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接続

お前と接続したい。
サウンドウェーブの部屋で唐突に言われた言葉が理解できず、サンダークラッカーは間抜けにも口をあんぐりと開けるしかできなかった。

参謀職に就くサウンドウェーブの自室はそれなりに広い。
だが簡素な室内は最低限の物しか置いていないため、サンダークラッカーはどうにも落ち着かなかった。
マスクとバイザーで顔を隠している彼のように他人には素顔を知られたくないという雰囲気を感じる。
「接続って……、ちゃんと定期検査なら受けてるんですけど。大体アンタの管轄じゃあないはずですぜ」
大きめの台、恐らくはサウンドウェーブのスリープ台に座り足をぶらぶらとさせながら不満を述べた。
「……検査とは違う。データ収集が目的だ。ちゃんとメガトロン様の許可は貰っている」
逆らう事はできないと言いたいらしい。
とはいえサウンドウェーブに機体を晒すのは危険だとスパークが訴えている。
サウンドウェーブは様々な仕事をこなすが主な仕事は諜報活動だ。
それはデストロン内部にも及ぶ。
メガトロンの命令といよりも個人的に収集し、自分の都合がいいように使っている節がある。
だから彼が率いるカセットロン部隊以外の者からはサウンドウェーブは概ね煙たがられていた。
嫌な顔をしているとサウンドウェーブはビルドロン達のことを聞いているかと聞いてきた。
話の流れが理解できない。
これだから知力の高いのは困るとサンダークラッカーはブレインの中で愚痴った。
「遊び呆けててメガトロン様にメモリーを消されたって話なら聞いた」
「アイツ等は人間の真似をして接続をしていたんだが、その行為で機体にダメージが加わった。何度リペアしてもまた接続する。だからメガトロン様は接続に関してのメモリーを消すように命じた」
「人間の真似?」
「そうだ。人間や動物がどうやって新しい生命を作るか知っているだろう。あれを真似たのだ」
航空兵であるサンダークラッカーは地球に来てから偵察目的で色々な場所に行った。
その時にたまたま動物の交尾を見てアレがなんなのか疑問に思い調べたことがある。
ただ自分達には必要のない行為であり、排泄用の器官を使う場合もあると知って気持ち悪いと思っただけだった。
アレをビルドロン達がとただ驚くばかりだった。
「勿論俺達には生殖用の機能が存在しない。だからブレインやセンサーなどをケーブルで直接接続したのだ。その結果ブレインに負荷がかかりすぎてオーバーヒートを起こした。だが増幅されたセンサーの感覚というのはかなり気持ちのいいものだったらしい。だから何度も繰り返したのだ」
「で、その話と俺とサウンドウェーブが接続する話とどう繋がるんです?」
「他にも同じような考えを起こす者が出ないとも限らない。その時の対策に影響の無い接続方法や代用品を作るように命じられたのだ」
そう言いながら小さな機械を2個机に載せた。
「これは接続中にパルスの増幅が著しい等の異常を感知した場合、強制的に接続を解除する装置だ。そしてこちらは俺達の感じている電子信号を収集するための記録装置だ」
「安全だと言いたいのはわかりましたけどね、なんで俺なんだよー。フレンジー達じゃ駄目なのか?」
不満からわざと丁寧な口調で話していたがつい砕けた言い方になってしまった。
だが、サウンドウェーブは気にする質ではないらしく話を続けた。
「フレンジー達と俺とでは機体の大きさが違いすぎる。大きさが違いすぎるとオプティックセンサーやジャイロコンパス等からの情報に差が大きくなり、センサーが大幅に狂う可能性がある」
「機体差ならレーザーウェーブとかスタークリームとかでもいいんじゃねぇ」
「その二人と接続するのは俺が嫌だ」
はっきりと言い切るサウンドウェーブに思わず笑ってしまった。
スタースクリームを嫌っているのは知っていたがレーザーウェーブもかとサンダークラッカーは内心驚いた。
しかしよく考えて見れば、メガトロンはレーザーウェーブを何かにつけて褒める。
恐らくはそれを快く思っていないのだろうと納得した。
「お前を選んだのはデストロン軍団の中で比較的俺に好意的だからだ」
だから他にいないのだと言いたげにケーブルを差し出してくる。
確かにそうだろうけどと思いながら渋々サンダークラッカーは接続用のハッチを開けた。

