呪胎戴天【弐】
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「恵くんさあ、なあんで呪術師なったん?」
という質問をしたのはこれで2回目だった。
今と、もう1回は高専入学してすぐ。顔を合わせ後の任務の時。
月詠の部屋を訪ねてくるなりそう聞かれた伏黒は嫌そうな顔を隠そうともせずに顔を歪め手の腹で後頭部をグリグリと揉んだ。そして月詠と目線を合わせないで「元気そうだな、なら帰る」と早口で告げて部屋から出ようとした。それを「待て待て待てまあ上がれって」と月詠が伏黒の腰に抱き着いて引き止める。
伏黒は月詠を引き摺って廊下を二三歩歩いたが、月詠がまるで離れようとしないことを悟ってチッと舌打ちしてから部屋に戻った。
月詠の右腕には包帯が巻かれていた。今日の任務で大怪我をして、反転術式の申し子である家入硝子による治癒をして貰った後だ。
恐らく伏黒はこれの見舞いにでも来たんだろうなあ。多分悟くんにでも言われたんだ。と、月詠はお茶出しとして出せるもんが入ってなかった冷蔵庫を眺めながら思った。
パタン、と冷蔵庫を閉める。中が自分特化型すぎた。
「恵くん冷蔵庫ん中なんもねえやゴメーン、水道水でい?」
「別に居座るつもりねえから何も出さなくていい」
「つれないね。そんなこと言わずさ、ちょっと付き合ってよ。アタシ達もう少し仲良くなるべきだと思わない?知り合ってもう3週間よ」
「思わない、死んだ時どうする」
「あー、そういうの考える人」
月詠がSwitchを起動した。「恵くん、マリカしようぜ」と言うと伏黒は黙ってそのまま立ち上がり部屋から出ようとする。月詠が腰に抱き着いて引き止め、「1回だけ1回だけ」と言うと伏黒は怠そうに座り直した。
「お互いン事なんも知らんじゃん。腹割って話そうや数少ない同級生なんだし」
「なんで急に」
「やー、だって恵くん見たっしょ。右腕。ヤ別に隠してたつもりねえけどさ」
今日怪我した右腕。
月詠の右腕には、赤い彼岸花に囲まれた銀狐が肩から手首にかけてビッシリと彫られている。普段は制服に隠れて見えなかったところ。怪我をして止血してもらったときにガッツリ見られた。
その時の伏黒の反応を見て、「あ、そう言えば言ったことなかったな」とボンヤリ思い出したのだ。
「あーしさあ、よ〜知らんけどなんか呪われてるんだよねえ。ガキん頃。天狐・天狂」
「ッ、マジか」
「高専入ってもおビックリ。呪術界のビッグネームだったんね、あれ。そんときにつけられたのコレ、だからタトゥーとはちと違うッつーか、呪いだし。
まあそんな感じかな、あーしは。なんか術式もSSR引いてるっぽいし、ワンチャン祓えんかな〜って思って呪術師になった。顔しか取り柄ないから顔取られたら困るんだよね。実際なってみたら結構使い勝手悪かったけど、術式」
月詠はSwitchと接続されてるテレビ画面を眺めてゲームの操作をしながらダルッと語った。特級呪霊に呪われている割りにどうでも良さそうに話す。
月詠は、まあ自分の話はどうでもいいのよ、という顔をして伏黒を見て、「はい次」と首を傾げる。そうしてちょっとだけ笑った。
「……俺は、五条先生との交換条件だ。俺は父親に禅院家に売られた。それを帳消しにするのと、生活費の免除。その代わりに俺が呪術師として働かなきゃならなかった。後は、そうだな。お前と同じようなもんだ。呪われた姉がいる」
「そっかあ」
「救われるべき人だった。俺なんかよりずっと善人だった。そんな奴がなんもわかんねえ呪いに突然呪われて寝たきりだ」
「助けたい?」
「助けたい」
普段から共に任務に向かっているので、何となくその思想は察してたつもりだ。伏黒恵とはそういう男だった。
救われるべき人を救う。
悪人の前に蜘蛛の糸を決して垂らさない。
人の心から生まれた呪いの被害から、選り好みして人を救う。
誰かを呪いもしない優しい人間が、決して他人の悪意から生まれた呪霊に呪われることがないように。
そういう彼の正義は、姉への想いからできていたんだなと。月詠は納得して「そっか」と呟いた。
すると、テレビ画面がレース開始前に切り替わる。月詠が「あ!」と声を上げてから「始まるよ始まるよ」とテンションを上げた。
「高専来てからリアルで誰かとやんの久々だわ」と伏黒に向かって嬉しそうに笑うが、伏黒はツンと尖った顔して「あっそ」と答えるだけだった。
「恵くん凄いなあ、アタシそんな人のためとか考えたことねえわ」
「自分の譲れないモンの為に行動できるのも十分スゲエんじゃねえか」
「どーだろ、アタシってそんな大層な言葉貰えるよーなテンションでここ来てない気がする」
3、2……。画面の中で数字が点滅した。
伏黒は報われるべき人の為に呪いを祓う。因果応報は全自動ではないから。少しでも多くの善人が平等を教授できるように、不平等に人を助けている。
…………じゃあ、恵くんのことは誰が助けるんだろ。
カチッ、とゲーム機のボタンを押した。
それが自分の中で、何かが切り替わった音のように思えた。
「ウワ恵くん、ザッコ……どうした?こんなことあるんだ」
「うるせえな!あんまやったことねえんだよこういうの。おいもう一回」
「え、いやそんな頑張んなって。無理だからどうせ」
「勝つまでやる」
「えッ、負けず嫌いウケる。あーし足でやろっか?これならザコでもワンチャンあるでしょ」
「お前ゲーム機握るとクソウゼエな」
*