まもひろ

 片山君と交際を始めてから、以前よりも日々が彩られた気がする。世界を救う片山君の手伝いを怠るわけにはいかないが、どうしても浮かれてしまう心を押さえきれずにいるのは仕方がないだろう。恋人のおかげで実験も絶好調……とまではなかなかいかないが、手応えは感じている。間違いなく、アカデミア学院で一番幸せな男は自分だとすら思っていた。……片山君を怒らせるまでは。

「弘樹と喧嘩なんて、大物だな~大塚!」
「全然笑い事じゃないんだけどな……」

 俺には優しい弘樹クンのままだもん、とかわいこぶっている竜門君が少しだけ恨めしい。が、片山君と僕が付き合っていることを知っている人間は竜門君しかいないため、ため息をぐっと飲み込む。昼食をとるには遅い時間のため、食堂に人の姿は少ない。相談料であるデラックス定食をぺろりと平らげた竜門君は、ようやく話を真剣に聞く姿勢に入ったようだった。

「で、なにしたんだ? 弘樹があんな態度取るなんて相当だと思うけど」

 あんな態度、とは、校門前で片山君へ一緒に校舎へ向かおうと声をかけたときのことを指している。姿が見えた嬉しさを隠さず、意気揚々と声をかけたのだが──

「ごめんいま大塚君と一緒にいたくないんだ、だっけ?」
「……うん、確かにそう言われたよ」

 ばっちりと現場を目撃していた竜門君が、ご丁寧に片山君の発言をリプレイしてくれたため、ついに耐えきれなかったため息がこぼれ落ちる。
 いま考えるといつものようにメトロライナーで会えなかったのは、避けられていたからなのではないかと思う。

「しかもなんで怒らせたのかわからないときた」

 竜門君はお手上げと言わんばかりに肩を竦めた。彼の言う通り、片山君を不快にさせるような行動や言動をした覚えがないのだ。こうもなにもわからないと、相談に乗るのも難しい。竜門君の表情にはそんな考えが滲んでいた。そんな状況でも、デラックス定食の分は働くつもりなのであろう彼は、難しい顔をして天を睨んでいる。竜門君は誤解されやすいけど、意外といい奴なのだ。友人の優しさを再認識していると、竜門君は突然僕に人差し指を突きつけた。

「まずは昨日最後に弘樹に会ったのはいつだ。そのときの様子は?」
「ええっと、午前中だよ。移動教室の帰りに片山君と会ったのが最後かな。いつもと変わらなかったよ、笑顔でこっちまで駆け寄ってくれて……」

 片山君の、危険を省みずに仲間を助けようとする芯のある優しさは紛れもなくかっこいいのだけれど、普段の朗らかでころころ表情が変わるところは非常に可愛らしいと感じる。

「癒されてるところ悪いんだけど、話進めてもいいか?」
「あ、ごめん、つい……」
「ま、大塚が弘樹にベタ惚れなのにも慣れてきたよ」

 竜門君も、前に片山君に助けてもらったと言っていた。だから、こうやって協力を申し出てくれたのだろう。僕を心配しているだけではなく、恩人である片山君に悩みや心配事、ストレスがあるなら取り除いてあげたい。そういった気持ちが動機の半分以上を占めているのだと思う。片山君のストレスの原因が僕というのが問題なのだけれど。胸にちくちくとした痛みを感じながら、昨日のことを思い返す。

「そういえば、昨日は研究所に来てくれなかったな……。いつもは会いに来てくれるのに」
「フーン……じゃあ昼から放課後の間に怒らせたのかもな」
「会えてもいないのに?」
「大塚が気づかなかっただけで、弘樹は大塚を見てたのかもよ。そのときに幻滅させることでもしたとか」
「してないと、思うけど」
「……だよなー。大塚がそんなことしないよな。いつでも誰にでも優しいし」
「買い被りすぎだよ」