ケーブルを何本も繋いで台に乗ると、パチンとスイッチが入る音が聞こえた。
すぐに電子信号がサンダークラッカーの中に入ってくるのを感じる。
オプティックセンサーが写す世界も恐らくサウンドウェーブの見ているものと混じりあっているせいか、ぐにゃぐにゃとしていて酔いそうだ。
これはなるほどセンサーが狂いそうだ。
サンダークラッカーは仕方なく目を閉じ、情報を遮断する。
すると体に感じたことのないような眠気を感じた。
これもサウンドウェーブの感じている眠気なのだろう。
一体コイツは何日間寝ていないんだ。
襲ってくる睡魔は強力でサンダークラッカーは耐え切れずスリープ状態に移行してしまった。


「おい、サンダークラッカー」
「ふあ」
呼ばれてオプティックを開けると、目の前にはサウンドウェーブの顔が大きく写った。
驚きのあまり悲鳴が僅かに漏れる。
サウンドウェーブは呆れたような声を出した。
「口からオイルが漏れているぞ」
慌てて口元を拭うとぬるぬるとしていた。
どうやら口を開けて寝ていたらしい。
「悪い。つい寝ちまった」
「気持よかったか?」
センサーがどうにもおかしいので思わず顔を擦った。
「うーん、気持ちよかったといえば気持ちよかったけど。あんなに深い眠りに入ったのは何年ぶりだろうな。アンタ、もう少し休んだほうがいいぜ」
「……恐らくそれは俺が望んでいたものと違う。データ収集をする前に休息を取らねばならないな。それにもっと改良する点があるようだ」
ぶつぶつと独り言を呟きだし、サンダークラッカーに背を向けた。
もう帰ってもいいかと尋ねると用はないと言いたげに手をひらひらと振られる。
サンダークラッカーは幸いとばかりにサウンドウェーブの部屋を後にした。


あれから一週間。
たまに呼び出されサウンドウェーブと接続しているが、あまり気持ちのいいものではなくデータ収集は捗っていないようだった。
休憩所でエネルゴンキューブを飲みながらぼんやりとどうすれば早く終るだろうかと考える。
ちょうどその時、食事に来たのだろうスタースクリームとスカイワープが現れた。
「おい、サンダークラッカー。お前さんどういう風の吹き回しか知らないが、サウンドウェーブとべったりだって言うじゃないか」
サンダークラッカーの隣に座ったスカイワープの言葉にエネルゴンを吹きかけた。
「マジか?」
驚いた声を上げるスタースクリームに慌てて違うを叫んだ。
「実験に協力してんだよ。メガトロン様の命令で」
「なんでい、驚いたじゃねぇか。弱み握られてカセットロン達の子守でもさせられてるんじゃねぇかって心配したぜぃ」
「それなら可愛いほうだ。体を弄くられてメモリー書き換えるぐらいはやりそうだろ」
これはやっている内容は言わないほうがいいなとサンダークラッカーは思った。
「そういえばさ、お前らビルドロンの話は聞いたか?」
またしてもエネルゴンを噴きかけるがなんとかこらえた。
実は知っているんじゃないかと疑いながら適当に相槌を打つ。
スカイワープは隣でよくわからないといった顔をしていた。
「あー、なんか最近おかしいよな。問題があったのか?」
「あいつら人間の真似してたらしいぜ。その影響でメガトロンにメモリーを消されたらしい。やっぱ飛べねぇ奴はどうしょうもねぇな」
笑いながらスタースクリームは同意を求めるようにサンダークラッカーを見た。
「人間の真似ぇ?!」
「そうだ。でな、アイツ等が真似してたっていう人間の行為を録画したデータがここにあるんだな」
不敵に笑いながらスタースクリームはどこからかディスクを取り出した。
サンダークラッカーのブレインになにかが閃く。
そのデータを活用したら早く終わるんじゃないか。
「お前そんなのどうすんだよ」
スカイワープは理解できないと蔑むような視線をスタースクリームに向けている。
「暇つぶし程度にはなるだろ。アイツ等がこんな馬鹿馬鹿しいことやってメモリー消されるって笑えるじゃねぇか」
なるほどなぁとスカイワープは呟く。
「今から部屋で見ようぜ。お前も見るだろ」
スタースクリームに言われ、サウンドウェーブに呼ばれていると咄嗟に嘘をついた。
「俺も見たいからデータのコピーもらえねぇ?」
小声で言うとスタースクリームは無言でもう一枚ディスクを取り出した。
準備がいいなぁとつい笑みが漏れた。


