禅院と桜蘭
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月詠が上に登るのを確認した後、ハアと深いため息をつく。
アイツほんといっつも緊張感ねえな。出張行って俺と離れたんだから。なんかしら学んでくると思ったけど全然変わってねえ。
そんなことを思いながら線路の上をガツガツと歩く。呪霊の気配はするが、一向に姿は見えない。
少し先で玉犬白の姿が見えた。近付いてくる伏黒に気付くと何か伝えたそうにアヴッと吠える。
「どうした」
玉犬が見ていたのは人の腕である。呪力を孕んでいるのでそういう形の呪霊だ。爪先がピクッと痙攣した。
伏黒は「ああ、食っていい」と玉犬の頭をワシャワシャ撫でる。
今回の呪霊は電車に飛び込んで自殺した人間の怨念が形になったもの。恐らくこういうバラバラ死体がわんさかいるのだろう。なるほど、だから月詠……。
すると背後から何か感じてゾオッと悪寒が走る。
ホームの下のあの空洞。そこに40代前後の老けた男の生首が転がってた。それは伏黒を見上げてニコオッと皮膚を釣り上げてその顔に。不気味で歪な、笑顔のようなものを作る。
「僕の」
と、生首が呟いた瞬間。何かが飛んできて、それを玉犬が弾いた。そしてそのまま生首を強靭な爪が切り裂く。
出てきた。呪霊。恐らく今に一気に出てくる。
身構えた瞬間に、カンカンカンと甲高い音が響いた。電車が来る際の警報灯がグルグルと回る。警報が点滅してるのは1番ホームだった。伏黒が今立ってる線路である。
もう終電過ぎたよな?呪霊か。
なんとなく嫌な予感がするのでホームの上に飛び上がった。呪霊の呪力を察知した玉犬の黒も、伏黒の元に戻ってくる。玉犬二匹が電車の来る方向を見てグルルと獰猛に唸った。
「電車電車電車」
「通過」
「電」
「車」
「が」
「通過し、ま。ア、ズ」
ケタケタケタケタ。笑うような嗄れた声で確かにそう聞こえる。するとドス、ドス、と重たい足音と、何かを引き摺る音が聞こえてきた。
「電車、通りィ。まあ"す」
目玉と口が無数に付いたツギハギだらけ肉塊でできた巨体の呪霊が、線路の上を歩いてきた。よく見てみるとそれは人間の腕や脚、胴体や生首等の体の部位が大量に固まって一つになったような不気味なその後ろには先程のような人間の身体の部位が、出で立ちをしている。その巨体に加えられなかった、余り物の部位が。一つ一つ意志を持って動いてるようにその巨体の後ろを着いてきていた。
玉犬が主人を守るように一歩前に出てグルルと威嚇する。
すると、ツギハギの巨体が「あ」「ああ」「あああ」「あ」と震えだし、次の瞬間にボンッと何かにブチ当たったように弾けた。バラバラになった無数の腕、脚等の部位が、四方八方から伏黒を襲う。
「ッ、玉犬!」
玉犬が目にも止まらぬ速さで伏黒の周りで跳ね周り、次々に伏黒に襲いかかる肉塊を祓い退ける。
しかし如何せん数が多すぎる。
すると、階段からカンカンカンという甲高い足音が聞こえてきた。その後に「恵くん恵くん恵くん!」と、伏黒を呼ぶ声がする。
「月詠か!」
「恵くん〜ッ、なんかいっぱい来たんすけど!突然いっぱい来た!なんなんすかホント、頼むから助けてくれマジで頼む!」
「お前ずっとうるせえな!援護する、コッチ来い!」
「行く〜〜〜ッ!」
月詠がエスカレーターの手摺からサーッと滑り降りてくる。月詠は和傘の形をした特級呪具・夜桜誘夜を差していた。それには黒地に見事な桜が描かれている。月詠を追ってきた細かい肉塊が、その呪具にブチ当たって霧散していった。
ホームまで滑り降りてくるとタンッと、手摺から飛び降りて「もうわりかし死にてえ〜〜〜ッ」とグズグズと泣き言を吐きながら伏黒と玉犬の元まで走ってくる。
「集合体恐怖症にはこゆのキツイ……」
「月詠、術式いけるか」
「あー、まあいけるけどちょっと気持ち散らばりすぎかなって」
「玉犬が範囲内に誘導する」
「左様で」
月詠が伏黒の前に出た。特級呪具、『妖刀・夜桜誘夜』。その妖刀たる所以が堂々と晒される。
「【