 他になんか変わったことはなかった? と聞かれ、数秒考え込む。正直、これが原因とは思えないが、唯一心当たりといっていいものがあった。

「……実は、告白をされたんだけど」
「おっ! 大塚クンも隅に置けないな~! このモテ男め!」

 褒めているのか揶揄っているのか、恐らく後者であろう言葉を無視し、片山君の態度と関係があるかどうかはわからないよと言い添える。

「でも恋人が告白されて怒るようなタイプには見えないけどな。あの心の広い弘樹は大塚が告白をオーケーしたりしない限り──あっ! 大塚、まさか……」
「そんなわけないだろ、もうっ!」

 どうして片山君がいるのに、他の人に目を向けなければならないんだ。じっと竜門君を睨めば、語尾にハートマークをつけながら冗談だって! といつもの憎めない笑顔で言うものだから、すっかり毒気を抜かれてしまった。
 そもそも僕が告白されたことを、片山君は知らない可能性の方が高い。学科が違えば、交友関係も違う。物理学科で噂になっていたとしても、片山君の耳に入る可能性は低いはずだ。
 そう結論付けて他の可能性を考えようとしたが、どうやら竜門君はそうではないようだ。

「ちなみにいつどこで告白されたんだ?」

 滅多に見られない竜門君の真面目な顔に気圧され素直に答えれば、今度は哀れむような顔であー……と呟いた。

「多分弘樹、告白現場見てたぞ」
「……本当に?」

 確かに人気がない物理学科棟の校舎裏とはいえ、学院の中。誰かに目撃される可能性はなくはないだろう。しかし昼休みということもあり、ほとんどの生徒は食堂や購買、中庭へ向かっているはずだ。ましてや普通科の片山君がこちらへ来る理由などないはず。

「弘樹の教室から物理学科棟って結構よく見えるんだよ」
「それは知らなかったな。そもそも、竜門君はどうしてそんなこと知っているんだい?」
「俺、弘樹をバイトに誘うときたまーに教室に邪魔してるから」

 なるほど。やけに普通科の構造に詳しい理由に納得したが、同時に人の恋人をあまり振り回さないでほしいとも思った。しかし今はそんなことを言える立場ではないため、文句を言うのは自重する。

「流石の弘樹も女の子と大塚が二人でどこかに行こうしてたら、気になって確認しに行っちゃうんじゃないかなって思うよ」
「……そうかな」

 片山君は僕が告白されたことを知っている。それは竜門君の言う通りかもしれない。でも、片山君は僕が誰といてもあまり気にしないんじゃないかと思う。
 僕が片山君を想っているほど、片山君は僕を想ってはいない。これは卑下でもなんでもなく、確かな事実である。勿論、片山君は好きでもない相手と付き合う人ではないし、少なからず僕への好意はあると信じている。その好意が、まだ友情の域を出ていないだけだ。そもそも男同士で交際するなど、片山君は考えたことなどなかっただろう。たまたま片山君に好きな人がいなくて、たまたま告白してきたのが、一番仲のいい僕だった。だから悩みながらも頷いてくれたのだと思う。それでも片山君は優しいから、精一杯僕と向き合って、僕を好きになろうとしてくれていた。今は同じ気持ちじゃないけど、いずれは。
 そんな片山君の人の良さに甘えていた僕は、この関係の脆さに全く気がついていなかったのだ。
 
「なんだか考えれば考えるほど、告白のことは関係ない気がしてきたよ」

 きっと情けない笑顔を浮かべていることを自覚しつつ、こんなに付き合ってもらって申し訳ないと思いながら竜門君に告げる。
 竜門君は釈然としない顔で「そんなことないと思うけど」と呟いた。きっとこのまま話を続けても、片山君を怒らせた原因はわからないだろう。竜門君だって忙しい身だ。これ以上彼に頼るのはやめて、片山君と話し合うべきなのだろう。もしも別れ話に発展してしまったらという不安はあるが、いつまでもこのままではいられない。