サウンドウェーブに個人通信をかけるとすぐに返事が来た。
例のデータ収集に利用できそうな物が手に入った、と伝えれば部屋に来いと簡潔に言われる。
サンダークラッカーはすぐにサウンドウェーブの部屋に向かった。
部屋に着き扉の前で声をかける直前、サウンドウェーブが現れ無言で部屋に通される。
室内を見渡すとカセットロン達は誰も居ないようだった。
「そういえば、実験最中はフレンジー達はいないんだな」
ディスクを渡しながら尋ねると、サウンドウェーブは鼻で笑った。
「フレンジー達に興味を持たれると困る。俺の仕事に支障が出るからな」
クールに言い切るがサンダークラッカーにはわかっていた。
この情報参謀殿はカセットロンに甘い。
恐らく興味を持たれて強請られると困るのだ。
にやにやしながら隣に立ち、画面を覗きこむ。
サウンドウェーブがディスクを再生させるとそこには裸の男達が抱き合っていた。
「あれ? 生殖活動って男女でするもんじゃねぇのか?」
「どうやらそうでもないらしい」
濃厚なキスをしたり体を舐め合ったりしている。
どう見ても他の動物達の行為と変わらない気がした。
「うへぇ、こう大きく映しだされると気持ち悪さが増すなぁ」
「だが収穫はあったぞ。俺達に足りなかったのは接触だ」
言われてみれば確かに今までは隣で寝ているだけなので、感じるのはスリープ台の固さとか部屋の室温ぐらいだ。
触れ合えば感度は増すかもしれないが、サンダークラッカーはあまり気乗りしなかった。
サウンドウェーブとキスしたり触れ合う。
考えただけで色々と脱力してくる。
「お前さんはいいのかよ。俺とキスしたりするんだぜ」
「仕事だと思えば平気だ」
言い換えれば仕事じゃなければやってないというわけで。
なんでお互い嫌なのにやらなきゃならないんだと思いつつ、慣れた手つきでサンダークラッカーは自分の体にケーブルを繋いだ。
「俺の上に乗れ」
「へーい」
サウンドウェーブの上に乗るとパチンとスイッチが入る音が響いた。
途端に世界がぐにゃぐにゃと歪む。
「なあ、マスクの上からすんのか?」
首に腕を回しながら言うとサウンドウェーブは慌てた様子でマスクを解除した。
現れた顔は意外にも幼く見える。
人間はどうやってたっけ。
舌を大きく出しながらサウンドウェーブの唇を舐めると、ブレインがおかしくなりそうなほど気持ちよさを感じた。


