り道夕日に染まる校門を抜けるとき。
勝己は誰にも見られないよう、出久の手をぎゅっと握りしめた。
「……おいデク腹減った。今日こそ飯作らせてやる」
「あははかっちゃんの料理世界一好きだよ!」
時を超えた約束を果たし、2人の少年は今、本当の意味で自分たちの「未来」を歩き始めた。
苛烈な性格と強すぎる魔力故に孤独だった「爆豪勝己」と大昔の雄英創設メンバーで500年眠りに続けた事により1人時代に取り残され孤独になった「緑谷出久」
孤独だった2人の少年はお互いを支えあい恋人のように寄り添って生きている。
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