「竜門君、ありがとう。どうにか片山君と話をしてみるよ」
「……その前に一個聞いていいか?」
「うん、構わないけど」
「告白さ、恋人いるって言って断ったんだよな?」

 真剣な顔であまりにも当たり前のことを聞くのだから、少し気が抜けてしまった。

「まさか。誰と付き合ってるのか聞かれても困るし」

 僕だけならともかく、片山君が偏見の目に晒されるなど。そんな迷惑をかけるわけにはいかない。片山君と僕との交際関係については、極力隠し通すべきと思っている。

「……大塚。お前頭はいいのになんでそうなんだ」

 一呼吸置いたあと、竜門君は盛大に叫んだ。

「原因それじゃねーか!」


□□□


 大塚君に告白されたとき、大いに戸惑った。いわゆる恋愛感情を彼に抱いていたわけではない。ただ、僕を好きになってくれた彼を好きになりたいと思った。そんな考えが浮かんだ時点で、既に大塚君を意識していたのだと今ならわかる。元々友達としても人としても、特に好ましいと思える人だ。そんな彼が恋人として僕の隣にいるのだから、好きになるなという方が難しいだろう。ナビには呆れられたような顔もされたが、「世界を救うモチベーションがコイビトの存在で高まるならいいんじゃない」とのことだ。実際、僕の中でどんどん大塚君の存在が大きくなっているのがわかる。傍にいてくれるだけで、心が温まるようだった。
 そんな恋人が、かわいらしい女の子と連れ添って、人目のつかないところへ向かっている。まさか大塚君に限って浮気などを疑ってはいないが、それでも気になってしまうは当然だろう。気づかれないようそっと様子を伺えば、いかにも告白スポットというような場所で、予想を裏切ることなく好意を向けられている大塚君の姿があった。

「ごめん、今は誰とも付き合う気はないんだ。でも気持ちはすごく嬉しいよ。ありがとう」

 大塚君らしい優しい断り方だと思った。同時に憤りを覚えた。
 そんな断り方では、きっと目の前で俯くその子は大塚君のことを諦められないだろう。それに、嘘までついて恋人がいることを隠すのは一体どういう了見なのか。普段であれば、大塚君に考えがあってのことだと考えられたかもしれない。しかし、全く冷静でいられるはずもない僕に、そんな思考を巡らせることができるはずもなく。二人に見つからないよう、その場を後にしたのだった。

「それでもあの態度はなかったよな……」

 今朝の大塚君の、傷ついたような表情を思い返す。既に怒りの感情もほとんど萎んでおり、罪悪感に苛まれるばかりだ。だからといって自ら会いに行く気にもなれず、せめて今日だけは。そう言い訳しながら、物理学科棟を避け仲間たちとの親交を深めていく。明日になれば多少は気持ちも落ち着くだろう。
 希望的観測に明け暮れていると、僕に向かって駆け寄ってくる要の姿を見つけた。

「どうしたの、要。やけに急いでるみたいだけど」
「弘樹、この後空いてるか?」
「空いてるけど……またバイト?」
「それは明日の予定に入れておいてくれ」
「いや、手伝わないからね?」

 弘樹がいると割りの良い仕事に手を出せるからな! なんて笑う要の耳に、僕の言葉は届いていないらしい。こちらとしても、無駄な抵抗とはわかっていたので、さほど気にはしていないが。ともかく今日に限っては別件らしい。

「わっ、押すなよ」
「まあまあ気にすんなって。すぐ着くからさ」

 要に背中を押され、行き先もわからないまま強制的に歩みを進ませられること数分。その建物が視界に入った瞬間、すぐにUターンをしたのだが、それは後ろの要に阻止される。──目の前には、大塚君がいるであろう研究所があった。