いつの間にか接続を強制終了していたようで、世界がいつものようにはっきりとしたものに変わっていた。
オイルや冷却水まみれの体を見下ろしながらこれはやばいと感じる。
スパークが震えるような感覚、体がだるく自分の物ではないようで上手く動かせない。
いつの間にかスリープ台に移っていたようで、サンダークラッカーの下でサウンドウェーブが呻いていた。
「おい大丈夫か」
「……大丈夫だと言いたいが、生憎動けそうにない」
ケーブルを引き抜くとサウンドウェーブの口から先刻見た人間の動画内で聞いたような声が漏れる。
その瞬間何故かサンダークラッカーは顔が熱くなるのを感じた。
「感度を少し下げないと……、これでは使い物にならない」
「考えるのは後回しにしろよ」
抱き上げて近くにあった布でサウンドウェーブの体を拭いてやる。
「俺よりもアンタのほうが被害が大きいようだな」
「センサーの感度が違うからな。お前達と違って聴音回路が優れているからだ。機体差の調整も必要になってくるだろうな。センサーの感度に関しては資料があるからそれを使って――」
「ああ、もううるさいな」
口を塞ぎ舌を差し込むと驚いたように体を硬直させた。
だがすぐに先ほどと同じようにサンダークラッカーの舌を受け入れ、同じように吸い付いてくる。
ちゅっと音を立てながら離れると、サウンドウェーブは名残惜しそうな顔をした。
「キスも悪くないな」
「同意だ」
もう一度というようにぎこちない動きで腕を回され、サンダークラッカーは笑いながらキスをした。


人間の真似をして接続した日から接続行為が楽しみになっていた。
サウンドウェーブの調整が上手くいっているからか、最初の頃のように強制終了することもなくなっている。
それにメモリーにも行為内容が記録されているぐらいには意識がはっきりとしていた。
人間の繁殖活動に関して色々調べたらしいサウンドウェーブから施される接続は、常に心地よくビルドロン達がのめり込むのも理解できる。
今日もサウンドウェーブから呼び出されていたサンダークラッカーは、わくわくしながら時間が来るのを待っていた。
休憩室に向かっていると微かにフレンジー達の声が聞こえる。
サウンドウェーブもいるだろうかと思いながら足は自然と休憩室へと向かった。
「なあ、サウンドウェーブ。最近サンダークラッカーと二人きりでなにしてんだ?」
自分の話題に思わず足が止まった。
「メガトロン様からの命令で極秘に調べていることがある。お前達には言えないことだ」
「でもさー、それならなんでサンダークラッカーなんだって思うんだけど。俺達じゃなくってさ」
そうそうとフレンジーの言葉にランブルが同意する。
「サウンドウェーブはサンダークラッカーと二人きりになりたいだけじゃねぇの?」
「なんでそうなる?」
「だってさ、サンダークラッカーが来た日は様子がおかしいよな」
ジャガーやコンドルも同意するように鳴いた。
「なあなあ、サンダークラッカーのことどう思ってるんだよ」
サウンドウェーブも俺との接続を楽しんでいるんだろうか。
そう考えるとスパークが震えるような感覚を覚え、サンダークラッカーは胸部に手をおいた。
暫くの沈黙の後、サウンドウェーブは小さな声で苦手だと言った。
俺が苦手?
急激に機体の熱が下がるのを感じる。
なに勘違いしてんだ馬鹿と罵られたような気分だ。
そうだった、サウンドウェーブにとってはただの仕事だったと思いだし、自惚れていた自分が惨めで愚かに思えた。
フレンジーがサウンドウェーブになにか聞いているが、言葉はブレインに入ってこない。
サンダークラッカーは耐え切れずその場から逃げ出した。




