禅院と桜蘭
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「出てこないね、呪霊」
「………………」
特級呪具、妖刀・夜桜誘夜をトン、トン、と駅のホームに打ち付けて月詠が退屈そうにそう言った。
伏黒が難しい顔をして、顎を擦りながら線路の上を眺める。
「…………電車が来る時間じゃないからかもな」
「あーね、ありそ。線路の上に人落とすんでしょソイツ。でも帳降りてるしなあ。やっぱどっかに隠れてんじゃない?つかこの時期ってマジで駅に沸くよな」
「日本は電車に飛び込んで死ぬ人間が多いからな」
伏黒は後頭部後に手を回して項辺りを指で揉みながら「……手分けして炙り出すか」と呟く。そうして手で犬の形を組み、「玉犬」と唱えた。
伏黒の影から白毛と黒毛の狛犬が這い出てくる。ヴヴ、と獰猛に唸る二匹の頭をワシワシと撫でてから「探せるか」と聞いた。玉犬がアヴッと威勢よく答えて、線路の上に飛び降りる。
伏黒も玉犬に次いで、線路の上にヨッと降りた。そしてホームの上に立つ月詠を見上げる。
「月詠」
「はあい?」
「俺はこの辺りを探ってみる。お前は上を」
「あーウン OK , Buddy . でもその前にトイレ行っていーい? 」
「緊張感ねえな!済ませとけ」
「ごめんて」
月詠は声を荒らげる伏黒からさっさと背を向けて、まるで反省してない仕草で手の甲を見せた。
エスカレーターが止まっているので階段を使い、細長い脚で二段飛ばししながら登っていく。1、2番ホームから登ってきたのでトイレは目の前にあった。
女子トイレに入って、まず鏡を見る。メイク崩れてないかなあ〜、と。後で手エ洗ったら、リップくらいは塗り直しとこっと。
そうして1番手前の個室の扉に手をかけて、
違和感。
バッと振り向いた。
閉まってるな、1番奥。弱い。けど確かに呪霊の気配がする。
月詠はイーッと歯を閉じ合わせて嫌そうな顔をしてから、右耳上辺りの髪をガッと搔きあげた。
呪霊がいる空間で用足せるかよ、ふざけんな。
奥の個室まで歩いていって、「あーもしもし、入ってる?」と扉をノックした。
すると「ヴッ」「ヴッ。ヴゥ」と啜り泣く女の声が個室から聞こえる。
「嫌なの」
「も」
「嫌なのぉ」
「行きたくないの」
「いッ」
い
き
た
グ
「……そ」
バキッ、と金属が罅割れる音がした。夜桜誘夜を扉に向かって振り下ろしたのだ。壊れた扉の奥に、蓋が閉まった便座に座って蹲ってる、赤黒い肉の塊がいる。無理矢理血肉を女の形にしたようなそれが、バッと顔を上げた。グルンと不気味に上を向いた両目玉から赤黒い涙が流れている。顔の皮膚がデロッと向けていた。体は恐らく流れた血でできている。コイツの本体は頭部しかない。後の造形は血で補ってるだけ。
女の形をした呪霊の髪の毛が月詠に向かって伸びる。よりも先に、呪霊の額に夜桜誘夜の先端が突き刺さった。
「もう行けないだろ、何処にも」
グッ、ともう一度奥に夜桜誘夜を差し込む。すると女の呪霊はグロッと溶けるように消えていった。
月詠はカクン、と首を傾げてそれを見下ろす。納得いかなさそうに血溜まりを眺めた。
弱。
2級ではない。全然2級じゃない。そもそもアタシ2級術師とか言われてるけど、実際3級レベルだし。そんなアタシが一撃で倒せるなら4級か、3級の相当下っ端だわコイツ。
ウーン、と考え込むを仕草してから、夜桜誘夜を振り上げて肩に乗せた。
「恵くんとこ戻るか……」