「帰る」
「悪い、俺大塚から報酬貰っちゃってるからさ。デザートまでついてるんだぜ」
「僕だっていつも要にご飯奢ってるんだけど!」

 中に入ってたまるかと必死の抵抗を続けていると、ふと要の力が弱まる。

「弘樹だってこのままじゃ嫌だろ」
「それは……」
「ということで」
「え?」
「弘樹クン一名ご案内です!」

 ふざけた声と共に、背中を強い力で押され研究所の中へと押し込まれる。
 明日は絶対バイトの手伝いなんかしないからな。これから来る衝撃に備えて目を瞑りながら、要へ恨みを飛ばす。けれども、予想と反し、床に打ち付けられることはなかった。

「出来ればもう少し丁寧に連れてきてほしかったんだけど……」
「丁寧にやってたら弘樹に逃げられちゃうよ。それに大塚が受け止めるってわかってたし」

 俺が弘樹に怪我させるわけないだろ、なんて笑いながら言う要に文句のひとつもつけられない。間違いなく頭上で交わされているはずの会話なのに、どこか遠いところで聞いているような感覚だった。僕を包んでいるこのぬくもりは、間違いなく大塚君の体だろう。まさか会う会わないをすっ飛ばし、ここまで密着することになるなど。ひとまず抜け出そうと身を捩るが、背に回った腕の力が増し、この体勢でいることを余儀なくされる。

「じゃ、俺はこれからバイトだから」
「竜門君本当にありがとう」

 要、行かないでくれ! 半ばパニックになりながら叫ぶも、意外と硬い大塚君の胸板に阻まれ、要に伝わることはなかった。……もう、ここまで来たら話でもなんでもするから、とりあえず一度離してほしい。諦め混じりに大塚君の背中を軽く叩けば、ようやく彼の拘束も少し緩まる。依然として離す気はなさそうだが、崩れたままの体勢を直すことはなんとか出来た。そのせいで先ほどよりも大塚君と顔が近くなってしまい、心臓が跳ね上がる。せめて動揺していることを悟られないよう、眉尻を下げた大塚君に、なるべく普段と変わらぬ声色で話しかける。

「大塚君、僕もう逃げないから」
「……うん、ごめんね」

 その謝罪はむりやり連れてきたことについてか、抱き締めたことについてか、はたまた。離れていく大塚君の体温にほっとしながらも、少し残念な気もする。先程まではあんなにも会いたくなかったのに。抱き止められた衝撃で、モヤモヤしていた気持ちがどこかへ飛んでいってしまったようだ。制御室へ進む大塚君の背中を追いかけながら、己の単純さに苦笑してしまう。

「片山君、本当にごめん。こんな……騙すような真似をして」
「いや、うん。それはもうあんまり怒ってないっていうか。そもそも騙されたって感じでもないしね」

 要もあれでいて僕と大塚君のことを心配してくれていたのだと思うし。やり方はどうかと思うけれど。
 それに、何度も何度も謝罪をする大塚君を前に、僕も意地を張り続けることはできない。

「僕も大塚君に嫌な態度を取っちゃってごめん」
「片山君が謝ることなんてないよ。ただ、自信はないんだ。……片山君を怒らせてしまった理由が、本当に僕が考えているものなのか」

 僕をまっすぐ見つめる大塚君の瞳は不安に揺れながら、ほんの少し期待の色が滲んでいる気がした。

「言い訳にしか聞こえないとは思うんだけど」

 大塚君は、静かに昨日告白されたということを語り出した。
 どうも、僕があの場にいたことに気づいていたというよりは、いてほしいという願望のようなものを感じた。

「大塚君の思ってる通りだよ。僕、聞いてたんだ大塚君の告白の返事を」
「……そうだったんだ。じゃあやっぱり、僕の返事が片山君を傷つけてしまったんだね」

 改めてそう言われると、萎んでいたはずの怒りがふつふつと湧いてくるようだった。

「どうして嘘をついたんだよ」

 これでは今朝と変わらないではないか。頭ではそう理解しつつも、我慢できず、責めるような口調で問うてしまう。

「……ごめん。もしも片山君と付き合っていることがばれたら、片山君が嫌な思いをするんじゃないかって思ってしまったんだ。男同士ってどうしても、そういう目で見られてしまうだろうから」