「苦手ってどういう意味だよ」
フレンジーは理解できないというように肩を竦める。
サウンドウェーブは目の前の小さな機体の頭を撫でた。
「理解不能な存在だからだ。アイツは俺の事を嫌っていないように見える」
ブレインスキャンができるサウンドウェーブは恐怖の対象だ。
それに今まで様々な諜報活動で嫌われるようなことをしてきた自覚がある。
だからこそ嫌悪されることは理解できるが、好意を向けられることは理解できず苦手だと感じていた。
どう対応したらいいのかわからなくなりそうだから。
「俺達だってサウンドウェーブが好きだ。それも理解できないって言うなら怒るぜ」
ランブルもサウンドウェーブの膝に縋り付いてきた。
俺も俺もというようにジャガーやコンドルも体を寄せてくる。
サウンドウェーブは思わずマスクの下で笑みを浮かべた。
「お前達は特別だ」
「だからサンダークラッカーも特別なのかもしれねぇだろ。ブレインスキャンしてみろよ」
カセットロン以外の周囲の者からはブレインスキャンをよく使っていると思われているが、サウンドウェーブはその能力を極力使っていない。
今までのデータから推測すればある程度行動は読める。
それに能力を使えば自分への罵詈雑言等を聞かねばならないわけで、慣れているとはいえ気持ちのいいものではないからだ。
「知りたくはない。現状で何も問題はないはずだ」
「俺はサンダークラッカーが好きだぜ。だからサウンドウェーブともっと仲良くなってくれたら嬉しい」
馬鹿なことを言うと思いながらもフレンジーの頭をゆっくりと撫で続けた。


自室に戻るとサンダークラッカーが暗い顔で入り口にもたれ掛かっていた。
今日一日、サイバトロンの攻撃もなく、デストロン軍団内部でも諍いは起こっていないはず。
報告内容を調べてみるがサンダークラッカーが落ち込む理由が思い当たらなかった。
いい加減データ収集に飽き飽きしてきたのかもしれない。
本当はデータはもう十分揃っている。
ただ多ければ多いほどいいのは確かであり、完璧主義故に色々な条件を試していたがこれ以上は意味が無いだろうと考えた。
「今回でデータ収集は終わりだ」
サンダークラッカーを部屋に招き入れ、接続の準備を始める。
「もうこの部屋に来る必要はない」
記録装置を起動しながら背後のサンダークラッカーに声をかけた。
パチンとハッチが開き、ケーブルを差し込む音が聞こえる。
「俺は用済みってわけですね」
「そうなるな」
後ろから腕を取られケーブルを接続させられる。
その瞬間流れてきた電子信号に体が跳ねた。
サンダークラッカーが支えてくれているために崩れ落ちることはなかったが、まともに体を動かすこともできない。
制限をかけているはずなのにどうしてと霞むオプティックセンサーで接続装置を見たが歪んだ視界では原因が何かもわからなかった。
「何度も見ているからさすがに俺でもどうやればいいかぐらいわかりますよ」
「サン……」
サウンドウェーブのセンサー感度等を最大限に設定しているのだろうと気づき、止めろと何度も通信を送った。
伝わっているはずなのに、サンダークラッカーはビクビクと跳ねるサウンドウェーブの機体をスリープ台に置き彼の体の上に跨る。
「マスク、外せよ」
とんとんと指先でマスクを突かれ、無意識にサウンドウェーブはマスクを外した。
サンダークラッカーに掴まれた顎がミシミシと音を立てている。
いつもと違い荒々しい手つきに自分に怒っているのだと気づいた。
嫌われている。
だがこれが普通なのだ。
サウンドウェーブはどこかほっとしながらも、何故かオプティックから冷却水が一筋漏れた。


暗闇から浮上するような感覚でサウンドウェーブは覚醒した。
室内にはサンダークラッカーはすでにいない。
そのことにほっとしつつ機体が完全に起動するのを待った。
保護機能が働いたようでオーバーヒートは免れたようだが、エラー音がブレイン内で響いている。
エラー箇所を探ると発声回路がおかしくなっているようだ。
試しに声を出そうとすると意味のない音になってしまう。
排気しつつ見下ろせば機体はオイル塗れで酷い状態である。
いつもならサンダークラッカーが拭いてくれていたのにと考えたが、彼に嫌われたのだと思い出した。
拭くものを探しているとオプティックセンサーのエラー音も鳴り響きだし、冷却水がボロボロと溢れだす。
ああ、困った。
何度拭いても冷却水は止まらず、サウンドウェーブはオプティックセンサーを停止させた。




