バー・ローゼンクロイツ

  • narration

    ネオン街は、まだ人で溢れかえっていた。

    数多の男女が集まる眠らない街、東京。目を引くような色彩の光が、三日月を消し去っていた。

    その狭い路地裏、街灯もないある通りで、1件のバーが灯りをともす。

    「バー・ローゼンクロイツ」
    どんなに詳しい人だろうが、ここは知らないだろう。
    この店は酒を出さないのだ。

    どういうことかって?それはすぐに分かる。ほら、もうそこに依頼人が────

  • narration

    カランコロン。
    店内に入ってあったのは、椅子とテーブル一つだけ。壁も床も黒く染められ、ひとつの赤いランプが、そこを照らしている。

  • 謎の男

    どうぞ、お座り下さい。

  • narration

    不意にかけられたその声で、はっ、と私は我に返る。
    明かりが少ないせいで声の主は確認できないが、凛とした低い声の持ち主であることはわかった。まだ若い男性なのだろうか。

    照らされた席に座ると、それを待って声の主は喋り始める。

  • 謎の男

    今日は、どのようなご要件で?

  • narration

    息が詰まる。今まで散々憎んできた彼。殺そうと何度も思った彼。
    しかし、いざ口に出すとなると、上手く言葉が出ないのだ。
    でも、このままになるわけにはいかない。
    私は────

  • 謎の男

    そうですか。では、約束通り代金を。前払い制ですから。

  • narration

    震える手で、札束を取り出す。100万。今まで耐えて、耐えて手に入れた大金。あいつがいなければ自分のものにできたのに。


    気づけば、恐怖は怒りに変わっていた。

  • narration

    バン!とテーブルに叩きつけると、声の主はゆっくりと、手袋をはめた手でそれを受け取った。

  • narration


    これで、アイツを殺して!!

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