 大塚君の言葉は、まさに青天の霹靂だった。僕だって、確かに最初は男同士であることに思うところがなかったわけではないのに。大塚君の隣の居心地のよさに、いつの間にかそんなことも忘れてしまっていた。自分がいかに浅慮だったことを知り、恥じる。今度こそ、怒りの芽は完全に枯れてしまった。代わりに、僕の心中は大塚君への申し訳なさでいっぱいだった。

「そっか……そんなことにも気づかなくて、本当に──」
「待って、謝らないでほしい! それだけじゃないんだ、僕は…」

 言いづらそうに目を伏せる大塚君に、僕は思わず彼の手を取った。

「言いたくないなら言わなくてもいいよ。僕、まだ怒っているように見えるかな」

 きょとりと目を開いたあと、大塚君は少し頬を赤くしながら「全く」と微笑む。
 ようやくお互いの緊張が解け、素直な気持ちを伝えられる気がした。

「大塚君が告白されてるとこと、覗いちゃってごめん。でもやっぱり、どうしても言いたいことがあって」
「うん、聞かせてほしい」

 触れあった手から伝わる熱が、僕の柔いところを解してくれるようだった。
 思わず力を込めると、大塚君も僕の手を強く握り返してくれて、やけに安心した。

「ちゃんと恋人がいるってことを伝えてほしかった。もし僕だってばれても、絶対に迷惑なんて思わないよ」
「片山君……」
「例え誰に何を言われても、大塚君が傍にいてくれるならいいんだ」
「……勝手に思い込んで嘘をついて、僕ってだめな奴だね」
「違うよ、大塚君は僕を守ろうとしてくれてたのに」

 大塚君がかぶりを振る。

「片山君と付き合ってることを公にするつもりは、今はないよ」

 けど、と大塚君が言葉を続ける。

「もう絶対、嘘はつかないよ。約束する」
「うん、ありがとう。僕も……まあ大塚君と違ってモテないけどさ、機会があったら付き合ってる人がいるって言うよ」
「そんなこと……いや、ずっとそのままの片山君でいてくれると助かるかな」

 あれ、もしかしてだけど今失礼なこと考えなかった? そんな気持ちで大塚君の顔を覗くも、やわらかな微笑みに黙殺されてしまう。その姿がかわいくて追求する気にもなれないのだから、惚れた弱味というやつは困る。

「よかったら、さっき言えなかったことを聞いてくれるかな」
「うん、なに?」
「付き合っているとは言っても、片山君は僕とまだ同じ気持ちじゃないと思っていたんだけど」

 大塚君がどこか気まずそうに告げた言葉に、自分の顔色が青くなっていくのがわかる。浮かれるばかりで、一度も大塚君に気持ちを伝えていないことに今更気がついたのである。なんか僕って、相当最低なんじゃ……? それなのに一方的に拗ねたりして!
 そんな考えを知ってか知らずか、大塚君の指が僕の手の甲を撫でた。するりと這う熱に、血液という血液が沸騰してしまったのでは。そんな錯覚に襲われるほど、体が熱い。きっと顔まで真っ赤になっていることだろう。青くなったり赤くなったりと忙しい僕に、大塚君はどこか懐かしむかのような表情を浮かべた。

「僕は、自惚れてもいいのかな」

 懇願の色を乗せた水縹の瞳に促されるかのように、想いが口から零れ出る。

「ちゃんと好きだよ、大塚君のこと。多分、大塚君が思っているより……」

 花のような笑顔で喜ぶ恋人が、なによりも輝いて見える。こんなにも彼に想われている僕は、きっとアカデミア学院で一番の幸せ者なのだろう。
 下校時間を知らせるチャイムが、まるで祝福の鐘の音のように聞こえるだなんて、少し浮かれすぎだろうか。
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