あれから数日後。
会議に現れたサウンドウェーブを見て、サンダークラッカーは更に落ち込んだ。
接続後にぐったりとして動かないサウンドウェーブを見て、やり過ぎたと気づいたが時は戻ってくれない。
あの日は自分のしたことに耐え切れずサンダークラッカーは逃げ出してしまった。
ずっと心配と不安でぐちゃぐちゃな気分だったが、制御装置があるのだから大丈夫と言い聞かせていた。
しかし今メガトロンの隣にいる彼はオプティックセンサーと発声回路が機能していないようだ。
部屋に入る時はフレンジー達が付き添っていたし、次の作戦の情報を読み上げるのに無線を使っていたからだ。
俺のせいだ。
読み上げられる内容は全く頭に入ってこない。
じっと机を見ているといつの間にか会議は終わっていたようで、気がつけば皆立ち上がっていた。
サンダークラッカーが慌てて立ち上がると、ランブルがこちらにやってきた。
今は話したくないなと思っていたが、サンダークラッカーの前で止まり腕を引っ張ってくる。
「おい」
「なあなあ、サウンドウェーブの調子がおかしいんだ。サンダークラッカーは今から休みだろ。手伝ってくれよ」
「え? いや、サウンドウェーブが嫌がるだろ……」
あんなことした後だし。
心の中でそう呟くとランブルは唇を尖らせた。
「バッカ、そんなわけねぇだろ。作戦でもないのにサウンドウェーブが嫌いな奴と二人きりで何度も会ったりするかよ」
「だからそれはメガトロン様の命令で――」
思いの外強い力で引っ張られ、サンダークラッカーは前かがみになる。
ランブルは聴音センサーに口を寄せてきた。
「サウンドウェーブはいつもお前が帰った後、嬉しそうなんだ。他の奴から好意を向けられたことないからサンダークラッカーが理解不能で苦手だとか言ってるけどさ」
理解不能?
どういう意味だ。
困惑するサンダークラッカーに気づかずランブルは続けた。
「サウンドウェーブはブレインスキャンの能力があるだろ。今までさんざん嫌な部分を見てきたもんだからさ、皆表裏があって自分を利用しようとすると思い込んでんだよ。メガトロン様だって例外じゃないぜ」
たしかにあの能力は色々見えすぎて困るかもしれないと思う。
ランブルはぼーっとするサンダークラッカーを引っ張り、部屋から連れ出した。
「それでもメガトロン様に従うのは信念とか色々惚れ込んでいるからなんだろうけどさー」
サウンドウェーブの部屋までくると、じゃあ後はよろしくと言ってランブルは走り去ろうとした。
慌ててその腕を掴んで止める。
サウンドウェーブに会いたいとは思うが二人きりは辛い。
「ランブル、お前はどこ行くんだよ。一緒にいようぜ」
「嫌だよ。俺はサウンドウェーブができない仕事をやらなきゃなんねぇんだからさ」
そう言うとサウンドウェーブと名前を呼んだ。
室内でガツンとなにかがぶつかる音が響き、思わずランブルの手を離し扉を開けた。
蹲るサウンドウェーブに近づき腕を掴むと怯えたように僅かに硬直する。
「サウンドウェーブ、大丈夫か?」
『サンダークラッカー?』
「仕事よりリペアが先だろ。連れて行ってやるから」
するとサウンドウェーブは腕を振り払い、落ちていたディスクを拾い集め始めた。
『リペアなら必要ない。検査を受けたがオプティックセンサーも発声回路も問題ない。原因は不明だ』
「俺のせいだよな……」
『最低限ではあるが保護機能は働いていた。センサーの異常ではないのだから、この間の接続が原因とは考えにくい』
「俺のせいなんだよ。なあ、サウンドウェーブ。お前が嫌でなければ俺にも手伝わせてくれ。役に立つとは思えないけどさ。俺自身のためだ。そうすりゃ気が晴れる」
ディスクを探すサウンドウェーブの手をゆっくりと握る。
最初は強ばっていたがやがて静かにサンダークラッカーの手を握り返してきた。
『……わかった』
ゆっくり抱き起こし、椅子に座らせた。
慣れた手つきでサウンドウェーブはコンソールパネルを操作する。
『俺の内部データのバックアップを取っている。そのデータを分類してディスクにコピーしてくれ』
「俺が見ても大丈夫なのか?」
『見られたくない物はちゃんと何重にもプロテクトを掛けてある』
サウンドウェーブがいうなら心配する必要はないのだろう。
サンダークラッカーは気にせず作業に入った。


ここ数日、サンダークラッカーは空いた時間にサウンドウェーブの手伝いをしていた。
スタースクリーム達から馬鹿にされるかと思っていたがそれどころではないらしい。
というのもサウンドウェーブがあまり動けない状況では、どうしても諜報活動やエネルギーに関しての情報収集が滞ってしまう。
その穴埋めを命じられて動き回っていてサンダークラッカーに構う暇が無いようだ。
それともメガトロンからの命令があったと勘違いもしているのかもしれない。
どちらにしろサンダークラッカーにとっては好都合だった。

いつの間に眠っていたのか知らないが、気が付くとサンダークラッカーは机に顔を伏せていた。
ジジジと機械がデータを処理する音が心地いい。
いつまで続くんだろうなとぼんやりと考えた。
メガトロンはサウンドウェーブがこのまま戻らないなら症状が出た頃のメモリを消すか、中枢部を検査して必要なら部品を取り替えると言っていたのを思い出す。
隣で作業するサウンドウェーブを見上げた。
時間が惜しいのか作業をしながらエネルギーを補給している。
珍しくマスクオフしている顔を見て、接続中を思い出し機体の熱が上がった。
『俺の顔がどうかしたか?』
見られているのに気付いたのか、ディスプレイ画面を見続けたままサウンドウェーブが話しかけてきた。
「いや……。なぁ、メモリを消されるのって嫌じゃねぇか?」
『必要だから仕方ない。このままメガトロン様に迷惑をかけ続けるよりはマシだ』
「俺は嫌だな。一部でもお前の中から消えるの」
サウンドウェーブにしたら嫌な記録だろうけど、何故か消されるのは嫌だと思ってしまう。
『変な事を言うな』
やっとサウンドウェーブはサンダークラッカーの方を向いた。
その顔は少し驚いているように見える。
「俺もおかしいと思うけどさぁ。なんでかわかんねぇけどそう思うんだよ。早く治んねぇかなぁ」
サウンドウェーブはバイザーも解除し、オプティックセンサーの辺りを触る。
『最近はこれでも少し調子がいい』
ブンとオプティックセンサーが起動する音が微かに聞こえた。
その瞬間ポロポロと冷却水が零れ出す。
サンダークラッカーは無意識に頬に手を伸ばしていた。
「止まらねぇな」
サウンドウェーブは濡れたオプティックでじっとサンダークラッカーを見ている。
いつもキスする時ってこんな顔だよな。
自然と顔を近づけてしまってまずいと思うのだが、サウンドウェーブがオプティックを閉じたことでサンダークラッカーはどうでもよくなった。
「嫌だったら殴っていい」
触れる寸前に声をかけたが、拳は飛んでこなかった。
接続の時にするような深いキスではなく、触れるだけのキスだったがそれだけでもヒューズが飛びそうな気がする。
ゆっくりと唇を離すとサウンドウェーブはサンダークラッカーの胸元に顔を埋めた。
『……なんでキスしたんだ?』
「なんかしたくなって……」
サウンドウェーブは顔を上げた。
いつの間にかサウンドウェーブの冷却水は止まっている。
「そう言えば、人間もこういう風になるよな」
『涙のことか?』
「ああ。もしかしてサウンドウェーブ、お前は泣いてるのか」
そんなはずはないというように首を振られたが、サンダークラッカーにはそうとしか思えなかった。
「キスで止まるのかな? だったら嬉しいけど」
『嫌じゃないのか?』
「嫌じゃねぇよ。だって俺はサウンドウェーブが好きだから」
自分で言ってサンダークラッカーは驚いたと同時に納得した。
そうだ、俺はサウンドウェーブが好きなんだ。
『嘘だ』
またサウンドウェーブのオプティックから冷却水が溢れだす。
サンダークラッカーは慌ててサウンドウェーブに顔中にキスをした。
「泣き止めよ」
『泣いてないと言ってるだろ』
口調は厳しいのに抵抗しない。
サンダークラッカーは久しぶりに笑った。
「疑うならブレインスキャンしてみればいいだろ」
サウンドウェーブの両手を取り、サンダークラッカーの頭に触れさせた。
『嫌だ。知りたくもない』
雑音が混じり始め、聞き取りにくくなる。
『オマエモ、ドウセ、ミンナト、オナジダ』
「お前が信じないならそれでいい。俺は自分が満足するまでいつまでも言い続けるからな」
何度も好きだと言い続けた。
サウンドウェーブは恐る恐るサンダークラッカーの頭を掴み、覗きこむように顔を近づける。
電磁波が照射されるのを感じた瞬間、サウンドウェーブはオプティックを大きく見開きそのまま固まった。


サンダークラッカーは緊急停止してしまったサウンドウェーブを抱えてリペアルームに飛び込んだ。
検査結果はオーバーヒート。
冷却水が減っていたところにブレインに負荷がかかったかららしい。
急いで機体の熱を取るために、サウンドウェーブに冷却材を貼り付けたり冷風を送ったりと応急措置をする。
報告を聞いて駆けつけたメガトロンは明日にでもメモリを消去するぞと周りに叫んでいたが、起動したサウンドウェーブを見てそれ以上はなにも言わなかった。
オプティックセンサーと発声回路が治っていたからだ。
治ったことに安堵したメガトロンに促され、集まっていた他の兵士達はリペアルームから追い出された。
部屋に残ったのはサンダークラッカーとサウンドウェーブだけだ。

サンダークラッカーはまたやりすぎたと肩を落としつつ、頭に冷却剤を貼り付け口から小さなチューブで冷却水を補充しているサウンドウェーブを見る。
「治ったみたいだな」
「まだ暫くは様子を見なければ……」
「ところでさ……サウンドウェーブ。嘘じゃなかっただろ?」
またサウンドウェーブの頭から湯気が登り始め、慌てて冷却材をもう一個追加する。
「嘘は付いていなかった。お前は変わり者だ」
サンダークラッカーはサウンドウェーブが自分を好きなのか聞きたかったが、今の状況ではまたブレインがオーバーヒートしそうな気がするので我慢した。


サウンドウェーブが完治してから一週間後。
デストロン海底基地内に集められたデストロン軍団の兵士達は配られた三枚のディスクを眺めていた。
サンダークラッカーの前に配布係のフレンジーがやってくると、悪い足りねぇみたいだと言う。
サウンドウェーブでもそのようなミスをするんだなと意外に思いながら、後で貰うからと笑って返した。
隣のスカイワープの持っている配布物を擬似接続体験ディスクと書かれ、それぞれ女版、男(攻め)版、男(受け)版と書かれている。
「使い方に関しては付属のファイルで確認しろ。実際に接続を行いたい場合は制御装置があるのでそれを借りて行うこと。いいな」
簡単な説明で終えるとサウンドウェーブは去っていく。
サンダークラッカーは慌てて後を追った。
「サウンドウェーブ」
通路で追いついて声をかけるとゆっくりと振り向いた。
「俺の分のディスク足りなかったから、取りに行く。今から大丈夫か?」
「その必要はない。お前の分は始めから用意していない」
声が少しだけ固い感じを受ける。
どうも緊張しているようだ。
「え? なんでだ」
「お、お前には必要ないだろ」
サウンドウェーブは俯き、小さな声で俺がいるからと言った。
「あー……、そ、そうだな」
サンダークラッカーはサウンドウェーブが見れず壁のほうに顔を向けた。
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